30
作戦自体が単純であることと、俺達異世界人、特にウィリアムズ兄弟は早く元の世界に帰さないとまずいだろうという理由で、作戦決行はカゲの捜索も考えて三日後ということになった。
今はそれぞれの戦い方と連携を確認しよう、という建前の手合わせ大会になっている。
俺はハロルドさん以外全員に戦いたくないと言われてしまったので、ファウストに身体を貸して見学中だ。解せぬ。
ヒューはファウストの家で何か作っているので不参加。翻訳魔法陣を改良しているらしい。
「っ!………参りました。やっぱり、真っ向からの一対一は苦手です。」
「はぁっ、はぁ、十分強ぇと思うけどなぁ。確かに攻撃は軽いけど、いつまでも倒れないって意味ではお前が最強だろ。」
「そうですか?」
チャキッ
「………ファウスト、まさかまだ連戦する気か?休憩は?」
「俺はまだまだいけますけど………相手がいませんね。」
「体力化け物だな………」
ファウストは近接戦闘は俺に、魔法はヒューにかなわないと思っているらしい。だが、実際に見てみればどちらも十分上手い上にスタミナが半端ない。総当たりで手合わせをしている所だが、ファウストだけ涼しい顔をしている。
今のファウストは毎日そこそこ鍛えている俺の身体なので体力が多いのもあると思うが、五連戦で汗もかかないのはさすがにおかしい。
省エネというか、力の抜き所をわかっているというか。戦闘の継続能力は断トツだと思う。
それと、今回は哲さんがファウストのナイフを弾いたが、ファウストの本当のメイン武器はワイヤーだ。これが本気の戦いなら、ファウストが哲さんを一瞬で拘束して終わりじゃないかな。
………あれ?
「ファウスト、まえに、とうばつたいの、ぜんえい、きたえてるって、いってた。いったいいちじゃ、なかったの?」
少し前に夢で会った時、にこにこしながら「自分が教えた人が強くなるのって嬉しいですね」とか言ってたような。
「あれは鍛えてたというか、俺が知ってるフェイントとか反撃技を教えただけです。
あの四人になら剣でも余裕で勝てますけど、ハロルドさんとアールシュにはかないませんよ。」
前衛隊とはどんな感じだったかわからないけど、ヒューの姿をしたファウストと楽しそうに手合わせをするハロルドさんは容易に想像できる。俺もやったし。
そのハロルドさんは現在、少し離れた所でカズ兄と組み手をしながら談笑して………ってあれ?あの二人、今は言葉通じないんじゃ。
「ははっ、剣士って聞いてたけど、剣なしでも強いな!さすがヒューの自慢の兄貴。でも、俺もそこそこやれるだろ?」
「ーーーーーー、ーーーーーー?ーー、ーーーーーーー。ーーーーーーー!」
かなり本気の重たい打撃を互いに打ちあっているようだが、二人とも大変良い笑顔である。
楽しそうで何よりだが、会話は成立しているのだろうか。肉体言語で会話できているならそれでいいのか。
「おーーーーーい!!皆聞こえるかーーーー!」
家からこちらにヒューが走ってきて………べしゃりと転んだ。その袖から慌ててコウが逃げてくる。いないと思ったらそんな所にいたのか。
コウはそのまま俺の袖に飛び込んできた。袖の中、気に入ったのかな。
「とりあえずここにいる人数分作った!首にかけて、少し魔力を流してみろ!言葉が通じるはずだ!」
ヒューは何事もなかったかのように起き上がり、ペンダントのようなものを俺達に配りだした。人前で転んで恥ずかしい、等の感情は最早感じない程に転び慣れているらしい。
ペンダントトップには複雑な魔法陣が細かく描かれている。裏表がそれぞれ別の陣になっているようだ。
………段ボール製だから見た目は少し残念だが。
ファウストー、身体交代ー。
「魔力ってこれでいいのかな。ハロルド、わかるか?」
「! ああ、わかるよカズマ。これで普通に話せるね!」
「ヒュー、すごいんだなぁ!ありがとう!」
ハロルドさんとカズ兄が天才!さすが!と言いながらヒューをもみくちゃにし始めた。さすが魂の同一人物、やることが同じだ。
「兄上が………兄上が二人に増えた………」
ヒューの目が死んでいるので救出する。お疲れ様。
前にハロルドさんを避けている理由は聞いたけど、あれは対外的な説明だったのかもしれない。このブラコンモードのハロルドさんから逃げるためという理由もかなり大きいと思われる。
「これ、効果はさっきと全く同じ?」
「そうだ。そのまま小さくするのは難しかったから、陣を二つに分けて繋いだ。これなら動きの邪魔にはならんだろう。
本職の魔導具士なら更に違う効果も入れられるだろうが、俺の手作業でこれ以上は厳しいな。道具がなくては。」
「十分すごいですよ、ありがとうございます!」
「兄上が魔導回路用のインクとペンを持ってきてくれたからできたことだ、俺だけの功ではない。」
魔力だけで描くのとは、細かい線の描きやすさが段違いなのだそうだ。
砂場に指で描くより紙にペンで描く方が楽に細かく描けるだろうといわれ、深く納得した。
「む、誰かこちらに来るようだが。」
「………本当だ。お前らのそれ、便利だよなぁ。魔力感知だっけか?」
「あー、大丈夫だ敵じゃねぇ。あれは深幸だ。」
俺には点に見えるんだけど………義親さん、視力いくつ?
