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よし、今日は世界の狭間に無事来られた。
………頭を抱えたファウストの周りをシキがくるくると回っている。どういう状況だ、これ。
俺の気配を察知したのか、ファウストの頭がぐるんとこちらを向いた。何、怖い。
「ユウト!どうして昨日来なかったんですか!!ヒューはちゃんと来てくれたのに、ユウトがいないならまた時間がズレるからって一回だけ練習してすぐに帰っちゃったんですよ!!そもそも今俺がいる世界だけ時間ズレてるのはユウトが全然ここに来なかったからだしいやでもその前にヒューが魂抜けたら死ぬくらいの大怪我したのが原因かもしれませんけどどっちにしても何で俺がこんな」
「来ようはしましたが来られませんでしたすみませんごめんなさい!!」
俺達の中では比較的大人しい方のファウストが、丁寧な口調のまま荒れている。シキと長時間二人きりでいるのが相当ストレスだったんだな、ほんとごめん。
「ユウト君おとといぶり~、そっちの世界どお?」
「えっと、俺の母国語話す人達に会えたよ。調査も協力してくれるって。ファウストの口で俺の国の言葉話すのが結構難しいけど。」
「え、日本の人ってことですか?」
ひとしきり叫んでファウストは落ち着いたらしい。ほっ。
「日本の人の子孫だってさ。あと、内側から壁を見えなくしている仕掛けらしきものも見つけたよ。ヒューが言ってた進めない仕掛けがそうみたい。偶然だけど、少しだけ壊してきた。」
「へー、そうなんだ。たった二日で大進歩じゃない。
ファウスト君がいる壁の中は、ここからじゃ見えないからねぇ。君は昨日またここに来なかったし、私すっごく心配してたんだよぉ?」
………本当か?
「昨日も言われた通り魔力循環させて寝たんだけど、来られなかったんだよね。何かコツとかある?」
「今日君にも魔力流して、体感してもらうから。その感覚がコツみたいなものだよ。先にやっとくべきだったかもねぇ~。
ファウスト君がイライラして私に当たってくるのはかわいいし、見てて楽しかったけど。」
当たってくるのがかわいいって何。
「ユウト!今日は無事に来られたんだな。」
お、ヒューも来た。ヒューはもう自在に来られるんだっけ。
「昨日はユウトが来なかったから、ファウストがものすごい形相になっていたぞ。っくく、思い出しただけで笑える。」
「あはは、君が帰った後もすごかったんだよ~?」
「やめてくださいよ二人ともぉ………」
「まじでごめんって。練習頑張るから。」
シキがくつくつと笑いながら俺の手をとった。
早速練習するの?
「体感するだけならすぐだから、先にさっさとやっちゃおう。その後皆で話せばいいよ。色々あったんでしょ?ファウスト君とヒューバート君は昨日これやったし。」
「じゃあ、お願いします。」
「はいはーい、じゃーいくよー?」
テンション軽いなぁ。
まずはいつものように、身体の中に暖かいものが流れるのを感じる。ここまでは普通だ、俺一人でも出来る。
「今君は魂だけだから、魂そのものを知覚して操作できれば、こういうこともできちゃうの。今からやるこれを自力でやるのが目標ね。」
そう言うと、シキの手から俺にじわりと魔力が流れてきた。それとほぼ同時に、触れられていない方の手が変形していく。
待って待って何これどうなってんの気持ち悪いんですけど
「ユウト君大丈夫、落ち着いて~。害はないし、ちゃ~んと元に戻るからね~。今は、魂操作してる時の感覚を覚えるのに集中してみて。
………なんか、ヒューバート君達よりやりやすいね?魔力操作に慣れてないからかな。私の操作の方が優位になっちゃってるねぇ、気をつけないと主導権乗っ取っちゃいそう………あぁ大丈夫だよぅ、乗っ取らないから今は手ぇ離しちゃだめ~。」
だったらそんな怖いこと言うなよな!!
