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………王様、冠かぶってないんだなぁ。
緊張が一周回って変に冷静になってきた。脳が思考を拒否している。ここまで来てしまったんだから、もうなるようになれ、だ。
「ほぉ………顔立ちが同じというのはこういうことか。うちの息子達よりよっぽど双子に見えるな。」
「陛下、少し彼らの緊張を解いて差し上げた方がよろしいかと思いますわ。近衛を下がらせてはいかがでしょう。三人とも、楽にしていただいてかまいませんよ。」
「ロデリックとフェリシアはまだなんですね。話始めるのはもう少し待つか。」
指示で近衛兵達が部屋を出ていくが、王族を守るためにいるんじゃないのか。俺達は何もしないけど、何かあったらどうするんだよ。
国王夫妻の話はちゃんとわかるので、ヒューの新作ペンダントはしっかり働いているようだ。さすがヒュー。天才。
「………さてと。よく来たねぇハロルド君、こうして会うのは随分久しぶりになるか。無事で何よりだよ。」
「ご無沙汰しております、陛下。その件についてはお騒がせして申し訳ありません。王妃陛下もお変わりありませんか?」
「ええ。ウィリアムズ領でも色々と起こっているみたいだけれど、ご両親はお元気でいらっしゃるの?」
部屋にいるのが俺達だけになると、国王夫妻の話し方が一気に砕けた感じになった。ハロルドさんも敬語ではあるものの、親しげな様子で話している。
………うーん、どう見ても、コスプレした榊原一家。今の俺みたいなコスプレ感皆無の、プロがメイクアップしたような仕上がりだけど。
煌めく黒髪に紫の瞳の聡馬おじさんと、金に近い茶髪に青い瞳の静流さんだ。
二人ともリックさんみたいなキラキラ系の金髪ではないんだな。隔世遺伝とか?それとも国王様、奥さんが複数いたりする?
「陛下、私の弟を紹介させてください。」
「お初に、お目にかかります、ヒューバート・ウィリアムズです。こ、この度は、貴重なお時間をいただき………」
「硬くならなくていい、非公式の場だ。一応、今後公の場で会う時は初めて話すという体でこちらから声をかけるよ。
それで、君がハロルド君の弟ということはその隣が………」
………あ、俺か。
「はい、日本という国から参りました、刀伎結斗と申します。刀伎が家名で結斗が名前です。………えー、この世界での礼儀にはまだ不慣れですので、」
「事情は聞いているよ、今のままで構わない。
フレッドからはとても重要な話があるだとだけ聞いているんだが。」
そんなざっくりした理由で来てくれたの?
あとフレッドって誰だ。って、もしかしなくてもリックさんのことだよな。
「あぁ、ユウトは俺の本名知らないよな。
改めて、テルミニシア王国第二王子、フレデリックだ。親しいやつにはフレッドって呼ばれてる。リックって名前とあの時の格好は、平民として街に出る時用な。」
「私達も名乗らないとね。私はフローラ、王妃です。」
「私はリチャードだ。国王をしている。息子と娘があと一人ずついるから、来たら紹介し………」
こんこん、とノックが聞こえた。
「父上、ロデリックとフェリシアが参りました。何があったんですか………ハル?」
「ちょうど良かった、入りなさい。紹介しよう。第一王子で王太子のロデリックと、第一王女のフェリシアだ。ロデリックとフレデリックは双子だよ。見た目も性格もあまり似ていないがね。
二人も話は聞いているだろう。彼が魔導研究室副室長殿の、異世界の同一人物だそうだ。」
うーん、知り合いの同一人物は国王夫妻だけみたいだな。王子達の顔には見覚えがないし、王女様の顔は扇で隠されていてあまり見えない。
「あぁ、話は聞かせてもらっていますよ。
ようこそ、テルミニシアへ。私はロデリック、そこにいるフレデリックの双子の兄です。」
「フェリシアですわ。初めまして、異世界の方。」
「刀伎結斗と申します、よろしくお願いします。」
ロデリック王子は国王陛下に似た黒髪だが、少し赤みがかって見える不思議な色だ。瞳は国王陛下やリックさんと同じ綺麗な紫で、優しげな雰囲気と威厳を兼ね備えた佇まい。
見た目的な意味でも性格的な意味でも、フレデリック王子と双子とはとても思えない。似てるのは瞳の色くらいじゃないか?
