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ファウスト達が来てからあっという間に時が過ぎ、今日は作戦決行の日だ。
作戦は最初に決めた通りだが、深幸さんと花梨ちゃん、源之助さんも追加で参加することになったので総勢十人。あまり大人数だと意思疎通や連携が難しくなるから、これくらいの人数が限界との判断だ。
「ファウスト、しつこいかもしれないが、本当にいいんだな?」
「はい。元が姉さんってだけで、カゲを倒すのはいつものことですし、知らない人に知らないうちに倒されるより良いです。皆さんに倒してもらえたなら、俺も後悔しません。」
「………あの豺にそこまで信頼してもらえるとはな。お袋の時の礼になるかはわかんねぇが、全力でやらせてもらう。」
作戦に利用できそうな大きいカゲが見つからず、ファウストがお姉さんのカゲでやろうと言い出したのだ。
あのカゲだけずっと動かないなぁと思ってはいたのだが、ヒューが結界を張って周りの魔力に反応しないようにしていたらしい。
「っふふ。似合っているよ、ユウト君。」
「………はっ倒していいですか。」
「ごめんごめん。でも防御力は確かだから、君の安全のために着ておいてくれ。本当に危険な役だ。」
俺は結局、安全のためと言ってあの防御力と露出度の高い踊り子衣装を着せられている。さすがに腰布の下にはいつものズボンを履いているが、そういう問題じゃない。
踊るための衣装なので、装飾過多のわりにとても動きやすいのが逆にムカつく。こんなにひらひらなのに何で走りやすいんだよ、おかしいだろ。
「いいじゃない、飾りとか布の刺繍はすごく綺麗よ?」
「そんなこと言うならこれ女性用だし、深幸さんが着ます?俺達が試しに攻撃しても、魔力通してれば傷一つつかなかったから性能は間違いないですよ?」
「え、嫌よそんな破廉恥な服。上なんて服かどうかも疑わしいわ、布付きの紐じゃない、そんなの。」
「ぶっ………ははは!そこまで言ってやんなよ深幸、結斗も好きで着てんじゃねぇんだぞ?」
「………。」
そうなんだよなぁ。下半身はスリットが深いだけで露出面積は低いけど、上半身はほぼビキニと飾り布だけなんだよなぁ………
はじめは服の上から着られる部分だけ、と考えていたのだが、どうやら一式全て身につけないと魔法陣が機能しないらしい。
ピンポイントで乳首隠してるのが変態感強くて嫌なんだけど。これなら上裸の方がましだよ、ちくしょう。
「えーっと、その、ほら、身体の傷痕が映えて歴戦の戦士みたいだし、筋肉も引き締まってるし、あなたならその服装でも格好いいと思うわよ。あなたなら。」
「………心配しなくても、着せるつもりはありませんから。」
「そう?良かった。………でも、それなりに、格好いいと思ってるのはほんとよ、一応。」
お気遣いどうも。
でも確かに、この格好だと全身の古傷が丸見えだな。作戦開始までは何か羽織っておこう………
「普通の鎧もあったじゃん………あれでいいじゃん………」
「あれでは上手く動けなかっただろう?身を守れても攻撃が避けられない。カゲにパネルを攻撃させられないじゃないか。
………俺達も見ていて微妙な気分にはなるが、ユウトの安全の方が大事だからな。大人しく、着ていてくれ。」
「顔は俺達と同じですからね。自分が着ているみたいで、変な気持ちです。」
おいヒュー、声震えてんぞ。面白がってるだろ。
今朝集合した時は、こんな雰囲気ではなかった。作戦決行の緊張もあるけれど、ファウストのお姉さんを倒す日だ。張り詰めた空気が漂っていた。
だが当のファウストが「俺が仲間と楽しく生きてるって、最後に見せたいですから!」と笑うのを見て、だんだんと皆にいつもの笑顔が戻ってきたのだった。主に俺の服装が笑われる形で。
………うん、皆の気持ちが少しでも軽くなったなら、俺も変態衣装を着せられた甲斐があったというものだ。
ぱんぱん、と哲さんが手を打った。
普段は天然お兄さんだけど、意外とリーダーシップもあるんだよな。一応、次期村長の最有力候補らしい。
「はいはいお前ら、そろそろ作戦の最終確認しようぜ。
