表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/70

22

 二人は矢を十本程残した所で、三節棍とトンファーを取り出した。どこにどうやって隠し持ってたのかすごく気になるけど、今はそれどころじゃないな。


 近接戦になっても変わらず二人の連携は目を見張るものだが、二人の攻撃は触手に阻まれて本体にはあまり届かない。更に、カゲは触手を巻き付けて武器を奪おうとしているようだ。

 俺は巻き付かれてもその触手を切り落とせるが、二人の武器は刃物ではないからそれはできない。相性が悪いな。


 義親さんの足に、一本の触手が届く。ぐらりと体勢が崩れ、その隙に棍も手元から弾かれてしまった。


「………哲!先逃げろ!」

「阿呆か!逃げるならお前も一緒だ!

 おいこらこっち向け!俺が相手してやる!」


 義親さんを標的に定めたカゲの後ろ、哲さんが残り少ない矢を全て使って攻撃を仕掛けるが、カゲは背後から降る矢を意に介することもなく無防備になった義親さんに迫る。


「………!」

「義親あぁぁっ!!」


 カゲの所まであと3m。間に合ええぇぇぇっ!!


 キィン!!


 間一髪、義親さんとカゲの間に滑り込み、魔力の盾を作り出すことに成功。


「はあぁぁ………あぶな、かった………!」


 マジでギリギリだった、すっごいひやひやした!カゲと初めて戦った時より緊張した!間に合って良かったあぁぁ!!


 即時発動できないと意味がないわよ~、とローレンさんにしごかれた甲斐があったよ。気を抜いてたら突然背後から飛んでくる魔力弾、ほんと容赦なかった。


 それにしてもこの触手、想像以上に攻撃が重い。盾を張っても義親さんごと数m後ろにはね飛ばされたので、当たってたら俺でも結構ヤバかったかもしれない。


 魔力は多めに入れたつもりだけど、それでもこれか。今度はもっと多く入れよう。でもあんまり魔力を大量に使ったら、俺がカゲになるかもなんだよなぁ。体感的にはまだそんなに魔力使ってないと思うけど………ゲームによくあるMPゲージ的なものが欲しい。


「お前っ、なんで………っていうか、今、何した………?」

「だいじょぶ?けが、は?」

「俺は、問題ない。お前の方が血ぃ出てんぞ。」


 え?………あ、本当だ、頬や手の甲から少し血が出ている。背中もちょっと強めに打ちつけたっぽい。

 大した怪我ではなさそうだけど、今度ファウストに会った時謝らないと。


 義親さんはいつも通りの険しい表情だが、その瞳は揺れている。命が危なかったからか、俺が義親さんを庇ったことに困惑しているのか。


「………。」


 あ、これ多分後者だな。不慣れそうに俺の怪我を確認しだした。大丈夫ですよー。


「もんだい、ない。かすりきず。たてる?」

「………何故俺を庇った。いくらお前でも、今のが直撃したら死んでただろ。」

「おれは、よける、じしんあった。ちょくげきは、ぜったいしない。あ、あなたにも、しんで、ほしく、ない。それだけ。」

「は………?」


 義親さんの目が「馬鹿かこいつ」って言ってる気がする。何で?俺別におかしいことは言ってないよね?


「お前が蛇使ってカゲをけしかけたのかと思ったが、違うのか。」

「そんなこと、しない。コウは、あとで、しかる。いまは、あれ、たおす、さき。」


 そうか、俺が義親さんを逃がそうと囮になった時点で十分おかしいのか。この世界では「自分や仲間の命と生活が最優先、その他は排除」が常識で、俺は義親さん達の仲間じゃないから。

 だから義親さん的には、俺の行動は「蛇を使ってカゲをけしかけ、自分がより安全に逃げるという作戦だった」と考える方が自然だった。でも、俺はそうせず助けにきた。それで義親さんは混乱していると。ほんと世知辛いなこの世界。


「………わかった。お前なら蛇使わなくても直接俺達を倒せるだろうからな。とりあえず今は信じておいてやる。」


 そもそも倒すつもりなんかないんだってば。


 哲さんもこっちに走ってきた。カゲは盾に跳ね返された反動なのかこちらを警戒しているのか、その場でうぞうぞと蠢いている。


「義親!大丈夫か!?今直撃したんじゃ………!