扇の奥からちらりと見えるフェリシア王女は、ふわりとした薄い金の髪だ。デビュタント前の女性王族は、家族以外に顔をあまり見せないようにするという慣習があるらしい。デビュタントって何?
「ロッド、こちらが私の弟のヒューだよ。」
「ウィリアムズ家次男、ヒューバートと、申します。」
「兄君からいつも話を聞いていますよ。折角ですから、この機会に親しくなりたいものです。」
「み、身に余るお言葉、大変光栄に存じます。」
………実際すごく光栄なことなんだろうけど、ヒューが緊張でがくがくしてるからむしろ可哀想なまである。
「二人とも、突然呼び出してすまなかった。だが、一緒に聞いてほしい重要な話があるそうでな。
さて、全員揃ったことだし、話を始めてくれ。」
王家の人が俺達の話のために勢揃い、余計に緊張が………
「は、はいっ、ごしぇつめいさせていたでゃきま、ぐっ………」
あ、ヒューが盛大に噛んだ。
一通り説明が終わり、話している間にヒューの過緊張も落ち着き、今は話し合いタイム………のはずなのだが。
「トキ様、異世界の私はどのような方ですか?何をしていらっしゃるのか気になりますわ。」
「同一人物をご存知なのは、お父様とお母様だけですの?私達ならきっと異世界でも仲良しな家族ですよね!」
俺は今、軍の配置の話についていけなくなった王妃様と王女様に質問攻めにされている。
国王陛下から直々に、
「必要な事は後程君にも伝えさせるから、今はフローラ達の話し相手をしてくれないか。二人とも好奇心旺盛で、こうなると止まらないんだ。」
と言われてしまった。
王妃様と王女様への、少し困ったような優しい眼差しが聡馬おじさんによく似ている。静流さんとカズ兄に振り回されている時によくこんな顔するんだよな。
俺に国の情勢とか機密を聞かせたくないっていうのもあるだろうけどね。軍の話なんてわかんないし、そっちはヒューとハロルドさんにお任せします。
「俺の世界の王妃様は、神官のような仕事をしてます。神社という神殿のような所での仕事と、出張でお祓いとかやってるそうです。」
「異世界の私、ではなくお兄様達はご存知ありませんの?」
「えっと………家族構成が同じとは限らないようなんです。国王様と王妃様は俺の世界でもご夫婦ですけど、その息子は一人ですしハロルドさんの同一人物です。王子様方と王女様の同一人物も、きっとどこかにいると思いますよ。」
「まぁ、そうなのですか?異世界では私、お母様の娘ではないのですね………」
「親子でなくても、仲の良い友人かもしれませんよ。それにしても、親子は顔立ちが似るものでしょうに不思議ですね。」
それは俺もずっと不思議です。
ヒューと俺の顔は同じに見えるのに、ちゃんとそれぞれの両親にも似ている。ヒューとハロルドさんは並ぶとよく似た兄弟だが、俺とカズ兄は少なくとも顔立ちで兄弟と思われたことはない。
自分で言ってて意味不明だが、本当にそうとしか言い様がないのだ。
「私も行ってみたいですけれど、世界を渡るのは危険なのですよね。違う世界にはどんな服があるのでしょうか。」
「私達では想像も出来ないようなデザインのドレスがあるかもしれませんね。フェリシアは服や装飾品を見るのが大好きですもの、興味が湧くのもわかります。」
「………すみません、俺はあまり女性の服はわかりませんし、俺の国では女性でもドレスを着る機会なんて普通はほとんどないと思います。存在はしますけど。」
「「そうなのですか!?」」
おお、息ぴったり。
「ではどのような服があるのですか?私達はドレス以外を身につけることがあまりないものですから。」
「お母様、貴族がいないのでしたら、城下の民達が着ているような服なのではありませんか?
