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 俺達七人に、カルノスさんの部下のメランさんが率いる20人ほどの職員を加えてテメノスの中に戻ってきた。

 希望者を募っても職員は誰一人集まらなかったので、くじを引いて決めたそうだ。おかげで士気がものすごく低い。気持ちはわかるけど、そんなにビビらなくても大丈夫ですって。


 ん?あれは………


「ヒューあそこ、また空間に穴開いてるよね?シキに頼むまでもなく帰れるじゃん。」

『ふむ。確か、ここは魔力が湧き出す地域と言っていたな。吸われなくなったことで大気中の魔力濃度も上がり、世界の壁が薄い所に自然と穴があいたんだろう。俺達が穴をあけた場所とほぼ位置が同じだ。』

「えと………じゃあ、皆さん帰ります?」

「いつでも帰れるなら、村の人に挨拶してからにするよ。ヒューがあけた時の穴は歪ですぐ消えたけど、これは安定してるみたいだから当分消えないんじゃない?消えたらシキに頼めばいいんだし。」


 あ、後ろでメランさん達がますます青くなってる。近づかなければ大丈夫ですから。


「あれは、何だ?ここでは珍しくないのだろうか。」

「いえ、あの大きさのは珍しいですよ。小さい穴はよくあくのでそこから時々落ちてくる物拾って、育てた野菜とか狩った動物食べて暮らしてます。」

「まだ幼いというのに厳しい生活を………」

「………俺、そんなに幼く見えます?」


 そこで口を尖らせるから幼く見えるんだよ、ファウスト。


「すまない、幼いというのは失礼だったか。」

「まぁ、結斗やヒューよりは年下に見えるな。服もでかいから余計ちびに見えるんだろ。

 俺も豺はやばい子どもだと思ってたが、近くで見たら想像よりは大人だった。それでも子どもと大人の間くらいだ。」

「ヨシチカさんもそうなんですか………年齢がわからないので抗議できないんですよね。ユウトとヒューより身長低いですし、俺って子どもなんでしょうか。」


 ちなみに、俺よりヒューの方が少し身長が高い。………俺ももう少し身長ほしいな。


「シャァッ」

「うん?コウ、どうしたの………え、カゲ?」

『ユウト、村にカゲが来ている。一体だしおそらく小さめだが、急いで加勢しよう。皆に伝えてくれ。』


 まだ村見えてもいないけど?ヒューとコウの索敵範囲はどうなってんだ。


「皆、村に小さめのカゲが一体来てるって」

「何っ、あの黒い生物のことか!我々はどうすればいい?こちらの装備は防御と捕獲に重きを置かれているのだが………これと………これなら使えるか………」


 慌て過ぎです、メランさん。

 ひみつ道具がとっさに見つからない某猫型ロボットみたいになっている。本人には言っても通じないだろうけど。


「あんたらは黙って見てろ。小さめが一体なら余裕だ。」

「村人は全員カゲとの戦いを知っておる。すぐにやられることはあるまいが、先に行かせてもらうぞ。」

「えと、魔力を出さないようにだけお願いします。狙われちゃうので。」


 義親さんと源之助さんがメランさんに声をかけ、そのまま走り去った。ファウストもあとに続いて走り出す。

 この三日間でファウストもだいぶ日本村の人達と馴染んだよな。うんうん、これなら安心して帰れるよ。


「ハロルド、ヒュー、その人達と一緒に後からきてくれないか?お前らなら二人でも全員守れるだろ?」

「そうだね、魔法も完全に解禁したから。ではカズマとユウト君も行ってきてくれ。こちらは私達に任せて。」

「長らく閉じ込めていた上に大勢で足を引っ張って、本当に申し訳ない。気をつけて。」


 まぁ、メランさん達は多分悪くないよね。上層部?が長年テメノス内部には触れないという方針だったみたいだし、それに従うしかなかっただろうから。わからないなら調査くらいしろよとは思うけど。





