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 朝だ。世界の狭間には行けなかった。もっと魔力の扱いは練習が必要そうだ。

 ………ファウストが世界の狭間から恨みがましい目でこちらを見ている気がする。マジでごめん。


 コウはベッドのそばに少し干し草を盛って、そこを寝床にしたようだ。

 瞼全開だけど、これは多分まだ寝てるな。起こさないよう、そーっと活動開始。


 今日はいつもの水やりの後、ファウストが作ったらしい干し肉の手入れをしてみた。記憶を頼りに何とか出来たが、こんなの一から作れるなんてファウストはすごいよな。狩りはともかく、動物の解体は記憶を見ても出来る気がしないよ。


 周りにはどうせ誰もいないので、作業をしながら「は行」の発声練習をしてみる。はーひふーへほー。

 ………うーん、「は」がどうしても「ふぁ」とか「あ」になっちゃうんだよなぁ。まぁ、「ファウスト」はちゃんと言えるからいいか。ポジティブにいこう。


 しゅるしゅるしゅる


 あ、コウが起きてきた。家の階段を降りる蛇ってなかなか見ない光景だ。


「コウ、おはよう。朝ごはんにしようか。」

「♪」


 するすると近づいてくる。

 コウって俺の言葉を理解してる気がするんだよな。名前呼んだら来るし。


 まだ何を食べるのかいまいちわかってないけど、昨日あの果実食べてたからとりあえずあれで………


 かぷっ


 うおぅ、足首噛まれた。毒はないらしいし甘噛みだから痛くないけど、自分に蛇が噛みついてるっていう絵面が怖いわ。突然どうした。

 ん?………なんか、ちょっと魔力吸われてる気がする。


「コウ、一旦口離して。………ここからどうぞ。」


 足首を離してもらい、魔力を少し込めた指を差し出してみる。コウは指を軽く咥えて、また魔力を吸い始めた。あんまり大量に吸われると困るけど、何してるんだろう。


「♪~」


 しばらくすると満足したのか、指を離してくれた。吸われた魔力はそう多くはない。これくらいなら大丈夫だ。


「もしかして、コウは魔力を食べるのか?」


 くるくる回りだした。返事のつもりなのだろうか。


 一応果実も切って差し出してみたが、顔を背けられたのでいらないらしい。昨日は食べたのにな。

 とりあえず今は元気そうだし、コウの食べ物については何日かかけて色々確かめてみよう。


 ………うわ、この果実生だと渋い。





 今日はヒューが調べていた、前に進めない地点を巡ってみようと思う。何ヵ所か見つけたと言っていたし、場所の共通点とかあるかもしれない。

 一応日本村(仮)の人が来た時のために、北側を調査中と日本語で書いた紙を扉に貼っておく。あとは戸締まりして………あ、ここ鍵無いんだった。


 ヒューは人と会わないように、家の北側を主に調査していたようだ。近くの集落は全部ファウストの家より南にあるから。

 それでも人と会うことはあったみたいなので、魔力感知はしっかりやらないとね。


 記憶を頼りに、一番近い調査地点まで来た。ファウストの家がまだ見えるくらいの距離だが、ヒューの調べではこの辺りから北へ進めないはずだ。

 ファウストは「北に行っても何もない」としか思っていなかったようだ。何の収穫もない所をわざわざ調べようとは思わなかったんだろう。


 試しに目印の傷をつけた小石を、自分の前に向かって軽く投げてみる。これだと何ともない。自分もその石の所へ歩く。普通に石は拾えた。

 前に進めないなら石が跳ね返されたり、俺が石の所まで行けなかったりすると思ったんだけどな。もう少し先の地点なのか?