最近街では、男性がつけるような少し無骨な物を女性が敢えて一つ身に付けるのが流行っていると聞きました!はずしてく、と言うのです!」
それはもしかして、クラスの女子が言っていた「外しテク」のことだろうか。
二人は俺の存在を忘れて盛り上がり出したが、本当に仲良しな親子だな。見ているこっちまでほのぼのする。王妃様と静流さんのキャラが違い過ぎて違和感はあるけど。
「よし、あとは軍の総司令と騎士団長、魔導研究室長にも伝えてもう少し具体的な案をつめるか。魔導士団長も一度呼び戻さねば………フローラ、君にも出席してほしい。フローラ?」
「! ごめんなさい、すっかりお話に夢中になっていたわ。
トキ様、興味深いお話をたくさん聞かせていただいて、楽しかったです。またお話してくださいます?」
「はい、是非。」
性格や所作が違っても、やはり静流さんの同一人物。異世界の話を興味津々でとても楽しそうに聞いてくれた。反応が良いから俺も楽しかったです。
「話し合いには、異世界の存在をよく知っている君達にも参加してもらいたい。特にウィリアムズ副室長は、魔結晶とやらについて話してほしい。
トキ君は、どの程度の期間協力してもらえるのだろうか。いずれは帰るのだろう?」
「今は学校の夏期休暇なので、その間はできるだけ。休みはあと半月ほどあります。」
こういう時、暦がほぼ同じなのはわかりやすくて助かる。
「でも学校くらい多少サボったって死なないし、世界の方が大事ですから出来るだけのことはやってから帰ります。
ヒューとハロルドさんにはずっと助けてもらってばかりなので、今度は俺が二人の役に立ちたいたいんです。」
「………。」
ヒュー、何で半目でこっち見てくんの?俺何か変なこと言った?
「君はまだ学生なのか。わかった、それまでに君が安心して帰れるように尽力する。
それと、我々が国として君に何かを要請する予定はないから、君は君の世界を守ることを優先しなさい。」
え?
「君は副室長との縁があってここに来てくれたが、この世界の問題はなるべくここの人間が解決するべきだからね。
今回の件は特殊だから、君の持つ情報や知識を貸してもらうことにはなるだろう。だが、君の帰る場所はこの国ではないのだから、何かあったら自分の世界を優先するんだよ。」
「あ………ありがとうございます。」
何だろう。気遣いの細やかさが総馬おじさんだなぁと思う反面、何だかちょっと寂しい感じがした。
おじさんも気遣いはしてくれるけど、普段から俺に色々頼み事もしてくれるからかな。気遣いの比重が大きくなって、他人感が増してるのかもしれない。実際初対面だし。
「………まぁ俺や兄上がいるとはいえ、世界の接近や異世界の知識についてはどうしてもユウトに頼る部分が出てくるだろうがな。」
「そうだね。双方の世界を守るために、できる範囲で君の力を貸してほしい。国王ではなく、この世界に住む一人の人間としてお願いするよ。」
「勿論です、そのために来たんですから。頑張ります!」
「ありがとう。個人的な協力は惜しまないよ。」
かなり荒唐無稽な話をした自覚はあるが、しっかりと最後まで話を聞いてくれた。
俺は途中から話し合いの内容聞いてないけど、とても熱心に議論していたみたいだし悪いようにはならないと思う。
チリン
「ニール、彼らを家まで送ってくれ。」
「承知致しました。皆様、どうぞこちらへ。」
扉のすぐ外に控えていたらしい侍従のような男性が、フレデリック王子にベルで呼ばれて部屋に入って来た。
あれ、この人どこかで………?
「………ヨシチカ?」
「そうだ、義親さんだ!雰囲気違い過ぎて一瞬わかんなかった!!………あー、その、騒いですみません………」
「私が何か?………その反応、ハロルド様は何かご存知ですね。」
ほんとだ。ハロルドさんがいつもの整った笑顔じゃなくて、イタズラに成功した子どものような少しワルい笑みを浮かべている。
「私が行った方の異世界で君の同一人物に会ったんだよ。素直じゃなくて少しひねくれている所はあるけれど、強くて仲間想いの優しい人だ。ニールもそうだよね。」
「………私が魂からひねくれているとでも?」
わぁ、むすっとした顔だと完全に義親さんだ。西洋顔だし少し癖のある短髪だし、ちょっと脳がバグりそうだけど。
「どうして悪い所にだけ反応するんだ君は、強くて優しいとも言ったじゃないか。
そうだ、その世界のライリーとも会ったよ。テツ君っていうんだ。ヨシチカ君とテツ君もとても良い相棒だったから、君達二人は魂からして相性が良いんじゃないかな。
ヒュー、ユウト君、今度ライリーにも会ってみるかい?王城で庭師をしているよ。」
哲さんもいるんだ!めっちゃ会ってみたいです。
話し合いの日取りが決まれば連絡するからそれまで待つように、とのことなので、今日はもうゆっくり休ませてもらおうと思う。
こっちでは結構色々あったが、ファウストの世界はどうなっているだろうか。




