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 侯爵にもろもろ説明してくるからちょっとお喋りでもしてて、と言い残してローレンさんは侯爵を連れて別室に消えた。残りのメンバーで認識を擦り合わせておいてね、ということらしい。


 未だハロルドさんからにじみ出る負のオーラに押され、ファウストがじりじりと俺の方に移動してきてそのまま背中に引っ付いた。よしよし。


「怖い、です………いえ、ハロルドさんは怖くないんですけど、なんか、その、怖いんです………」

「魔物とかカゲとは違う怖さだよね、言いたいことはわかる。大丈夫、ヒューが宥めてくれるよ。」

「宥めるのは手伝うと言ったじゃないか………。」


 リリーさんを宥めるのを、ね。


「話は後でしっかり聞くから今はいいよ。本当に無理はしていないんだね?」


 口調は優しくなったけど、目付きはまだ怖いですよハロルドさん。若干魔力漏れてますよ。周りの皆も凍りついてますよ。

 ………ファウストは震え過ぎだろ、着信でもしてる?


「いい加減しつこいですよ、兄上。

 恨んではいないと、どれだけ言い続けたと思ってるんですか。五年も話聞いてもらえなければさすがに俺も諦めます。」

「う………だが、ヒューはあのパーティーの後しばらく寝込んで、部屋に閉じ籠っただろう。やつれていくのを私達がどれだけ心配したと………」


 そんなことがあったのか。今のヒューからは想像できないけど、それならハロルドさんの反応もわかる気がする。十歳の弟がそんなんなってたら心配もするよ。


「ん………?確かに少し引きこもってましたが、魔力暴走の反動で寝込んだのは最初だけですよ。次の日には魔力制御の教本を読んでいました。

 制御に失敗して周りに危険が及ぶと困るので部屋から出ないようにして、一人だと文字通り寝食を忘れるので少しやせただけです。」


 あー………その光景、ありありと目に浮かぶなぁ………


 落ち込んだりすることなくまず魔力制御の練習始める辺り、ヒューらしいというか何というか。


「だったらそう言っておいてくれ!」

「言いましたが聞いてくださらなかったんです!

 あの時は何を言っても「大丈夫だよ」「僕が守るからね」みたいな返事しか返ってこなくて!碌な会話にもならなかったではありませんか!!朝食の話をしても「僕が守る」ですよ!?何からですか!?」

「そ………そう、だった、かな………?」


 ハロルドさんは基本的にいつでも冷静な判断ができるイメージだけど、ヒュー関係だったら確かにそれくらいおかしくなるかもしれない。

 この間もファウストと一緒に異世界にまで来ちゃったし、パーティーでの事件があった当時はハロルドさんも今より子どもだっただろうし。


「せめてここでは協力してください。ユージーン様の政治的手腕だけは信用していると前に言ってましたよね?」

「………わかった、でも侯爵と何を話したかは帰ってから聞かせてもらうからね。

 すまない皆、こちらの話に戻ろう。」


 ハロルドさんがパンッと手を打って空気を切り替えた。冷気も和らいで、周りのメンバーもほっとしたようだ。皆さんは巻き込まれてただけですもんね。


「君達と別れた後、私とファウスト君は彼らにヒュー達三人に起きていたことと、魔力異常についての説明をしていたんだ。わかってもらうのにはなかなか苦労したよ。」


 今説明してたってことは、イアンとアールシュ以外の人達はさっき話を聞いたばかりってことかな。


「妙だとは思ってたが、異世界の人間と中身入れ替わってたとか言われてすんなり受け入れられるわけねぇだろうがよ………」

「記憶が曖昧だとおっしゃっていたのは、そもそも別の方だったからなんですね。」

「確かに討伐隊としての初日の隊長は堂々というかしっかりしてたし、雰囲気が柔らかかったよねー。次会ったら突然クールになっててびっくりしたよ。」


 え、そう?ファウストが初対面の相手にクールなのはともかく、俺の雰囲気が柔らかいっていまいちピンとこないけど。


「ユウト隊長とファウスト隊長って呼べばいい?」

「それだと隊長って呼ばれる人がアールシュとヒュー入れて四人になっちゃいますよ。もう討伐隊じゃないし、貴族とかでもないんで普通に名前で呼んでください、アディラさん。」

