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止まったベルトコンベアの上を通り、遂に壁の外だ。
外の人達が入ってくるのに使っていた、壁にある重厚な扉は建物の中に直結していて、シキに聞いたようなビル群はまだ見えない。ここは管制センター、みたいな所だそうだ。
「とりあえず俺のペンダントを誰かにかけてもらえ。俺が話す時は誰かに触れて通訳してもらう。」
「では私と手を繋ごうか。子供の頃以来だ………」
「ハロルドさん、ヒューはもうユウトの肩に手を置いてますよ?」
「な、何故だヒュー!」
………ハロルドさん、手繋ぐどころか抱きつきそうな勢いだもんな。しばらく守ってあげよう。
「あの、このペンダントを誰か着けてくれませんか?ここにいる全員に言ってる言葉が通じるようになるもので、俺達も同じものを着けてます。」
「ーーー、これだけでよろしいのですか?もう少し待っていただければ、こちらで翻訳機をご用意いたしますが………」
「通じておりますぞ。わしは源之助と申す。中にある村の一つで長を務めておる者じゃ。」
「おお………これはご丁寧に。私はカルノスと申します。テメノスの、あなた方がいらっしゃった所の管理責任者をしております。
管理とは言ってもマニュアル通り、長い間管理は外側しかしておりませんでした。まさか中に人も閉じ込めていたとは………。
謝って済む問題ではありませんが、大変申し訳ありませんでした。」
そう言って片膝をつき深々と頭を下げたカルノスさんは、人が良さそうな中年の男性だ。………お辞儀で丸見えになった頭頂部が少し寂しい。
「そのテメノスっていうのが何なのか聞きたいんですけど、その前に壁の中の………エネルギーでしたっけ?吸うのを一旦止めてもらえませんか?中にまだたくさん人がいますし、ずっと吸われてると生き物や人がカゲに、えと、さっきの黒い化け物になりやすいんです。」
日本村以外にも人は結構いるらしいんだよな、あそこ。一回だけ鹿の大きな群れも見たし、生き物もいる所にはいる。
「それはいけませんね。
………内部を調査するべきという意見は昔からあったというのに、これだから上の連中は………」
ほんの一瞬、にこやかなカルノスさんの後ろに黒いオーラが見えた気がした。
「ソテル、セミラ、テメノスの操作を。完全に止めるとライフラインが止まりますから、まずは限界まで稼働レベルを下げてください。許可は今から私がもぎ取って来ます。人命がかかっているとなれば、上もすぐに動くでしょう。」
「ーーー、ーー。」
「メラン、私について来てください。テメノス内部の調査をするメンバーを集めていただきたい。
ダミア、あなたは彼らについてください。話を聞いて、必要な援助を確認しなければ。まずは彼らの質問に答えてさしあげてください。私もすぐに戻りますから、それまでの間対応をお願いします。」
扉の方に歩いていきながら次々と指示を飛ばしていく。
すごい、てきぱきしてて格好いい………!こういう、仕事できる大人って憧れるよね。
え?ああなりたいなら、何かと力業で突破しようとする脳筋スタイルをやめろって?放っとけ。
「皆様申し訳ありません、許可を取るには私が直接行った方が早いので、一旦失礼します。テメノスや外については、そこにいるダミアに聞いてください。すぐに私も戻りますので。ダミア、あなたにこれを。ーーーーーーーー。」
カルノスさんはダミアさんに翻訳ペンダントを渡し、一礼して出ていった。
………明らかに全力疾走の足音が廊下から聞こえてくるけど、カルノスさんと部下の人だよな?急いでくれるのはありがたいけど、何も走らなくても。
「改めまして、私はダミアといいます。所長ならいつもあんな感じでよくわからない方ですが、最終的には何とかしてくださいますから大丈夫ですよ。」
信頼してるのかしてないのか。いや、信頼はしてるのか。よくわからないだけで。
ここからの会話はこの世界の人に任せて、異世界組は少し後ろに下がっておく。
「まずはテメノス?について聞きたいんですけど。壁が円状になってて、天井はドーム型に魔力を吸い取る魔法陣が広がってるのは知ってます。それと、さっき魔力、じゃなくて、エネルギーを吸い集める機械だというのも聞きました。」
