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朝………だと思うんだけど、なんか暗くない?また雨か?
「ユウト、起きたか?」
「ん………うおあぁっ!?ふぇ?なに、鏡?いや、ヒューか!」
「もう日はかなり高いぞ、曇りだが。やはりお前も疲れていたようだな。」
目を開けるとすぐそこにヒューの顔があった。
危なかったぁ、反射的に殴る所だったよ。
「えっと、おはよう。身体はもう平気?」
「元々身体は何ともないぞ。脳疲労も、しっかり寝たから完全に治った。心配かけたか?」
「いや、幸せそうな寝顔だったからそんなには。」
「………そこは嘘でも心配したと言ってくれ。」
突然倒れた時は驚いたし、帰ってからベッドに寝かせると「魔術書がこんなに………ははは」とか言いだしたのでちょっと怖かったが、ヒューが魔法による脳疲労で寝落ちた時はいつもこんな感じらしい。それを聞いていなかったら俺は心配で安眠できなかっただろう。
「昨日は世界の狭間に行けなかったからな。何か重要な話はあったか?テメノスはどうだ?」
「新事実は色々あったけど、緊急事態とかはないよ。テメノスはシキが昨日の二人と見ててくれるってさ。
それで、今日俺に予定がなければ一旦俺の世界の様子見に行こうと思ってるんだ。あの結晶置いてから魔力がどうなったか知りたいから。あと、ファウストが………」
「ふむ、まだ置いてからそれほど日数は経っていないが、こまめに確認はするべきか。こちらの世界で起こる事象の参考になるかもしれないから、是非俺も行かせてくれ。」
「あ」
「俺の方は、昨日の夜中に目が覚めて………何だ?俺の後ろに何かあるのか?」
………振り返ればわかるよ。
「ぶっ倒れておいて何をおっしゃってるんですかねぇ、この魔導馬鹿は。せめてあと一日は安静にしててくださいよ、また魔法封じてベッドに縛り付けますよ?」
「ステラ!?………何故お前は探知に引っかかりにくいんだろうか。いや、かかってはいるはずなんだが………」
「乙女の秘密です。
ユウト様も足にお怪我をなさったのでしょう?治されたとはいえ、まだあまり動かれない方がよろしいのでは?」
「足、だと………聞いていないぞ、ユウト。」
ごめんって、そんな睨まないでよ。
「それはもう大丈夫。あとさ、ファウストがこっち来たいって言ってて、日本で合流しようかって話してたんだ。
今日王様に呼ばれたりすると思う?行くのがまずいならやめとくけど。」
「む………それは大丈夫だろう。俺達の事情聴取は明日だそうだから、今日中に戻って来れば問題ない。」
「ヒュー様、行く気ですね?ここにヒュー様用魔封じの手錠がありますけど、この場でかけちゃいましょうか?またダンさんが改良したのでもう抜けられませんよ?」
「あまりユウトを一人にしたくないんだ。手錠くらいならつけたままでも行く。」
ヒュー様用って。頻繁に手錠かけられてんの?ステラもごく自然にポケットから手錠出してきたけど、もしかして普段から持ち歩いてんの?
あと、手錠かけたヒューを連れて歩いてたら俺までヤバい奴になるから嫌だぞ。
「成程、手錠では飽き足らず、全身縛られたいと~。」
「そんな奇特な趣味はないし、ステラは妙な所で優しいからな。お前の縛りであれば、緩いから自力で抜けられる。」
「え、そうなんですか?おかしいですね、ダンさん直伝の縛り方なんですけど………」
「相手が俺だからかもしれんが、詰めが甘いぞ。たまに自分で縛り直しているくらいだ。」
「………もうっ!今度はぎっちぎちに縛り上げてみせますからね!」
お二人さん、仲良いな。ヒューも普段からこうならもっと友達いそうなのに。
っていうかヒュー、何で抜けるんじゃなくて縛り直すの?ステラも「今度は」って、またやること前提なの?
「真面目な話、ヒュー様の体調を考慮して一日休みになったんですから、動けるのならすぐにでも事情聴取されると思いますよ?」
「大丈夫だ、俺はまだ目を覚ましていない。
昨日の事情聴取よりは世界の接近による異変についての調査の方が優先だ、室長もそれはわかっている。頼めるな?」
ヒューが珍しく、口の端だけを歪めるような悪い笑みを浮かべる。今何て言った?
