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 ヒューと一緒に、後ろには護衛を引き連れて、冒険者ギルドにやってきた。

 軍の本部は威圧感で入りづらかったが、ここはガラが悪そうで入りづらい。まだ太陽は高い位置にあるのに、入り口付近に酒瓶と酔っぱらいのおっさん数名が転がっている。

 あ、ヒューが魔法で酔っぱらい達を移動させた。


「ほら、行くぞユウト。」

「はーい。」





 中に入ると、そこにはマンガやゲームでよく見る賑やかな光景が広がっていた。


「うわぁ………!」

「こっちだ、きょろきょろしてないで早く来い。」


 いやぁ、これはお上りさん状態にならない方が無理でしょ。


 あれは受付のカウンターで、掲示板に貼ってある紙は依頼かな?端の方にはちょっとした酒場っぽい所もあって、冒険者達の豪快な笑い声が聞こえてくる。

 ちらほらと普通の人間以外の姿も見かけるな。二足歩行のトカゲっぽい人とか角がある人とか。ハロルドさん達に話は聞いていたけど、実際に見るのは初めてだ。


 ちなみに今、ヒューはフード付きマントで顔を隠して髪の色を魔法で薄く緑がかった銀に変えている。俺はストールを緩く巻いて顔の下半分を隠し、前髪を全て後ろに撫で付けてみた。服装も冒険者として目立たないものを見繕ってもらっているが………距離をとっているとはいえ、護衛がいたら変装しても無駄な気がする。


「明らかに貴族、という風体の人間が冒険者の仕事をやろうとしていると絡まれるから変装しているだけだ。バレても大して問題はない。」

「そうなんだ。で、どこ行けばいい?」

「あそこだ。代筆するから俺も行く。」


 受付の職員さん、意外と男性が多いんだな。うん、ちょっと残念とか思ってしまったことは否定しない。

 あ、でも俺達が呼ばれた受付の人は女性だ。かわいらしい感じではなく、垂れ目で色っぽい系のお姉さんだ。………目のやり場に困るから、カウンターにお胸を乗せるのはやめていただきたい。こちとら多感なお年頃なんだよ。


「ヒューゴ君!久しぶりじゃないの~。また特殊依頼受けてくれるのかしら、色々出てるわよぉ。」

「いや、今回はこいつの冒険者登録をしにきた。実力試験有りで頼む。」

「あらかわいい、弟君?じゃあこの紙に必要事項を記入と、誓約書に署名してねぇ。」


 誓約書?


「ヒュー、読めない。」

「依頼に失敗した時は違約金が発生するから支払うこと、依頼中に何かあっても自己責任だということの念押しだ。細かい規則も追々教えるが、人として最低限の常識を守っていれば基本的にほぼ問題はない。

 署名はここだが、書けなければ拇印で良かったはずだ。他国の文字でも問題ないはずだが、さすがにお前の国の文字はどうだかわからん。拇印にしておけ。」


 おぉ、冒険者っぽい。


「読み書き出来ない子?お姉さん代筆するわよぉ?」

「いい、俺がやる。主要武器は………とりあえず片手剣でいいか?」

「剣士ね。じゃあこれ持って奥へ進んで、前衛の試験は右の扉。今日は空いてるから、すぐに試験始まると思う。頑張ってねぇ~。」





 カウンターの横にある扉から地下へ続く階段を抜けると、円形のひらけた空間に出た。

 その真ん中に、兜で顔の上半分を覆った鎧の男が立っている。立ち姿だけでもかなり強そうだ。


「よお、前衛の実力試験受けるやつだな。受付で渡された紙を見せろ。

 お、誰かと思えば「孤高の黒」じゃねぇか。やっと前衛を任せる仲間を連れてきたのか?」

「そんな所だ。」


 ヒューにも中二な異名があったらしい。今のヒューは銀髪だから、黒一色の装備からつけられたのだろうか。


「お前さん運が悪かったなぁ、俺ぁ判定厳しいので有名なんだぜ?」

「やれるだけはやりますよ。何すればいいんですか?」

「俺と戦うだけだ。勝つ必要はねぇ、実力を見せろ。簡単だろ?

