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 ズズゥゥ………ン


「よし、眠ったな。あとは急いで帰るだけだ。ユウト、頼む。」

「じっくりドラゴン見てみたいけど………今は駄目だよな。ここ掴んで、行くよ!」


 ヒューを担いで山を駆け下りる。剣がなくなったのでさっきより走りやすい。


「やはり速いな………俺も練習すれば、これくらい速く走れるのだろうか。」

「どうだろ、魂同じでも体質とかは違うみたいだからわかんないなぁ。ヒューの身体でも軽い筋トレはしてたんだけど、全然筋肉つかなかったんだよね。期間が短すぎただけかな。」

「そうか………俺は大人しく魔術で頑張るとしよう。」


 うん、身体を張るのは俺に任せといて。運動神経の良さだけが取り柄だから。


「ユウト、他に怪我はないか?ズボンの裾も少し焦げているぞ。熱された空気で気管に炎症が起こることもある。戻ったら医者に診てもらうんだ、いいな。」

「なんか今日心配性じゃない?大丈夫だよ?」

「カズマに聞いてはいたが、お前が想像以上の無茶をするものだから。心配にもなる。」


 そこまで無茶してないと思うんだけどなぁ。ぴんぴんしてるじゃん。カズ兄はヒューに一体何を吹き込んだんだ。


「………あのさ、この世界来る前にカズ兄が俺について何て言ってたか、聞いていい?」

「む?………口止めされてはいるんだが………そう、だな。

 ユウトは痛覚が鈍くて自分の怪我には異常なほど無頓着だから、たまにとんでもない無茶をする。そういう時は生き物として必要な恐怖すら感じないようだ、無茶し過ぎないように見張っててくれ。とまぁこんな感じだ。

 実際に目の当たりにして、ようやく意味がわかった。カズマが心配するのも無理はない。」

「確かに痛覚はそうだけど………」


 両親の葬式以降、俺は何故か人より痛覚が鈍くなっている。感覚がないとかではないので怪我をしたらわかるけど、他の人よりは怪我に気づきにくいし、気づいていても痛みを無視して動けるって感じだ。場合によっては便利だったりする。

 なんだ、俺を閉め出して話すほどの内容じゃないじゃん。それについてはちゃんと自覚あるよ。


「初めてドラゴンと相対したら、普通は恐怖で固まるか慌てて逃げるかするんだぞ。ユウトの実力と胆力なら撹乱程度は問題ないと判断したが、まさか剣一本で正面からブレスを斬るとは思わんだろう。

 生き物として必要な恐怖心がなくなるというのはああいうことか、と妙に納得してしまった。」

「そう、なのかな。わかんないけど。」

「わからないのが問題なんだぞ?

 ………ユウトのその特性は知っていたのに、先程は声を荒げて悪かった。だが、痛覚が鈍いのは仕方ないとしても、もう少し自分を大事にしてほしい。見ているこちらの心臓がもたん。」


 俺の服を掴むヒューの手に力が入る。そんなに心配かけちゃったか。

 ………でも、今回のこれは仕方なかったと思うんだよなぁ。


 ヒューならあの距離でも魔術盾だけでブレスから全員を完全に守れたのかもしれない。でもああした方が確実だったし、またあの時と同じ状況になったらきっと俺は同じことすると思うんだ。俺は深く考えるより先に身体が動いてしまう、根っからの脳筋だから。


「えーと………その、心配して怒ってくれたんだし、あんなの声を荒げたうちに入らないよ。こっちこそ心配かけてごめん。できるだけ気を付けるようにする。」

「ああ、そうしてくれ。」

「………あ、侯爵様達が見えてきたよ。ヒュー、下りる?」

「そうだな、担がれての登場は嫌だ。」





 子ども達が身を寄せあってビスケットのような保存食をかじっている。そこまで弱ってはいないみたいで良かった。

 ………合流できたのはいいんだけど、何で侯爵様は地面に正座なんだろう。


 あ、侯爵令嬢が俺達に気づいて駆け寄ってきた。拐われてたわりには元気だな?


「ご無事で何よりですわ、お怪我はございませんか?」

「私は問題ありません。ありがとうございます。」


 ご令嬢は侯爵様と違ってヒューに好意的に見えるが、ヒューは彼女にも若干塩対応だ。………直接話すのはしばらく俺が引き受けようかな。


「えーと、エクセルシス侯爵令嬢?」

「あら、ジュリアで構いませんわよ。命の恩人ですもの。」

「ではジュリアさんと。あなた達は大丈夫ですか?レイラさんは首輪をつけられていましたけど。」

「子ども達は普通の縄でしたし、私につけられた呪具は手錠型でしたので隙を見て外しましたわ。縄抜けと手錠抜けは貴族の嗜みですのよ!」


 嗜みとは………?