「………わかりましたよぅ、しばらくは誤魔化しておきます。できるだけ早く帰ってきてくださいよ?」
「どういうこと?」
「ヒュー様はまだご自分が寝ていることにして、ヒューゴのお姿で行くおつもりなんですよぅ。
護衛の方々はヒュー様の変装姿もご存知なのですぐにバレますけど、重ねて隠密魔法を使えば少しくらいの間は誤魔化せます。部屋には幻影を身代わりに置いて、その隙に異世界へ行ってしまえ、ということですねぇ。」
あー、「俺はまだ目を覚ましていない」ってそういう。
「ユウトは何も気にしなくていい。ただ、一人で行くとだけは言わせないぞ。昨日の無茶はまだ許していないのだからな。
ステラ、おれの机に置いてある室長宛ての封筒を送っておいてくれるか。昨日の顛末をまとめた報告書だ。あと、ヒューゴの装備を。軽装で構わない。」
「はーい。」
「いやいや、黙って行っちゃ駄目だろ?」
「黙ってじゃないと、行くのに時間がかかり過ぎる。何か騒ぎになったら全部俺のせいにすればいい。
迷い人ということは常識知らずの免罪符になるのだから、怒られそうになったら俺に連れて行かれたと言っておけ。な?」
いいのかなぁ。
「………ハロルドさんの探知能力高過ぎて怖いんですけど。何でしっかり準備済みで門にいたんですか。」
「いいじゃないか、話を聞いて穴まで送るだけにしたんだから。歩きや馬車よりはこの方が速いだろう?」
「兄上に関しては諦めた方が楽だぞ、ユウト。」
俺達はまた、ハロルドさんの白馬に三人乗りしている。
ファウストが来たら四人で乗るとか言わないだろうな。
ちなみに俺達三人と荷物を乗せて軽々走っているこの白馬、ニクスという名前だそうだ。雪という意味らしい。綺麗な純白だもんね。
「兄上、そろそろ降ります。今日中には戻るつもりですが、それまでここで待ってたりしないでくださいよ。兄上達は目立つんですから。」
「仕方ないか、では気をつけて。私はファウスト君も王都に入れるよう、手筈を整えておこう。
ヒューがいない理由も適当に話しておくけど、必ず今日中には帰ってくるんだよ?」
「はい、ありがとうございます。」
「送ってくれてありがとうございました、行ってきます!」
ハロルドさんって過保護な所もあるけど、話せば結構自由に動かせてくれるよな。ヒューのことを心配はするけど、信頼もしているって感じ?
「ヒュー、少し耳を貸して。………日本に行くなら、カズマにユウト君の過去の話をしてもらっておいで。昨日の行動の理由はある程度わかると思う。ただ、ユウト君には気づかれないように………」
「もう聞きました。だからこそ、できるだけユウトを一人にしたくなくてついて行くんです。」
「そうか。………ヒューも無茶は駄目だよ。」
「はい。行って参ります。」
空間の穴がある森の入口に着くと、槍を持った兵士に道を塞がれる。その隣には、赤字でおそらく「立ち入り禁止」と書かれた看板。読めないけど、文字が何となく「KEEP OUT」っぽい形をしてるから多分合ってると思う。
ヒューが「大丈夫だ」って言うから普通に正面から来たけど、どうする気なんだろう。まさかハロルドさんみたいに強行突破する気じゃないだろうな?
「止まれ!お前たち、冒険者か?」
「ここから先は立ち入り禁止だ、引き返せ。」
「! 待て、彼らは許可がある。………おい、お前ヒューだろう。変装なんかして、何をする気だ。」
あれ、奥からアールシュが出てきた。ずっとここの警備担当なのかな。
「こいつの世界に行くだけだ、今回は今日中に帰ってくる。もう一人俺を連れて来るかもしれんが、不審者でも危険人物でもないからその時は通してやって欲しい。」
「………また増えるのか、お前。」
「増えているわけではないのだが。
数時間で戻る予定だ、行かせてもらうぞ。国の許可証があるから問題はないだろう。」
「あぁ、止めはしない。そっちのお前も、無事を祈る。」
「ありがとうございます。ヒュー、許可証って何の?」
「空間の穴の調査許可、という名の異世界渡航許可みたいなものだな。俺と兄上とお前の分が今朝陛下から届いた。ほら、行くぞ。」
世界の狭間に飛び込んですぐにシキを発見。隣にはソテルさんもいる。
「あ、来た来た。結局ファウスト君は昼まで待ちきれなくて、先にユウト君の世界に行っちゃったよ。早く行ってあげて。」
「おん?髪長い方の青年、イメチェンした?