 武器はこっちで用意した、刃を潰してあるやつな。切れないだけで当たれば普通に痛いから、覚悟しろよ?」


 そう言って、にっと歯を見せて笑う。

 口調とか動作だけ見ると「THE・(おとこ)」って感じなんだけど、冒険者っていう割には身綺麗だな。何となくもっとワイルドな男臭い人をイメージしてた。


「えっと、お互い怪我しないように気をつけます。よろしくお願いします!」

「もっと威勢の良いこと言ってほしい所だが………まぁいいか。あそこから好きな武器選んでこい。マイナー武器も一通り揃えてあるぜ。」


 マイナー武器………おぉ本当だ、ショーテルとか実物初めて見た。こっちは鉄球?鎖がついてるからぶん回すんだよな、きっと。

 でっかい死神の鎌みたいなのもある。フィクションならともかく、鎌は基本的に草を刈る物で武器じゃないと思うんだ。鎖鎌術は興味本意でかじったことあるけど難しかったしメインは鎖分銅だし、あれは刀を持てない身分の人の武器だったらしいよ。


 閑話休題。


 とりあえずさっき申請した通り、普通の片手剣を手にとる。

 うわ何だこれ、軽っ。ちょっと軽過ぎて振りにくいな。金属じゃないのか?………こっちにしよ。


「主要武器は片手剣って書いてあるが、それでいいのか?盾か手甲は?」

「いりません。申請って変更出来ますかね?」

「ある程度実力の証明は必要だが、受付で変更可能だ。備考欄に主要武器以外の使える武器を書いてるやつも多い。」


 俺が選んだのは細めの両手剣。さっきは片手剣で申請したけど、よく考えたら片手だけで剣を扱ったことはない。二刀流する時はある意味片手だけど、あれはまた別だ。


「じゃ、俺も同じ武器を使うぞ。よーし、いつでもかかってこい!」

「では、よろしくお願いします!」


 ローレンさんにも強さを見せてこいって言われたし、出来るだけ頑張ろう。


 まずは、自分がこの距離で出せる最大の速度で近づき、剣先を打ち払う。

 試験官は少しだけ驚いた様子を見せたが、すぐに構え直す。続けて何度か打ち込むが、全てしっかり返された。判断も対応も早く、戦い馴れている感じがする。試験官してるくらいだから当たり前か。


 ガキンッ


「!」

「おっと………悪い、間違えた。」

「………力加減を、ですよね。」

「悪かったって、そうむくれるなよ。」


 むくれる?とんでもない。


 この人、とてつもなく強い。今は俺のレベルに合わせてくれてるだけで、本気出されたら絶対に勝てない。強さの底が見えないとはこういうことを言うのだろう。衝撃を逃がし切れなかった手にまだビリビリと痺れが残っている。


 心置きなく全力をぶつけていた、父さんとの稽古が思い出される。ヤバい、ちょっとわくわくしてきたかも。口の端が上がっていくのが自分でもわかる。


 俺のボルテージが上がったことに気がついたのか、試験官も笑みを返してきた。


「あいつが連れてくるだけあるな、若いのに良い腕だ!こっちからもいくぞ!」


 切り上げ、かな。俺より力は強いから、基本受けずに流して隙を狙う感じでいこう。かわすのは大得意だ………ストールがちょっと邪魔だけど。


 お、太刀筋変えてきた!ならこの位置で受けて、敢えて左をがら空きに。そこに来る一撃をかわせば死角に………っ!


 キィンッ


「………今のは後ろ取ったと思ったんですけどね。」

「あっぶね………ったく、冷や汗もんだぜ。ヒューゴ、こんなやつ一体どこで拾ってきたんだ。顔見る限りだと親戚なんだろうが………お前の兄貴といい、なんつう一族だ全く………」


 身分と本名は隠していても、ハロルドさんと兄弟という部分は隠していないらしい。まぁ、並んだら一発でバレそうな程度には似てるし、隠す意味も別にないよな。


「もう少しやりあってみたいが試験はこれで終わり、十分だ。文句無しに銀の三からスタートさせてやれるよ。お前なら金の上も夢じゃねぇ。」


 え?あ、終わり?


「あ、ありがとうございました………?」

「凄かったな、さすがだ!」

「ありがとう、ヒュー。でも銀の三って何?」

「ランクだ。さっきの紙に説明が………読めないんだったな。」


 ランクは下から銅、銀、金で、それぞれ五段階に分かれている。五が各ランクの一番下で、一が一番上。実力試験で一気に上がれるのは銀の三までだそうだ。

 試験を受けなければ銅の五から始まり、試験で実力を見せるか依頼を地道にこなすことでランクが上がっていく。


 銀の二以上は一定の依頼達成実績、金以上は筆記と実技の昇格試験が必要らしいが、そこまでしなくていいとヒューに言われた。金になるにはもう少し詳しく身元を明かす必要があるのと、緊急時に強制依頼というのが発生するから。ヒューもそうだが、銀で昇級を止めている人は多いらしい。


 まぁ、そもそも俺は読み書きできないから筆記試験が受けられないんだけどね。


「お前さん、どこぞの軍人か?身元に問題がなければここの軍に推薦したいんだが。」

「軍人ではないですけどそれはちょっと。

 試験官さんは軍の人なんですか?」

「一応な。ここのトップと旧友で、暇な時にこうして試験官やってんだよ。で、有望なやつがいたらスカウトもしてる。」


 暇なの?軍って今忙しいんじゃなかったっけ?


