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 危ない危ない。久々に自分の部屋で寝たから、うっかり爆睡して狭間にくるの忘れそうだった。


 例によってヒューと一緒に来たが、シキが珍しく真剣な様子だ。仮面の下半分を手でさすりながら、周りにいくつも浮かんだ機械のようなものを見つめている。何だあれ。


「シキ?何かあったのか?」

「っ!………やぁやぁ、ユウト君とヒューバート君じゃない。私の知らない間に自力で帰ったみたいだね?でも何でヒューバート君まで日本にいるの?」

「………しばらくしたら帰るつもりだ。」

「そお?まぁ、あそこからならいつでも帰れるか。」


 なんとなく誤魔化された感があるんだけど。


「お待たせしましたー………?シキ、変な顔してどうしたんですか?勝手に帰ったの、怒ってます?」

「格好いいお面つけてるでしょーよ!何で顔が見えるのさ!

 ………今の私、そんなに挙動おかしい?」


「「「おかしい(です)。」」」


 どこがと聞かれると困るけど、なんかこう、ピリピリしてるんだよな。俺達が知っているシキは緊張感の対極に存在するような人なのに。


「何か隠してますね?」

「俺達には話せないことか?」

「吐け。全部吐け。」

「わぁ、怖いよこの子達。だいじょーぶだよー、私の心配事は多分解決できるから。それぞれの世界への影響もちゃんと説明するから睨まないでよぅ、シキさん泣いちゃうよ?」


 やっぱり何かあるんじゃないか。全部吐け。


「………その前に皆、ちょっとこっち来てくれない?」

「?」


 三人でシキの前に並ぶと、ぎゅうっとまとめて抱きしめられた。苦しいって、三人まとめては無理がある。

 あ、今俺達は魂だからどれだけ絞められても平気だったわ。


 何なんだ突然、こんなことするタイプじゃないだろ。


「おかえり、っていうのはおかしいのかな。無事にまた会いに来てくれて、ありがとね。

 話は毎日聞いてたし実力も信じてたけど、直接見えないのが歯痒いのなんの。今日も無駄に掃除とか探し物して気を紛らわせてた。

 ………自分で思ってる以上に、私は君達のことを気に入ってたみたい。ほんと、無事に済んで良かった。」


 え、何、シキ震えてんの?これはちょっと意外な反応だ。


 でも、シキは俺達以外に接する人がいない。やっぱり、普段はすごく孤独なのだろう。


「はー、満足した!ごめんね突然、これってセクハラになるのかな?訴えないでね、他意はないから。」

「せくはら、とは何だ?」


 普段のシキに戻った、かな………?


 通報はしないから、早く心配事とやらの説明を。


「はいはい、んじゃ説明ね。世界がいっぱいあるのはもう君達もよくわかってるでしょ?んで、世界同士はごく稀に衝突することがあるのね。

 あまり差がない世界とかなら融合というか合体できることもあるんだけど、君達の世界くらい歴史が離れてる世界がぶつかると大抵両方壊れちゃうんだ。シャボン玉みたいにパーンって。」


 なんかまたさらっとすごい話をされてる気がする。


 ………今そんな話をするってことはまさか!?


