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55.5 ウィリアムズ家の皆さんにご挨拶

「………というわけだから皆、この子達のこともよろしくね。」

「「「はい!!」」」


 うわぁ………圧………


 大広間へ連れてこられたと思ったら、ウィリアムズ邸の使用人がずらりと勢揃いしていた。改めて俺とファウストを紹介したいとのこと。

 それはありがたいんだけど、ここってこんなに使用人いたのか。人口密度と圧迫感すごいな。え、休みの人も俺達を見に出てきてるって?なんだ、珍獣扱いか。


 俺が使用人の数と統率された動きに圧倒されている間に、四人の使用人さんが俺達の前に移動してきていた。


「この四人がここを主に取り仕切ってくれているの。私達がいない時に何か困ったことがあれば、彼らに言ってみて。

 じゃあそれぞれ簡単に自己紹介を右端から、デニス。」

「承知致しました、リリー様。

 デニスと申します。現在、この王都邸の家令をさせて頂いております。ご質問やご要望がございましたら、お気軽にお声掛けください。」


 おぉ、絵に描いたようなロマンスグレーの、すらりとした老執事って感じの人だ。背筋の伸びた年配の人って、なんか強者オーラがあるよね。格好いい。


「ユウト、かれいって何ですか?」

「俺もわかんない。ヒュー、教えてもらっていい?」

「邸の統括役だな。うちの本邸は領地にあるからここは別邸になるんだが、邸の主がいない間ここの管理をしてもらっている。」


 ウィリアムズ家の人間がいない間は、デニスさんがこの邸の最高責任者になる。めっちゃ偉い人だった。


「あと、新入りの使用人はここで研修を受けてから各邸に配置されるね。服の色が違う者達がいるだろう?彼らは研修中だよ。」


 ハロルドさんが示した人達の服は、確かに他より色が薄い。ここは新人の研修センターも兼ねてて、デニスさんはそのセンター長でもあると。


 デニスさんが一歩前に出て、ヒューに半分隠れているファウストを安心させるように姿勢を低くして目線を合わせる。


「私は元々先代様、つまりハロルド様とヒューバート様のお祖父様にお仕えしておりました。先代様が亡くなられ代替わりをした折に、本邸の家令と現当主ヘクター様の補佐は息子に託し、今は新人の育成に尽力しております。

 家令とは、などと難しく考えず、『この邸のことは大体知ってるお爺ちゃん』と思って頂ければそれでようございます。どうぞよろしくお願い致します、ファウスト様、ユウト様。」

「はい、こちらこそよろしくお願いします。」

「えと、よろしくお願いします、です。」


 デニスさん、想像の数倍フレンドリーだった。

 優しそうだし、頼りにもなりそうで安心だな。


 ………あれ?


「そんなすごい人なのに、ステラはヒューと俺が入れ替わったことデニスさんにも話さなかったの?」


 ステラとハロルドさん以外には絶対秘密って、口酸っぱく言われてたんだけど。デニスさんは?


「いえ、さすがにお話ししましたよぅ。ですが、その………」

「例の大事故の後、邸に運び込まれたヒューバート様を抱えようとして腰に『悪魔の一撃』を受けてしまいましてな。つい先日まで休養をとっておりました。」

「そんなに長引くなんて、余程酷かったのね。」

「医師にも「重症、治るまでしっかり安静に」と釘を刺され………いやはや、お恥ずかしい………」


 あぁ………ぎっくり腰………


「それは、悪いことをした、な………?」

「ヒューバート様のせいではございませんが、無茶は程々になさってください。腰はもうすっかり治っております、お気遣いなく。

 さぁ、次の紹介へ移りましょう。」

「では次はメイド頭のダリア。」

「はい、私がダリアでございます。

 デニス様の説明に倣うのであれば、『家事担当の人達をまとめているおばちゃん』でございますわ。あぁ、家事と言っても食事は料理長の管轄ですけれど。」


 倣わなくていい、そこは倣わなくていいです。わかりやすいしすごく親しみも湧くけども。


「ちなみに、ダリアとステラは母娘(おやこ)だよ。」

「えっ、若くないですか?」

「あら、御上手ですこと。

 ヒューバート様、これくらい自然に女性を褒められるようにならないといつまで経っても」

「わかってる、わかってるから今はやめてくれ。」


 いや、今のは別にお世辞とかじゃないよ。まじでびっくりしたよ。


 髪と瞳が少し青みがかった、ステラと同系統の可愛らしい女性である。俺は内心「姉妹かな?」って思ってた。


「普段は本邸に勤めておりますけれど、ヒューバート様が重傷との知らせを受けた主様の命でこちらへ参りましたの。私がこちらへ着いた頃にはファウスト様になっておられたそうですので、ユウト様とは初めてお会い致しますね。

