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30 雑談集 in ファウスト宅

「よし、干し草はこれくらいで十分だろう。魔法が少ししか使えんというのは本当に不便だ………」


「すっかり暗くなっちゃったね。

 ………見渡す限り誰もいないって生活にも慣れてきたけど、この星空だけは一人で見るの寂しかったんだよね。皆とならいつまででも見てられる気がするよ。」


「そうだな。まるで星図のようだ。」


「そういえば、二人の世界だと夜でもあんまり星見えませんでしたね。俺にとってはこれが普通なんですけど。」


「俺達の世界、夜もわりと明るいからね。

 自分の部屋から毎日これが見られるのは羨ましいなぁ。」


「同感だ。………絶景を眺めていたいのは山々だが、荒野の夜は一気に冷え込む。早く中に入るぞ、二人とも。」


「「はーい。」」


「………俺達は兄弟ではないが、弟を連れている兄というのはこんな気分なのだろうか。うむ、悪くないな。」





「泊まってほしいって言っといて、寝床が草ですみません。」


「大丈夫だよ、全員が横になれるスペースは十分あるんだし。」


「部屋数も結構あるじゃないか、姉君の部屋を避ける余裕があるくらいだ。」


「元とはいえ、さすがに女の人の部屋で寝るのはちょっと気が引けるよね。」


「場所はともかく、問題は柔らかさですよ。ヒューとユウトは俺の身体にいる時に経験済みでしょうけど、ハロルドさんとカズマさんはこんな固い寝床初めてですよね?」


「そんなことないと思うよ、カズ兄はたまに徹夜でゲームしてそのまま寝落ちてるし。

 床に倒れてると、見つけた時ビビるんだよな。」


「あぁ、それは俺も見たぞ。呼吸を確認していたらカズマが急に起き上がってな、互いに頭をかかえて悶絶する羽目になった。」


「上から覗き込むと高確率でそうなるから、横から確認するのがおすすめだよ。」


「次の機会があったらそうしよう。

 あと、兄上も野営の経験が豊富だから寝床は必要ない。座ったままでもしっかり休息を取れる人だ。」


「そうなんですか。

 俺、二人の世界の寝床が柔らか過ぎてびっくりしたんです。だから逆も驚かれると思ったんですけど、そうでもないんですか?」


「うん、大丈夫だと思う。」


「心配なら直接二人に聞いてみるといい。」


「そうします。………一応、もう少し干し草足しときましょうかね。」





「窓の修理終わったぞー。」


「あ、ありがとうカズ兄。ハロルドさんも、ありがとうございます。」


「久しぶりの弟を早く堪能したくて頑張ったよ。カズマと話すのも楽しかったけどね。」


「三人の方も、草集めありがとな。お疲れさん。」


「おや。ヒュー、髪に草が絡んでいるよ。取ってあげるからこちらに」


「結構です、『微風(ブリーズ)』」


「あぁ………うん、取れたね。」


「………結斗、ヒューってハロルドには若干ツンデレだよな。」


「ツンデレと呼ぶにはツンが過ぎると思うけどね、俺は。」


「そこまでか?」


「鬱陶しいからって、会いにきたハロルドさんを転移魔術で王都の端までふっ飛ばしたらしいよ。」


「………ハロルド、今のマジ?」


「ああ、何度かあったね。」


「まさかの複数回………そりゃもうツンデレとか通り越してツンドラなんじゃ………」


「つんでらって何ですか?」