 まぁ、自衛のために覚えたんだろうな。実際役に立ったわけだし。


「それで、その………侯爵様が何してるのかって聞いても大丈夫ですかね?」

「………私が今まで副室長殿にしていたことを話して、ジュリアに怒られていた所、だな………」

「そうですわ!私の恩人で、初恋の方なのですよ!感謝するべきお相手を危険と決めつけて、あまつさえ監視をつけていただなんて!」

「はつ、こい?」


 突然の爆弾発言に、侯爵様とヒューがぴしりと固まった。


 自らが投下した爆弾に気づいていないのか、ジュリアさんは頬を染めて興奮気味に話を続ける。


「あのパーティーの後すぐにお会いしたいとお願いしたのですが、ヒューバート様の魔力の制御が安定してからと止められ、その時は納得いたしましたわ。

 学園でならと思っていましたのに、課程が違って全く会えませんでしたし、ヒューバート様は飛び級で卒業なさってその後もどんどん遠くに行ってしまわれ………優秀でいらっしゃいますから仕方ないのかもしれませんけれど………」


 隣から小さく「居心地悪くて早く卒業したかっただけなんだが………」と聞こえた。そんな理由で飛び級したのかよ。


「ヒューバート様はあまり貴族の集まりなどに参加されませんし、出席なさるかもしれないパーティーの招待状は私が見る前にお父様が握り潰していたらしくて。」


 今度は侯爵様が何かぼそぼそと呟きながら震え出した。

 その後ろでは部下の三人が完全に気配を消している。


 子ども達は黙々とビスケットをかじり、ジュリアさんは周囲の様子に全く気づかず一人でとうとうと話し続けている。何この状況、俺どうしたらいいの。


「私、このままずっとお会いできないのかと思っておりましたの。こんな状況ではありますが、やっとお会いできて本当に嬉しく思っております。

 助けていただいたのはこれで二度になりましたわね。あの時とはまた違う、とても頼もしいお姿で………危険な状況だったというのに、思わず見とれてしまいましたわ。」


 ………ジュリアさん、そろそろヒューと侯爵様のライフが0になるからやめてあげて。


 俺は色恋沙汰には疎いけど、本気でヒューが好きなんだという念がひしひしと、かつびしばしと伝わってくる。念が強過ぎてヒューが逃げ出しそうだ。


「その、初恋の方だなんて勢いで口にしてしまいましたけれど、お会いしたかったのは直接あの時のお礼を申し上げたかったからですわ。

 本当にありがとうございました。あなたに守っていただけなければ、ガラスの破片できっと全身大怪我でしたわ。命を落としていたかもしれません。」


 そういえば、何から守ったのかは聞いてないな。ガラス?シャンデリア落ちたとか?


「その節は、私の未熟な魔法でご迷惑をおかけしました。

 ………あの事故以来、グラスタワーの高さが制限されたらしいですね。」

「テーブルの上に大きな脚立を立てて作っていらっしゃいましたもの、こちらに崩れてきた時は背筋が凍りましたわ。」

「グラスタワー?」

「ユウトの世界では確か、シャンパンタワーと呼ばれていたはずだ。」


 まさかのシャンパンタワー。「幸福を分かち合う」的な意味がある縁起物なのだそうだ。でもそんなに重ねて、誰がどうやってシャンパン注ぐの?

 ガラス製のグラスだと余計に危険だ。この世界のグラスってちょっと重たいし。


「………私は、あの件で怖がられているだろうからと、敢えてあなたと距離をおいていたのです。勘違いなのでしたら、失礼をいたしました。お許しください。」

「怖がるだなんて、とんでもございません!両手を広げて私の前に飛び込んできてくださったお姿、一生忘れませんわ!幼いながらもとても凛々しく、本当に素敵でしたのよ!

 ………当分許しませんからね、お父様。」

「すまなかった………二人とも。」


 先ほどまで一切目線を合わせなかったヒューと侯爵様が、今は困惑のあまりアイコンタクトを取りまくっている。

 時々首を縦に横にと動かしてはいるものの、ほぼ目線だけで会話が成り立っている様子。今までの気まずい距離感は何だったんだ、ものすごく通じ合ってるじゃんこの二人。


 少しの沈黙を挟んだ後、ヒューがおずおずと口を開いた。


「………あの、侯爵。えー………あの頃の私は魔力を制御できておりませんでしたので、監視は適切な判断です。ご息女に近づけたくないと思われるのも当然のことで、謝っていただく必要はありません。」

「………そんな風に、言ってくれるのか。

 実は最近、君の護衛の人数を減らそうという話が出ている。君も先日成人したことだ、魔力制御も自衛も十分できるだろう。君には数々の実績もある。

 他家の意見も聞かねばならんが、今よりは人数を減らせるはずだ。」

「そう、ですか………!」


 ヒューの表情はまだ固いままだが、声が少し弾んでいる気がする。長年の悩みが軽くなりそうなのだから、喜ばしい話だよな。


 ………成人した?先日?


