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プロローグから続きの未投稿部分まで改めて読み返し、設定メモを掘り返し、その先書こうとしていた展開を薄らぼんやりと思い出してきました。ひとまず、今存在している未投稿部分までは校正しながら少しずつ出してみようと思います。
完結まで書ききる自信は、正直ありません。できるだけ頑張りますが、途中で作者が失踪する可能性が極めて高いことと、作者がかなりの気分屋であり遅筆極まりないことを踏まえた上でここから先はご覧くださいますよう、お願い申し上げます。
早朝、カズ兄が目を覚ます前に布団を抜け出した。秋次さんにもらったトーテムポール型メモクリップにカズ兄宛ての短い手紙を残し、布団から落ちていた寝ぼけ眼のヒューを引きずるようにして世界の狭間へ向かう。
「やっほー!おはよーお二人さん!」
朝っぱらからテンション高いな、シキ。
「早速だけどちゃちゃっと説明するね。渡したいのはこれ。じゃじゃーん、魔結晶の塊~。
ざっくり言うと、これを置いた所には周りの魔力が集まるの。世界の壁が薄い所におけば、空間の穴がそこに固定出来るよ。これには魔力の大きな乱れを安定させる作用もあるから、置いとけば異常は徐々にましになるはず。」
うん、よくわからん。
「その代わり、結晶の近くは逆に魔力が集まって乱れちゃうから取り扱い注意だよ。ヒューバート君なら注意事項言わなくてもわかるよね?
これで森の調査はいらなくなるけど、これの周りは囲っとかないとこの前みたいに吸い込まれるかもだから気をつけて。」
「………テルミニシアの辺境近くは既にかなり危ういという話だったな。だが悪影響が掴みきれん。」
「ヒューバート君の世界なら結界である程度影響を調整できるはずだけど、危険な要素もあるっちゃあるしねぇ。やっぱりやめとく?一応、君には小さめのやつ渡したんだけど。」
「むぅ………ひとまず持って行ってみよう。調査をしながら少しずつ結界を緩めればいい。」
「悪影響が大きそうなら、空間の穴に放り込んじゃって。私が回収するから。」
俺とヒューは一つずつ、両腕で抱えられるくらいの大きさの黒い結晶を受け取った。触れている所がちりちりする程の魔力を感じる。見た目よりずっしりしてるな………ずっと触ってたらぞわぞわしてきた。
これで森の調査がいらなくなるのは何で?………ヒューが納得したように頷いているからあとで話を聞かせてもらおう。シキの説明は、長くなればなるほど話が逸れやすくなる。
「君達の世界に置けば空間の穴が固定されて、君達が二つの世界をいつでも行き来できるようになるよ~。」
「ユウトの世界ではあまり強い結界魔法を使えんぞ。」
「その分結晶の影響も弱いから、あそこでは結界張らなくてもいいと思うな。危ないのは空間の穴にまた吸い込まれるかもってことくらいだと思うけど、他にも何か不都合があったらとりあえず穴に投げ込んで。」
日本では想定される悪影響は少ないが、その分魔力の異常が落ち着くのにも時間がかかるかもしれないとのことだ。良くも悪くも、魔力の影響を受けづらい世界だから。
「ファウストの世界には置かないのか?」
「まだいくつかあるからいずれ渡すけど、あっちはまだごたごたしてるっぽいからまた後日。
さ、来たばっかりだけど帰って帰って。私は一応ここで世界同士の距離を測るよ。話はファウスト君交えてまた今夜ね!」
昨日からシキの周りに浮かんでいるモニターや球体のようなものは、測定装置だったらしい。モニタリングしてくれるつもりのようだ。
「シキ、ヒューの世界にこれ置くの、急いだ方がいい?」
「んー、でっかい魔法生物とかが暴れる前には置きたいねぇ。今すぐってほどじゃないと思うけどなんで?」
「わかった!ありがとう!」
「ねぇなんでー?」
「一応聞いただけ!」
ヒューが今すぐにでも帰らないといけないのかどうかを確認しておきたかっただけだ。まだ心の準備ができてないかもしれないからね。
シキに手を振り、ヒューと日本に戻ってきた。
「む、やはりそうか。森に漂う魔力が寄って来ている。
ここの場合、これを置いておけば森全体の魔力がこの結晶に集まり、空間の穴はここにしか開かなくなるからそこさえ管理しておけばよくなる、ということだ。」
「ほんとだ、穴が大きくなって輪郭もはっきりしてる。森の調査いらなくなるってそういうことか。
早く静流さん達にも話して、何かで囲ってもらおう。」
「おーい、二人して朝からどこ行ってんだ、よ、ふあぁ。」
あ、カズ兄。ちゃんと行き先と行く理由を書いた手紙残しただろ。最後まで読んでないな?