 村が見えてきたが、俺達はいらなかったかもしれない。網のようなもので動きを封じたカゲを深幸さんと哲さんが二人でぼこぼこにしている。あ、黒い魔力が散った。


 とどめを刺した後、苦い顔でこちらを向いた深幸さんは………


「………何で、よりによって、今、帰ってくるのよ。」

「なんかすみません………」


 何故か踊り子衣装を着ていた。作戦中俺が仕方なく着せられていた、例のアレだ。ファウストの家で脱ぐのを手伝ってくれた後、そのまま持って帰っていたらしい。


 俺と違って大変似合っている。けど、その分目のやり場にも困る。周りの男性陣も微妙に深幸さんから目を逸らしてるし。

 俺だと変態さしか感じられなかったビキニ部分は綺麗な胸のシルエットを際立たせ、深いスリットからは白い脚が………いやいや駄目だろ。

 そもそも深幸さん、着るの嫌がってなかったっけ?布付きの紐呼ばわりしてたじゃん。


「お、皆おかえり!見ろよ深幸のやつ、家でこっそりこの衣装着てる時にカゲが来てさ、仕方なくそのまま出てぎふぇっ」

「わざわざ全部説明しなくていいのよこの馬鹿!着替えてくるからしばらく入って来ないでよね!!」


 不届き者の鳩尾に一撃を入れて、深幸さんは家の中に消えていった。哲さんは膝から地面に崩れ落ちている。南無。


 深幸さん、あの衣装に興味あったんだな。ファウストのお姉さんが拾ってきたって言ってたし、刺繍や飾りは綺麗だし、女性的には着てみたいものなのかもしれない。見られたくはなかったようだけど。

 ………これ以上考えてたら俺まで深幸さんの拳を食らいそうなのでやめておこう。


 まだ遠くにいるヒュー達に、手振りで大丈夫だと伝える。村の人達にも、後から来る集団が敵ではないことを伝えた。

 ヒューとハロルドさん以外は黒ずくめの怪しい集団、説明しておかないと迎撃されかねないからね。





「お待たせした、村長殿。こちらの人員は全て到着した。」

「めらん殿、ひとまずわしの家に来ていただけるかの?測ったわけではないが、近辺の簡単な地図があるでな。」

「かたじけない。そうだ、持参した翻訳機を起動するからお借りしていたこれはお返ししよう。君のものだったな?」

「ああ、そうだ。その翻訳機、魔導回路が見当たらないが一体どういう仕組………むぐ」

「うちの弟がすまない、構わずそちらの話を続けてくれ。」


 ヒューの口を押さえると言う名目で後ろから抱きつき、ハロルドさんが満足気な顔をしている。ヒューはそれには気づいてないみたいだ。黙っておこう。


 メランさんが持ってきたという翻訳機は設置型で、起動中は置いた場所から動かせないそうだ。効果範囲内でないと言葉が通じなくなる。

 俺達のペンダントのように思念を飛ばすわけではないため、登録した言語しか翻訳できないらしい。日本語も何故か古代語として登録があり、普通に翻訳された。もしかしてこの世界、日本滅びてる………?


「ゲンさん、ミユキさんが着替えてますから家に行くのはもう少し待たないと駄目なんじゃないですか?」

「おお、そうじゃった。うっかり覗いてわしが深幸の一撃を受けたらそのままお陀仏じゃわい。ほっほっほ」


 それなりに体格の良い哲さんを一撃で沈める威力だもんな。実の祖父だしさすがにそんな攻撃はしないと思うけど………しないよね?


 着替え終わった深幸さんが真っ赤な顔で出てきた後、源之助さんとメランさん、その部下の人達数名は深幸さんを見ないようにしてすぅっと家の中に入っていった。

 深幸さんから「こちらを見るんじゃない」って強い念が出てるからね………目を合わせるの怖いよね………





「ユウト、ヒュー。カズマさんとハロルドさんも、手伝ってくれてありがとうございました。ここからは、俺達でやれます。

 お礼になるものは何もないですけど、この先何か俺に出来ることがあれば何でも言ってくださいね。今度は俺が、そっちの世界に行ってお手伝いしますから。」

「え………ファウスト、手伝いはもういいのか?礼も遠慮もいらないぞ、俺達がやりたくてやっていることなのだから。この魔術ドームの陣もあらかた解析できた。」


 ヒュー、いつの間にそんなことを。


「俺も楽しかった。お礼なら、また夢で会ってくれれば俺はそれでいいよ。

 でも突然どうしたの?帰るのは明日って言ってたじゃん。俺達はいない方がいいってことならすぐ帰るけど。」

「え、と………」

「………ごめんねファウスト君、隠し事させて。さすがにもう話さないとね。」


 ファウストがちらりと視線を向けた先にいたのは、苦笑いのハロルドさんだった。


「兄上、何したんです?」

「その、穴の所に行ったらハロルドさんに先回りされてたって言ったじゃないですか。俺は誰にも見つからないように動いたんですけど、ハロルドさんは正面から堂々と来たらしくて。」

