表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/79

59 ローレンside

 ぺちっ


「痛っ………いきなり何だ、シモンズ!」

「甥っ子の件、そう簡単には許してあげないんだから。」

「それは本当にすまなかったと思っているが!

 だからといって、何故、毎度毎度私の額を叩く!?」


 それは良い音がするからよ。叩きやすい髪型してるし。


「………それで?彼らの事情というのは?先の大事故と関わりがあるのだろうか。」


 あら。………相変わらず、切り替えの早さは他の追随を許さないわね。いじり甲斐はないけれど、仕事の時は助かるわ。





「そんなことが、あり得るのか………?」

「信じがたいのはわかるけれど、これが事実なんだもの。私は入れ替わっていた頃のユウト君とファウスト君とも話したから、間違いないと断言できるわ。」

「君がそこまで言うのなら、そうなのだろうな。」


 薬草茶を飲み終えた侯爵が、ほうっと息を吐く。


 ヒューバートに関わりのある話になるから、一応リラックス効果の高いブレンドにしておいたのだけれど………必要なかったかもしれないわね。

 モノクルで見ても魔力に揺らぎは見られないし、和解したというのは本当のことみたい。


 ユージーン・エクセルシスという男は、基本的には公平で寛容、人とぶつかることは滅多にない。通すべき意見はしっかり通すが、相手との妥協点を探す努力は最大限する。部下や領民、近隣の領主からも信頼の厚い侯爵。


 家族に甘過ぎるとはよく言われるけれど、国王陛下からも国境を任せられる、貴族の中でも模範になるような存在。だからこそ、どうしてヒューバートとの関係がここまで拗れたのかが不思議で仕方がない。


「そんな状況を共に乗り越えたことで、二人はあの強い信頼関係を築いたのだな。」

「信頼はしているでしょうけれど、私は二人が一緒にいる所をあまり見ていないのよね。そんなに仲がいいの?」

「そうか、君はそれぞれ一人ずつ会う機会の方が多かったはずだな。

 私が見た限りでは、ユウト君と話す時のヒューバート君はとても気安い様子だった。あと、これはジュリアに聞いた話だが、ユウト君はヒューバート君を150フィート程投げてジュリア達の防衛を任せ」


 投げ………!?


「自らはドラゴンのブレスを真正面から切り裂き、後ろへの被害を最小限に抑えてみせたと。それは自分がもし負傷しても、ヒューバート君がいるという信頼に基づく行動だろう?

 一度別行動をしてから合流した時は、ユウト君がヒューバート君を担いで走っていたね。話しながら。」


 ブレスを斬った件は報告を受けているし、あの子軽いから担いで走るくらいならまだわかるけれど………投げ………?


「さすがに見られたくはなかったようで、少し離れた所で降ろしてはいたが………その、見えてしまってな。ヒューバート君達には黙っておいてほしい。

 とにかく、相当の信頼関係がなければ自分の身をあそこまで委ねることはできないだろうと感じた。」

「まぁ、あの子達は互いの身体を預け、預かっていたようなものだものね。それくらいは今更、なのかもしれないわ。」


 ヒューバートを飛ばすだけなら、風魔法を使えば考えられなくはないけれどその前に、仮にも自分より身長が高くて運動神経皆無の人間を持ち上げて投げるというのは物理的に難しいと思うの………ユウト君の筋力、今度測らせてもらおうかしら。


「彼らの自然なやり取りを見てようやく、彼もごく普通の青年なのだと感じた。私に良い感情は持っていないだろうに、先を歩きながら道を整えてくれて………」

「ずーっと言っていたはずだけれど?あの子はちょっとズレてるだけで優しい子だって。」

「本当にその通りだ。一度そのことに気づいてからは、今までの警戒心が自分でも驚く程早く晴れていってな………」

「!」


 それってもしかして………


「………ジーン。服脱ぎなさい。」

「は?」

「上だけで良いから。早く。」

「いや、何故だ?せめて理由を」

「早く。」

「あ、はい………」


 ここにある道具だと簡易検査しかできないけれど………あら、プロッターの記録紙が切れてるわ。もうっ、こんな時に限って!セットするの面倒なのよね、これ。ついでだからペンのインクも追加しておきましょう。途中で切れたりしたら私もキレちゃうかもしれないわ。


 ………機械はこれでよし。精神系の術だとするなら頭部に直接、もしくは上半身、脊椎のラインから干渉するのがセオリー。直接触れて発動するのはバレるリスクが高いし、怪しむとすればやはり装飾品。改めて入手経路や使用人の身元を洗ってもらった方が良いでしょうね。

 でも、仮にも侯爵家当主の装飾を扱う者の身元が怪しいなんてことがあり得るかしら。国境を預かる領主として、その辺りの対策はかなり強固にしているはずなのだけれど………


 いえ、まだ決まったわけではないわ。ここから先の考察は、精神干渉された形跡を確認できてからにしましょう。この男がただの異常な子煩悩という可能性もまだ残っているのだから。


「………おいシモンズ、聞いているか?お互いに不名誉な噂を立てられないために、部屋にうちの従者と研究室の職員入れて、扉も少し開けておくぞ?というかもう開けたからな?」

