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 今俺達は、ファウストの家で机を囲んでいる。椅子が足りないので、全員立ったままだ。


「………。」


 ファウストと義親さんは気まずそう。まぁ、これは仕方ないことだろう。哲さんは何も気にせずファウストに笑顔で話しかけていたが、彼は気にしなさすぎだ。


「えと、お話するのは、初めてですね。ユウト達に話は聞いてます。今回はよろしくお願いします。」

「俺がやりたくてやるんだ、お前らがやらなくても勝手にやる。同じことすんなら協力した方が効率いいだろ。」

「え、あ………そう、ですか。」


 よろしく、とは言えないものだろうか。


「………俺も結斗達にお前の話は聞いた。大量のカゲを罠にかけて焼き殺したとか、人を縛り上げていたぶってたとかいう話聞いて危ない奴だと思ってたが、誤解だったらしいな。」


 え、何それ怖。そんな話聞いてたら俺でもファウストのこと警戒するわ。


「何度も戦い仕掛けたのは、悪かった。やられる前にやっておこうと思ってたんだが、言われてみれば確かにお前はほとんど逃げ一択だった。」

「俺もあなた達のことは敵だと思ってましたし、それはお互い様、だと思います。」


 お互いに「近所にいる危険生物」くらいの認識だったらしい。ファウストはできるだけ近づかない派、義親さんはチャンスがあれば倒しておく派ってところだろうか。


「それに俺、大量のカゲを一度に相手なんてできないんですけど………あ、前にネズミが群れごとカゲになってて、油で囲んで火付けたのでそれですかね?」

「多分それだな。………人間縛ってどうのこうのって方は心当たりあるか。」

「んと………大物のカゲはワイヤーで縛って倒してるので、倒しかけを見られたんじゃないですか?黒い魔力が薄くなった所ならそう見えるかもしれません。」


 成程、細かい状況を知らずにそれを見た人がその光景だけを村の人にも伝えたんだな。


「普通の人と戦う時は、動きを封じたら基本的にそれ以上攻撃しませんよ。追って来られないように脚にちょっと怪我させたりはしますけど、それだけです。」

「それくらいは普通だろ。俺なら四肢潰すぞ。」


 許容範囲、とかじゃなくて普通なのか。やっぱ怖いなこの世界。


「あんまりしつこい人は、その、何度か殺したこともありますけど………俺がいるの、嫌ですか?」

「………いや、今はもうお前を敵とは思わねぇが、行動を共にする以上は一応確かめておきたかっただけだ。お前を避ける理由にはならねぇよ。村のやつが殺されたわけでもねぇし。」

「あ、ありがとうございます。

 ………あの、えと、ヨシチカさんていうんですよね。俺、言葉が通じたら謝りたいと思ってたことがあって。」

「?」


 ファウストは少し目線を泳がせた後、いつも以上にたどたどしく話し始めた。


「えと、何年か前に、カゲになったあなたの大切な人を、俺が倒してしまいましたよね。その、あなたが何か言っているのはわかってたんですけど、何言ってるかわからなくて。気づいたのは倒した後でした。自分で倒すために来てたんですよね?だから、その、ごめんなさい。」


 ………そんなことが。

 でも、ここで生活していたらそういうことも起こるか。


 義親さんが少し目を見開く。


「覚えてたのか。

 ………あれはお袋だったんだが、どうせ俺だけじゃ倒してやれなかった。お前を警戒はしてたが、別にそのことで恨んでた訳じゃねぇよ。」


 この前俺がカゲになった健一さんを殺した時も、誰も責めたりはしてこなかった。むしろお礼を言われたくらいだ。

 俺は村人達と言葉が通じたからあの時のことをそこまで引きずらないでいられてるけど、ファウストは義親さんがどう思ってるかわからなくてずっと気にしていたのかもしれない。