「あなたの言う魔力というのが、我々が『エネルギー』や『思力』と呼ぶものと同じならその通りですよ。思ったよりかなり詳しくご存知なんですね。
ひとまず、今は皆さんに合わせて『魔力』と呼ぶことにしましょうか。そっちの方がなんかファンタジーっぽくてテンション上がるし。」
何だその理由………
「あなた方がいらっしゃったのはこの星で魔力が特に多く湧き出てくる地域で、危険生物がよく現れる危険地域でもありました。危険生物を隔離すると同時に、魔力を集めて資源にするためにテメノスは造られた………と、言われています。」
「言われています?」
「今のシステムになったのが五、六百年以上前なんです。造った人物は、ここは余程の異常が無ければ絶対に開けるなと言い残し、外からの操作のみで全て管理できるようにしました。ですので管理は壁の外側だけ、内部は観測された数値の確認のみなんですよ。」
これまでは異常値が出ても大抵部品の老朽化などが原因で、修理ドローンを派遣すれば解決していたそうだ。
今回は俺達が派手にぶっ壊しちゃったからね。部品交換で直せる破損ではないね。
「今回はシステムに突如大規模な異常が見られたので、特例で入ったんです。人が自らあの中に入ったのはこれが初めてだと思います。
さっきは死を覚悟しましたよ………入ったら黒い化け物が見えるし人が戦ってるし地面一部凍ってるし………」
ダミアさんが遠い目になった。仕事とはいえ危険地帯に入らされた上、いきなり目の前でバトルやってた感じか。そりゃビビるな。
「私達の認識としましては、あそこは生活に欠かせないエネルギーの供給源であり、かつ土地そのものは普通の生き物が存在できない死の世界、といった所でしょうか。
ですから、皆さんにお会いして本当に驚いています。………テメノスを管理している、なんていいながら本当は何もわかってないのかもしれませんね、私達。」
俺の世界でいう油田みたいなものだろうか。管理も利用もするが基本的に人は入れない、という辺りは原子力発電所に近い気もする。いや、ファウスト達は普通に中で生活してたんだけどさ。
っていうかさっきカルノスさんが「ライフラインが止まる」とか何とか言ってたような。自分達がよくわかってないものにライフライン預けてるのか?供給が止まったらどうするんだよ。
「じゃあ幻覚とか、回っていつまでも進めない床とかはカゲを閉じ込める仕掛けだったのか。哲が突っ込んでいったが、罠とか無くて良かったな………」
「ええ、罠の類いはありません。その生物が出す魔力も資源扱いなので、倒さないようにしてあるんです。
資料だと、生物は大抵視覚と魔力を頼りに追ってくるので光学ホログラムを仕掛けてある、とのことです。あなたの言う幻覚はそれのことでしょうね。」
「あれが、ホログラム………!」
おっと、俺の後ろでカズ兄が目を輝かせている気配を感じる。近未来的な世界観のゲームもよくやってるもんね。ロマンだよね。
「記録にある危険生物は世界の外からも来ることがあるらしいと書かれていますが、もしかしてあなた方もそうなのでしょうか?壁の外から入ったのではないのですよね?」
「わしら三人はあそこで産まれ育ったが、先祖が違う世界から来たと聞いておる。後ろにおる四人は異世界の者じゃよ。」
どうもー、異世界人でーす。
「そうなんですか?てっきりそちらの少年とご兄弟かと………」
「俺、もう少年って年でもないと思うんですけど………そもそも俺って何歳なんでしょうか………」
「異世界にも人はいらっしゃるんですね。少しメモを取らせてくださいね、ええと………一応、個人フォルダにしとこうかな………」
ダミアさんの腕輪に光の紋様が浮かぶと、半透明のモニターが宙に現れた。
SF映画のワンシーンのような光景に、カズ兄のテンションが更に上がっている。魔力使ってるみたいだから、SFじゃなくてFになるのか?あれ、SFのFってフィクションだっけファンタジーだっけ。
『おいユウト。あの腕輪、これと似ていないか?』
「ん?………ヒュー、それ持って来てたのか。
確かに光り方は似てるかも。でも、俺達が魔力通した時は何も出なかったよね?」
ファウストの家で見つけた腕輪だ。こちらの腕輪は少しゴツいが、ダミアさんのものは細く、普通のアクセサリーにしか見えない。
「あ、それ!………こほん、見せていただけますか?