「………ええ………構わないわ………………」

「相変わらず、一度スイッチが入ると人の話聞かんな………」

「あの………我々は入ってもよろしいので………?」

「一応言質は取ったから構わんだろう、入れ。」





「主様、上着です。」

「ありがとう。………で、結局私は何を調べられていたんだ?そろそろ教えてくれてもいいだろう?」

「ええ………結論を単刀直入に言わせてもらうわ。

 あなた、精神干渉系の呪いを受けている形跡があるわよ。しかも、継続的に長期間。」

「! まさか、この私がか?」


 当然の反応ね。私も正直驚いたわよ。


 国境のある領地を治める者が、外部からの干渉を簡単に許す訳にはいかない。だから、その手の術への対抗策は常に万全に行われているはず。

 それなのにあろうことか当主が、長期間、呪いを受けていた。これはかなりの非常事態。


 ………十数年前にも、ウィリアムズ家の使用人に工作員が紛れ込んだことがあった。

 まだこの国への侵攻を諦めてないのね、あっちの人達。


「おい………おいシモンズ!一人で考え込むな!

 私は呪いの仕組みに詳しくないんだ、説明してくれ!」

「………簡易検査だから、今わかったのはあなたが精神干渉系の呪いを受けていたことだけ………さっきのあなたの話から考えると、ヒューバートへの負の感情が増幅されるようなものだと思うわ………………」

「感情の『増幅』なのか。」

「………………現代の技術でできるのはあくまでも『干渉』だけなのよ…………」

「………つまり?」

「……………対象者にない感情を、一から作ることはできない………………………………」

「………………長い、沈黙が長い!徐々に沈黙時間が伸びていっているんだが!?」


 ………………………


「ああもう………わかった、細かいことは後で文書にまとめて送ってくれ。

 ひとまず、私がヒューバート君に抱いていた強い負の感情は、何者かによって増幅されたもの。そういうことだな?」

「………ええ。あなたがヒューバートと向き合い、その感情に疑問を抱いたことで急激に弱まったのでしょうね………………」

「あの、素人質問で恐縮なのですが、何故それで呪いが弱まるのですか?」


 ………あら?いつからいたのかしら、彼。


「首を傾げるな、さっき部屋に入れた私の従者だ。君の許可は得たぞ。」

「あ、それは覚えてるわ辛うじて。」

「辛うじて………ですか………」


 さすがに扱いが適当だった自覚はあるので、少し良い茶葉とお茶菓子をお出しいたしますわ。


 ………お茶を淹れているうちに、私も落ち着いてきたような気がする。少し思考に熱中し過ぎていたわね。ここから仕切り直しましょう。


「さてと、質問にお答えするわ。あなたもどうぞそちらへおかけになって、少し長くなるから。」

「では、失礼いたします………」

「先程も言ったけれど、『全くない感情を一から生み出すことはできない』、これが大前提よ。」


 ジーンには、少なからずヒューバートへの負の感情があった。守るためだったとはいえ、愛娘に強い魔力を浴びせて結果的に気絶させた張本人なのだから。


「とりあえず、その時の負の感情を50とするわね。そしてそれが呪いで10倍になっていたと仮定するわ。」

「そうすると、私が持つ負の感情は500となるな。」

「そしてこの間、ヒューバートと話して負の感情が薄れた。まぁ、30くらいになったとしましょう。ジーンの持つ負の感情はこれで300になる。」

「!」


 従者の方はピンときたようね。ジーンったら、従者に負けてどうするのよ。


「本来は20しか変わっていなくても、呪いの影響で差分も10倍の200となり、主様の持っていた負の感情が急激に弱まったように感じられたということですか?呪いが弱まったわけではないと。」

「その通り。あなた優秀ね、うちにこない?」

「雇い主の目の前で引き抜こうとするんじゃない、やらんぞ。」


 あら残念。


「………確かに、あれ以降ほとんど前のような感情は湧いてこない。その干渉というのは、どういった形で行われるものだ?」

「直接相手に触れる、もしくはそのような効果を持つ装身具を身につけさせること。直接触れるのは相手にバレるリスクが高いから、通常行われないわ。十中八九、装身具でしょう。

 あなたの家の使用人を疑いたくはないけれど、一度身元を洗いなさい。」

「………。」


 主従が揃いのポーズで考え込む。ずっと一緒にいるとやっぱり似てくるものなのかしら。


「わかった、調べてみよう。

 ………よく気づいてくれた、シモンズ。礼を言う。」

「まだ簡易だから、確定ではないわ。今度予定を空けておいて、もっと精密に検査しましょう。」


 ついでだし、一応ハロルドも検査しておきましょうか。

 ………あの子は重度の弟狂い(ブラコン)だから、呪いなんて関係なくああなる気がするけれど。


「承知した。

 一応言っておくが、部屋に戻ってもヒューバート君達には言うなよ。」

「あらどうして?」

「私がヒューバート君にしてきたことを、呪いのせいにしたくはない。

 国防の問題があるから、ウィリアムズ伯爵には一刻も早く情報を共有せねばなるまいが………」


 変な所で真面目さ出してきたわね………私だったらさっさと呪いのせいにしてしまうわよ?


 まぁ、反省の意がきちんと伝わる前に呪いのせいだったなんて言ったら、ただの言い訳に聞こえてしまうかもしれないものね。本人がしたいようにすれば良いと思うわ。


「さて、長くなってしまったな。話は以上か?」

「ええ。そろそろ皆の所へ戻りましょうか。」


 ヒューバートは元々気にしていなかったし、ジーンも本当に反省しているみたい。残るはハロルドだけね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