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 道すがら、カズ兄にもこの世界の事を説明する。危険な世界だし、カズ兄は魔力が多いから制御できないとカゲに狙われるかもしれない。


「カズマには改めて、俺が魔力の感知と制御を教えよう。」

「わかった。よろしくな、ヒュー。」

「………頭を撫でるな、子供じゃあるまいし。そういう所は本当に兄上みたいだな。」

「えぇー、結斗はいつも撫でさせてくれるのにー。」


 やめろと言っても無駄だからだよ。


 目の前に自分がいるってのも、変な感じがするな。異世界の俺達と話している時とはまた違った感覚だ。

 普段鏡で見る顔とは左右反対だし、今の俺はファウスト視点だから背も少し高く見える。録音以外で自分の声を聞くのも初めてだ。面白いな。





 村の手前にあるコンクリート製の砦でまた止められたので、日本人が迷い込んだと説明する。同一人物云々は長くなるので、哲さんが後で説明しておいてくれるそうだ。

 村の人達は直接日本を知らないので、皆興味津々だ。後でお話するんで通してください。


「おぉ、よう来たのぅはすと殿。義親と哲は役に立っておるかの?」

「とても、たすかって、ます。ヒュー、こちら、そんちょう、ゲンノスケさん。せつめい、たのんで、いい?」

「ああ、任された。お初にお目にかかる、ゲンノスケ殿。」

「ようこそおいでなさった………はて、はすと殿のご兄弟かの?よう似ておられるが。」


 説明はヒューに丸投げした。あ、ヒューも手を握られてる。

 二人が話している間、俺はカズ兄に日本の様子を聞こう。


「にほん、いま、どんなかんじ?」

「どんなって、普通に夏真っ盛りって感じ。お前の高校はもう夏休みだし、ヒューが面白がって結斗の宿題全部やってたからあと三週間くらいなら消えてても大丈夫だ。結斗は帰宅部だしな。………捜索願は出されるだろうけど。」


 宿題無いの?ヒューありがとう!


「最近の大きいニュースだとそうだな、眠ったまま突然起きなくなった人が世界中で何十人かいるっていうのがある。少しずつ増えてるらしい。

 身体は健康そのものだし原因は不明で、情報も伏せられてたんだけどマスコミに漏れたんだってさ。感染症ではないっぽいし、何を警戒したらいいのかわからないんだよな。

 あ、近所とか知り合いにはまだそういう人いないぞ。」


 すげぇ怖いじゃん何それ。奏江さん達とか大丈夫だろうか。


「あと、最近よく穢れのもやが見えるかな。ほら、いつも母さん達が祓ってるやつ。ヒューは魔力が淀んだものだって言ってた。小さいのはいつも通り放っておいてるけど、絶対増えてると思う。うちへの依頼も増えてるし。」


 あぁ、あのもやもやか。ヒューがそう言うなら、魔力と霊力は同一で確定かな。

 でも、俺達の世界って魔力ほとんど使えないんじゃなかった?


「使えないというか、伝わりにくいだけだって。

 ヒューの世界での魔力や魔法を空気中の音に例えると、ファウストの世界では耳を手で塞いでる時くらいの聞こえ方で、俺達の世界は水中くらいだって言われた。だからちょっとは伝わるらしい。

 結斗はこの説明でわかるか?俺いまいちピンと来ないんだけど。」


 俺はこことヒューの世界で魔法使ったから、世界によって魔力の伝わり方が違うのは何となくわかる。カズ兄もここと日本で魔法使えばわかるんじゃないかな。


「そっか、俺もここでは魔法使えるんだよな!ヒューが俺は魔力強いって言ってたし、ちょっと楽しみかも!母さんに教わった攻撃術式とかはまだ禁止されてるし。」

「まりょく、つかいすぎ、あぶない。」

「あー、カゲってのに襲われるんだっけ?」

「それだけ、じゃ、ない。」


 しばらく話していると、ヒューが俺達を呼んだ。説明が終わったらしい。


「お主の事は、結斗殿と呼べばよろしいか?何とも不思議な目に遭われておるようじゃのう。日本語を話せる理由を説明しづらいと言ったのも納得じゃわい。」

「この荒野を壁が囲んでいて外がある、というのも伝えたぞ。どのタイミングで話すつもりだったんだ?」

「ちょうど、はなそうと、してたとこ。あのしかけ、こ………こを、えがいてる、のが、わかった。」

「こお?」

「弧だよ。この仕掛けは円になってんじゃねぇかって話をしてた所でお前らが落ちてきたんだ。お前が今言った話とも合うな。ファウスト………じゃない結斗、こいつは進めない仕掛けの事も知ってんだよな?」