 こちらでのお召し物をご用意する時などはお力になれるかと。よろしくお願い致します。」

「やっぱり、この服目立ちますかね?」

「ええ、お二人とも布や仕立ては上等なのに装飾が一つもなくて、上着や帽子もないとなると、「良家のご子息が悪党に身ぐるみ剥がされた直後」といったような風体かしら。」


 それ、その辺歩いてたら通報されるのでは?保護してあげてください的な意味で。


「いずれは仕立てた方がよろしいかと思いますが、しばらくは今まで通り邸にあるものをお召しになっていただく形になりますわ。

 ファウスト様は昔のヒューバート様のお召し物が合わせられそうです。ユウト様はしっかりした体格でいらっしゃるようですから、ハロルド様がお召しだったものの方ががお似合いかしら。ふふ、腕が鳴りますわ。」

「ダリア、コーディネートは後で頼むよ。

 次は料理長のパーシヴァル。」


 え、料理長、名前かっこよ。


「やぁ、味噌のことを教えてくれたのは君なんだってね?」

「はい、お久しぶりです料理長さん。

 あの時は料理長としか呼ばれてなかったから知らなかったんですけど、めっちゃ名前格好いいですね。」

「そう?あんまり言われたことないけど、嬉しいねぇ。」

「俺の世界でパーシヴァルといえば、世界的に有名な物語に出てくる騎士の名前なんですよ。」

「何それ格好いい~。僕、刃物は包丁とか調理用のナイフしか使えないよ?はい、二人とも手を出して~。」

「「?」」


 ころん、と小さな何かが手のひらに落ちてきた。


 俺と会話しながら何か切ってるなと思っていたら、その数十秒で二つの姫りんごに見事な彫刻が施されていた。今にも羽ばたきそうな鷹。凄。


「挨拶代わりに、どうぞ。切り口から傷むから今日中には食べちゃってね。」

「わぁっ、すごい………!本物みたいです!」

「翼の羽根まで細かい………食べるのもったいない………」

「あはは、これくらいならいつでも彫ってあげるよ。

 苦手な食べ物とか、アレルギーがあったら対応するから。時間があったらまた異世界の料理教えてね、改めてよろしく。」

「はい!よろしくお願いします!」


 お、珍しくファウストが秒で懐いた。


 料理長とはヒューだった時に結構喋ってるから、デニスさんやダリアさんよりは元々親しみがある。また日本風料理ねだってもいいかな?