わぁ………ものすごく古い型ですけど、ええ、同じものだと思います。こんなの骨董品ですよ、動いている所を見られるなんて。
この手のリングは大抵魔力パターンで持ち主の認証をしているので、持ち主以外が魔力を通しても光るだけなんですよ。」
へー、指紋認証みたいな感じ?
「何でファウストの所にあったんだろうね?」
「俺を育ててくれた人達とか、その人達を育てた人が壁の外から来た人だったんじゃないですか?俺はここの言葉がわかりますから。その腕輪は最初に壁の外から入った人の持ち物、とかですかね?」
異世界から人が迷い込むような所だし、壁の外から迷い込む人くらいいそうなもんだよな。
「あ、そういうことならあの謎のカードも今度見てもらおうか。書いてあるのがここの文字って言ってたし。」
『あるぞ、ここに。』
「何でだよ。」
「それは、カードキー!?まだこんなの現存するんだぁ………んんっ、失礼しました。
魔法科学史のテキストで映像見ただけで、実物見るのは初めてなんですよね。よろしければこちらでお調べしましょうか?勿論、きちんとお返しいたしますから。」
「拾っただけですし、正直返されても困るんですけど。」
「そうですか?
これだけ状態が良いと、博物館に寄贈できそう………当時の回路が綺麗に残って………ふふふふふふふふ」
ダミアさんの笑い方がヤバい。目が、目が怖いです。
ノックが聞こえてきたが、ダミアさんはカードキーに夢中のようだ。代わりに入り口に立っている護衛らしき人が応えている。
「ーーーーー?」
カルノスさんの頭だけがひょいっと入ってきた。何ですか、入った途端にその苦笑いは。
ダミアさんはつけていたペンダントをカルノスさんに渡したが、視線はカードキーに釘付けだ。
「ダミア、今はやめてください。業務中ですよ。
すみません、彼女はこういう古い技術に関する物が大好きでして。」
カードキーもここだと古い技術になるのか。
「うちの弟も似たようなものですからお気になさらず。」
『兄上………』
「否定できるかい?」
『う………』
できないのか。
「ひとまず、テメノスの稼働レベルを最低にして来ました。迅速に内部にいる方々の安全を確保せよとの指示が出ましたが、私は部下の安全も守らなければなりません。
身勝手なお願いではありますが、皆様にもご協力いただけませんでしょうか。我々には、現在のテメノス内部の情報がほとんど無いのです。」
「俺は良いですよ。ゲンノスケさん達はどうします?」
「外で生活が出来るのであれば、うちの村の者は外に出ることも考えると話していたがのぅ。他の集落の者はどうか………」
他の集落の事情までは知らないなぁ。そこはファウストや源之助さん達に任せた方が良いか。
殺伐とした関係の顔見知りならそこそこいるみたいだし、言葉が通じれば普通の顔見知りに進化するかもしれない。
「ユウト達も、今日だけでいいんで手伝ってもらえませんか?今日の夢でシキと話して、明日世界に穴を開けてもらいましょう。」
「そうだね。外の人達も今のところ友好的だし、もう俺達はいなくても大丈夫か。………いざ帰るとなると寂しいなぁ。」
『俺達は何をすればいい?魔法も使いやすくなっただろうから、今までより色々なことが出来るぞ。』
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」