「こいつには俺を手伝ってもらうんだ、軍にはやらんぞ。」

「そうかい、そりゃ残念だ。

 俺はエドだ、気が向いたらいつでもここに連絡くれ。お前さん、名前は何て言った?」

「ユルギス、です。」


 折角だからと決めた偽名だ。何故かヒューがノリノリで名前を考えてくれたので、ありがたくもらった。ファウストと同じく、昔の偉人の名前らしい。

 日本人顔には似合わないかもしれないが、格好いいので俺は結構気に入っている。


「偽名か。まぁ、よろしくな。ほい、この紙を受付に渡せば終わりだ。お疲れさん。」


 秒でバレた。やっぱ似合わないかなぁ。





「すごいじゃなぁい、あのエドさんが満点つけるなんて!」


 うお、後ろがざわついた。有名なんだなエドさん。変に目立っちゃったかもしれない。


「はい、ギルドカード。あなたの魔力を記憶してるから、あなた専用のカードよぉ。片手剣は両手剣に変更ね?」


 縁が銀色に輝く小さめのカードだ。チェーンがついていて首にかけられるようになっている。俺は読めないが、名前と主要武器が書いてあるらしい。ランクは縁の色と、名前の横にある星の数で表すそうだ。


 俺がカードに触れるとふわっと冒険者ギルドのマークが浮かび上がった。他の人が触れてもこうはならないので、これが本人証明になる。

 あ、俺とヒューはお互いのカードに触れても反応するよ。魔力同じだからね。


「早速だけど、依頼受けてみなぁい?ふふ、良いの紹介するわよぉ?」

「いえ、今日はこれで。ありがとうございました。」

「あら残念。つれない子ねぇ。

 何かあったらいつでもお姉さんのトコいらっしゃい、サービスしちゃうわ~。」


 さっきから何でちょっといかがわしい言い方してくるんだ、このお姉さん。反応に困る。


 とにかくこれで、冒険者ユルギス誕生だ。仕事はそんなにする予定ないけど。

 もし依頼でお金を稼げたら、ウィリアムズ家に生活費として納めるつもりでいる。


「ユルギス、一旦研究室に戻ろう。室長に報告して、そのペンダントの微調整もしたいんだ。せめてあと二つは作りたい。」

「あぁ、翻訳の?確かに、ヒュー達の分も早めに作っておいた方が安心か。」


 ヒューと話しながらギルドの出入口に向かっていると、銀髪の剣士がつかつかと近づいてきた。

 これはテンプレ展開?絡まれる?………いや違う、よく見たらハロルドさんだ。そういえばギルドに調査を依頼しにいくって言ってたな。


「二人とも、どうしてここに?」

「ハワード、ユルギスの冒険者登録だ。」

「! ………室長はユルギス君を研究員と調査に行かせるつもりなのかな。軍は忙しいから、急ぎなら仕方ないか。」


 さすが、理解が早い。


 冒険者としてはハワードさんなのか。普段より高い位置できつめに髪を束ねていて、化粧をしているのか何となくつり目気味に見える。顔の左側には………刺青風のペイント?顔に目立つ特徴があると、顔立ちそのものは覚えられにくくなるって言うよね。


 いつもはきらきらした貴族男子だが、今は軽鎧姿でかなり印象が違う。胸元も少し開いていて、冒険者らしいワイルドな感じ。普段と違う格好良さだ。

 ………これ、イケメンにしか許されない類いのファッションだな。俺がやったら多分ただのイタい人になる。


「銀の三か。まぁ、君なら当然だな。実力だけなら既に金級だと思うよ。」

「ユルギスの対人戦闘は初めて見たが、本当に凄かった。まだ本気ではなかっただろう?」

「本気ではあったよ、足払いとか打撃を使わなかっただけ。」

「あれか、カズマが言ってた縛りプレイというやつか。」

「そういうつもりではなかったけど………ヒューに何を教えてんだ、カズ兄。」


 平気な顔で会話を続けてはいるが………周りの視線がぐさぐさと背中に突き刺さる。俺も目立ってるけど、ヒューとハロルドさんも結構有名みたいだ。


「僕はこれからリックに状況を伝えるつもりだが、君達は?」

「俺達は研究室に行く。冒険者登録を室長に報告して、翻訳ペンダントの微調整もするつもりだ。」

「わかった。ギルドも調査してくれることになったから、情報が来たら伝える。またね。」

「ああ。俺達も行こう。道が混んできたから歩くか。」


 それはありがたい。馬車っていうか、窓が大きく開けられない乗り物がどうも苦手なんだよな………

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