 ファウスト、今何したんだ?お前が飛び込んできたのは見えたけど」

「ふぁ、はなし、あと。おれが、カゲ、ひきつける。ふ、ふたりは、やを、あつめて。クロスボウで、えんご、おねがい。」

「援護は良いけど、くろすぼって何だ?魚か?」

「魚?………そりゃワラスボだろ、しかもどうやって魚で援護すんだ馬鹿。」


 あぁ、横文字は駄目か。クロスボウって日本語で何だ?


「えっと………それ。その、ゆみ、みたいな。」

「弓銃のことか、わかった。

 ………おい、勝手に死ぬなよ。お前には後で話聞かせてもらうんだからな。」


 え、そうなの?何の話?


「ったく、素直に心配だって言えばいいだろ?」

「心配なんか、してねぇ。話を聞く気になっただけだ。」

「はいはい、そういうことにしといてやるよ。義親もこう言ってるし、気ぃつけろよファウスト。」

「………ちっ。」


 今のが、心配………?成程、これが所謂ツンデレというやつか。実物は初めて見た。

 男のツンデレはあんまり嬉しくないけど、少しは義親さんの信用を得られたってことかな。


 そうこうしているうちに、カゲがまた触手をうねうねと伸ばし始めている。そろそろ動き出すな。二人が安全に矢を集められるように、カゲをつれて少し離れよう。


 魔力を一瞬だけ出し、カゲを引き付ける。さっきよりもカゲのスピードがかなり落ちているから、これなら余裕を持って戦えそうだ。

 走って、避けて、空いた所に斬り込む。それをただひたすらに繰り返し、ダメージを蓄積させる。さっき二人も矢と打撃でダメージを入れてくれていたので、倒れるのはもう時間の問題だろう。


 纏う魔力が薄れ、触手も出なくなり、うっすら本体が見えてきた。そこに、矢を集めた義親さんと哲さんが矢を正確に撃ち込んでいく。

 最初よりはカゲのスピードが落ちているとは言え、まだかなり素早い。その上本体も小さいから当てにくいだろうと思っていたのだが、心配は無用だった。二人共すごい命中率だ。


「グオォォォォ…………ガアァ………」


 眉間に矢を受けたカゲから、黒い魔力が散る。

 ………犬、かな。変形や変色をしているので犬種まではわからないが、首輪をしているようだ。


 合掌。


「はぁっ、終わったぁ………本体が犬だったから、このカゲあんなに速かったのか?」

「関係あんのか、それ………。

 ってか豺のやつ、まじでやべぇな………人外の動きだった。」

「ほんとだよな、一人で大物倒せるってのも納得だ。俺達いらなかったんじゃねぇか?」


 二人は地面に座り込んで、息を整えながら話している。俺、人外の動きはできないよ?人だからね?


 ゆっくりしたい所だが、さっきから魔力感知に何か引っかかってるんだよな。数は多分5つ。魔力の感じからしてカゲではなさそうだけど、何だろう。


「なにか、くる。カゲじゃない、けど、きをつけて。」

「ん………ありゃ人だな。四人、いや五人だ。」

「ファウスト、そっち見てなかったのに何でわかるんだ?」

「それも、あとで、おしえる。」


 男性と女性が二人ずつと、小学校に上がるか上がらないかくらいの女の子が一人。険しい表情をしているが、こちらに敵意を向けているわけではなさそうだ。武器にも手をかけるだけで、まだ構える様子はない。


 義親さんと哲さんも立ち上がり、義親さんはなんと俺を背にして庇うように前に立った。あれ、ちょっとふらついてるじゃん。怪我してるなら手当てしないと。


「さがって。けが、してる。」

「うるせぇ、怪我してんのはお前だろうが。………さっきの借りを返さないと気がすまねぇんだよ、ガキは大人しくしてろ。」

「………。」


 えいっ。


「いっ………!?何すんだお前!わ、わかった下がる、下がるからそれやめろ!」


 痛そうにしている所を軽く指でつついて、強制的に後ろに下がらせる。あの義親さんが俺に背を向けて守ろうとしてくれたのは驚きだし嬉しいけど、怪我人は大人しくしててください。


 とはいえ、俺も今の戦いで体力を消耗しているし、怪我もあるので出来れば戦闘にはなって欲しくない。五人組の目的は何なのだろうか。


「ーーーーーーーーーーーー」

「ーーーーーーーー、ーーーーーーーーーー」


 わぁ、これは本当に知らない言葉だ。推測すらできない。こちらを指差して何か言っているようだ。


「いってる、こと、わかる?」

「いや全く。こないだまでお前もあんな感じだったろ。お前はわかんねぇのかよ。」

「しらない、ことば。」


 四人の大人達は各々武器になりそうなものを持っているが、女性の後ろに隠れている女の子が手に持っているのって………犬のリード?