「あはは、混ざっちゃってるよファウスト。えーっと、どう説明しようかな………」





「これが噂の、薄い干し芋味の果実だね。」


「俺はずっと芋の実って呼んでました。こんなに味薄かったんですね、これ。」


「芋類も地上に実がなるものがあるぞ。その名前では誤解を招かないか?」


「それに、熟してないじゃがいもの実とかには確か毒があるよ。せめて芋味の実、くらいにしとかない?」


「じゃあそれで。

 美味しくはないですけど、食べ慣れた味ではあるので安心します。」


「味薄いだけならともかく、うっすら甘いせいで干し肉と絶妙に合わねー………」


「食べられるんだから別に問題なかろう………さっきから何してるんですか兄上。」


「芋のような味なら、ポテトサラダに似たものを作れるんじゃないかと思って。ほら、見た目はそれらしくなったよ?」


「潰しただけじゃ味は変わんないぞ、ハロルド。」


「それに兄上、ユウト達が言っている干し芋はさつまいも(スイートポテト)で、ポテトサラダはじゃがいも(ポテト)ですよ。しかもこれは芋の味なだけで木の実ですし。」


「やっぱり、だめかな………」


「うーん………今まで思いつかなかったけど、火を通したら甘味が増したりするかも?焼いてみよっか。ファウスト、鉄板借りるね。」


「え?ユウト、干したのを更に焼くんですか?」


「うん、干し芋も軽く焼いて食べると美味しいよ。

 干したやつはそのまま炙ればいいよね。ハロルドさんが潰したやつは軽く形整えて鉄板に、と………」


「お、さすが結斗。高校生主夫。」


「誰が主夫か。」


 じゅうぅぅぅ………


「見た目は美味そうだな。」


「いい匂いです………!」


 ぱくっ


「え!?ちょ、火傷するよファウスト。………味見してないけど、どう?火、通ってる?」


「はふ、むぐ………んー………えと、さっきより甘くなりました。焦げ目の部分がカリッとしてて俺は好きです。

 こっちの潰したやつは………ん、味は一緒ですけど、中がほくほくしてます。噛んだらほろってなるのが面白いです。」


「思ったよりしっかりした食レポが返ってきた………」


「美味そうじゃん!俺も食べてみたい!」


「はいはい、ちょっと待っててカズ兄。人数分作るから。」





「そっちの初対面はそんなんだったのかぁ。」


「うん、ハロルドさん超怖かった。」


「あの時はごめんね、ユウト君。

 記憶喪失の演技は結構ボロが出るし、ユウト君は嘘をつくのが苦手みたいだし、思い出すのに時間がかかるというあの設定でちょうど良かったと思うよ。」


「実際、ハロルドさんにはすぐバレましたしね。」


「ふふ、私がヒューを間違えるわけがないじゃないか。」


「そこまでいくと逆に怖いぞ………異世界の俺は重度のブラコンか………」


「カズ兄も俺なら動きでわかるとか言ってただろ、十分怖いわ。」


「え、そうなんですか?でもカズマさんは俺がユウトじゃないって言っても全然信じてくれませんでしたよ?」


「あの時はまだ絶対安静だっただろ?歩いてる姿を見たらすぐわかったよ。」


「………本当に動きでわかるのか。さすが異世界の兄上。」


「はじめは多重人格だと思ってさ。東先生に相談するって言って部屋を出ようとしたら、点滴の管を投げ縄みたいに足に引っかけられて転んだ。カズマさんにしか言いません!って。おかげで床に顔面強打したわ。」