 本人はのほほんとした雰囲気だが、調理スピードは機械並み。こうみえて、王城に勤めた経験もある凄腕料理人である。


「最後が彼、うちの警備を統括しているクラーク。」

「クラーク、です。………あの、大変失礼ですが、もう一度お名前を伺っても?馴染みのない響きで。」

「俺ですか?刀伎結斗です。刀伎が家名で結斗が名前です。」

「成程、そこで切るのか………トキ、ユウト………トキ………」


 クラークさんは眉間にシワを寄せ、丁寧にメモを取っていく。警備担当ということもあって体格が良いため、相対的にメモとペンがものすごく小さく見える。


 カリカリ………カリカリカリカリカリカリ………


 俺の名前、そんなに長くないはずなのに何をそんなに書くことがあるんだろう。


「見ての通り、とても真面目な男だよ。

 警備で気になることがあったら彼に声をかけて。」

「邸にいる間の安全は、自分達が守ります。どうぞ、安心して滞在なさってください。」

「ありがとうございます、よろしくお願いします。」

「………」


 ゆっくりと屈んだクラークさんが、部屋の一角を手で示す。


「我々の担当は邸全体の警備でして、普段ヒューバート様やお二人についているあちらの者達は主に他家からの派遣員です。窮屈な思いをさせてしまうかもしれませんが、」

「あぁそれは大丈夫です、わかってて来てるので。」


 今度は俺に半分隠れていたファウストが、後ろから袖をくいくいと引っ張る。


「ユウト、あの人達、敵の目をしてます。なんで倒したら駄目なんですか?」

「先に手を出したらこっちが悪者になるから。向こうが何かしてきたら倒してもいいんじゃない?」

「よくはありませんが………そんなことにはなりませんし、我らがさせません。ご安心ください。」

「ありがとうございます、よろしくお願いします。」


 会話が終わると、またゆっくりと元の体勢に戻るクラークさん。


 多分、俺達のことを怖がらせないようにゆっくり動いてくれてるな。幼稚園児に囲まれた父さんと同じ動きしてた。

 全身がっつり鍛え上げた人間というものは、どうしても一定数の人に怖がられてしまうものなのである。


 ウィリアムズ家最年少のヒューより年下ってことで、彼の中での俺達は子どもなのかもしれない。ファウストはともかく、俺はあと二年も経たずに成人ですよ。


「ひとまず、今はこの四人を知っていればいいと思うわ。

 他に話してみたい人はいる?皆あなた達と話してみたいようだけれど。」


 リリーさんの言葉で、大広間の空気がそわそわし始めた。

 異世界の人が目の前にいて、しかも話せるとなったら気になるよな。


 ここでお世話になることになるんだし、今の俺はほぼ得体の知れない居候。俺と話してみたいと思ってくれてる人がいるのなら………


「えーと、じゃあ俺と話してみたい方、挙手をお願いしまーす。」


 ばばばばばばっ


 わぁ、小学校低学年以来の光景。

 え、マジ?これ全員手上げてない?そんなに?


 料理長はさっき喋ったでしょうよ、何で手上げてんの。ちょっとハロルドさんとリリーさんも、にこにこしながら挙手しないでください。デニスさんとダリアさんもノらないでください。クラークさんとヒューも空気読まなくていいから。

 何、ここで俺も手を上げたら全員に「どうぞどうぞ」ってされちゃうやつ?


 ………でもなんか、ヒューとハロルドさんはこの空気感の中で育ったんだなって感じる。家族とまではいかなくても、ある程度生活を共にしているとこうなるのかな。


「………順番にでよければ、皆さんとお話しますよ。ファウストはどうする?」

「えと、ユウトと一緒だったら。」

「本当に良いの?私もさすがに全員とは思ってなかったわよ?」

「俺もリリーさんが挙手するとは思ってなかったですよ?」

「だって、私ももっとたくさん話したいんだもの!

 ………さてと、二人はこう言ってくれているけれど、さすがに人数が多いわね。いくつかのグループにわけて、時間も区切りましょう。」


 ん?リリーさん、何故ちょっと仕事モードの表情に?


「メイドは担当業務ごとに分ければ、ちょうどいい人数になるかと思いますわ。」

「文官と料理人達はそれほど人数がおりません。1グループずつで問題ないでしょう。」

「あ、それなら料理班はちょっと後回しにしてもらえません?やってしまいたい作業があるんですよねぇ。」

「そういうことでしたらこちらも、警備に穴はあけられません。上手く交代ができるような順番にしていただきたい。」


 真面目な雰囲気で着々と話し合いが進んでいく。皆さん、リーダーシップ発揮するところ間違えてると思いますよ。


 ぽん、と肩にヒューの手が置かれた。


「………ユウト、ファウスト、一旦部屋へ行くぞ。」

「え、何でですか?」

「今から話すんじゃないの?」

「あの話し合いはこれから白熱して、実際に皆との話が始まるのは一時間以上後になるからだ。今のうちに休んでおけ。」






 ぱたん


「………あらあら、あのヒュー様がすっかり兄のお顔になられて。」


「そうですな。ユウト様もファウスト様も、とても人が良く賢そうな若者で。

 警戒して監視を強化させた自分が馬鹿らしく思えますよ。」


「はじめはユウト君との接触をステラだけにして、うちの護衛を別でつける徹底ぶりだったものね。

 家令として、邸を守るためには正しい判断だったと思うよ。相手がユウト君だから無駄になっただけで。」


「そのお言葉で、少し気が楽になりました。突然異界に来て心細かったでしょうに、ユウト様には悪いことをしてしまったかと考えておりましたので。」


「ユウト君はおそらく何も気づいてないと思うから、今更謝ったりするよりはこれから存分に優しくしてあげてくれ。ファウスト君にもね。」


「ええ、承知致しました。」


「それにしても二人とも、ヒューバートとは随分雰囲気が違うわね。

 あの二人との関わりで、少しでもあの子の人嫌いが軽くなればいいのだけれど。」


「母上、そのことなんですが………ヒューはおそらく、そこまで人嫌いではありませんよ。」


「あら、そうなの?」


「異世界の自分達はもちろん、異世界の私や向こうで知り合った者達とも何の問題もなく関係を築けていましたから。むしろ自ら積極的に話しかけていた。

 ヒューが人を避けているのは、この世界限定なのかもしれません。」


「そう………でも、今日はアールシュ君とも話せていたもの。この世界でも人嫌いではなくなってきているのかもしれないわ。

 この調子で、ヒューが気兼ねなく話せる人が増えてくれると嬉しいわね。」

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