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 ずしゃぁっ


 う、着地失敗した。カズ兄は二回目だからか、しっかり足で立っている。………なんかちょっと悔しい。


 ここは見た感じ、夜海神社境内の森の真ん中辺りだ。カズ兄とよく遊んだからすぐわかる。遊んだ後でカズ兄と一緒に思いきり怒られるまでがお決まりの流れだった。


「司馬!結斗君!今どこから出てきたんだ!?

 ………え、何?僕幻覚見てる?」


 あ、総馬(そうま)おじさん!やっぱり探されてたか。


「おじさん、突然消えてごめんなさい!」

「うぇ………やっぱふらふらする、気持ち悪。

 ただいまー、親父。母さんどこ?神社?家?」

「ここにいるよ、この馬鹿息子!どこ行ってたの!?」

「うおぁっ!?」


 静流(しづる)さん!!何で上から!?


 でも良かった、帰ってきて早々に警察の捜索隊とかと鉢合わせたら何て言い訳しようかと思ってたんだ。カズ兄の両親になら、全部話しても多分大丈夫だよな。


「ごめんごめん、この穴に吸い込まれて違う世界行ってた。

 母さん達もファウストとヒューは知ってるだろ?そいつらと直接会ってきた。

 異世界の俺もいてさ、なんかすげぇファンタジーな見た目してたよ。銀髪ロングヘアで、氷の魔法剣士だって。」

「あー………ほんとにいるわ、結斗君みたいなのがもう一人。」


 !?


「………すまない。その、帰るのに気後れしてしまってな。少しだけでいい、ここにいさせてくれないか。」


 何やってんだ、ヒュー。葬式出されるぞ?





 とりあえず、神社本殿の裏手にある社務所にお邪魔した。三人揃ってなんとなく正座である。


「調査の許可出したのはあたしだし、さっきはつい大声出しちゃったけど別に怒らないから。全部説明して。」

「その前に聞きたいんだけどさ、今俺達って行方不明扱い?奏江さんとかにはどう伝わってる?」

「ん?一週間消えたままなら連絡しようと思ってたから、捜索願もまだ出してないよ。あんたら数日ならたまに消えるし。奏江ちゃん達にもまだ言ってない。

 でも、まさか増えて帰ってくるとは思わなかったなぁ。」

「警察に言っても、ここで消えたって話だと積極的には探してもらえないからね。まだ僕と静流だけで、司馬達が消えたらしい地点をうろうろしてただけだよ。」


 まだそれほど大事にはなってなさそうだ。良かった。


「ユウト、カズマ。今俺の台詞はペンダントで翻訳されているだろうが、お二人が何を仰っているか俺にはわからないし、あのインクは兄上が持って帰ったから新たに作ることも出来ない。今ある三つでやりくりしなければいけないぞ。」


 あ、そうだった。


 榊原夫妻は同時にきょとんとしてから顔を見合わせた。相変わらず仲良しでいらっしゃる。

 まぁ、二人にはヒューが普通に日本語喋ってるように見えてるだろうからね。


「あれは?ほら、ヒューがペンダント作る前に結斗達に使ってた、翻訳できる魔法陣。確か二人までいけたよな?」

「この世界では上手く陣を維持できん。」

「あーそっか。じゃ、とりあえず今は俺のを母さんに渡すよ。俺がヒューと喋る時はまた戻せばいいだろ。」

「………どゆこと?翻訳?その子さっきから流暢に喋ってるじゃん?」

「とりあえず静流さんこれつけて、説明するから。カズ兄、どこまで話してあるの?」

「えーっと、そうだな………。」


 事情説明、これで何回目だろうか。





「そんな漫画みたいなことあるんだねー。まぁ、悪霊やら呪いやら祓ってるあたしらが言えたことじゃないけどさ。無事帰ってきて良かったよ。」


 この世界ではペンダントの効果範囲が狭いようで、俺が飲み物を取りに少し離れるとヒューの言葉がわからなくなった。ちょっと面倒だな。


「で、ヒューは何でこっち来たんだ?」

「元々俺達はこの森の調査をしていたんだぞ。まだ終わっていないだろう。」

「はいはい、本音は?」


 ヒューの唇がきつく結ばれた。視線もあからさまに泳ぎだす。

 腹芸が必須能力であろうお貴族様なのに、色々顔に出るタイプなんだよな………あれ、もしかして俺もこれくらいわかりやすい?だからちょくちょく周りの人に思考が読まれるの?