 ある程度歩いて、石を投げて、拾う。何度も何度も繰り返すが、特に何も起こらない。石じゃ目印にならないのか?この辺から先は魔力感知が出来てない気がするから、地点は合ってると思うんだけど。

 今度は目印をここに置いて、別の目印を持って進んでみるか。魔法や幻覚でループしてるとか、漫画やゲームでは定番の仕掛けだよな。


「………ん?」


 後ろから近づいてくる魔力を感じる。作業しながらの探知にも慣れてきたみたいだ。

 振り返ると、二人の人間がこちらに歩いてくるのが見える。俺を見てもあまり警戒する様子がないので、多分俺を知っている日本村の人。

 まだ遠くて顔までは見えないけど、コウが威嚇体勢に入ったから多分片方はあの人だろう。


「………何やってんだ、お前。」

「よう、ファウスト。遊んでんのか?」


 やっぱり。義親さんと哲さんだ。遊んでるように見えます?

 ………見えるな。


「なにか、あり、ました?」

「義親がお前を監視しに行くって言うからついてきたんだよ。こいつお前の事やたら警戒してるから、二人きりだと喧嘩にでもなるんじゃねぇかと思ってさ。」

「だからって髪掴むなよ。」

「こいつこんなだけど、ほんと良いやつなんだ。嫌わないでやってくれよな。」

「おい無視すんな、離せ。」


 義親さんの束ねられた髪を、哲さんが掴んで捕まえている。

 昨日の第一印象では何となく義親さんの方がしっかり者のイメージだったんだけど、こうして哲さんが義親さんを抑えることもあるようだ。


「こいつが妙な事を企んでないか見張ろうとしただけだろ………ある意味、妙な事はしてたわけだが。」


 うん、否定はできない。


「たしかめたい、ことが、あって。」

「扉にも調査中って書いてあったな。何を調べてんだ?」


 二人にも、ここから先に進めないらしいことを伝える。


「進んでるかどうか確かめる目印にするために石投げてたのか。でも、投げた石の所までは歩けるんだよな?じゃあずっと進んでんじゃねぇの?」

「いや、俺が見た限りではこいつはずっとここにいた。進んでるなら俺達はこいつに追い付くのにもっと時間がかかったはずだ。こいつの家からまださほど離れてねぇぞ。」


 小さくはあるものの、ここからでもファウストの家はまだしっかり見える。

 結構な距離歩いたはずなんだけどな。やっぱり前に進んでないってことなのか。


「………なぁ義親、村の遠~く西の方にも進めない所があるらしいって源爺が言ってなかったか?」

「西?俺は東って聞いたが。」


 これ、他にもあるの?


 ………シキは、ここがドーム状の何かで囲まれてると言っていた。その壁がこの進めない仕掛けの先にあるなら、仕掛けもここを囲むようにあるのかも。他にも進めない場所があるなら知りたい。


「おれは、ここしか、しらない。これが、なにかを、しらべたい。ふ、ほかにも、あるなら、そのばしょ、おしえて、ほし………っ!?」

「シャアァァァァァァァッ!!」

「うお!な、何だ、どうした蛇!?」


 強い魔力がこちらに来る!


 肌にぞわっとくるこの感じ、多分カゲだ。まだ目視では確認できないが、今は近くに岩場なんてないから昨日の作戦は使えない。早く逃げないと。


「カゲ、くる。にげて!」

「はぁ?………嫌な感じはするけど、どこにそんなの」

「哲、あれだ!平たいのがあっちにいる!」


 義親さん、目良いな。俺まだ砂埃しか見えないよ?


 ………あ、見えた。少し平たい、楕円に近い形のカゲがこちらに近づいている。

 まずいな、あのカゲかなり素早い。俺でも逃げるのは厳しいかもしれない。二人もクロスボウを構えてはいるが、地面を這うように動いているので矢を当てるのは難しそうだ。


「………ひきうける。さき、にげて。」

「いや、あんなに速いんじゃ逃げ切れそうもないし、俺も手伝うから」

「行くぞ、哲。

 ………おい、死ぬのは勝手だが少しくらいは時間稼げよ。」


 義親さんが哲さんの襟元を掴んで引っ張っていった。

 あいつ置いてくのか、と哲さんが言っているのが聞こえたが、昔からの仲間の方が大事なのは当然だよな。


 義親さんは警戒心がとても強い人だが、それはきっと仲間への想いが強いからだ。仲間を守る為の判断も早い。守るものとそれ以外との線引きをはっきりしているんだろう。


 あ、でもここを俺に任せたってことは、俺の強さは信用してくれてる?………いや、ないな。相討ちになればいい、とか思われてそうだ。

 二人の動きを考えながら戦うより楽だから、俺としては離れてくれてありがたいけどね。共闘するとか言われたら、義親さんに背後から撃たれそうで逆に怖いよ。


 さて、昨日のカゲよりは手こずりそうだけど、やるしかないな。まずは足元から狙おうか、スピードが落ちれば楽になる。まだ見えないけど、元が普通の生き物なら大抵足はあると思うんだ。