「空間の穴を警備していた兵達に、私がヒューと空間の穴に飛び込んで自殺しようとしている、と大騒ぎされたんだよね。

 面倒なことになりそうだったから、ファウスト君を抱えて一緒に飛び込んだ。ファウスト君の置き手紙を読んで事情はわかっていたし。」

「なので、ヒューとハロルドさんは早く帰らないと、おそうしき?されちゃうかもしれないんです。」


 ………え。


「帰そうとしたんですけど離してくれないですし、俺ごと帰ったら多分もう一度穴に飛び込むのは無理ですし、揉み合ってるうちにハロルドさんの顔色悪くなってきて………」

「無理を言ってすまなかったね。

 ファウスト君には、ここでの出来事が一段落するまでそのことは言わないでと頼んでいたんだ。」

「ハロルドさん何やってんの!?」


 ヒューの身体ごとファウストを異世界に呼んだのは俺達だけど、ハロルドさんが来たのは計算外なんだよ。伯爵家の子息が揃って自殺は大事件だろ!


 ………ここに二人で来た時点でちょっと心配はしてたけど、ハロルドさんならちゃんと何か手を打ってから来てると思ったから何も言わなかったんじゃん。まさかそんな強行突破してたとか思わないじゃん。


「大丈夫だよ、王子殿下と父上と、研究室長に手紙は残してあるから。ヒュー達の事情と私達がどこに行ったのか、三ヶ月経って戻らなければ死んだものとしてください、ということを記した手紙をね。」


 いやいやいやいや、大丈夫じゃないよそれ。絶対向こうはパニックだよ。


「戻れなかったらどうする気だったんですか。」

「ファウスト君はとても優しくて頭も良い子だから、ヒューの身体を確実に帰せないなら異世界に行こうとは考えないだろう。なら私も行って帰ってこられるんじゃないかな、と。

 まだ学生だが留学中の従兄弟がいるから、最悪戻れなくても跡継ぎの問題はないさ。」


 なくはないから。大ありだから。


「ハロルド、お前結構無茶苦茶なことすんのな………」

「まぁ、兄上だからな………」


 もしかして、ウィリアムズ家って全員暴走するタイプ?魔術で暴走するヒュー然り、息子達への愛が暴走するらしい母親のリリーさん然り。


「カズマならわかってくれると思ったんだけどなぁ。」

「わからないとは言わない、けど、さすがにお前程突発的な行動はしない、と思う………思いたい………」


 何徐々に自信なくしてんだカズ兄。


 ハロルドさんは常識的ブラコンだと信じてたのに………あれ、常識的ブラコンって何だ。


「そういうことだから、確かに私達は早く帰った方が良いだろうね。母上が暴走してるかもしれない。」

「絶対してますよ………ごめんなさいヒューのお父さん………」


 ウィリアムズ家の当主が凄まじい心労を抱えていそうだ。これは一刻も早く帰さなければ。


「で、ユウトはまだ狭間から世界が見分けられないので、見分けられるヒューと一緒に帰らないと日本がどこかわからないですよね、今は多分シキいませんし。」

「それは、そうかも。でも俺とカズ兄はそこまで急いで帰る理由ないよ?」

「本当は、その、ちょっとでも長く一緒にいてくれたら嬉しいんですけど………テルミニシアの兵士さん達の騒ぎ方を思い出したら、日本もすごい大事になってる気がして。

 俺達は一応手紙残しましたけど、カズマさん達は本当に行方不明ですよね。けーさつざたというのになってるかもしれませんよ。」

「ファウスト、警察沙汰なんて言葉いつ覚えたんだ………?」

「病院のテレビで一緒に捜査ドラマ見たじゃないですかカズマさん。」


 あー………そうだよなぁ。確かに、あんまり大騒ぎになると説明に困る。


「………そんじゃ、俺達も村の人達に挨拶して帰るか、結斗。」

「そうだね。」


 この村の人達には本当にお世話になった。お別れとなると寂しいけど、もう自分の世界に帰らないと。

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