「………この一ヶ月半ほどで、必要以上の人に囲まれない生活に慣れきってしまってな。

 帰ったら絶対にまた大量の護衛をつけられる………。心の準備が出来るまで匿ってくれ、頼む。できるだけ早く戻るようにするから。」


 あーーーーー。


「わかった、超納得した。確かにあれは無理もないと思う。」

「急にどうしたよ、結斗。」

「俺は一ヶ月くらいヒューとして生活してたんだよ、カズ兄は知ってるだろ。

 移動中は護衛がいるし、家にいる時は着替え中でも風呂でも使用人ついてくるんだ。あの落ち着かなさは体験した人にしかわからない………!」

「そんなにか………」


 ヒューのそばにはいつも誰かしら控えていて、プライバシーがあまり尊重されないんだよな。

 職場が国内でもトップクラスに安全な軍本部であることと、業務上の秘密を守るためという理由で護衛がつかない仕事中は、ヒューにとってある意味安息の時間なのだ。そのせいでヒューはワーカーホリック気味になったんじゃないかと俺は思っている。


 暴発事故の直後は記憶喪失ということになっていたので、怪我が治って動けるようになるまではステラが専属で世話をしてくれていた。

 だが、俺が仕事に行き始めると他の使用人も部屋に入ってくるようになったし、移動中は護衛もついたのだ。

 貴族だから仕方ないのかなぁと思いつつも、あれに慣れるのにはほんと苦労したよ。


「でもハロルドさん、ヒューが消えて焦ってるんじゃない?」

「手紙を兄上の上着に入れておいたから、少なくとも葬式は出されないはずだ。ここの調査が中途半端だから行ってくる、と書いておいた。」

「こんなことしたら、帰った時の護衛は余計増やされると思うんだけど。」

「う………わかってはいるんだが………。」


 ヒューが呻きながらちゃぶ台に突っ伏した。

 ………とても今更だが、ヒューの魔導士らしいローブとちゃぶ台が絶妙に似合わない。着物でも貸してみようかな。


「異世界に行って、完全な一人で過ごせる気楽さを俺も知ってしまった。

 俺の周りに寝ても覚めてもずっと人が待機しているのはもう嫌なんだ!屋敷の外にも警備はいてくれるのだからそれで十分だろう!………十分ではないということなのだろうが。

 ファウストとユウトの家での暮らしが俺にとって快適過ぎて………護衛が仕方ないのは重々承知しているが、それでも元の生活に戻るのに覚悟が………」


 部屋の外に護衛がいるのは知ってたけど、寝てる間もずっといたのかあの人達。ヒューは常に探知魔法使ってるってステラに聞いたから、余計に気になるのかもしれない。


「護衛減らしてもらえるように頼めないの?」

「………俺の魔力量は本当に異常だからな。少なくとも、近隣諸国ではぶっちぎりの一番だ。俺より魔力が多い人間には会ったことがないから、万が一捕まって利用されたりしたら困るのだろう。」


 え、それは俺とファウストも魔力量が異常ってこと?かなり多い方だとは何度も聞いたけど、異常って言われるレベルなのかよ。異常扱いされるのは運動神経だけで十分だよ。


「俺が悪巧みをしていたらそれを止める手段も少ないから、見張りも兼ねているのだろうな。まぁ、この魔力量では仕方のないことだ。やめろと言うつもりはない。

 ファウストが護衛に見つからずに抜け出してきたと聞いた時は、隠密魔法無しでそんなことが可能なのかと正直驚いた。兄上には見つかっていたが。」


 ヒューは国で取扱い注意な人物らしい。護衛がたくさんいたのは貴族だからじゃなかったのか。余計消えたら駄目じゃん。

 でも気持ちはわかるんだよなぁ………。


「ふーん、そっちの都合はわかんないけど、とりあえず今日は遅いしゆっくりしていきなよ。うちに泊まる?結斗君のトコがいい?」

「陛下………いや、宮司殿にご迷惑をおかけするわけには。ユウト、すまないが泊めてくれるか。寝るのは椅子でいい。」


 ちょっと待て、今陛下って言った?