「あの後お詫びに野菜を村に置いていったんですけど、なんか外で燃やしてませんでした?あれ食べるのうちだけなんですかね?」

「お前が何考えてんのかわからなかったから、念のために燃やして埋めた………そうか、あれ詫びだったんだな。」


 通じないのは言葉だけじゃなかった。

 悪意のない、どちらかといえば善意による行動でも、その意味が相手に伝わらなくて警戒心だけ強める結果になっていたようだ。


「悪かったよ。それと俺も………お袋のことについてだけは、礼を言いたいと、思ってた。だから、あー………ありがと、な。」


 声ちっさ。


 義親さんってちょくちょくお手本みたいなツンデレムーブかますから、見てて面白いんだよな………あ、睨まれた。


「えと、その、こちらこそ?」

「ふ………何だそれ、俺はお前に何もしてやってねぇぞ。お前のこと豺って呼んでたし。」

「そういえば、なんでヤマイヌなんですか?その言い方だと悪い意味なんですかね?何となく響きがお気に入りだったんですけど。」

「気に入ってたのかよ。豺には非道で残忍なやつって意味があってだな………」

「え、ひどい。」

「考えたの俺じゃねぇぞ。」


 一番心配な二人だったけど、無事仲良くなれて良かった。

 意思疎通って大事だな、本当に。





 あれ、そういえばヒューとハロルドさんはどこだ?カズ兄と哲さんはファウスト達の会話聞いて「良かったなぁ」みたいな顔してるけど、あの兄弟は日本語わからないから置き去りになってるかもしれない。


 そう思って振り返ると、笑顔のハロルドさんがインク瓶とペンのようなものをヒューの目の前で揺らしていた。ヒューはそれを輝いた目で追いかけている。


 猫じゃらしを目の前にした猫と、それを愛でる飼い主かな………?


『先に話を進めていてくれ!1分で戻る!!』


 俺の視線に気づいたヒューは俺の肩をガッと掴んでそう言い残し、ノートを数ページ破って部屋の隅に走って行った。ハロルドさんもにこにこしながらそれについていく。まじで何なんだ。


「あの、ユウト、ヒューは何て?」

「さき、はなし、すすめとけって。」

「そうですか。………えと、では仕掛けの突破ですけど、ユウト達の話だと例の板をカゲに壊させるのが手っ取り早いと思います。ここにいる皆さんは知ってるんですよね?」


 例の板ってのはあのパネルのことだな。

 ファウストとヒューには、ここでの調査結果を毎晩伝えていた。ハロルドさんにはヒューが伝えておくってさっき言ってたから、ここにいる全員に今の状況は伝わっている。はず。


「結斗達の攻撃じゃ壊せなかったってやつか。俺まだカゲって見たことないけど、危ないんだよな?」

「倒すだけなら大丈夫ですよ。すごく小さいのが一体だけ、とかなら子どもでも倒せます。

 ただ、狙った地点をカゲに攻撃させるというのはやったことなくて。この人数で囲めば何とかなりますかね?」

「村のやつらも協力するって言ってるから、人手がいるなら何人かは増やせるぞ。」


「ーー。これで通じますか、兄上?」

「ーーーー?私に聞かれても困るよ、元々通じるんだから。でも、あっちの私が驚いているから成功じゃないかな。」


 後ろからヒューとハロルドさんの声も聞こえてきた。あれ、日本語に聞こえる?

 ぱたぱたと小走りでこちらに戻ってきたヒューは、何かが描かれたページを机に広げて軽く触れた。ハロルドさんも同じようにする。


「全員、聞こえているか?この魔法陣に触れていれば、触れている者が声に出した内容が思念として周りの者に伝わるはずだ。話が翻訳されると思えばいい。

 できれば各々身に付けられる形にしたいが、これ以上細かく描くのは難しくてな………」


 ファウストに身体を返し、試しに少し喋ってみてもらう。


「どうですか?」

「わかる!これで俺も楽になるよ、ありがとう!………あれ?ヒュー?」

「………二つに分ければ………だが接続が………ーーー………」


 ヒューは空いていた椅子に座ると、顎に手を当てて固まった。完全にあの有名な彫像のポーズだ。


「こうなったらうちの弟はしばらく帰ってこないね。陣に手を触れていなくても話せる方法を考えているんだと思うから、少し放っておいてあげてくれるかな?」


 今以上に便利になるならとても助かるから、ヒューには是非とも頑張ってもらいたい。とりあえず今は皆で紙に描かれた陣を触って話そう。

 ………なんか試合前に円陣組んでるみたいな絵面になったな。


「大体の話はヒューに聞いたけれど、私達の魔法で壊せないかな、その仕掛け。威力には自信があるよ?」

「えと、ヒューの世界での威力を10としたら1くらいしか威力出ない上に、魔力も多く使うってヒューが言ってました。進めないと気づいた時に、周りに魔法をたくさん撃ち込んでみたらしいです。飛距離も出ないって。ハロルドさんも一回やってみたらいいと思います。」

