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静流さんへの現状説明は皆に任せ、俺は部屋の隅で潮田君に包帯を巻いている。傷のつき方的に多分、潮田君は基本的に俺と同じ回避型だな。
ちなみにカズ兄は相手の攻撃をあまり避けずにがっつり受け止めてから返すタイプだから、擦り傷より打ち身や青アザが多い。
「なぁ、なんて呼んだらいい?名前は嫌なんだよな?」
「普通に、潮田で。………前に兄貴って呼んだらやめろって言われたよな。まだ駄目か。」
「それは永遠に駄目。はい、手と顔はこれでOK。他は?ボディとか結構狙われるだろ。」
「腹にサラシ巻いて鉄板仕込んでる。」
まだ絶滅してなかったのか、その古典技法。不良自体だいぶ減ってきてると思ってたんだけど。
「一応見るから外して、重いだろ。確かにダメージはだいぶましになるけどさ。」
「やったことあんのかよ。」
「………相手が多くて捌ききれない時にちょっと、ね。」
「あはは、さすが伝説の喧嘩少年。荒んだ目付きと鞄の白テープが懐かしいわ。」
余計なこと言わないで静流さん、ヒューとファウストはまだそれ知らないんだから。ほら、後ろできょとんとしてるじゃん。
………実は今でも学校の鞄には防御用の金属板と鎖が仕込んであったりする。
「あとは………靴下に血滲んでる、脱いで脱いで。」
軽く水で洗ってー、周りの血と水分拭き取ってー、ガーゼ当てて包帯巻いてー、と。
「手慣れてんな………」
自分の手当てで慣れたんだよ。
「はい終わり。応急処置だから後で病院行けよ。」
「ん………どうも。」
これ絶対行かないやつだ。
まぁ、擦り傷と打撲だったから大丈夫だとは思う。
「救急箱ありがと、静流さん。そっちは終わった?」
「うん。聡馬のこと、ありがとね。
この後裏司の子が来るから、癇癪?の対処法伝えとく。あそこなら世界規模でも対応できるはずだし。」
「世界規模ってすご………ウラツカサって何?」
「霊力の存在を認知してる人達による秘密結社みたいなものだよー。そろそろ結斗君にも教えて大丈夫っしょ。」
「秘密結社!?」
中二心がざわつく単語だ。こんな身近に実在するとは。
「由来についてだけなら「うらのつかさ」でググれば出るからそっち見て。」
「え、検索で出るの?」
「うん。由来はね。」
そういうのって普通、存在そのものが秘密なのでは??
「異世界のことはある程度喋ることになるけどいい?ヒュー君。」
「こちらの世界でのことですから、シヅル殿の判断にお任せします。」
「そーだね、性悪の術者に異世界が変に利用されないためにも、裏司の協力は必須かな。まずは何人かにだけ話すわ。」
とりあえず、日本には裏司と呼ばれる組織があって、怪奇現象の調査や対処をしていると知っていれば今はそれでいいと言われた。
霊力持ちの榊原一家、うちの両親、奏江さんと秋次さんはメンバー。カズ兄は神職の資格が取れ次第加入予定で、俺も成人したらタイミングを見計らって勧誘予定らしい。
あ、潮田君はこの話………スマホを触っててこちらの話は聞いていないようだ。都合が良いからしばらくそうしててくれ。
「げほ、静流お帰り………また誰か拾ってきたの?親御さんに連絡は?」
「ソウマ殿!まだ休んでいた方がよろしいのでは。」
「お、初めて名前呼んでくれたねヒュー君。さっきはごめん、大丈夫だった?あれ、ツグもいたのか。いらっしゃい。」
「僕、存在に気づかれてもいなかった………?」
「ただいま~。見て見て、ツグ君のお土産。面白くない?うにょってて。」
おじさん苦笑いだよ、静流さん。
秋次さんのお土産センス独特なんだよなぁ。
とりあえず、聡馬おじさんが落ち着いたみたいで良かった。顔色も良くなってる。
「ツグの隣にいる子は?」
「………あ、ツグってアキツグさんですか。俺は、ファウストです。えと、ここにいた時、色々してもらってありがとうございました。あの、寝てなくていいんですか?」
「あぁファウスト君か!心配してくれてありがとう。改めて、よろしくね。」
………潮田君がファウスト達の方をジーッと見ながら、そろそろと俺に近寄ってきた。もうしばらくスマホいじっててくれていいんだよ?
