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 しゃがんでコウと視線をできるだけ合わせ、話しかける。


「コウ、何であんなことしたの?二人が死んじゃうかもしれなかったんだよ?

 俺を守るためだったとしても、またああいうことをするなら俺はコウとは一緒にいられない。俺は二人にも、あの村の人達にも無事でいて欲しいから。」


 コウが慌てたように俺の腕に巻き付いてきた。そんなに締められると腕の血流止まるんだけど。


 ………触れている所から何か伝わってくる。ひとりぼっちは嫌、俺の側にいたい、俺がいなくなるのが怖い、俺に敵意を向ける義親さんは嫌い。

 これってもしかして、コウの感情か?言葉ではなく考えていることそのものというか、イメージが伝わってくる。


 昨日出会ったばかりなのに、随分俺のこと気に入ってくれてるんだな。伝わってくるのはほとんど俺に関する感情だ。


「………もしかしてコウ、義親さんが俺に敵意持ってたからいつも威嚇してたのか。」


 腕の締め付けが緩んで、コウが俺の顔を見つめる。伝わってくるのは驚きと喜び。思っていたことが俺に伝わって、とても驚いているようだ。コウが自分の意思で伝えようとしていたわけではなかったらしい。


「まだ義親さんのこと嫌い?確かに警戒はされてたけど、さっきは俺のこと守ろうとしてくれたよ?」


 コウが腕に巻き付き直す。

 今はそこまで嫌いじゃない、かな。


「義親さんにもこうやって思ってること伝えられる?仲直りしようよ。」


 そう言うと、コウは素直にしゅるしゅると義親さんの所へ向かう。言葉通じてたり感情を伝えてきたり魔力食べたり傷治したり、コウの謎がまた一つ増えたな。


「何だ、今更媚びてきたって無駄、だ………」


 コウが義親さんの足首に緩く巻き付く。それとほぼ同時に、義親さんが目を見開いた。どうやら伝わったようだ。


「どうしたんだ?義親。」

「あー………こいつは、周りにいる生き物の感情や考えを少し読み取れるんだと。」


 え、何それマジで?相手の思考が読めるとか、程度によってはチートじゃん。マンガに出てくる強敵とかの能力じゃん。

 でも確かに、コウはファウストの言葉で話しても日本語で話してもわかってるみたいだった。言葉を理解しているんじゃなくて、喋っている時の感情や考えから言っていることを読み取っていたのか。納得だ。


「どうも俺が豺を敵視していたから、こいつも俺を敵視していたらしい。触れてる相手には自分の感情も伝えられるって今知って、自分でも驚いてるってよ。

 今は俺が豺に敵意持ってないし、豺が俺達を守ろうとしてるからもうさっきみたいな事はしないそうだ。若干偉そうに言われた気がするが。」


 ………なんか、俺の時より細かく伝わってない?


「それ、その………コウ君?が喋ったのか?どうやって蛇語なんか習得したんだよ。」

「してねぇよ馬鹿、こいつの能力だ。説明しづらいが………触っている所からなんかこう、こいつが思ってる事がじわじわ伝わってくる感じだ。お前も一回やってもらえ、わかるから。」


 うん、言葉にできない謎の感覚だよね。


「痛………何だお前、そこ触んな。」


 コウが義親さんの左腕に移動し、うっすら魔力を出し始める。何をする気だ?


「………!」

「コウ、なにしてる?」

「さっき地面に打ちつけた所が、痛くなくなった。舐めなくても怪我治せるのか、お前。」


 義親さんがそう言ってコウの頭に手を伸ばすと、コウがぽとりと地面に落ちた。見るからにさっきまでより痩せている。


「コウ!」

「な、おい、コウ君どうしたんだ!?」


 慌てて駆け寄ると、コウは俺の指を咥えた。また魔力を吸っているようだ。

 今朝は俺の魔力を吸って元気になってたし、今はカゲ呼ぶのと治療で魔力を放出したから痩せて倒れたのだろうか。やっぱり魔力が食事なのか。でも果実も食べたよな。生態が謎過ぎる。


 しばらく魔力を吸うと、コウの身体は元の太さに戻った。

 するすると義親さんに近づいていく。治療は助かるけどまた痩せちゃうよ?