っていうか、なんで寝間着のままで来た。また消えたと思ったのかもしれないけど、枕はいらないだろ。
「おはよう、カズ兄。一応離れててくれる?また吸い込まれたら困るだろ。」
「りょーかい。………なんか変な感じするなその石、呪物みたいだ。これ魔力か?」
「カズマも感知が上手くなったな。その通りだぞ。ひとまずこれはここに置いて、帰りながら話そう。」
じゃあこの辺りに、よいしょっと………いや目立つなこの石。黒い輝きが不自然だ。
「これ、剥き出しはさすがにまずいかな。一旦うちに持って帰る?」
「いや、簡単に隠して行こう。神殿、じゃなくて何だったか………宮司殿が普段いらっしゃる………いかん、ど忘れした………」
「神社ね。」
「それだ。神社や家に持って行く方が危険だからな。
目立たなくするだけなら魔法はいらん、野営の痕跡を消す方法を応用すれば………」
そう言いながら、ヒューは手際良く枝や小石を結晶の周りに配置し始める。
最終的に、二つの結晶はあたかも大昔からそこにあったかのように風景に馴染んでいた。すげぇ、何そのスキル。
家に戻りながらカズ兄に軽く事情を説明していると、ジャージ姿の聡馬おじさんが後ろから走ってきた。ジョギングにしてはペースが速すぎないかと思っていると、更にスピードを上げながらコースを外れて真っ直ぐこちらに向かってくる。
「はぁっ、こんな早朝から、そんな格好でどこに行くんだ、はぁ、また消える気かと思ったじゃないか、はぁっ、げほげほ」
「ちょ、大丈夫かよ。息切れひどいぞ親父、歳か?」
「君達見つけて全速力で走ったからだろう!?歳のこと言うくらいなら、心配させるようなことをしないでくれよ!」
返す言葉もございません。
「………はぁ、もう大声出す元気もない。それで、こんな朝早くから何してたの?」
「あー………何回も説明するの手間だし、話は静流さんもいる時にしていい?森の調査、もういらないかも。」
「わかった、じゃあ静流が帰って来たら………今日の静流はどこまで走りに行ったのかな。帰ってくる時間が日によってかなり違うんだよね。遅くないといいけど。」
静流さんらしいな………
とりあえず俺達は早急に帰ろう。寝間着で枕持ってるカズ兄が周りの人に変な目で見られてるから。
「世界の衝突云々はどうしようもないとして………じゃあ、私達はその石を守る社みたいなのを建てればいいわけか。」
「いや、ある程度の大きさは必要だろうけど、知らない人があまり中に興味を持たない外見の方が良いと思う。
結界とか封印を設置するスペースを考えると、四方どれくらい必要?」
「んー、複合型か………後で図に起こしてみるー。」
悪霊祓いや封印などの術は静流さんの方が得意らしいが、聡馬おじさんは現実的な問題を提起して対応してくれる。この二人が揃うとすごく頼もしい。
「頼んでおいてだけど、これかなりお金かかるよね………」
「あぁ、それは気にしなくていいよ。元々はヒュー君に森を調査してもらって、穴があきやすい所全部に何か建てて穴隠すつもりだったんだから。一ヶ所に絞ってくれて、むしろかなり安上がり。」
………一体何をどれだけ建てるつもりだったのだろうか。
「こう見えて静流は凄腕の霊能者としてかなり稼いでるから。僕もそれなりだし、お金の心配はしなくていいよ。」
「こう見えてって何よ~、トップクラスなんだからね?崇め奉ってくれていいんだよ?」
そうなんだ?そんなにすごい人とは知らなかった。
「霊能者というと、この世界の魔導士のようなものですか?」
「んー?そう、なのかな?」
「違うと思うよ。静流さん達は火とか出せないよね。」
「実体のない火なら出せるよ、ほら。穢れを燃やすの。」
「まじか。」
ちなみに今は全員言葉が通じている。ペンダントの魔法陣に触れていればいい、と聞いた聡馬おじさんが二人で一つのペンダントトップを触って喋れば?と提案してくれたのだ。何故思いつかなかった、俺。
「で、それをヒュー君の世界にも急いで持って帰らないといけないんだね?」
「はい。この話が終わればすぐにでも帰ろうと思います。大変お世話になりました、感謝いたします。」
「それなんだけどさ………ヒュー、俺もついて行っていい?」