「大丈夫だってば。確かに近づいてたよ。自然に近づくこともあるんだけど、今回は原因がどうやらファウスト君がいたあのドームだったみたいなんだよね。」

「え、何であれで世界が近づくんですか?完全に止まってはいないですけど、まずいですか?」

「今くらいなら大丈夫。結構弱めてくれたんじゃない?」


 確かカルノスさんは稼働レベルを最低にするとか言ってた。


「ドームの中は魔力吸われるって言ってたでしょ?どうもそれ強力過ぎて、異世界の魔力まで引っ張ってたみたいなんだ。

 世界の輪郭も魔力みたいなものだから、近くの世界がまるごと引っ張られてた。変化がゆっくりだったから、私も今日急激に吸引が弱まるまで気付けなかったの。

 最近、吸引量をじわじわ増やしてたんじゃないかなぁ?ファウスト君、そこのお偉いさんに聞いてみてくれない?知らずにやってたと思うんだ。」

「おえらいさん、かどうかはわかりませんけど、聞いてみます。また強く動かさないようにしないとってことですよね。」

「知らない間に世界が滅びかけていたとは………」


 偶然とはいえ、守れて良かった。何もわからないまま世界ごと消えてたかもしれないと思うと、ぞっとする。


「世界の接近や衝突を防ぐ方法はないの?」

「それができたらやってるよぅ。今は自然に戻るのを待つしかないかな。一応防ぐ手立ても考えてはみるけど、あんまり期待しないで。」 


 今はテメノスをできるだけ動かさないようにして、静観することしかできないそうだ。もどかしいが、思い当たる対処方法もない。


「とりあえずそのテメノスってやつはファウスト君に様子見ててもらおうかな。このこと説明してみて、それ聞いてもすぐに出力上げるようなら、ユウト君とヒューバート君連れて殴り込んでもらおう。」


 え、殴り込むの?

 そりゃ世界壊れたら困るし、話聞いてくれないならやるしかないかもだけど、三人て。戦隊ヒーローでももっと人数いるだろ………三人のやつもあったな。


「あとは世界の接近による各世界への影響の話。基本的には魔力の動きに異常をきたすと思えばいいよ。皆にも、現時点で私が調べられたことを伝えとくね。」


 シキの主な情報源は、各世界の新聞やテレビだ。

 テレビは大画面のが街にあるけど新聞は頑張っても大きい見出ししか見えないんだよぅ、ヒューバート君の世界にもテレビ普及させてきてよぅ、と無茶を言われたことがある。


 それを聞いたヒューがここから新聞の見出しを読むのに挑戦しているが、まだ成功していない。魔力操作が緻密であればあるほど、より細かい所まで見られるようになるらしい。シキ曰く「画素数が上がるようなもん」だそうだ。


 魔力操作の天才と言われるヒューができないことをさらっとやってのける辺り、実はシキもすごい人ではあるんだよなぁ。普段がアレだけど。


「まずはヒューバート君の世界、魔力とか魔法が安定しなくなってるでしょ。君が魔力暴発起こした原因も多分これ。あそこは魔力の影響が大きい世界だから一気に色々なこと起きてると思うけど、元凶は大抵これだと思うよ。」


 そういえばだいぶ前、ヒューの身体で目を覚ましてすぐの頃に、魔力の流れがおかしくなってるってハロルドさんに聞いたな。その話がここに繋がってくるのか。


「次はユウト君の世界ね。魔力の影響が少ない世界のはずだけど、超常現象とか異常気象が増えてる。まるっと地球温暖化のせいにされてるけど、違うのも混ざってるよ。

 それと、健康体の人が突然倒れるってニュースもずっと流れてるんだけど、倒れてるのは魔力の変化に敏感な人だと思う。住んでる場所的に。

 ま、後半は私の推測だから話半分に聞いといて。」


 世界中で目を覚まさなくなった人がいるってのはカズ兄から聞いた話だ。魔力異常のせいなら、原因不明なのも納得だな。

 魔力変化に敏感であることと、霊感があることは別。シキ曰く、「物に触った時の感覚が鋭敏であることと、皮膚が刺激に弱いこととは違うでしょ。倒れるのは刺激に弱い人の方だと考えればいいよ」とのこと。なら、ひとまず榊原一家は大丈夫そうだな。仕事で穢れに近づきまくってるのにいつも元気だし。


「最後。ファウスト君の世界では、魔力は資源。魔力で動かしてるものがちょっと調子悪くなったり、動かなくなったりしてるみたいだね。他の世界程の影響はまだないっぽい。吸ってる側だからかも。」


 それでもテメノスを弱めたのだから、資源を今まで通りには使えなくなるだろう。どれくらいのことに魔力が使われているかによって、影響を受ける範囲は変わりそうだ。


「ファウスト、壁の外の生活ってどんな感じ?テメノスからの魔力が少なくなるとヤバい?」

「えと………多分、ユウトの世界での電気みたいに魔力使ってる感じ、です?自分の魔力使うのもありますけど。」


 現代日本で電気の供給が減らされたりなくなったりと考えると、結構な大事だな。下手すれば命にも関わる。


「俺、まだ外については最初に皆と行ったあの建物しか知らないです。」

「ファウスト君はもう少し壁の外の情報集めてくれる?場合によってはそのテメノスってやつそのものをぶっ壊すことも視野に入れる必要がありそうだ。」


 ………なんか今日のシキ、発言が若干過激じゃないか?さっきも殴り込んでもらうとか言ってたし。世界を守るためなのはわかってるけど、殴り込むのもぶっ壊すのも一応犯罪行為だよ?


