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 しばらく扉の前で膝を抱えてうじうじしていると、かちりと鍵が開く音がした。あ、聡馬おじさん。


「ごめんね結斗君、司馬がもう入っていいって………ずっとそこにしゃがんでたの?」


 うん、ちょっと足痺れた。


 おじさんの後ろからカズ兄も出てくる。

 ………初めて会った頃のハロルドさんを彷彿させる、整った笑顔。カズ兄のこれは作り笑いだ。


「悪いな、もう話は終わったから。な、ヒュー。」

「………ユウト、わがままなのはわかっているが、一緒に来てもらえるだろうか。あっちにいる間は必ず俺が守るから。」


 何の話をしてたのかすっごい気になるんだけど、聞いていいことならそもそも閉め出したりしないよな。

 こういう時のカズ兄は、問い詰めても絶対に口を割らない。だから、俺も作り笑いに気づいていないふりをする。


 ………でもやっぱり、気になるものは気になるな。カズ兄がいない所でヒューに聞いてみよ。榊原夫妻はカズ兄と同意見っぽいから、聞いてもはぐらかされそう。


「最初に行くって言ったの俺の方じゃん、勿論行くよ。

 あ、夏休み終わるまでには帰るつもりだからそこはよろしく。あと半月ちょいなら大丈夫だよ。」

「わかった。………ありがとう、ユウト。」


 そう言って、ヒューは申し訳なさを滲ませながら薄く微笑む。


 物知りだし便利な魔法を色々使ってくれるから、最近は何かとヒューに頼りがちだった気がする。恩返しってほどじゃないけど、俺で役に立てるならできることはしたいんだ。

 でも、俺がそれを理由について行くと言ったらきっとヒューは「大したことしてない」って断るような気がするから。


「俺が行きたいんだってば。」

「それでもだ。」

「じゃあ………宿題全部やってくれたお礼ってことで。よし、準備してくる!」


 何持って行こうかなー。スマホ………は通信できないし壊れたらショックだし、最近ずっと使ってなくて必要性感じないからおいていこう。着替えはどうしよ………あんまり大荷物にはできないよな………


「………ヒュー、結斗のこと頼んだからな。」

「ああ。向こうにもユウトを知る者はいるし、俺も気をつけておく。俺の全力を持って守ると誓おう。」

「本人には俺が言ってたこと言うなよ。前にうっかり口滑らせた時はそんなことない!って妙に意固地になった上に、なんか俺や奏江さん達からも距離をおくようになったからな。」

「わかった。………兄上には話していいだろうか。」

「ファウストの世界で話してあるから、あいつはもう知ってる。よろしくな。」





「二人共、気をつけて。危なくなったらすぐ帰ってくるんだよ。ヒュー君もよければまた会いに来てね。そっちの世界の僕達とも仲良くしてくれると嬉しいな。」

「は、はい。国王夫妻と関わることは少ないと思いますが。」

「そうか、僕そっちだと王様なんだったね。想像つかないなぁ。」


 おじさんは王様に向いてると思うよ、俺。王妃様してる静流さんの方が想像つかない。


「えー………宮司殿、結晶のことはよろしくお願いいたします。ユウトに書いてもらった説明書に、わかっていることは大抵書いたはずです。俺も様子を見に来るようにしますので。」

「直接説明もしてもらったし、だーいじょーぶだって。魔力異常での体調不良者のこともこっちで調べてみるから。お姉さんにどーんと任しときなさい!」

「いや、母さんはもうお姉さん名乗れる歳じゃな………」

「何か言ったかなぁ~司馬君~」

「痛い痛い痛い痛い耳取れる!!」


 ほんと、絵に描いたような仲良し家族だよなぁ。若干暴力的な部分があることに目を瞑れば。


「いってぇ………結斗、あんまり無茶はすんなよ。ヒューもな。向こうに長くいることになっても、時々は帰って来て様子知らせろ。」

「了解。大丈夫だよ、世界の狭間とか異世界行くのも慣れてきたし。」

「学校始まる日になっても、どうしても戻れなさそうなら僕達に言って。結斗君は高校生だし、やりようはあるから。」

「そうならないようにはするけどね。………それじゃ、行ってきます!」

「お世話になりました。」





 結晶を抱えたヒューと視線を合わせ、同時に飛び込む。すぐにシキが俺達を見つけて近づいてきた。


「おーい、なんで二人なの?ユウト君はお見送り?」

「俺も一緒に行くことにしたんだ。あそこは異世界の存在よく知られてるみたいだし、普通に行っても大丈夫だと思う。」

「うーん、まぁ日本は放っといても平気だろうけど………ヒューバート君の世界は今ちょっと危ないかもだよ?