まずヒューがカゲ囲んでる結界を解除、それと同時に結斗が魔力を出してカゲを引き付ける。そのままカゲをあの仕掛けに誘導して、破壊させる。
俺達はカゲを後ろから囲むように追いかけて、カゲが逃げたり、攻撃対象を変えたら誘導してもう一度結斗を狙わせるか、狙われたやつが誘導役になる。それでいいんだよな、司馬。」
「ああ。結斗の運動神経は本当に異常だし、魔力が多くてカゲにもなりにくいらしいから、結斗を狙わせるのが一番安全なはずだ。」
異常って言うのはやめてくれないかな。
俺が危なくなったらまずはカズ兄、ハロルドさん、ファウストが助けに来る。魔力量と運動神経を兼ね備えている三人だ。
次点は義親さんと哲さん。残りの源之助さん、深幸さん、花梨ちゃん、ヒューは基本誘導と防御に徹してもらう予定だ。
パネルを壊させた後は、カゲを囲んで皆で叩く。まだ四足歩行であることくらいしかわからないので、倒し方はその場で考えるしかない。
「作戦中に怪我したら、ヒューとコウ君がある程度治してくれるからな。………あれ?ファウスト、コウ君は?」
「俺の袖ですよ。適度に広くて、一番居心地が良いそうです。あ、出てきました。」
「シャアァァァァッ!」
「おう、やる気満々だな。よろしくなー、コウ君。」
「♪」
作戦と呼ぶには単純過ぎる気もするが、ここにいるメンバーならきっとやれる。よし、行こうか。
カゲの目の前までやってきた。
ファウストがお姉さんに近づき、話しかける。
「姉さん。俺にも、仲間が出来ましたよ。一回死にかけましたけど、そのおかげで出会った異世界の俺達が協力してくれて、違う言葉の人とも話せるようにしてくれたんです。
………姉さんは自分がいなくなったら、俺が一人になるっていつも言ってましたよね。もう、大丈夫です。俺は一人にはなりません。
皆と一緒に、姉さんを空へ送ります。姉さんの分も、俺が外を見て来ます。だから最後にもう少しだけ、力を貸してください。
ずっと、たくさん、お世話になりました。本当に、ありがとうございました。姉さんの命は、思い出と一緒に俺が継いでいきますから。」
ファウストが握りしめたナイフがちゃき、と音をたてた。お姉さんに背を向け、こちらに歩いてくる。
「良いのか?」
「………はい、言いたいことはあり過ぎてきりがないですし。
姉さんは死んでもその心は俺の中に生きてるって、ユウトが言ってくれました。だから大丈夫です。
ヒュー、準備が出来たら結界を解いてください。作戦、始めましょう。」
「わかった、ファウストも一旦離れろ。
ユウト、準備は良いか?………その格好を見ると力が抜けるな。着せたのは俺だが。」
………いつかヒューにも何か理由をつけて着せてやる。
「任せといて、ふざけてるのは服装だけだよ。
ファウストも力が入るのはわかるけど、肩がちがちだぞ?もう少し力を抜かないと。」
「ユウトの格好見たら俺も力抜けましたよ………でも、ありがとうございます。無理はしないでくださいね。危なくなればすぐに言ってください、絶対助けます。」
「うん、頼りにしてる。」
俺がカゲの正面に立ち、ヒューはカゲの後ろ、少し離れた所にしゃがむ。残りのメンバーはここと仕掛けの間にあるクレーン車の周りに隠れた。カゲがそこを通り過ぎたら後ろから囲い込む予定になっている。
ヒューが手を上げる。作戦開始だ。
ぱきん、と結界が壊れる音がした。カゲが丸めていた身体を伸ばし、ゆっくりと立ち上がる。
「グオォォォォォォン!!」
「………来い!」
引き付けるために魔力を出す。近くで動いている所を改めてよく見ると、狼のような見た目だ。サイズは大きめの乗用車くらい。
黒い魔力での噛みつき攻撃が主だとするなら、地面と一体化したようなパネルに攻撃させるのは難しそうだな。前足部分での攻撃を誘わないと。
この間の犬程ではないが、結構足が速い。俺が全力で走ればぎりぎり追いつかれないだろうが、それだと皆を置いていくことになるので少し蛇行しよう。
「ガルルルルルッ」
おっと、やっぱり噛みつきが主か。威力は高そうだけど、触手よりは全然避けやすいな………ん?
