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「ユウト!!」


 皆がいる部屋に戻ってくると、ファウストが俺の鳩尾に頭突きをかまして、ではなく抱きついてきた。地味に威力高い。


「なに、何、どうしたの。不良はちゃんと追い返してきたよ。」

「やっぱり怪我してたんじゃないですかぁ!あの巨大トカゲ、絶対討ち取ってやります!行きましょう!」

「結斗、自分をもっと大事にしなさいっていつも言ってるだろう。両親にもらった、たった一つの命なんだから。………まぁ、あの二人の息子だからこその気質だろうけど。」


 あぁ、ヒューにドラゴンの話を聞いたのか。大丈夫だってば。

 秋次さんはともかく、ファウストは放っておいたら本当に討ち取りにいきそうだ。


「魔力異常のせいで荒ぶってるだけみたいだし、普段は温厚って言ってたから倒しちゃ駄目だよ。生態系とかも考えないと。」

「そうなんですか?………でも一発は殴りますから。」

「お前が怪我をするだけだ、やめておけ。」


 ドラゴンを剣で斬りたいなら魔力を流せって本にも書いてあった。そのまま斬ったら剣の方が折れるらしい。


「宮司殿、ソウマ殿。気になっていたことは全て確認できました、そろそろお暇します。アキツグ殿、またしばらくユウトを借りて行きますが、俺の全力で守りますので。」

「わかった、奏江は僕が何とかしとくよ。

 止めても無駄なのわかってるから止めないけど、絶対にちゃんと帰って来るんだぞ、結斗。」

「うん、大丈夫。俺あっちでも結構戦える方みたいだし。」

「油断は禁物だ。

 ヒュー君とファウスト君も気をつけてな。違うシリーズのDVDも用意しとくからまたおいで。」

「ほんとですか!ありがとうございます、アキツグさん!」


 ファウストと秋次さんが意外と仲良しになってるな。共通の要素とかあったっけ?DVD?


「………?」


 潮田君は頭上にはてなを浮かべて完全において行かれている。わけわかんない話ばっかりしてごめん。


「ヒュー、俺も一緒に連れてってくれ。あ、シキって人に会わせてくれって意味。俺はそのままこっちに帰って来るよ。」

「確実に会えるかはわからんが、カズマの体調に問題が無ければいいぞ。宮司殿もご一緒にいかがですか?」

「慈雨君送ってかなきゃだし、この後お客さんも来るからやめとく~。今日じゃなくてもいいんでしょ?」

「そうですか、ではまたの機会に。」

「じゃあ、行ってらっしゃ~い。」





「せーのっ!」


 同時に飛び込まないと時間止まるのが面倒だよな。二人くらいならいいけど、四人同時はちょっと難しい。ファウストの世界を出る時も難しかった。

 ちなみに夜の幽体離脱の時は、いまだにヒューとファウストが俺にタイミングを合わせてくれている。魔力探知の範囲内なら俺の魔力の気配で大体タイミングがわかる、らしい。


「いた!シキー、カズ兄連れてきたからあの杖使ってー!」

「ほいさー!いらっしゃい、カズマ君!」

「うお、何だこの膜………えーと、はじめまして。あなたがシキさんですね。」

「シキでいいよぅ~、これ本名じゃないしぃ。」


 あれ、そうなんだ?


「連れてきたってことは、ソテルさんみたいにカズマ君が日本の連絡役になってくれるつもりなのかなぁ?

 細かい説明はこっちでしとくよ~。ヒューバート君、穴の警護してる人達が慌て始めてるよ。早く帰らないと。」

「む、それはいかんな。シキと二人きりだとカズマが危険だ、一旦あの世界に行ってから戻って来るか?」

「私は危なくないよぅ!オーガニック食品くらいには安全だよー!」


 異世界にもオーガニックの概念あるのか。


「比較対象おかしくないですか?

 ………ヒュー、俺は初対面でもそこそこ仲良くなる自信はあるぞ。大丈夫だろ。」


 カズ兄がいくらコミュ力お化けでも、シキ初心者が二人きりはさすがにしんどいと思………いや、カズ兄ならいけるか?