「お前の親戚、それぞれ別の国の名前だよな。かなり国際的なのか、お前ん家。」
「あー………そうだね。」
どういうことにしようかな。俺は親戚とほとんど関わりないし、適当に話作ってもバレないとは思うけど。
内心冷や汗をかきながら言い訳を考えていると、カズ兄が俺と潮田君の間にぬっと首を突っ込んできた。
「潮田君、だったよな?不良っぽいのが何人か来てんだけど、君の友達なら中入れるから確認してくれないか。」
「………ちっ、追ってきたか。またぶちのめしてやらねーとな。」
「友達ではなさそうだな………もし来てるのが喧嘩相手でも、怪我人なんだから大人しくしてろよ。
そういうことなら結斗も来てくれ。」
ナイスタイミングだ、不良。これを口実に、潮田君にはここから離れてもらおう。
さて、外を見てみると、ボロボロの鞄をこれ見よがしにぶら下げたヤンキーがうろついていた。
………八人か、無駄に多いな。
「さっきノシた奴の仲間だ、最近やたら絡まれんだよな………シメてくる。」
「シメていいんだな。よし結斗、行ってこい。」
「了解。潮田君、ほんとに倒しちゃって大丈夫?」
「あいつら自体はどうでもいいが狙いは俺だ、自分で」
「まぁまぁ、怪我人は安静にしてなって。結斗、ささっと掃除してきてくれ。」
合点承知。
「こんにちは~、何か御用ですか?参拝はあちらですよ。」
「おう、ここに潮田ってやついるだろ。迎えに来たんだ、オトモダチだからよ。」
「んー、知らないですね。俺は人を見かけてないので、ここにはいないんじゃないですか?」
「しらばっくれても無駄だ。いるのはわかってんだよ、さっさと連れてこい!」
不良は大声を出しながら空の消火用バケツをこちらに蹴飛ばす。音は大きいけど、俺はその程度じゃビビらないよ。
こういう手合いに怖がってると思わせたら付け上がるだけだ。俺の経験上、敬語は残しつつ少し高圧的なくらいがちょうどいい。普通の参拝客が来ないとは限らないし、ヘイトは俺に集めておきたい。
「知りませんって。何をそんなにイライラしてるんですか?」
「うっせぇ、知らねーなら探してこい!」
「大人しく言うこと聞いてりゃいんだよ、痛い目見たくねぇだろ?あぁ?」
普段より頭の悪い返事しか返ってこない。知らないと言ってるやつをどうやって探せと。
もしかしてこれ、魔力異常の影響だったりする?魔物の凶暴化的な。魔物扱いはさすがにひどい?
あーあー、一人を大勢で囲んで睨みつけて。群れて実力を勘違いした雑魚の典型だな。
………そろそろ実力行使、いきますか。
「おいあんた、いくら静嵐でも一人は無茶だろ。あいつらサシでの勝負なんかしねぇんだぞ。」
「いやぁ、むしろオーバーキルだと思うぞ。ほら。」
「………うわ、瞬殺かよ。」
「見た目は優男なのにな。」
神社で暴力なんて罰当たりですよー。
俺?俺は正当防衛だからいいの、ちょっとは痛いだろうけど怪我はさせてないし。
不良達はめげずに立ち上がり、揃って俺を睨み付ける。
この程度じゃ諦めてくれないか。あんまり気は進まないけど………
「改めまして、俺は刀伎結斗です。」
「刀伎………まさか、『血の旋風』!?」
「マジかよ!いなくなったんじゃ!?」
俺のこと知ってたら帰ってくれるんじゃないかな、と思って名乗ったから狙い通りではあるんだけど、そっちの異名もまだ残ってんのかぁ。まぁ、不良狩りやめてからまだ三年経ってないもんなぁ。
ちなみにさっき潮田君に呼ばれた「静嵐」も、元々は「静かなる嵐」とか何とか言われていたのが略されたものである。何でこういう異名って中二病になりがちなんだろう、恥ずかしいんだけど。
「ずっとこの辺りに住んでますよ。ここには極稀にお参りに来るんです。運が悪かったですね。」
「ナメてんじゃねぇ、ぞっ………!?」
不意打ち下手か。そんなに大きく振りかぶって真正面から殴りに来たら、誰でも普通に避けるだろ。
「警棒はやめた方がいいですよ、頭とかに当たると相手死なせかねませんから。それにこの実力差なら相手に武器を与えるだけです。はい、没収。」
「なっ!?」
「俺としては早くお引き取り願いたいんですけど………」
まだやります?という念を込め、一人一人に視線を向ける。
「………ネンショー上がりに勝てれば箔がつく。嫌でも相手はしてもらうぜ。
お前ら、囲め。一気にかかるぞ。」