「ヒュー、誕生日だったの?」

「ああ、七月上旬に十八になった。ファウストの身体にいたが。」

「そうだったんだ、おめでとう!やっぱり俺より年上なんだな。俺は来月末で十七。」

「一年以上差があるのか。せいぜい半年程度かと思っていた。」


 言ってくれればお祝いしたのに。


「お二人は異世界の同一人物だと伺いましたわ。年齢や誕生日は同じではありませんのね?」

「はい、結構違う所も多いですよ。

 ………あの、こんな場所で長々と立ち話もあれなので、安全な場所に移動してから話しませんか?人数増えてるから全員は転移出来ないよな、ヒュー。」

「ユウトがまた魔力をくれれば、二回に分けて運ぶぞ。」

「あぁ成程。いいよ、使って使って。」


 でもあれ、連発して大丈夫なのかな。結構大変そうだったけど。


「では副室長殿、先に子ども達を送ってくれ。」

「承知しました。………その前にジュリア嬢、こちらを。気分を落ち着かせる香が入っております。長く緊張状態だったでしょうから。」


 そう言ってヒューが差し出したのは、軍本部で絡まっていたペンダントの一つ。今回は絡まなかったらしい。

 ってか、それお香なの?


「まぁ、美しいヴィネグレットですわね。………ありがたく使わせていただきますわ。」

「え、ヴィネグレットってソースじゃないの?」

「そうなのか?俺が知るヴィネグレットはこういう、薬なんかを中に入れられるペンダントのことだぞ。最近の物は性能も様々でなかなか便利なんだ。」

「へー。」


 効能別で持ってるからそんなにペンダントが多いのか。そんなにじゃらじゃらさせて絡まるくらいなら、普通に薬箱でも持ってた方が便利だと思うけどな。


 お、ジュリアさん超良い笑顔。ヒューは単純に親切でやったっぽいけど、これは彼女の中でまたヒューの株が上がったんじゃないだろうか。


 子ども達がビスケットを食べ終わったのを確認し、ヒューの近くに集合させる。


「さぁあなた達、この方のそばに。安全な所へ連れて行ってくださいますわ。」

「………?」


 そういえばこの子達、さっきから一言も喋らないな。レイラさんみたいに呪具つけられてるわけでもなさそうなのに。

 まぁ、助かったとはいえまだ森の中だもんね。早く安全な場所で落ち着かせてあげよう。


「すぐに戻ります。」


 シュン………


 ヒューが子ども達を連れて消えると、ジュリアさんが俺に話しかけてきた。

 ジュリアさんに踏みつけられたらしい足を押さえて悶えている侯爵様は見なかったことにする。


「あなたがドラゴンに正面から立ち向かう姿を見て、ヒューバート様に守っていただいた時のことを思い出しましたわ。やはりヒューバート様と同じ、優しくて勇敢な魂をお持ちなのですわね。」

「………俺はわかりませんけど、ヒューは間違いなくいいやつだし、頼りになりますよ。」


 運動以外はね。


「ドラゴンのブレスを普通の剣で切り裂いたと聞いた。君は凄腕の剣士なのだな。

 協力に心から感謝する。娘を救ってもらった恩は、我が名誉にかけて必ずお返ししよう。」


 あ、侯爵様復活した。

 ヒューとの件を聞いていなければただの子煩悩なんだよな、この人。いつの間にか俺への警戒も解けてるみたいだ。


「いえいえ、俺はほぼ成り行きでついてきただけですし………そういえばジュリアさん、誘拐犯はどこ行ったんですか?」

「ドラゴンを見るや否や、私達をおいてさっさと逃げていきましたわ。

 ですが、そう簡単には逃がしません!何人かに魔術でマークをつけておきましたの!ただでは捕まりませんわよ!おーっほっほっほ!」


 お嬢様、渾身のどや顔。侯爵様も隣でさすが我が娘!と言わんばかりの誇らしげな表情だ。そっくりだな、この父娘。


 そうこうしているうちにまた目の前が光り、ヒューが戻ってきた。


「はぁっ、はぁ………よし。」

「キツそうだけど大丈夫か?ちょっと休む?」

「いい、帰ってから、本部で休む。皆さん、私のそばに。」


 ヒューにぴったり引っ付くジュリアさんと、鬼の形相でそれを見る侯爵様と、表情が消滅したヒューと侯爵様の部下達。失礼だけど、端から見てる分には面白い。


「………では、行きます。」

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