「やっと着いた!もう、遅いと思ったら何してるのよ!日が暮れちゃうわよ!」
一人で来たら危なくないか、と思ったが、肩に薙刀っぽいものを担いでいる。深幸さん、戦える人なんだ。
「………あら、聞いてた話より一人多いわね?」
「えと、はじめまして、俺はファウストです。」
「ファウスト、君?………あ、そうよね、はじめましてなのよね。知ってる顔だから不思議な感じだわ。よろしくね。
もう一人司馬さんが来るなんて聞いてないけど………こんにちは、私は深幸といいます。」
ファウストはきょとんとした顔で首を傾げ、お辞儀をされたハロルドさんは眉を少し八の字にしている。
「………私に挨拶をしてくれたんだよね?私はヒューの兄、ハロルドだ。はじめまして、ご令嬢。」
「れ、令嬢とか、そんなんじゃないわよ………」
あれ、哲さんがジト目になってる。珍しい。
ハロルドさんは元々美形な上に自分の魅せ方も完璧だからね、初対面の女性が真っ赤になるのは仕方ないね。
「すまない、私達には君の言葉がわからないんだ。
ヒュー、彼女の分もペンダントを作れるかい?」
「そのつもりですが、少し時間がかかります。
ミユキ嬢、言葉が通じるようになるペンダントを作っておくから、自己紹介は明日にしてもらえるか。
あぁ、俺はヒューバートだ。元の身体の。」
「それであなた達もさっきから普通に日本語話してるのね。
………ヒューバート君の髪、すごく艶々………」
「今は俺にもあなたの言葉は通じないぞ。この翻訳機能は一方通行でな。今すぐ欲しいなら、俺の分を貸そうか。」
「今すぐはいいわ、必要なら哲に借りるから。」
ウィリアムズ兄弟とファウストには、ペンダントがない深幸さんの言ってることがわからないんだよな。
「深幸には俺達で説明しとくわ、詳しい話は明日にしようぜ。
迎えに来させて悪いな深幸、夢中になっててさ。」
「あんたそういうトコあるわよね………哲に限ったことじゃないか、男って全体的にそんな感じするわ。
気になることは色々あるけど、それは帰ってから義親にでも聞くわね。早く帰らなきゃ日が落ちちゃう。」
「何で俺だ、哲に聞け。
お前らもまた村に泊まるんだろ。行くぞ。」
ファウストが来るのは源之助さんも知ってるし、泊まっていいとも言われてるけど、予定より一人増えてるんだよな………
くいくい、と後ろからファウストに袖を引っ張られた。
「あの、異世界の人に見て欲しいと思ってた物がたくさんあるんです。今日は俺の家に泊まってってくれませんか?」
「奥の部屋に集めてある、異世界からの落とし物のことか。俺とユウトはともかく、兄上達なら使い方がわかるものがあるかもしれんな。」
「そういうことなら、今日はファウストの家に泊まらせてもらおうかな。源之助さんにもそう伝えといてくれる?哲さん。」
「おう。俺達はいつも通り、昼くらいにここ来ればいいか?」
「はい、明日からは作戦に使うカゲを探すんですよね。よろしくお願いします。」
義親さん達を見送り、異世界組とファウストの五人で家に戻る。ファウストを待っている間にちょうど物を広げていたので、例のアイテム部屋は散らかったままだ。
「この中に役立ちそうな物とか、使い方を知ってる物あります?」
「俺、勝手にこの刀使ってるけどいい?」
「いいですよ、使わないので。
ユウトはそれ使えるんですか?俺が前に使ってみたら、刃が途中で止まって抜けなくなっちゃって。切れ味はすごく良いんですけど、サムライみたいな戦い方はちょっと………」