「もういい。大した怪我じゃねぇから、そんなに無理して治す必要ねぇよ。放っときゃ治る。」


 それを聞いたコウは、義親さんの脛にコツンと頭を当てた。その頭を義親さんが撫でる。


「まぁ、俺も豺を囮にして逃げようとしたわけだしな。今の治療も詫びらしいし、今回のことは水に流してやるよ。俺も、悪かった。………主人を守りたかったんだな、コウ。」

「♪」


 コウ、俺のこと主人だと思ってくれてるのか。そういうつもりはなかったんだけどな。


「コウ君、俺とも喋ってくれよ。動物と話せるとかすげぇ楽しそうじゃん!こっちおいで、ほら。俺は義親みたいに怖くねぇぞー。」

「うるせぇよ。」


 しゅるしゅるしゅる


「おお、ほんとに伝わってくる!けど、えぇ………」

「何て言われた?」

「あんま敵意向けられるのも嫌だけど、お前は警戒心無さすぎだって心配された………」


 義親さんは一瞬きょとんとした後、後ろを向いて震えだした。笑いをこらえているらしい。


 でも確かに、


「おれも、しんぱい。けいかい、だいじ。テツさん、かんたんに、しんじ、すぎ。」

「ファウストまで何だよ、こんなんでもちゃんと今日まで生きてきただろ?」

「蛇にまで心配されるって、お前………。花梨も無鉄砲だし、血筋なのか?」


 哲さんと花梨ちゃんは兄妹なのだそうだ。


 仲良く哲さんをイジる義親さんとコウ。この二人(?)、結構似た者同士かもしれない。





「あれ?なぁなぁ、あの辺なんかおかしくないか?」

「ん………あぁ、なんつーか、景色がガクガクしてんな。何だあれ。」


 哲さんが指差す方を見ると、風景の一部が電波障害を受けたテレビ画面のようになっていた。あそこは歩いても前に進めなくなる辺りだ。

 哲さんが駆け寄っていく。変な魔力は感じないけど、大丈夫?危なくない?


「お、おお!?何だこれ!ここの地面乗ったら動くぞ!」

「………お前な。そんなんだからコウにまで心配されるんだろうが。」


 ほんとだよ。


 地面を見てみると、確かに哲さんが上に乗って、北に歩いた時にだけ動いているようだ。ルームランナーみたいだな。


「ベルトコンベア………?」

「べる、何だそれ。これのせいで前に進めなかったのはわかるが、何に使う物なんだ?」


 地面に図を書いて、ベルトコンベアの仕組みを簡単に説明する。俺達がここより北に行こうとすると、何かで見えなくしたベルトコンベア的な何かに延々戻されるようになっていたわけか。


 もっと魔術的な仕掛けを想像してたけど、物理的に戻されてたんだな。走ってもその分回転が速くなるだけみたいだ。

 ループする空間魔法とかではないようだが、体感的には進んでいるように感じる魔術くらいは使われているだろう。ただのベルトコンベアならさすがに俺でも気づくと思う。


 目印の石、投げるんじゃなくて最初から地面に置いて歩いてたらすぐ気づける仕掛けだったな。なんか悔しい。

 でも、最初から自分で仕掛けに突っ込んで行くのはさすがに怖いじゃん。何かで突然即死とかしたら困るし。石が爆散したり消えたりしないかを一応確認してたんだよ………誰に言い訳してるんだろうね、俺。


「ここら一帯にこの仕掛けがしてあるなら、かなり大規模だな。しかも、明らかに人工物だ。」

「でも何で突然見えるようになったんだ?幻術みたいなものが解けかけてんだとは思うけど。」


 そういえばこの辺りでカゲの相手をしていた時に、何か壊れるような音がした。あの時、カゲが何か仕掛けを壊していたのかもしれない。二人にもそう伝えてみる。


「それならここに何かあるぞ。お前が言ってんのはこれの事か?」


 哲さんが指差した地面に、大きなヒビの入った四方50cm程のパネルのようなものがあった。幻覚かホログラムか何かわからないが、今まではこれも地面にしか見えないようになっていたようだ。今もまだちりちりと地面の画像のようなものが一部かかって見える。