集中、集中。なんとなくシキが掴めと言ってる感覚はわかるけど、これを自力で出来るんだろうか。
うわぁ何か指が枝みたいになってるし葉っぱ生えてきたしどんどん伸びてるしうわぁぁぁ変な感じがするぅぅぅ
「ほらほら、落ち着いてってば~。自分の魔力感じてみて。」
「無理、だって………ん?」
「お、何か掴めたぁ?」
これ、変わっているのは形だけみたいだ。自分の魔力を感知すると、ちゃんと枝葉の先まで自分だとわかる。わかるけど。
「覚え、ました。覚えたんで早く戻してくださいものすごく気持ち悪いです!」
「おろ、何で敬語になったのぉ?」
「んなもんどうでもいいだろ!戻せって!」
「あらら、口悪くなっちゃった。はいはい、わかったよぅ。今日はこれくらいにしといてあげる。」
肩の近くまで木のように変形していた腕が、するすると元に戻っていく。ヤバい超怖かった。
「ヒューバート君は昨日時点で全身鳥に変えても、ちょっと喋り方可愛くなるだけで平気だったんだけどね。あれだけ操作と感知ができてるなら、もう自力で元の身体に戻れるんじゃないかなぁ?」
ヒューは鳥にされたのか。しかも平気だったのか。
「ああ、感覚的には戻れそうだが………少し待って欲しい。ユウトの世界で調べたい所があるんだ。」
「え、戻れるんなら早く戻れば良くないですか?」
………あー、でも俺が戻れるとしても、もう少し自分でファウストの世界調査したいし、せめてあの翻訳ノートをもう少し書いてから入れ替わりたい。ヒューの方でも何かあったのかも。
「日本でも何かあった?」
「何かあった、というか………将来カズマが継ぐという神社があるだろう。境内の森でよく人が神隠しにあうと言われている。」
「うん。」
カズ兄の先祖は元々その土地の神を鎮めて、人が連れていかれないよう守るためにそこに夜海神社を建てたと聞いた。
最近でも夜海神社に行く、と言って帰らなかった人がいるらしいのだ。他所の土地で普通に暮らしているのが発見されることもあるが、消える人は本当に忽然と消える。その人物が存在した痕跡だけを残して。
夜海神社がいつ建てられたのかは謎だが、記録があるだけでも過去あの森で数百人以上消えていることになっている。絶対入らないように、と近所の子ども達は親に必ず言われる場所だ。
今は境内にある森のほとんどが立ち入り禁止区域だが、未だに丑の刻参りをする人があとをたたなくて困っているとカズ兄に聞いた。あそこでやると本当に効くらしい。
ヒューが調べたいってことは、魔力関係で何かある場所なのかもしれない。
「あの世界では珍しくしっかりと魔力を感じたものだから、その………宮司殿に許可をもらってカズマと共に森に入ったんだ。
そこで、空間の割れ目のようなものを見つけた。遠くから覗いただけだが、割れ目の中はここのような場所に見えたぞ。」
「ってことはあの森で消えた人達は」
「世界の狭間や異世界に行ってしまったのだろうな。俺の世界にも似たような地域があるという伝承はある。」
何と。神隠しの謎がこんな形で解けるとは。
「その割れ目が森に複数あるようでな、これからカズマと割れ目の場所を確認しようという話になっている。ユウトは学校が夏期休暇に入って、時間に余裕があるしな。」
そうか、もうそんな時期か。
一ヶ月以上異世界にいるからか、日付の感覚がざっくりしてきてるんだよな。帰ってから授業についていけるだろうか。
「割れ目は閉じたり開いたりしているようで位置も一定ではないのかもしれないが、割れ目が出来やすい場所がわかればそこを何かで囲おう、と宮司殿が言っていた。
俺でもあの世界での細かい魔力感知は難しい。ユウトやファウストではまだ無理だろう。だから、場所の確認が終わるまでは入れ替わらないでおきたいんだ。」
成程、それはヒューにお願いするしかなさそうだ。