 もしかして、俺達が今倒したこの犬を探しにきたのか?リードの柄と首輪の柄が同じに見える。この人達が飼い主だったのかもしれない。


 犬の亡骸を抱き上げて彼らに近づくと全員が少し後退り、男性二人は武器を構えた。だが、まだ向かってくる様子はない。

 彼らの数m手前に犬を降ろし、軽く手を合わせて下がった。家族で供養してあげてください。


 女の子が涙目で犬に駆け寄ろうとし、女性に止められている。女性の口から「シュヴァルツ・シュピネ」という音が聞こえた。確かファウストの通称の一つだ。本当に名指しで警戒されてるんだな。

 あれ?シュヴァルツってことは、ドイツ語か?黒って意味だよな。


 体格の良い男性が口元に布を巻き、犬をしばらく調べてから大きな布にくるんで抱き上げ、下がっていった。そのまま帰っていくようだ。


 女の子は女性に腕を引っ張られているが、まだこちらをじっと見ている。襲ったりなんかしないよ?


「Danke schön!」


 あ、今のはわかる!何に対してかはわからないけど、お礼言ってくれたんだよな。なんて返すんだっけ、前にテレビで見たんだよ。えーと、たしか、


「………Bitte schön」


 発音これで合ってる?


「!」


 女の子は一瞬驚いた後、にっこりと笑ってくれた。大人四人も固まっている所を見ると、無事通じたようだ。初めて源之助さん達の前で日本語喋った時もこんな顔されたなぁ。


 あ………今のでドイツ語話せると思われたらどうしよう。


「ーーーーーーーーーーーー!ーーーーーーーーー!?」

「ーーーーーーーーー、ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー?ーーーーーーーーーーーー」


 あーーー!!ごめんなさいごめんなさい文章は無理です、単語いくつかしかわかりません!

 首をぶんぶんと横に振ると、察して話すのはやめてくれた。変な期待させてすみませんでした。


 先程までより少しだけ柔らかい表情になった五人組は、そのまま帰っていった。女の子は何度も振り返り、見えなくなるまで手を振ってくれていた。


「………知らない言葉なんじゃなかったのか?」

「すこしだけ、しってた。さっきは、ありがとうと、い、いわれたから、ど、どういたしまして、と、いった。たぶん。」

「多分かよ。だが、わかる単語だけでも後で教えろ。奪い合いも多いが、少しでも話せれば避けられる争いもあるだろ。」

「ほんとに、すこししか、し、しらない。」

「一言だけでも、知らないよりましだ。」


 挨拶と、はいといいえ、数字が少し、あとは中二っぽい単語くらいしか知らないけどそれでいい?


「どこで覚えるんだ?そういうの。日本語も昨日より少し流暢になってるよな。」


 そう?でも確かに「は行」は結構練習したし、「にほん」は上手く言えるようになってきたかも。つっかえちゃうけど。


「………おれ、にほんに、いたこと、ある。だから、にほんごは、できる。さ………さっきの、ことばも、に、にほんで、おぼえた。」

「日本から来たのか!?日本ってどこにあるんだ?どんな所?発音とか変だし、お前は日本人ではないよな?あと」

「落ち着け、哲。豺が引いてんぞ。それに今の話だって本当かどうかわかんねぇだろうが。」


 ファウストの口でも喋り慣れてきて、そこそこ文章も話せるようにはなったが、さすがに入れ替わり云々はまだ説明出来る気がしない。あんなの言葉通じても説明難しいし、そもそも信じてもらえなさそうだ。


「………。」

「ん?」


 足元にコウがすり寄ってきた。珍しく義親さんに威嚇していないし、何となく落ち込んでいるように見える。


「そうだ、蛇!さっきはこいつのせいで俺達が狙われたんだ。怪我の治療には役立つだろうが、カゲを呼ぶならここで殺しておいた方がいいな。」


 義親さんが棍を構える。まぁ、そうなるか。


「ヨシチカ、さん。ちょっと、まって。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