「それ程差があるのか………わかった、後で確認してみよう。」


 そんな具体的な数字は初めて聞いたんですが。

 前から思ってたけど、いつも俺だけ初耳な情報多くない?俺がシキに付きっきりで訓練してもらってる間にまた二人だけで喋ってただろ、俺にも教えといてくれよ。


 魔法が多少効くとしても、魔力を使い過ぎたらカゲになる可能性が上がるので出来るだけ使わずに済ませたい所だ。


「………んでさっきの続きだけど、カゲをそのパネルに誘導する方法は?」

「魔力に惹かれる習性があるので、誘導は簡単です。その板を攻撃させるなら、自分に攻撃を引き付けて直前で避ける感じですかね、やっぱり。」

「魔力出す石をパネルの上に置いとくんじゃ駄目?ほら、花梨ちゃんが投げてるやつ。」

「あの石だと霊力、違う、魔力を吸い取るだけでほとんど攻撃しないんだよ。生き物を襲うのも、死んで制御されなくなった魔力を吸い取る為みたいなんだ。」


 へー。じゃあ誰かが囮になるのが手っ取り早いかな。


「じゃあ、俺が引き付けるよ。

 基本的には避けるだけでいいんだよね?魔術盾である程度防げるし、脚の速さと反射神経にはそこそこ自信あるよ。」

「………ユウト、危ない役なのわかってます?この作戦だとカゲ縛らないんですよ?ギリギリまで攻撃引き付けなきゃいけないんですよ?

 俺の方がカゲには慣れてるはずです、俺がやります。」


 言うほど危ない役か?っていうか、だったら尚更ファウストにはさせたくないんだけど。

 あれ、義親さんと哲さんは呆れ顔になってる? 何で?


「ファウストはともかく、そっち二人のその反応は………結斗、お前ここでも何かやらかしたな?

 自分の異常性を自覚しろっていつも言ってるだろ?運動神経が良いとか通り越しておかしいんだからな?」


 カズ兄まで。体育の実技は基本的に好成績だけど、父さんには全然歯が立たなかったよ?


「ファウストと司馬から見てもおかしいのか、良かったぁ。あの戦いぶりを見てから、俺が弱いのかと思えてきてさー。」

「あのカゲ結構強敵だったしな。そうだよな、おかしいのは結斗の方だよな………」


 口揃えておかしいって言われるとさすがに傷つくんだけど。

 それに、哲さんも義親さんもかなり強いと思うよ?パワーも強いし矢の命中率もすごいし。


「結斗、カゲは遠くから攻撃するか、何かで動きを封じてから殴るのが主流だ。前みたいな戦い方、普段はしないんだよ。お前は知らずにやってたんだろうが。」


 いや、でもこないだのあれは不可抗力じゃん?義親さんと哲さんも一緒にやったじゃん?俺だけおかしいみたいに言わないで?


「とんでもないやつだとは思ったけど、自覚なかったのか。あの時は義親を庇って怪我しただけで、お前一人なら無傷で倒せてたんじゃないか?」

「無傷はさすがに無理だし、あれは二人がいたから余裕持って勝てたんだって。それに触手の動きは単調だったし、ムラマサで切れたし」

「お前、あれ何本あったと思ってんだ、俺でも数えられなかったぞ。」

「一番多い時でも43本じゃなかった?そこそこ多かったけど、あの動きなら三桁でもいけると思うよ。同時に攻撃してくるのはせいぜい10本くらいだったしね。」


 ………なんで皆黙るんだよ。


「あー………ファウスト、結斗は囮役に最適だとは思うよ。今の話聞いても自分でやりたいなら止めないけど?」

「いえ………ユウトの運動神経が良いのは聞いてましたけど、まさかそこまでとは思いませんでした。」


 なんで皆してそんな目で見るのさ。俺はちょっと運動が得意なだけの、普通の高校生だってば。


「ユウト、一番危ないですけど、カゲを引き付ける役をお願いできますか?危なくなったらすぐ助けます。」

「了解。あのパネル、カゲの攻撃でも何回か当てないと多分壊れないから、カゲの囲い込みとか方向転換、俺がターゲットから外れた時のフォローを皆にお願いしていい?」

「はい!」

「では、ユウト君以外の配置を考えようか。皆、武器はどんなものを使うんだい?」


 男だらけでわいわいしながら作戦を立てる。皆頼もしい人達だし、きっと成功するよな。

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