初心者だと両断って難しいもんね。慣れれば骨ごとすぱんといっちゃうよ、これ。
しかも使ってみて気がついたが、このムラマサは魔力を通すと切れ味と強度が上がる優れものだ。きちんと手入れさえしていれば、ほとんど研ぎいらずである。
「む。この衣装は女性用だが、よく見ると刺繍に防御の陣が多数組み込まれている。露出が激しい割に、防御力だけなら鎧よりも高いと思うぞ。面白いな。」
「うわ、スリットがかなり際どいなこれ。見えるだろこんなの………」
カズ兄、むっつりだー。
「こういうのが好きなのか、カズマ。」
「………好きじゃない、とは、言わないけど。拾ってきたファウストはどうなんだよ。」
「? それ、拾って来たのは姉さんですよ。
でもそんなに防御力が高いなら、ユウト着ますか?カゲ引き付ける時に。」
「俺に女物のセクシー踊り子衣装を着て走り回れと?」
「せくしー?」
サイズ的にギリギリ着られはするだろうけど、絶対嫌だからな。絶対。
「カズ兄がそうなら、もしかしてハロルドさんもこういう衣装がお好きだったりします?」
「………黙秘させてもらおう。」
あ、顔逸らした。それは肯定と見なしますよ。
「あぁ、このアコーディオンの部品のような物は俺が拾って来たものだ。ふいごの一部かとも思ったんだが素材が紙でな………この模様、今見ると漢字に見えるな。読めるか?」
あの提灯、拾ったのはヒューだったのか。蛇腹だけ見れば確かにアコーディオンっぽい、かも?
「御用、だな。物自体はただの持ち歩ける照明だよ。中のここに火を灯すんだ。」
「あ、時代劇で見たことあります!俺はあの、肩にお花の模様がある人が好きです!」
………お奉行様かな?
「ファウストは日本でよく時代劇見てたもんな。ヒューは興味なさそうだったけど。」
「不思議な髪型のあれか。あの刺青の御仁は、裁判官のようなものだろう?あんなことをしていいのか?」
「そこはまぁ、フィクションだから。」
二人とも、日本で時代劇見てたのか。しかもファウストは気に入ったのか。勧善懲悪でわかりやすいからかな。
御用だー!と言いながら嬉しそうに提灯を掲げているので、これはファウストに差し上げよう。存分に楽しんでくれ。
「この銀の輪は………魔力を通すと光の線が浮かぶけど、それだけだね。魔力関係なら、カズマの世界の物でもないか。」
「あぁ、知らないな。俺達と関係ない世界の物か?」
「このカードも同じような材質だぞ。何か書いてあるが、これも日本語か?漢字でないのはわかるが、日本には文字が三種類あるだろう。」
「それは俺が姉さんに教わった文字です。鍵って書いてあるんですけど、どう見ても鍵じゃないですよね。」
………それ、カードキーでは?
「俺達の世界にはそういう鍵あるよ。穴に差し込んだり、センサーにかざしたりして使うやつ。」
「え、すぐ合鍵作れそうですけど。」
「役目は鍵だけど、ファウストが言ってる鍵とは仕組みが違うんだよ。でも、何の鍵かわからないし今はおいておこうか。」
仕掛け突破に役立ちそうなものはあまり無かったが、色々な世界の物を見るのはそれだけで楽しかった。
その後も皆で料理?をしてみたり、隙間風が入る窓枠を素人なりに直したり、カズ兄のスマホを見てハロルドさんが珍しくはしゃいだり。この日は遅くまで話し声が続いていた。