 とりあえず魔性生物………違った、魔物には気をつけてね。いってらっしゃ~い。」


 そんなに危ないの?と聞こうとしたが、その前にシキは計器の所へ戻ってしまった。

 ま、何とかなるかな。本当に深刻な事態ならもっとちゃんと話してくれるだろうし。





 ザァァァ………


 ヒューの世界に飛び込むと、まさかの大雨。一瞬でずぶ濡れになった。傘かレインコートを持ってこないといけなかったか、盲点だったな。

 うわ、ヒューが日本の古典的な幽霊みたいになってる。井戸の中から這い出して来そうだ。前髪上げて、怖いから。


「む………囲まれているようだな。ユウト、少し下がれ。」

「魔物なら俺も戦うよ?」

「いや、おそらくファウストが言っていた警備兵だ。」


 がさがさと物音がする方を見ると、空間の穴を囲んでいる森の中から見覚えのある人物がこちらに走ってきた。


「ーーー!?ーーーーーー、ーーーー?」

「あ、アールシュだ!」

「知り合いか?ユウト。」

「一応ヒューの知り合いってことになるんだけど。討伐で組んだ前衛隊の隊長だよ。ファウストがヒューとしてここにいた時の記憶見ればもっと詳しくわかると思う。でもなんでここにいるんだろ。」

「ーーーーーーーーーー。ーーーーー!」


 アールシュが何か言うと、周りから兵士が出てきて囲まれた。ヒュー、通訳お願いします。


「………ふむ。俺については連絡があったようだが、ユウトはかなり怪しまれている。予想はしていたから、ここは俺に任せてくれ。

 あいつが責任者か………知り合いのふりをしないとな。」


 そう言ってヒューはアールシュと話を始めた。ヒューが俺から離れたので、兵士さん達が俺にじりじりと武器を向けたままにじり寄ってくる。何もしませんって。

 あれ、不良Cがいる。俺は徒手格闘しか見る機会なかったけど、槍の構えは結構しっかりしてるな。格好いいじゃん。


「ーーー、こうか?………おい、俺の言うことがわかるか。わかるなら右手を上げてみろ。」


 アールシュがヒューの翻訳ペンダントをつまんで俺に話しかけてきた。相変わらずの無表情だが、眉間のしわの深さからして、俺の正体やペンダントの効果を訝しんでいる様子。


 はい、右手。これでいい?


「これは………本当に通じているのか?こんなに小さい物で異世界の言葉がわかるなど、到底信じられないが。」

「通じてますよ。はじめまして、俺は刀伎結斗です。俺の言葉も通じてますよね?同じ物を着けてるんで。」

「喋っ………!いや、喋るだけなら普通か。だが、異国どころか異界の者とここまで滑らかな会話が………これはすごい発明だぞ、ヒュー。」


 ヒューは天才だからね!


「曾祖父は言葉で苦労したと聞いたが………

 おい、ヒューに軽く話は聞いた。念のため、検問所へ同行を願う。仮の身分証をそこで………?

 総員、構えろ。何か来る。」


 どどどどどどどど


 何かの足音が近づいてくる。俺も構えた方がいい?