 義親さんと哲さんが、調査結果の説明を引き継いでくれた。もうちょっとファウストの口で喋る練習しないと駄目だな。


「荒野の外、か………。栄えていて危険がないなら、そっちに村の皆を連れて行ってやりたいが………。」

「ここでも生活は出来ておるが、努力を重ねても今以上に作物は育てられんしのぅ。………外に行く方法に心当たりはあるのかの?」


 カゲに仕掛けを攻撃させれば、少なくとも幻覚は消せると思いますよ。でも、危険ですよね。


「わしのような年寄りなら、もうここで朽ちても良いと思っておる。じゃが、村の若者達にはわしの親や健一に聞いたような、豊かな生活をさせてやりたいとも思うのじゃ。自分の意志でこんな環境に産まれてきた訳ではないのじゃからのぅ。」

「源爺………」

「ひとまず、村の者を集めて今の話をしてみるわい。村としてどうするか決めるのは、皆の意見を聞いてからにしよう。

 お主らはどうする?」


 三人で顔を見合わせる。どうするもこうするも、今のところ俺とカズ兄が元の世界に帰るには壁の外に出るしかなさそうなんだよな。


 でもいざ出るとなると、外についての情報が無さすぎて気後れする部分があるのも確かだ。外が安全とも、出られれば確実に帰れるとも限らないのだから。

 今までは内側しか調査してこなかったけど、外に出られた時にもし外の人達が敵対してきたら?壁の外はとても栄えていると聞いたし、俺達なんて簡単に殲滅できるかもしれない。もしそれに日本村の人達まで巻き込まれたら………


「まずは動かなければ、何も始まらないだろう。

 実際に見てみなければ、何もわからない。わからなければ、判断することも出来ない。行ってみて、危険があるようならその対応策を考えればいいんだ。

 このまま待っていても帰れないのだから、まずは知るべきだ。たとえ俺一人でも調査はするつもりだぞ。」


 ヒューは行動力あるよな。普段から魔導研究で暴走してるだけのことはある。俺は優柔不断だから、こういう所は見習いたい。


 ちらりと源之助さんの方を見る。


「行くというならわしは止めんよ。もしお主らの選択で外から危険が来たとしても、己の身は己で守るわい。わしがお主らの立場なら、迷いなく外を目指したじゃろう。」

「この荒野に住んでるやつらは基本身勝手だ。自分と、自分の仲間のためだけに行動する。だからお前らもそうすればいい。俺達にいちいち気ぃつかわなくていいんだよ。

 ってか、知っちまったからには俺も外のこと気になるし、調べてみたい。」

「おい、出るつもりなら俺も連れてけ。外が安全なら村のやつらを連れて行けるし、駄目で死んでも口減らしになるだろ。」


 義親さん、しれっとなんて事言うんだよ。死んじゃ駄目だからな?

 次の瞬間、哲さんと源之助さんが二人がかりで義親さんをこめかみグリグリの刑に処していた。お手柔らかに、でももっとやっちゃってください。


 ………このまま待っていても帰れない、その通りだ。帰りたいのが俺の身体だけだったらもっと迷ったかもしれないが、今ここにはカズ兄もいる。


 日本村の人達には今までも仕掛けの調査を手伝ってもらってきたわけだし、外の調査にも協力してくれるなら心強い。それに、上手くいけば村人達が今後カゲに怯えずに暮らせるかもしれない。