おいこら、俺がいつ少年院に行ったよ。仮にそうだとしても八人がかりじゃ箔はつかないだろ。
名乗ったのは逆効果だったかなぁ。いや、元の目的である潮田君のことを忘れてるみたいだから結果的に良かったんだ、きっとそうだ。
「おらぁっ!」
討伐隊前衛の不良も、こいつらと比べればちゃんと訓練されてると思えるな。逆にこの不良達もあの世界なら、冒険者や兵士として成功できたやつがいるかもしれない。
不良は大抵、実力主義での上下関係には従うからね。
「ぐ、くそ!」
「何で当たんねぇんだよ………っ」
あ、無意識で相手してた。そろそろ終わらせようか。
一番近くの腕を掴み、ぶん投げる。投げた先にいた二人も上手い具合に巻き込めたのでこれで残り五人。
次に来たやつの脚を払って派手に転がし、それに躓いたやつの背中を踏み台にして軽く飛ぶ。正面に向かって重力加速度を加えてのラリアット。一応、地面で頭を打たないように背中を抱き止めてやる。
残り二人が怯んだ隙に、鳩尾に軽く拳と肘を打ち込んで。
よし、お仕事完了っと。
「………覚えてやがれ!」
見事な捨て台詞、いただきました。ばいばーい。
「お疲れさん。いつもより容赦なかったな、やっぱさっきの魔力何とかでイラついてたんじゃないか?」
「自覚なかったけどそうなのかな………撫でないで、カズ兄。
ん?どうしたの、潮田君。何かついてる?」
「何で兄貴って呼ばせてくれないんだよ………」
まだ言うか。同学年とか年上に兄貴って呼ばれてたら俺が留年してるみたいになるからだよ。
「その………助かった。俺にできることがあれば言え。お前にだったらいくらでも手ぇ貸してやる。」
どうやら潮田君、仁義を大切にするタイプのヤンキーらしい。さすが異世界のアールシュ、根は真面目そうだ。
がさっ
「じゃあそのためにも修行頑張ろうね、ジウ君!結斗君も霊力強い子だから、悪霊祓えたら助けになるよ~。」
「うおっ!?あんた今どこから出てきた!?ってか名前はやめろっつっただろうが!」
静流さんはさっきから茂みにスタンバってたよ。驚かせようとしてたみたいだから黙ってたけど。
「名前、そんなに嫌?」
「………初対面だと毎回聞き返されんだよ。書類でも漢字間違えられたり、女にされたりする。」
「どんな字?」
「慈しむに雨。」
恵みの雨、的な?
書類で漢字間違えられるのは俺もわかるよ、よく土岐にされる。名前が誤植で「結」になってたこともあったな。
「格好いいと思うけど。」
「別に名前そのものは嫌じゃねぇ、先祖代々の一文字もらってんだ。よく知りもしねぇやつに連呼されたり、ギャグみたいにふざけて呼ぶやつがいるのが嫌なんだよ。
………最初に「焼肉」って呼び始めたやつだけはいつか突き止めてぶっ飛ばす。」
何で、焼肉?名前関係なくない??
「皆、とりあえず中戻ろ。そろそろヒュー君達帰してあげないと。」
「あぁ、もうそんな時間か。結斗も一緒に行くんだよな。ヒュー達との話は大体終わったらしいし、行っても大丈夫だぞ。」
「うーん………」
「結斗?どした?」
ここで何もなければまた向こうに行くつもりだったけど、日本も影響は出てるみたいだ。もし今日帰ってきてなかったら、聡馬おじさんはもっと悪化してたかもしれない。
「俺、残ろうかな。ここにも事情全部把握できる人がいた方がいいと思うんだ。王様に呼ばれたらヒューに伝えてもらえば………」
「ファウストの所も人に任せてるんだろ?それに、多分榊原家は全員シキって人の所に行けると思うって言ってたぞ。」
「え、誰が?」
「ヒュー。今一番もろに影響受けてて人手がいるのはヒューの所っぽいから行ってやれよ。あ、シキさん?に俺を紹介はして欲しいかも。」
こういう時のカズ兄の笑顔は本当に頼もしい。頼もしいんだけど………でも丸投げはなぁ………
「今はそっちで役に立ってこい、気軽に往き来できるのはお前らだけなんだから。
それに、明日は事情聴取があるって聞いてるぞ。こっちには数日おきに帰って来てくれればいいから。任しとけって。」
「………うん、わかった。ありがと。」
「じゃ、皆の所戻ろ!慈雨君も!」
「俺はもう帰」
「駄目ー。ほらほら行くよ!」
俺の身体は一つだけ、全部の問題に対応することが出来ないのはわかってるけど、何かが起きているのがわかっていて何もしないのってもやもやするな。うん、こまめに帰って来よう。