「はぁ………大丈夫だユウト、構えなくていい。」

「?」


 ヒューの台詞が終わると同時に、茂みから白銀の塊が飛び出してきた。


「おかえり、ヒュー!向こうの用事はもう片付いたのかい?」

「いくら何でも来るのが早すぎませんか、兄上………」


 フード付きのマントをなびかせ登場したハロルドさんが、白馬からひらりと飛び降りる。

 相変わらず何しても絵になるなこの人。俺達とか兵士さん達は濡れ鼠って感じなのに、ハロルドさんにかかれば雨の雫すら輝くエフェクトに見えてくる。世界って不公平だ。


 俺達を囲んでいた兵士達は、慌てて道を開きながらも呆然としている。何事?って感じですよね。


「おや、ユウト君じゃないか!何故君までこちらに?」

「ちょっとこっちで用事がありまして。

 昨日はヒューを連れて行っちゃってすみません、大丈夫でしたか?」

「君が連れて行ったわけじゃないし、ヒューが署名と日付を入れた手紙を私に残していたから何とかなったよ。よく来たね。ヒューは後で説教だよ。」

「………はい、甘んじて受けます。」


 俺とハロルドさんが親しげに話し出したのを見て、周りの兵士達から向けられていた警戒の目が少し緩んだ。ほっ。


「ウィリアムズ様、馬で突っ込んでくるのはやめてください危険です。」

「いやぁ、すまない。ヒューが帰ってきた気がして。ユウト君の、こちらの彼の身元は私が保証しよう。剣を収めてくれないか。」

「承知しました。………総員警戒解除、持ち場に戻れ。」


 俺に剣を向けていた兵士さん達が一礼して下がっていく。多分逃げることだけなら出来たけど、武器持った大人数に囲まれるのは普通に怖い。

 ついでにハロルドさんのヒューレーダーも怖い。何でわかるんだよ、今来たばっかりだぞ。


「ヒュー、ユウト君、とりあえずこれを被って。風邪を引いてしまうよ。」

「ありがとうございます。あの、またご協力いただきたいことがあるんですけど。」

「ああ、うちで話を聞こう。

 その荷物は?ものすごい密度の魔力を感じるんだけど、今度は一体何を拾ってきたんだい、ヒュー。」


 あ、警戒されてたのはこの結晶も原因か。この世界の人達は全員この独特な魔力を感じとれるはずだからな。

 空間の穴から出てきた正体不明の人間が、変な魔力を持った謎の物体を持っている。うん、そりゃ武器構えるわ。


「この結晶をここに置きたいんです。その説明を手伝うのに俺もついてきました。」

「日本に帰すまでユウトは俺が責任を持って守ると、カズマと約束しました。とりあえずこの結晶はここに置いて、周りに結界を張って行きます。

 隊長殿、一先ず五重に結界を張っていくが、この結晶の影響で魔物が増えるかもしれないから気をつけてくれ。あと、穴にはあまり近づかないように。」

「………お前のことだから考えがあるのだろう。承知した。」


 結晶で魔物が増えるの?魔力が乱れるとか言ってたからその関係かな。シキも魔物には気をつけてとか言ってたし。


「アールシュ君、必要な情報はまとめてヒューの名前で軍に送るよ。風邪を引かないようにね。」

「お気遣いありがとうございます。ではお気をつけて。」


 馬が一匹しかいないから歩きで帰るのかと思ったが、この白馬は魔物だから三人余裕で乗れるそうだ。二人ならともかく三人で乗るのはさすがに初めてだよ。

 大きさは普通の馬とそう変わらないし、雨で濡れてるから滑り落ちそうだ。俺、降りて横を走った方が良かったかな。





 大きな城壁のようなものにかなり近づいてきた。そういえば、王都を外から見るのは初めてだ。今更だけどすごく大きい都市だったんだなぁ、ここ。


「貴族用の入り口が早いから、そこから入ろう。君の身元は私が保証する。もしユウト君が何か悪いことをしたら私の責任になってしまうからやめてくれよ?」

「何もしませんよ………あ、正当防衛は大丈夫ですか?」

「証明できれば大丈夫だけど、そうなる前に私が制圧するから心配いらない。

 おや、誰も並んでいないみたいだ。すぐに入れそうだね。」


 大きな馬車二台くらいなら余裕で通れそうな、大きな門の前にやって来た。

 門番らしき兵士さんが近づいてくる。


「ーーーーーー、ーーーーーー?」

「やあ、いつもご苦労様。弟が帰ってきたんだ。もう一人はお察しの通り、弟の異世界の同一人物だよ。あぁ、本当にそっくりだよね。初めて会った時は私も驚いた。」


 兵士さんの言葉はわからないが、困惑しているのだけはわかる。俺を通していいのか判断つかない、とかかな。今の俺、身分証とかないし。


 ハロルドさんが兵士さんにしばらく何か話すと、兵士の詰所っぽい所から何人か走って行くのが見えた。

 対応してくれていた人も俺達に道をあけてくれる。通っていいの?


「魔導研究室長と王子殿下に伝言を頼んできた。早くうちに帰ろう。夏とはいえ、少し寒くなってきたよ。」

「俺も通って大丈夫なんですか?」

「私が保証人になったし、ユウト君が見るからにヒューと同じ顔だからあっさり通してくれたよ。

 それに、王都は元々人の出入りが激しいから検問は緩めなんだ。特定の重い犯罪歴と、危険物の持ち込みがなければ大丈夫。」


 そんなんで良いのか、門番よ。

 でも、正直今は助かる。ずぶ濡れだし。


 大雨で人通りの少ない街道を駆け抜けると、見覚えのある屋敷が見えてきた。俺の家じゃないけど、知っている所だからやっぱり少し安心する。


 ステラ、元気にしてるかな。

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