 ヒュー達の言葉を聞いて、先程までのネガティブ思考が薄れてきた。ここの皆と一緒なら。


「俺も皆と外出るに一票、結斗と日本に帰りたいし。けどさ、ファウストの意見は聞かなくていいのか?あいつの世界の話なのに。結斗とヒューは夢で会えるんだろ?」


 そういえば、ファウストは外に興味があるとは言っていても実際に外に出たいと言っているのは聞いたことないかも。

 今日の夢でファウストとシキにも話してみよう。その意見を聞いてから決めようか、ヒュー。


「そうだな。彼らには夜にならないと会えんから、決めるのは明日にして今日は一旦帰るか。………ファウストの家では寝床が足りんな、作らねば。」

「それなんだけどさぁ、今日だけでいいから村に泊まってってくんねぇか?皆日本の話聞きたがってんだよ。

 花梨なんか、さっきから楽しみ過ぎて踊り狂ってるんだ。お前らがこのまま帰っちまったらどうなるかわかんねぇよ。ほら、あれ見ろ。」


 哲さんに言われて外を見ると、花梨ちゃんがロックミュージシャン顔負けのヘドバンを披露していた。首痛めるよ?

 その足下ではコウがくるくると回っている。花梨ちゃんの心を読み取って、自分も楽しくなったようだ。かわいい。


「簡単な寝床で良ければうちで用意できる、遠慮なく泊まって行きなさい。

 おおい深幸、二階の掃除手伝ってくれんか。」

「上使うの?泊まるんなら、敷物もいるよね。三人分?」

「そうじゃ、頼んだぞい。」

「はーい。ゆっくりしてってね。」


 長い髪を三つ編みで一つにまとめた若い女性がひょこっと出てきてすぐに消えた。

 今までどこにいたんだろう。会ったことないよな?


「………今の方は?」

「深幸はわしの孫娘じゃ。何かあったら、わしかあの子に言えばええ。今日は寝床も食べ物も気にせんでええから、ゆっくり日本の話を聞かせておくれ。」

「では、お言葉に甘えさせてもらいます。」

「ユウト、俺は日本に二週間程度しかいなかったから、あまり話は出来んぞ。その時は元の身体に戻るか?」

「そう、する。」





 その日は村の人達が集まり、ちょっとした宴になった。


 俺やカズ兄達を除いて最後に日本からここに来たのは、先日カゲになった健一さん。彼がこちらに迷い込んだ時の元号は昭和と言っていたそうだ。

 村人達の先祖は古い人だと江戸時代くらいにここに来たらしく、時々俺達が普段使わないような古い言葉がまだ生きていたりする。どうしてもわからない時は哲さんが通訳してくれた。


 日本語の本や新聞がちょくちょく見つかるそうで、若者の名前や言葉使いがわりと近代的なのはそれも理由なんだとか。「最新版!素敵な赤ちゃんの名付け辞典」が家宝のように飾られているのがシュールだった。


 この荒野、そんなに昔からずっと壁に囲まれてたってことだよな。その頃からベルトコンベアとか幻覚装置が稼働しているなら、今頃外の文明はどれだけ栄えているんだろう。外にはSFみたいな世界が広がってたりして。





 夜になり、村人達は名残惜しそうに解散していった。俺達は源之助さんの家にまたお邪魔する。

 家には二階があるものの使っていなかったそうで、俺達が村の人達と話している間に深幸さんが掃除をして使えるようにしてくれていた。ありがとうございます。


「カズにい、だいじょぶ?とつぜん、いせかい、きて。」

「正直まだ現実味がないな。結斗とヒューがいるし、意外と落ち着いてるよ。

 結斗がヒュー達と入れ替わった時の方が大混乱しただろ、大丈夫だったのか?」


 はじめは異世界転生かと思ったよ。


 確かにかなり混乱したし不安だったけど、あの時は正直怪我の痛みの方がヤバかったかなぁ。ヒューは本当に、ものすごい重傷だったから。


「あぁ、皆それぞれ大怪我してたんだっけ。

 とりあえず、俺の混乱具合は結斗達に比べたら大したことないよ。異世界の話も聞いてたしな。

 それに、これが現実でもそうじゃなくても、今やれることをやるしかない。だろ?」


 ま、それもそうか。


「がんばって、うち、かえろ?」

「ああ。とりあえず、ファウストに事情話すのは頼んだからな。それは俺じゃどうしようもないし。」

「うん。じゃあ、おやすみ。」


 あ、日記はファウストの家に置いてあるから今日は書けないな。まぁいいか。ヒューはここにいるし、ファウストにもこれから全部話すし。

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