「わー、初日の隊長っぽい!」

「いや、ぽいも何も実際そうなんで。」

「ねぇねぇ、敬語もやめてみてよ!あの時みたいに、ほらほら!」

「えぇ………えーっと、グレンさんと、マークさんとセシリアさんもお久しぶりです。イアンはおととい会ったね。」


 アディラさん以外の魔導隊の人達もにこやかに応えてくれた。マークさんの微笑みって何気に初めて見た気がする。

 俺は一日しか一緒にいなかったのに、俺のことも仲間と思ってくれてるんだ。結構嬉しいかも。


「敬語ぉ~!」

「………わかった、善処するよ。」

「やったぁ!よろしく~ユウト君!また宙返り見せてね!」

「別にいいけど何で?気に入ったんですか?」

「ほぼ初対面みたいなもんなのにアディラに押し負けないとか、すげぇなあんた………」


 グレンさんに感心されてしまった。


 あ、ヒューがアディラさんの勢いに押されてじわじわ気配消してる。逃がさないよ。


「ほらヒュー、話に入って。皆、さっき自己紹介してたけど、これが正真正銘本物のヒューだよ。研究での暴走はするけど、基本真面目でいいやつだから仲良くしてあげてください!」

「お前は俺の保護者か何かなのか………?

 まぁ、そういうことだ。その、改めてよろしく頼む。」


 そういうことって何だ、自分で喋れよ。


「討伐の時は短くヒューと呼ぶよう言われてたんですけど、それ言ったのってユウト君とファウスト君なんですよね?副室長はどうお呼びすればいいですか?」

「そのままでいい。丁寧な言葉もいらない。」

「そう?わかった、よろしくね!ヒュー隊長!」


 ………討伐隊の顔合わせの時から思ってたけど、アディラさんって「この人は大丈夫だ」と判断した瞬間急激に距離を詰めてくるよな。びっくりするから、個人的にはもう少し段階を踏んで欲しい。


「俺が隊長だったことはないんだが………」

「だってさすがに呼び捨てはあれだし?普通にヒューバート様にする?愛称の方がいいならヒュー様?………ヒューさんはなんか変な感じするし、ヒュー君とかどう?」

「え、あぁ、何でも、いいぞ。別に呼び捨てでも………」

「もー、そんなに引かないでよ!今まで通り、副室長って呼ぶからさ!」

「そ、そうか。」


 ヒューはぐいぐい来るアディラさんにたじたじだ。意外と押しに弱いよな。いや、この場合はアディラさんの押しが強力過ぎるのか?


「アディラ、本来の副室長は人付き合いに慣れていないって先ほどウィリアムズ様が仰っていたじゃないですか。そんな接し方だと普通の方でも対応に困りますよ?」

「え、そう?」


 うん、ヒューはもうアディラさんから距離取っちゃったよ。人付き合い初心者にはハードルが高かったかもしれない。


 がしっ


「!」

「うおぁっ!!」


 どさっ


 突然横から腕を掴まれ、咄嗟にぶん投げてしまった。

 ちなみに、ファウストはまだ俺の背中に引っ付いたままである。俺が多少動いた程度では外れないらしい。


 ちょっと雑過ぎちゃったかな。怪我はさせてないと思うけど………あ、なんだ不良Cか。だったら大丈夫だな。


「ごめん、つい反射で。えっと、俺に何か?」

「痛てて………ほんとにあの時の兄貴だ!!

 ユウトさんっていうんすね!またあの時の技見せてくれませんか?ファウストさんが隊長の時は見せてくれなかったんっすよ!」


 おおぅ、こっちもぐいぐいくるな。

 俺にぶん投げられた直後だというのに、屈託のない爽やかな笑顔でこちらを見上げてくる。


「俺はユウトの技使えませんから………。反撃技とかフェイントの対応教えたからそれでいいじゃないですか。」

「はい、それもすごく勉強になったっす!」


 二人とも、俺の肩ごしに喋るのはやめない?


「すいませんユウトさん、こいつ俺達の中でも輪をかけてバカなんで。ほらコーディ、早く立てよ。」

「何だよ~、デックだって気になってただろ?初日の隊長。」

「それはそうだけど、いきなり腕を掴む理由にはならないんだよ。早よ謝れバカ。」

「す、すんませんでした………」


 お、不良Dの方は意外と常識人だ。

 そういえばDは、初対面での手合わせの時も一番最後まで手を出してこなかったんだよなぁ。目が合った時に目線で「君もやる?」って聞いたら参加してきた。


 二人とも最初の印象と違い過ぎて、正直同一人物だと思えない。異世界の同一人物って言われた方が納得できるよ。家の近所でよく見かけた野良猫と久々に会ったら人懐っこい飼い犬になってた、くらいの違和感がある。


「ファウスト、さっきは聞けなかったけどこいつら何でこんな感じになってんの?確かに直接絡んできたのはほとんどAとBだったけどさ。」

「エーとビーが何かは知りませんけど、除隊になった二人がこの二人の先輩で、その腰巾着?っていうのをしてたから影響受けて不良になってたって聞きました。討伐に向けて訓練してるうちに今の感じになったんです。