 あの時の音はこれにヒビが入った音で間違いないだろう。音を聞いた時の位置とも大体同じだ。

 割れ目の中からは、ほんの少しだけ魔力を感じる。原理はわからないが、これが視覚や距離感を狂わせているらしい。


「ちょっと、こうげき、してみる。」

「おい、壊して平気なのか。こういう見た目のは経験上、爆発することも多いぞ。」

「だいじょぶ。たぶん、こわせない。いちおう、はなれて。」


 パネルの材質はよくわからないので、ムラマサを使うのはやめておく。折れたら嫌だし。

 触った感触はアクリル板だが、あのカゲの攻撃でヒビしか入っていないのだからかなり丈夫なはずだ。


 少し助走をつけて、脚に魔力を纏わせてパネルを蹴る。

 かなり力は入れたつもりだが、パネルはガンッと音を立てただけでびくともしなかった。

 すごく硬いな、これ。蹴りの衝撃で足がビリビリする。


「随分良い音したな、今………」

「だ、大丈夫か?足痛くなかったか?」

「だいじょぶ。おもったより、かたくて、おどろいた。」

「そんなにか。俺もやってみよ。」


 義親さんと哲さんも加わり、しばらく三人で攻撃してみた。

 ………うん、ヒビがほんの少しだけ増えたかな?三人がかりでこれだけ殴ってもその程度か。物理で壊すのは厳しそうだ。

 コウも俺達の真似か、パネルに尻尾をぴしぴしと打ち付けている。攻撃力はなさそうだけど、一生懸命さがかわいい。癒されるわぁ。


「この向こうには何があるんだろうな………。

 なぁファウスト、カゲの攻撃でこのヒビが入ったんだよな?だったらカゲをここまで引き付けて、これ攻撃させれば壊せるんじゃないか?そしたら幻覚全部消えるかも。」

「あぶないけど、いいほうほう、かも。でも、じゅんび、ひつよう。さくせんも。」

「まぁ、急ぐもんでもねぇし、そもそも壊してどうするんだって話だし、もう少し調べてからでもいいだろ。」


 義親さん達には、まだ壁とか外の話してないもんな。

 もう少し調べてみて、俺がもう少し上手く喋れるようになったらこの二人にも事情を話そう。今の片言じゃ、多分説明しきる前に俺が疲れて話せなくなる。

 あ、手紙にして読んでもらえばいいのかな………いや、俺にそんな文章組み立て能力はないし、文字を書く時も自動翻訳が少し機能しちゃうからなぁ。今朝書いた「北を調査中です」って貼り紙も、読めるレベルになるまでに30分くらいかかったし………


「でもさぁ、壁の向こうに新天地があるかもしれないだろ?もっと畑に向いてる土地とか。」

「ああ、調べることについては賛成だ。仕掛けを壊すのはその後でいいだろ。他にもこういう所はあるらしいから、そこも調べりゃ何かわかるかもな。

 ………とりあえず今日はもう帰る、さすがに疲れた。俺達はそろそろ帰らねぇと、村に着く前に日が暮れる。」


 確かに、もうかなり日が傾いている。俺の家はすぐそこだけど、日本村までは距離あるからな。


「うち、とまる?」

「いや、こことか他の進めない地点の事を帰ってジジイ………村長に聞いてみる。明日も来ていいか?やる事終わってからだから、昼よりは後になると思うが。」

「きて、ちょうさ、てつだって、くれると、たすかる。」

「俺達も気になるし、暇そうなやついたら連れてくるわ。」

「ありがと。」


 哲さんはぶんぶんと、義親さんはひらりと手を振って帰っていった。一緒に戦ったからか、今日一日で随分と仲良くなれたような気がする。

 これでファウストもぼっち脱却と言えるだろうか。いや、ファウストは日本語わからないからまだちょっと無理か。翻訳ノート作り頑張ろう。





 家に帰ると、コウが俺に巻き付いて怪我を治してくれた。怪我してるの忘れてたよ、ありがとな。お礼に俺の魔力を差し上げよう。

 ………俺から吸う魔力より、コウが使う魔力の方が明らかに多い。今朝俺から吸った魔力くらいじゃ、カゲは呼べなかったはずだ。コウの謎は深まるばかりだな。


 今日もなかなか濃い一日だった。色々あったから日記だけはしっかり書いて、さっさと寝よう。世界の狭間、今日こそ行けるかな。

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