「ユウト君とヒューバート君の世界で、急ぎ対処が必要そうなのは………

 倒れた人達はまだ命に別状なさそうだけど、長期になったら死ぬ可能性は出てくるよね。ここからじゃわからないだけで魂にダメージがあるかもしれない。かと言って、こちらができることもないか………

 魔法生物の活性化も深刻そうだ、海沿いとか森は結構切羽詰まってる感じするし。やっぱあれ持ってってもらおうかな………一時的にでも警戒区域を限定できれば………」

「待った待った!どうしたんだよシキ、らしくないぞ?」


 何か焦ってるのか?表情は仮面で見えないがいつもより早口だし、かぶっているフードや口元をやたら触っていたりうろうろしたりしてどこか忙しない。


 今日ここに来てから、ずっとシキの様子がおかしい。それだけ危機的な状況なのかもしれない。


「まだまずいことあるんですか?全部話してください、俺達の世界のことなんですよ!」

「あー………ごめん、私がこんなんじゃ不安になるよね。本格稼働させなければ、ほんとに大丈夫だよ。………はぁー。」


 シキはため息をつきながら後頭部をぐしゃぐしゃっとかきむしり、一拍おいてゆっくりとこちらに向き直った。


「………私はさ、ここで世界が消える瞬間を見てきたんだ。何度もね。綺麗な風景とか文明、生き物、人々が呆気なく消えるのを見ていることしか出来なかった。

 消える時は一瞬なのが救いだよね、壊れていく世界を見て怯えながら消えるようなことはないから。自分達が消えたことにも気づかない。」


 ………。


「どれだけ注意しても抗っても、消える時は消える。自然に起こった世界の消滅なら、それはこの世界の運命で、寿命だったんだって思って最期を見届けるようにしてた。

 でも今回のこれはまだ止められる………この世界は、まだ。」


 仮面で見えない表情のせいか普段とのギャップのせいか、低く響いたシキの声に一瞬背筋がヒヤッとした。


「………あ~あ、最初に君達見つけた時はここまで肩入れするつもりじゃなかったのになぁ~。」


 あ、あれ?


 何の前触れもなく、今度こそいつも通りのふよふよしたシキに戻ったようだ。間延びした口調に謎の安心感を覚える。

 よくわからないけど、シキは俺達やその世界のことを想像以上に大切に思ってくれているらしい。


 空中であぐらをかいたままその場でくるくると回り出す。

 ちょっかい出してきたりからかってきたりして鬱陶しいと思うことも多いけど、シキはこうじゃないと。


「改めて、ファウスト君は情報集め頼んでいい?世界の位置はまだ自然に元に戻る距離だし、それぞれの世界の魔力も少し乱れ始めた程度。突然世界消失って心配はまだいらないよ。」

「はい、頑張ります!」

「よろしくね~。

 ヒューバート君とユウト君は、明日起きたらここに来てくれない?渡したいものができたから。説明はその時にするよ。皆そろそろ身体に帰った方がいい。」


 渡したいものって何だろう。

 それに、シキに訓練してもらったおかげで今ならいつまででもここにいられそうだけど、帰った方がいいの?


「いられるようになったとしても、魂に負担はかかるからね。訓練の時はわざと負荷かけたけど。

 普通の人はここ通るだけで倒れたり魂消えたりするんだよ?君達の魔力量と魂の丈夫さはもはや異常ってレベルだし大丈夫ではあるけど、無意味に負担かけることないよ。」

「兄上は平気そうだったぞ?カズマも。」

「………ハロルドさん、俺の世界に来た時、足がふらついて大変だったって言ってましたよ。弟の前だからって頑張ってたそうです。」


 あー、ハロルドさんならやりそう。


「カズ兄も帰ってきてから気持ち悪いって言ってた。」

「でしょ。じゃあそっちの二人はまた朝に。カズマ君は連れてきちゃ駄目だよ?たまになら大丈夫だけど、連日ここに来てたらダメージが徐々に蓄積されちゃうからねぇ。」


 了解。





「………ねぇ、皆。私の火はまだ、消えてなかったみたい。」

 話のキリが良いので、ひとまず投稿はここまでとさせていただきます。


 初心者の拙作をここまでご覧くださり、ありがとうございました。

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