 カゲが向こうに行かないよう、少しだけ魔力を出しながら二人と反対方向に走る。………あれ、前に進んでない!?


 ブォン!


 咄嗟に身体を地面に転がし、攻撃をかわす。危な、ちょっと髪にかすった。

 ここから北側には進めないんだった、調査してた所なのに忘れてたよ。たまにこういう馬鹿やらかすよなぁ、俺。これだから脳筋って言われるんだ。


 えーと、今俺は進めない場所を背にして追い詰められているような形だから、逃げるなら横しかない。まずは広く動ける所に行こう。


 カゲは様々な太さの触手のような物を次々と伸ばし、鞭のように叩きつけてくる。

 なんか、攻撃方法が意外だなぁ。普通に突進する方がスピード活かせて強いんじゃない?手数が欲しかったの?


 ブォン ヒュッ


 ムラマサで触手は切れるが、次から次に生えてくる。触手の数はそこそこ多いけど、動き自体は単調だから避けるのは簡単だ。今のところ、縄が多いダブルダッチくらいの感覚である。

 ただ、太い触手が地面を叩くとドカンと重い音がするので、直撃は避けたい。当たり所が悪ければ一撃で動けなくなりそうだ。


 ヒュッ パキン!


 ん、何だ今の音。ムラマサは………折れてないな、よかった。


「グオォォォォォォォン!」

「!」


 カゲが方向を変えた!俺もそっちに突然強い魔力を感じたが、あっちには義親さんと哲さんがまだ見える距離にいる。

 まさか、もう一体カゲが来たのか?たとえそうでなくても、こいつが向こうに行ったら二人が危ない!


「シャアァァァァァァッ!!」


 って、強い魔力出してるの、コウかよ!?カゲが増えたのよりはましだけど、あいつ何やってんだ!!


「何しやがんだ、この蛇!」

「来るぞ、義親走れ!」


 俺もカゲを惹き付ける為に魔力を出すが、コウもまだ魔力を出しているのでカゲがターゲットを変えない。あっという間に二人は追いつかれてしまった。


「………義親!」

「わかった!」


 二人は逃げ切れないと判断し、迎え撃つことにしたようだ。左右に分かれてカゲを挟み込み、動き回って撹乱しながらクロスボウで矢を撃ち込んでいく。


 二人の息はぴったりだ。向かい合って矢を撃っているのに、絶対にお互いの矢は当たらないように動いている。

 でも、矢は半分以上カゲの触手に弾かれてるな。二人の矢が尽きる前に追いつかないと。


 しゅるっ


 走ってカゲを追いかける俺の肩にコウが飛び乗ってきた。そこからするすると下りると、脚を強く締め付ける。

 俺が二人の所に行くのを止めようとしているみたいだ。確かに、俺だけが逃げることを考えれば今がチャンスだろう。


 ………コウはずっと義親さんの近くで魔力を出していた。カゲの注意を俺から逸らし、義親さんを狙わせたのか?俺をカゲから守る為に。


「コウ。行かせて。俺は、あの二人を見捨てて逃げるつもりはないよ。」


 ギュウゥゥゥ


「俺を守ろうとしてくれたのかもしれないけど、俺はやられないよ。倒す自信もある。この身体で無茶はしないし、ちゃんと無事に帰ってくるからお願い、行かせて。」


「………。」

 しゅるる


 ………離れてくれた。やっぱり言葉わかってるよな?


「ありがとう、コウ。行ってくる。」


 二人の矢は残り少ない。早く行かないと。

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