 腰巾着で合ってますか?アールシュ。」

「ああ。辞めた二人は武門の名家出身でな、魔導士や女性を下に見ていたのはそこの思想のせいらしい。

 討伐までには考えを改めて魔導隊とも団結できていたし、除隊になったのはあいつらの実家と同じ思想を持つ者達と言い争った末に乱闘になったからだ。今は時々魔導士とも組んで上手くやっていると聞いた。」


 朱に交わって赤くなってた感じ?それで単純馬鹿って言われてたのか。


「討伐では、しっかり俺達を守ってくれた。今は信頼している。………戦闘の腕は。」

「まだ腕だけすか、マークの兄貴!」

「兄貴はやめろと言ったはずだが。」

「ふふ、いいじゃないですか。あにき?」

「ん゛………いや、その。」


 マークさんがふいっと顔を背けたが、頬と耳の赤が丸見えだ。セシリアさんに兄貴って言われて照れてる?

 何となく雰囲気もふわふわしてるし、お付き合いとかしてるのかなこの二人。うん、お似合いの美男美女だと思います。


「………おい、二人ともあの年で恋愛初心者だから、変にからかったりしてやるなよ。そんなことしたら絶対拗らせるぞ、特にマーク。」


 グレンさんがこそっと耳打ちしてきた。了解です。


 ちなみにさっきから存在感のないイアンは、同じく気配を消しているヒューの斜め後ろにいつの間にか控えている。互いに視線は合わせないままだが、ぽつぽつと何か会話を交わしているようだ。あれがあの二人の、いつもの距離感なんだろうな。


「ハロルド様、あと何か副室長達に話しとくことあったか?」

「敬称はつけなくていいって言っただろうグレン。私は軍属ではないが、冒険者やってるような男だよ?」

「ここのメンバー以外の貴族に聞かれると面倒事になりそうなんで、敬称だけは外せねぇよ。タメ口だけでも十分やべぇんだからな。アディラの距離の詰め方は異常なんだよ。」

「私だって相手は選んでますぅ~。」

「ハワードとして来れば良かったかな………」


 多分そういう問題じゃない。


「あとヒュー達に伝わっていない話は………そうだね、これから加わる予定のメンバーについてくらいかな。」

「ローレンさんもさっき増える予定だとか言ってましたね。」


 今のメンバーは十四人、ローレンさんと侯爵は多分直接調査することはないから実質十二人。国中で調査が必要になればさすがにもっと人数が必要だろう。


「基本的にはこのメンバーなんだけどね、軍で動ける人が今少ないから、陛下が騎士団から何人か協力者を送ってくださるんだって。騎士団はほとんど魔法剣士だから、協力者も多分そうだよ。」

「前衛を増やすってことですか?」

「そういうことじゃないと思う、結構今の時点でバランス良いし。魔導士と前衛が五人ずつで、魔法剣士が二人。室長と侯爵様は国とのやり取りとか経理担当って感じでしょ?」


 ん?魔導部隊の五人にヒューを足したら魔導士は六人じゃないか?それに、ハロルドさん以外にも魔法剣士いるの?


「あぁ、そうか。討伐隊にはもう話してあるが、俺は元魔法剣士だ。無茶しなきゃ今でも戦えるから、アディラには魔法剣士枠に入れられてんだよ。」

「グレンは膝を壊して兵士辞めたんだけど、その辺の魔物三匹くらいだったら今でも片手間で倒せるよ!」

「それは魔物の種類によるだろが。ワイバーン三体とかだと無理だぞ。」

「その辺のって言ったじゃん、この辺りそんな強いのいないでしょ?」


 あぁ、前にもそんな話聞いたような気がする。アディラさんも元兵士だったような。


「あくまでも魔力異常の調査が主で、戦闘になるとは限らないから戦力のバランスはそこまで気にしなくてもいいと思うよ。調査の内容に応じて適切なメンバーを都度選ぶ形になる。

 ヒューは魔法の専門家だから、調査だと大体何かに駆り出されるだろう。忙しくなるけど、私達がサポートするから一人で抱え込んではいけないよ?」

「はい。頼りにさせていただきます、兄上。」

「………っ!いま………今何て!?」


 ハロルドさんがわなわなと震え出した。

 なんか今日、キャラ崩壊激しくないですか?いつもの優雅な貴公子はどこ行っちゃったんですか??


「ヒューが私を頼りにするって言った!?聞いたかいグレン!」

「はいはい、聞いたよ。嬉しいのはわかるが、ずっとそんなんだと嫌われるぞ。副室長も、よくこれに耐えられるな。」

「大事にしてもらっているのは、確かだからな………」


 周りに人がいなかったら小躍りしてたんじゃないだろうか。良かったですね。


 ハロルドさんがいつも通り(?)になって、ファウストもようやく俺の後ろから出てきた。

 上手くやっていけそうだな。………侯爵様とハロルドさん以外は。

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