「ん?あぁ、ユウトにはまだ話していなかったか。カズマのご両親は、テルミニシアでは国王陛下と王妃陛下だ。

 ………異世界の同一人物とわかっていても、やはり少し緊張するな。」

「王、様?しかも僕が王様なの?静流じゃなくて?」

「こっちでは入り婿なのにねぇ。っていうか、異世界のあんたもあたしに捕まったのか、あっはっはっは可哀想に。」

「………僕が静流を捕まえたつもりなんだけどなぁ。」


 静流さんが笑いながら聡馬おじさんの背中をべしべしと叩いている。静流さんがおじさんを振り回してる感はあるけど、ほんと良い夫婦だよな。


 っていうかおじさん入り婿だったんだ、知らなかった。そういえば代々一族が継いでるっていう夜海神社の宮司、今は静流さんだもんな。


「ヒューでも緊張するんだね。」

「当然だ、むしろ国王夫妻が目の前にいて緊張するなという方が無理な話だろう。ユウトだって室長に会って涙をこぼしていたそうじゃないか、話は兄上に聞いているぞ。」

「うっ、ハロルドさん余計なことを………!」

「何それ聞きたーい!」

「静流さんやめて、まじやめて。」


 恥ずかしいから勘弁してください。


 ………もうこっちには来ちゃったんだし、森にある空間の穴も安定しているからいつでも帰れるだろう。事情を知っているハロルドさんは先に帰っているはずだから、数日くらいなら心の準備期間があってもいいか。





「………ユウト、相談も無くいきなり押し掛けて本当にすまん。」

「気にしないで、正直俺はまだヒューと一緒にいられて嬉しいくらいだし。」

「俺もー。森の調査もしてくれるんだろ?」


 あれー、榊原家はもう通りすぎたんだけどなー。なんでカズ兄がまだいるのかなー。


「カズ兄も俺ん家泊まんの?

 あの事故以来、入れ替わった俺達のためにほとんどうちにいてくれたって聞いたよ?一回くらい自分の家で休んだら?」

「俺と結斗でめちゃめちゃに世話焼いて、元の生活に慣れさせてやろうかなと思って。」

「それカズ兄が世話焼きたいだけだろ。」

「お、ご明察。」


「………。」


 静流さん達の前ではそこそこ明るく振る舞っていたが、今のヒューは暗い表情だ。監視だらけで窮屈な生活への嫌悪感やら、黙って勝手にここに来た罪悪感やら、元の世界がどうなっているかの不安感やら、色々抱えているんだろう。


 ヒューは魔術が絡むと暴走するが、本人なりに普段はものすごく周りに気を使っていることが一緒にいてよくわかった。自分が気を使っているということを相手や周りの人に気づかれないように、と気を使っていたりもする。

 魔法でずっと索敵してくれてたり、暑い時にさりげなく周りの気温を下げてくれてたり、疲れた様子の人を見かけたら「疲れた、休憩したい」と言い出したり。ヒューの優しさは少し遠回りだ。


 暴走はするし冗談も好きだし、たまにはいたずらもするようだが、基本的にヒューは真面目な人の部類に入ると思う。普段なら逃げるなんて選択は思いつきもしないだろう。


 それでも一旦ここに逃げ込むことを選ぶほど、護衛がずっと周りにいるのが嫌なんだな。それこそ、大好きな魔法の研究や実験が出来ないこの世界へ逃げてくるくらいに。


「………カズ兄、森の調査ってどれくらいやってあるの?森って一言で言ってもかなり広いよ。」

「あー、大体三分の一ってとこか。なんで?」

「俺も手伝うからに決まってんじゃん。明日からおじさんと一緒に調査再開するって言ってたよね。

 魔力の多い場所がわかるのはヒューだけなんだから、探知は頼んだよ?」

「………あぁ、任せろ!匿ってもらう間はしっかり働くぞ!」


 せめてここにいる間くらいは、楽しく過ごしてくれるといいんだけど。

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