あの子に話は聞いてるよ。こっちはおっさんに任しときんさい、あとは大人の仕事だ。その代わり、他の世界での出来事については頼むわね。」
ソテルさんは相変わらずゆるい口調だが、今日の眼差しはどことなく真剣だ。
「………そっちで何かありましたか?」
「うんにゃ、上層部の頭が悪いだけで特に何も。何で?」
「真面目な顔のソテルさん見たのが初めてだからじゃない?」
「あぁ成程、って失礼な!おっさんはいつでも本気よ!?」
………シキとソテルさん、なんか若干キャラ被ってんな。
「おっさんだって世界壊れたら困るし、やる時はやるの。
やっぱこんな草臥れたおっさんじゃ信用出来ない?今度一回正装でバシッと決めてこようかね。」
「ファウストとシキが信用しているから、今のところ俺も信じてます。そちらはよろしくお願いします。」
「俺もだ。何かあった時は、ファウストかシキを通じて知らせてもらえれば手を貸そう。日本村の者達にもそう伝えてある。」
「あれ、そんなすぐ信じてくれちゃうの?
聞いてた通りの素直な子達だねぇ、ありがとさん。今んトコ大丈夫だから、安心して行ってらっしゃいな。」
よろしくお願いします、行ってきまーす。
ただいま~、ってうわぁ寒っ。
………いやおかしいだろ。今、八月なのに。
「ユウト!ヒューも来てくれたんですね!会いたかったです!!」
穴のすぐそばで待ち構えていたらしいファウストが飛びついてきた。服が綺麗なものに変わっている。袖が太めなのはワイヤーとコウのためだろうか。
「あれ?ヒューの髪、少し色違いませんか?毛先がちょっとだけ銀色です。」
「毛先だけか?………あぁ、色変えが解けかかっているのか。ここでは効果が保てないようだ。向こうで変装が必要だっただけだから気にするな。
ファウストもその服、似合っているぞ。どうしたんだ?」
「ソテルさんにもらいました。あ!見てくださいこの装置、魔力込めたらいくらでもワイヤー出てくるんです!すごくないですか?おかげですごく上着が軽くなって」
「落ち着けファウスト、二人とも逃げたりしないんだから。
お帰り、結斗。ヒューもよく来たな。」
季節外れのダウンを着込んだカズ兄も一緒だ。ファウストから話聞いて待っててくれたのかな。
「二人ともその服じゃ寒いだろ。ヒューの分も上着持って来てて正解だったな。」
「それはありがたい。そうだファウスト、お前にもこれを。翻訳ペンダントの改良版で、双方向に翻訳できる。これならこの世界でもそこそこの距離まで離れて会話できるはずだ。カズマの分はまたいずれ作ろう。」
「ん、俺にもくれんの?今はいらないと思うけど、もしまた異世界に行くことがあったら頼むよ。」
あれ、いつの間に作ったんだ?昨日はぶっ倒れてたのに。
「すごく綺麗ですね、ありがとうございます!何か中に浮いてます?」
「それが魔法陣なんだってさ。」
よく見ると、透明な石の中で立体的な幾何学的模様がゆっくり回ってるんだよな。この世界の一般人に見られたらオーパーツとか言われてちょっとした騒ぎになりそう。
「カズマ、日本は変わりないか?………というかこの寒さは何なんだ?こちらも真夏のはずだろう。」
「これは多分親父。寒いのはこの辺りだけで神社の周りは雪降ってるけど、多分すぐ落ち着くと思う。
ほら、俺が昔同じことしたの覚えてないか結斗?確か俺が小二か小三くらいの時。」
何それ知らない。あと意味わかんない。
「俺その時四歳とか五歳じゃん。覚えてると言うには微妙だよ。」
「それもそうか。色々話したいことあるし、とりあえず神社行くぞ。真夏に凍死とか、ネットニュースになるの嫌だろ。」