「それに………最終的に元に戻りたいのは確かだが、元の身体に戻ってしまったらなんとなく三人に会えなくなるような気もしていてな。」
「元に戻ってからも、たまにここに集まればいいじゃん。俺も会いたい。」
「俺もです。もう姉さんがいないので一人ですし。シキはいなくてもいいですけど。」
「ひどい~、私とも遊んでよ~。」
「引っ付かないでください。邪魔です。」
………シキとファウスト、逆に仲良しに見えてきたな。
「ファウスト、もう一人じゃないよ。俺、今蛇と暮らしてるから。」
「へ、蛇ですか?非常食ですかね。毒があるかもしれないから蛇を捌くのにはコツがいるって解体帳に」
「違う違う。色々あってね、知り合いも何人か出来たよ。」
三人にもファウストの世界で何があったのかを話す。こうして話してみると、ほんと濃い二日間だったな。
「その人達とはユウトでなければ話せませんから、俺が戻っても同じようには出来ないでしょうけど………俺でも仲良くなれますかね………?」
「今、簡単な単語書いた翻訳ノート作ってるんだ。それ使えば少しは意思疎通出来ると思うよ。」
「ありがとうございます。言葉通じずに奪い合いとか、しないにこした事はないですよね。」
義親さんと似たようなこと言うな。だったら考え方は近いんだろうし、意思疎通さえできれば仲良くなれると思うよ。
よし、ファウストのぼっち脱却の為にも、ノート作りもっと頑張ろう。
「進めない所についても進展はあったんだな。俺ではほとんど何もわからなかったが。」
「それは偶然カゲに襲われて、そいつが偶然装置みたいなの壊しただけだよ。」
最初に会ったのが日本人だったことも含めると、この先しばらくの運を使い果たしたんじゃないかってくらいラッキーだったな。いつか反動が来そうで怖い。
「あそうだ、カゲとの戦闘中にファウストの身体でちょっと怪我しちゃったんだよ。コウが治してくれたけど、ごめんな怪我させて。」
「いいですよ怪我くらい、俺も入院中にユウトの身体で階段から落ちましたし。あ、ちゃんと受け身とれたのでそんなに怪我はしてませんよ。」
「脚折れてるのに何故わざわざ階段を………別にいいけど………」
「カズマが階段でいちいちエスコートしようとしてくるのはそのせいか………?」
ハロルドさん達の話だとヒューはほんとに運動神経皆無みたいだから、大人しくエスコートされててくれ。今後ともよろしく、カズ兄。
「怪我を治せるコウを手懐けてくれたんですし、ちょっとくらいの怪我は気にしなくていいです。
ユウトも普段は怪我なんて気にしないでしょう?身体中古傷だらけですよね?」
あぁ………うん、あれは、昔のことだから。自分の身体だし。
「じゃあファウスト君の世界の探索と、ユウト君の世界の割れ目調査が一段落するまでは訓練だけして、入れ替わらないってことで良いのかなぁ?私は暇潰しになるから大歓迎だよー?
ファウスト君はその間ヒューバート君の世界にいる事になるけど、そっちは大丈夫?」
「はい、あっちでは魔物討伐が始まるので、俺はそっちを頑張ります。
………身体が入れ替わっちゃってるのは困るんですけど、ヒューやユウトや、姉さん以外の人達とお話するの楽しいんです。知らないこともたくさん教えてもらえて。」
ファウスト、異世界生活をエンジョイしてるみたいだ。
今までほぼ何もない荒野で生きてきたんだし、存分に楽しんでくれればいいと思う。
元の身体に戻ってからも、ファウストが一人ぼっちにならないようにしたいよな。そのためには日本村の人達にもいずれ事情を全部話さないといけないだろう。壁の外のこともだ。
………喋る練習、もっと頑張ろう。
「じゃあ、今日はそろそろ解散しよっかぁ。ファウスト君も、今日は一旦身体に帰ろう。ちゃんと明日も私に会いに来てよ?三人共。」
「………!」
「目を輝かせないでよぅ、ファウスト君。そんなに私といるの嫌なの?私だって傷つくんだからねぇ?」
ではまた明日、夢で会おう。