「シキさん、いや、シキは結斗達と協力して世界守ろうとしてくれてるんですよね。ありがとうございます。」

「いやぁ、私的には暇潰しのつもりだったんだけどねぇ。はじめは面白いことになってるなぁと思っただけだったのに、喋ってたら皆のこと気に入っちゃってさ。敵に回るつもりはないから、そこは安心してねぇ~。」

「そうですか。………結斗、この人なら俺だけでも多分大丈夫だ。急ぐなら早く行けよ。」


 シキは比較的真面目に話している、と言いたい所だが、小さめの観測機械でお手玉しつつカズ兄の周りを自転公転していなければの話である。カズ兄はこれを見て何故大丈夫と思えるのか。


「ヒュー、穴の周りにどんどん人集まってますよ。いいんですか?」

「………仕方ない、俺だけ先に行こう。ユウト、この許可証を持っておけ。あそこの兵に見せれば通してくれるはずだ。ファウストのことは俺から話しておく。」

「わかった、よろしく。」


 シキに視線で「変なことするなよ」と釘を刺してから、ヒューは一人自分の世界に消えて行った。とりあえずヒューさえ帰れば、あそこの騒ぎは収まるはずだ。


「そんなに私と二人にするの嫌?何もしないよ?………別にいいけどさ。

 カズマ君、君がここに留まるのは初めてだから手短に。まずは滞在時間を制限させてもらうよ。三十分に一度は世界に戻って休むこと。この杖使って負担は減らすけど、完全には無くせないから連日来るのはなるべく避けて。おっけー?」

「OKです。魂がダメージ受けるんでしたっけ。」

「そ、ユウト君達に聞いてるみたいだねぇ。魂の感知とかはちょっとずつ教えるから、そしたら滞在時間も伸ばせるよ。ユウト君達は規格外だけど、カズマ君も魔力量はトップクラスだからね。」

「そうなんですか。知らなかったなぁ………」


 シキの真面目モードが珍しく長続きしている。初対面の相手だとふざけたくなるとか前に言ってなかったっけ。


「あとは、注意事項をまとめた紙渡しとくね。今日は初回だから特別価格!安い!安過ぎる!!」

「え、金?今財布持ってないんですけど」

「カズマさん、真に受けちゃ駄目ですよ。シキ、その紙どうしたんですか?」

「いちいち説明するの大変でしょうって、テミスさんが説明内容のテンプレート作ってくれたの。それを、言語設定して、この機械に通すと~………じゃーん!それぞれの言語で出てくるんだよー!便利でしょー!」


 おふざけモードになってきたな。


 カズ兄が俺の隣で微笑みと呆れの中間くらいの表情になっている。シキは基本こんな感じだよ、慣れて。


「そうか、シキも異世界の人だから言葉違うんだよな。じゃあ、シキにもあのペンダント渡してあるのか。」

「持ってないよぅ。ここではいらないの。」


 どうやって文章を日本語に翻訳するんだろ。ヒューみたいに思念を使うとか?文字からだと難しそうだよな。


「代わりに、未知の言語でも入力すると徐々に学習して翻訳できるようになる機械を持ってるんだ。それで皆の世界のニュースとか新聞見てるの。日本のアニメ見てるって前に言ったよね?」


 そういえばそうか、世界を覗けても音声は聞こえないし。番組は字幕で見てるって聞いてたけど、言われてみればその字幕も読めるわけないんだ。


「超便利じゃん、AIかよ。てかこんな所からアニメ観賞って………あ。すみませんつい。」

「畏まらなくていいよぉ、ユウト君達も普通に喋ってるでしょ?」

「じゃ、遠慮なく。とりあえず、悪い人ではなさそうで良かったよ。見た目デスゲームの主催者だけど。」

「んー、良い人でもないんだけどねぇ~。」

「本当に悪いやつならそんなこと言わないって。」


 パッと見は普通に喋ってるけど、カズ兄はまだ若干警戒モードだ。それはわかるけど、シキも何となくいつもと様子が違う気がする。気のせいかな?