「はぁっ、追いつきました!ユウト、早速作戦にないことしてすみません!」
「ファウスト!どうかした?もう少しゆっくり進んだ方がいい?」
「いえ、もうすぐ例の仕掛けに着くので。すぐ済みます。」
「???」
ファウストは急ブレーキをかけて振り返ると、そのままカゲに正面から突っ込んでいった。
「ファウスト!?何を………!」
噛みつかれる寸前、ファウストは身体を捩って攻撃をするりとかわした。カゲは相変わらず魔力を出しているこちらを狙っているようだが………
「グルルル………」
ダンッ ダンッ
あれ、噛みついてこない。
カゲは唸り声を上げながら、地面を前足で叩き始める。何だ、どうしたんだ?
「よしっ、と。こんなものですかね。かなり巻きましたけど、多分しばらくしたら切れちゃうので、そしたらまた縛りに行きます。今日は糸をたくさん仕込んで来ましたから、出し惜しみはしませんよ。」
糸?縛る?………あ!
「カゲの口元で光ってるの、テグスか!ってことは、今の一瞬であの口閉じて縛ったのか!?すごいな!」
「えと………これくらい、大したことないですよ………」
普段の表情を保とうとしているようだが、少し口元がふにゃふにゃと緩んでいる。もしかして照れてる?
「あれ、でも黒い部分って魔力じゃなかったっけ。縛れるの?」
「魔力ですけど、実体はあるので。ユウトも斬ってましたよね?」
言われてみれば確かに、感触はあったな。
………いやいや、それにしたってとんでもないことやってると思うけど!?すれ違いざまの一瞬で縛るとか、漫画かアニメでしか見たことないよそんな技!!
「これで前足での攻撃が主になると思うんです。少しは楽になるでしょうか?」
「超楽になる!よし、あとは任せろ!」
あとは俺がパネルの上に立ち、攻撃してきた所をかわすだけだ。たまにカゲの視界に入った他の人にターゲットが変わるが、皆が協力してこちらに押し返してくれる。
花梨ちゃんは霊力、もとい魔力がかなり多い方だそうで、魔力を出す石を俺の方に投げてカゲを誘導してくれている。
………花梨ちゃん、「えーいっ!」って言わないと遠くには投げられないのかな。
その花梨ちゃんにカゲが近づきそうになると、源之助さんが結界のような術で防ぎ、深幸さんが薙刀で追い払う。この二人が揃うと防衛に関しては村で最強らしい。
ヒューは魔術盾で自衛しつつ、その盾の魔力を利用することで闘牛士のようにカゲを誘導している。さすが、器用だなぁ。
深幸さんの薙刀と、ヒューと源之助さんの結界に追いやられたカゲをハロルドさんが剣、カズ兄は源之助さんに借りた木刀で更に追いやり、義親さんと哲さんのクロスボウでそれを援護。ファウストも前線で魔力を出して誘導に参加しつつ、定期的にカゲの口を縛り直してくれる。
連携はばっちり機能してるな。俺も頑張ろう。さっきから何度かカゲの攻撃はパネルに当たっているし、もうすぐ壊せそうだ………!
バキバキッ ゴオォォォッ
壊れた!荒野の映像の一部が消え、ベルトコンベアとその向こうの壁が顕になる。やはり壁を隠す仕掛けだったようだ。
狙い通りではあるが………まずいかもしれない。壊れたパネルの奥から魔力が噴き出してくるのを感じる。
「皆、下がれ!」
「!!」
機械そのものが爆発………とかはしなかったが、カゲが機械から出てきた大量の魔力を吸い取りだした。
ずももも、と黒い魔力の体積が増えていく。既に象よりでかいかもしれない。本体に直接攻撃するのはしばらく無理そうだ。
「大きくなってるわよね、見間違いじゃないわよね。………よくわからないけど、大変なことしちゃったのかしら私達。」
「でっか………これ倒すのはさすがに骨だぞ。」
「ボスに第二形態があるのはゲームだけでいいんだよ………」
「? カズマは何を言っているんだい?」
ボスが形態変化して連戦、確かにお約束の展開だけどさ。現実でやられると精神にくるな。
「皆、やれる所までやるぞ!」
「当初の目的は達した、倒すのが無理なら一度撤退して作戦を立て直そう。俺がまた結界で囲めば時間は稼げる。」
「大きいだけで、倒し方は普通のカゲと同じはずです。皆さん、姉さんを空へ送るのを手伝ってください!お願いします!!」
ま、やるっきゃないよな。
第二ラウンド、開始だ!!