「!」
隠しているつもりのようだが、ちゃぶ台の下で拳がぎちぎちに握りしめられているのが丸見えなんだよ。わかりやすいんだから、まったく。
魔力の異常は早く収めたいから、ヒューが急いで帰るのは決定事項だ。
でもヒューが護衛だらけの堅苦しい生活を嫌っていることとか、帰った時の周りの反応を不安に思っていることは変わらない。嫌なものは嫌だよな。
俺がどうにか出来るわけではないけど、周囲の注目をこっちに向ければ多少は和らげられるんじゃないかな。幸い、今の俺にはやることないし。
「ステラとかローレンさんにお世話になったお礼言えてないんだよねー、突然入れ替わっちゃったから。会えるように取り計らってくれない?あの結晶があればちゃんと帰れるし。」
「え、あ、しかし………」
ヒューは視線をさ迷わせているが、握りしめられていた拳が心なしか緩んでいる。やっぱり一人で帰るの不安なんだろ。
「駄目?」
「いや、駄目というわけでは、ないのだが。ユウトは俺と魔力量が同じなのだから、お前まで厳重警戒されるぞ。こちらの者に利用されるかもしれない。」
「世界とかヒューの国のためなら多少は利用されてもいいし、嫌になったら逃げ帰るよ。何ならヒューも結晶だけ向こうに置いてこっちに住む?」
「それはない。俺が生きる国はあそこだ。貴族としての義務は必ず果たす。常々魔導馬鹿と言われてはいるが、伯爵家の一員として信念も誇りもあるんだ………一応。」
即答だ。最後に一応とつけなければ格好良かったのに。
やっぱ基本的には真面目だよな。
「ヒュー君貴族だったの?へー初めて見たわー。」
「そりゃ今の日本には貴族いないからね。っていうか、昨日話してたじゃないか。聞いてなかったの?」
「ごめん、そこはあんま興味なかった。」
ひどくない?
「………ヒュー君、頑張る君は立派だと思うけど、体や心が壊れるくらいなら逃げるのも勇気だからね。そっちの世界でどうしようもなくなったら、いつでも僕達の所に休みにおいで。」
聡馬おじさんの言葉を聞いたヒューが一瞬フリーズした。その後、薄く笑って「ありがとうございます」と呟くように言う。
帰るのが嫌だからと逃げていることに罪悪感を感じていたヒューに、総馬おじさんの言葉が刺さったらしい。
ヒューの世界では、規格外の魔力を持つヒューが心から休める場所が少ない。魔法らしい魔法がないこの世界なら、ヒューも普通の人でいられる。そこでちょっと休んで、また頑張ればいいんだ。
………まぁ、今は早く帰らないとなんだけど。
「その結晶の管理は私達に任せていいよ。奏江ちゃんにも適当に話しておくから、結斗君も行ってきな。司馬は?」
「俺も行こうかな。ハロルドん家見たいし。」
「いや、今回はやめといて。そうだカズ兄、体調悪くなってたりしない?」
「………いつもよりやたら眠いくらいだけど。」
今日のカズ兄無口だなぁって思ってたけど、眠かったのか。
「何でそんなこと聞くんだ?」
「異世界へ渡る時に魂がダメージを受けるらしいんだよね。魔力が強い人がたまに行く分には大丈夫だけど、頻繁にはあそこ通らない方が良いって。俺とヒューは魔力量がすごく多い上に訓練も受けたから、ダメージ受けにくいんだ。」
「あー、帰った直後はちょっとふらふらするというか、感覚がふわふわしてたけどそれのことかなぁ。向こうで倒れたら迷惑か。じゃ、ハロルドによろしく言っといてくれ、結斗。」
俺が行くこと前提で進んでいく話を止められず、ヒューが今度は声も無くあわあわしている。いつもは堂々としていることが多いから、ちょっと珍しい姿かも。
「ヒュー、異常の原因をハロルドさん達に説明する時には俺でも力になれると思うんだけど?」
「一人で帰るのが嫌だからとユウトを異世界に連れていくのはさすがに………」
む、そうは言ってないのに。
………言ってないよな?声には出してないよな?
「んー………ヒュー、ちょっと俺の話聞いてくれるか。結斗、お前一旦どっか行け。」
「へ?何で。」
「いーからいーから。これ食って待ってろ。」
突然カズ兄に煎餅の袋を押し付けられ、部屋から閉め出されてしまった。
うわ、鍵までかけられたんだけど。いきなり何なんだよ。