「カズマ君、今日は初回だしもう帰っておこう。おうちでその紙読んでおいてねぇ。いつ来てもいいけど、私はここにいないことも多いからその時はしばらくしてから来てみて。」

「了解です。

 ………そうだファウスト、ヒューかハロルドに話を聞け。俺に言われたって言えばわかるから。」


 またその話か。って、ハロルドさんにも言ってあるのかよ。


「カズ兄、俺痛覚鈍いのは自覚あるから。俺に隠して話そうとしなくていいじゃん。」

「ん?何で知って………あー、いや、まぁいいか。

 とにかく聞いといてくれ、ファウスト。」

「? わかりました。」


 何なんだよ。





「本当に、増えた………」


 ヒューの世界に行くと、アールシュが迎えてくれた。

 さっきまで一緒にいたような気がするから不思議な気分だ。


「えと、はじめまして。」

「お前がファウストか。アールシュ・マンダルだ。お前達のことをヒューに頼まれた。屋敷まで送る。これを持っておけ、仮の身元証明だ。」

「みも………しょ………」

「ありがとうございます。ファウスト、あとで説明するからとりあえず行こう。」


 移動手段として馬が三頭用意されていたが、ファウストは一人で乗れないので俺と二人乗りだ。

 俺?俺は昔父さんに、ここでの乗り方はハロルドさんに教わったよ。


「あの、あなたはずっとここの警備を担当してるんですか?」

「最近は、そうだ。ある程度の魔力量と耐性がないと、体調を崩すらしい。」


 アールシュはまだわかるとして、不良Cも魔力多いってことか。魔導士を馬鹿にしてると思ってたから意外だな。


「それと、入れ替わりの件を昨日研究室長殿に聞いた。俺が初めて会った時のと、討伐を一緒にした時のは本来のヒューではなく別人で、お前達だと。」

「「え」」


 アールシュにまで話したのか。

 聞いてみると、討伐の時に組んだ隊員には話を共有することになったらしい。一応隠そうとしていた俺の努力は一体。


「穴の近くには他の者もいたから、その話はしないようにしていた。改めて、名を聞かせてもらえるか。」

「俺は結斗で、あなたが初めて会った方のヒューが俺です。不良を小一時間中庭で転がした………」

「あぁ、あれか。」


 あの時の技を教えてくれ、と改めて頼まれた。あれから結構経ってるけど、教えるって言ったの覚えてたんだな。


「俺はファウスト、です。えと………討伐初日に糸の罠使ったら、アールシュが引っかかりましたよね。暴れるから余計絡まって、解くの大変でした。」

「何それ詳しく聞きたい。」


 アールシュは相変わらずの無表情だが、微妙に口元を歪めて目を逸らしたのでこれは多分苦い顔をしていると思われる。


「………さっきヒューに討伐の話題を振ってみたが、流された。本当にお前達だったんだな。話を聞くだけではよくわからなかった。」


 そりゃそうだ。俺達でもはじめは混乱したんだから。


「あの時と同じように、楽に話して欲しい。その、友として。俺も貴族ではあるが、呼び捨てで構わない。」

「わかった。改めてよろしく。」

「俺も、よろしくお願いします。あと、その、ヒューとも仲良くしてほしいです。」

「あぁ、彼にも話さなくては。

 ………帰ってきてからどこかぎこちなくて、はじめはまた記憶障害が出たのかと思っていた。実際は初対面なのに知り合いのふりをしていたからだったんだな。」


 そっか、ヒューにはまだアールシュが事情を知ってることを伝えられてないのか。


 もう少し色々話したいけど………何かが後方から近づいてきている音がする。


「ユウト、後ろから何か来ます。魔物ですかね。」

「うん、俺も気づいてるよ。魔力は結構強そうだけど、普通の魔物ってあんな感じなの?俺まだドラゴンしか見たことなくてさ。」

「多分、ですけど。強さは………ユウトならデコピン一発だと思います。」


 俺のことを何だと思ってるのかな?


 ………ファウストの世界で色々試した時、思い切り魔力を込めればデコピンでも小石を砕けると判明したので、はっきり否定はできないのだが。


「どうしましょうか。逃げた方がいいです?迎え撃ちます?」


 んー、まだ小さくしか見えないし逃げきれる距離だけど、見るからに様子がおかしいし興奮気味なんだよな。王都に入る門には結構馬車とか並んでるから、あっちに行っちゃうと危ない。


「倒しちゃおっか!」

「やっちゃいましょう!」

「好戦的だな、お前達………。だが、倒した方がいいのは確かだ。俺も行こう。」

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