「いつもの癖でつい………あれはほんとにすみませんでした………」


「点滴の、管………」


「さすがワイヤー使い………」





 パチン


「おっと、想定より火が小さいね。………着いたから良しとしようか。ヒュー、小枝をいくつか寄越してくれ。」


「手品にしか見えないけどマジなんだよな、これ………

 剣と魔法の世界かぁ、俺も行ってみたいなぁ。冒険者ギルドとかあるんだろ?本物見たい。」


「大体カズマの想像通りだと思うぞ、えるふやどわーふなんて種族名は聞いたことがないが。」


「それちょっと残念だよな、ゲームだと定番なのに。」


「カズ兄はエルフの綺麗なお姉さん見たいだけだろ。」


「………悪いかよ。」


「あとは、そうだな………魔物の持ち込みが多い日は少し血生臭いし、薬草採取の時期は土と草の匂いが強く、時間帯によっては酒臭かったりするな。」


「匂いのことばっかりですね。」


「その他は大体ゲームの通りだからな。依頼の受付やパーティーの募集もオンラインのRPGと似たようなものだ。

 あの世界観を作った人物は、俺達の世界を知っているのではないか?」


「………あれ、何かヒューがゲームに詳しくなってない?」


「結斗のデータ使ってもらって、一緒にレイドとか参加したからだよ。楽しかったよなー。」


「何やってんだ。いや別にいいけど。」


「ゲームとはいえ、剣士やタンクとして戦うのは新鮮だった………そうだユウト、何故プレイヤー名がブラッドなんだ?」


「そりゃ俺が適当に設定したやつな。結斗の昔の通り名が血………はいごめんなさい黙ります。」


「よろしい。」


「何だユウト、お前にも通り名があるのか。」


「どんなのですか?俺みたいにいくつもあったりします?」


「忘れて。お願いだから忘れて。」





「本当にこれ、一つも魔術は使っていないのかい?」


「正真正銘、電気の力だけだよ。」


「指先で撫でて操作するとは、かなり不思議な感覚だ………あっ、すまないカズマ、何かあぷりを開いてしまったようだ。

 これはどうやったら元に戻………これは!?カズマだよね、これ!!」


「ん?ああ、写真フォルダか。好きに見ていいぞ。」


「これが、写真………見たことのない形の建物ばかりだ。それに、日本人の髪や瞳の色がほとんど黒というのは本当だったんだね。不思議な光景だよ。」


「黒っつっても日の下だと茶色だし、そもそもこれそんなに珍しいか?ヒューだって一応黒髪じゃん。」


「確かに黒髪は多少いるけれど、割合としては少数派なんだ。

 それに、漆黒の髪や黒に近い瞳は異世界からの迷い人のみに時折見られる特徴と言われている。程度の差はあるけれど、私達の世界で産まれた者なら髪や瞳の本来の色に魔力の色が重なるから、君達程の無彩色にはならないんだよ。」


「いや、無彩色はさすがに言い過ぎ。茶色って赤とか黄色の成分あるよな?」


「私達から見れば無彩色同然さ。

 例えば、ヒューは髪にも瞳にも風の緑が乗っているのが一目でわかるだろう?私の髪はご覧の通り、水の青を含んでいるね。」


「その色の魔法が得意って感じか。自分の力が色に出るって、なんか格好いいな。」


「私には純粋な黒髪の方がとても神秘的に見えるけれどね。瞳まで黒に近いのは迷い人の中でも珍しいと聞くよ。

 そんな人々がこんなに沢山………おや、この少年は金髪だし、隣の少女は一部分だけ赤だ。部分的に違うこともあるのか。」


「それは染めてんの、おしゃれだよ。

 あと、確かにそいつら童顔だけど俺の同期だからな。二十歳前後だ。」


「………カズマ、私と同い年くらいなのかい?もっと年下だと思い込んでいたよ。」


「え、俺も何となくハロルドの方がいくつか年上だと思ってた。そんなに変わんないのか?俺は春に二十歳になった所。」


「私は次の冬に二十歳だね。」


「そっちが年下かよ!?」


「ふふ、兄上と呼ばせてもらおうかな?」


「やめてくれ、違和感しかねぇわ。」





「すぅ………すぅ………」


「おや。皆、ファウスト君が眠ってしまったようだ。そろそろ私達も休もうか。」


「え、あれ、ついさっきまで喋ってたのに。」


「そっか、結斗とヒューはこれ見る機会なかったのか。」


「これとは何のことだ?」


「ファウストは寝つきが良くてさ、疲れてるとこんな感じで突然ぱたっと寝るんだよ。ハロルドも知ってそうだな。」


「ああ………一度、トイレに座ったまま眠り込んでいたよ。」


「それは………俺も見たことないかな………」


「では、今日はもう休むとしようか。

 ファウストが寝床が固いんじゃないかと心配していましたが、兄上はこの程度なら問題ありませんよね?」


「勿論。カズマはどうだい?」


「俺は椅子でも床でも爆睡できる。」


「心配無用だったね。

 ………ファウストは俺が運んどくよ。コウは俺の所で寝るの?うん、いいよ。」


「では皆おやすみ、良い夢を。」


「うわ、ハロルドが言うとなんか似合うのがムカつく。」


「我が兄ながら、俺も少しそう思う………」


「な、何か気に障ることを言ったかな。」


「まぁ、『気障な台詞』ではあったな。」


「格好つけたような台詞だったかな………?君の気に障るならやめるよ。」


「あれ?微妙に通じてないな、これ。」


「カズ兄、漢字がわからないと『気障』と『気に障る』は繋がらないだろ。日本人にしか通じないよ。」


「あ、そっか。」


「「???」」


「ハロルドさん、カズ兄の言ったことは気にしなくていいですから。気に障ったわけでもないんで、放っといて大丈夫です。」


「おい放っとくのはやめろ、構え。」


「子どもか。」


「………よくわからないけど、異世界の私とヒューも仲が良いのがわかって嬉しいよ。」


「そういう捉え方されると恥ずかしいんですけど………

 えっと、じゃあ改めて皆、おやすみなさい。」

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