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 健一さんのカゲは倒せたし周りには何もいないので、今はゆっくりできる。

 四人は泉で水を汲みなおし、水の容器を載せていた台車に健一さんの遺体をそっと乗せた。上から布を被せておく。


「ざっと見てきた。近くに他のカゲはいない。」

「そうか。ご苦労、義親。」


 ファウストとは言葉が違うけど、この人達もあれのことはカゲって呼んでるみたいだ。パッと見は影に見えるからかな。


「さて、村に戻るか。豺………ファウスト?こっちだ。」

「やまいぬ、でも、いいです。わかる、から。」


 するっ


 ん?何かが足首に触れた。


 あぁ、蛇か。ごめん、すっかり忘れてた。ちゃんと逃げてたんだな、よしよし。

 蛇は俺の足元に来ると、足首をしきりに舐め始めた。見てみると、そこにちょっとした切り傷ができている。

 ………こいつが毒蛇だったら、傷から毒入って死ぬんじゃ?


 慌てて蛇の頭を掴んで引き離す。ヤバい、傷口早く洗わないと………あれ?

 さっきより足首の傷が明らかに薄くなって、血も止まった。傷の位置がかろうじてわかる程度だ。


「治してくれたのか?」

「♪」


 当然返事はないが、すりすりと俺に甘えるような仕草をしている。かわいい。

 ………なんか、ちょっと痩せた?


「もしかしてこの子、クスリヘビ?前におじいちゃんが話してくれたよね。」

「クスリ、エビ………?」


 あ、「へ」が言えない。


「海老なわけねぇだろ、蛇だよ。

 そいつが舐めた傷が瞬く間に治ったって話だけど、警戒心が強いとも言ってた。どうやって手懐けたんだ?」

「すこし、たべもの、あげたら、ついてきた。どく、ない?」

「無いから安心せい。ほれ、行くぞ。」


 良かった。ファウストの身体を死なせちゃったら大変だ。


 蛇は当然のように俺についてきている。お前、本当に警戒心強いのか?毒蛇じゃないと聞いてほっとしたけど、どこまでついてくる気だろうか。


「?」


 また首を傾げている。うん、かわいいからいいや。





 何故か源之助さんに手を引かれ、さっき見えたコンクリートの建物までやって来た。俺、子ども扱いされてる?

 最初は警戒モードだったが、源之助さん達が事情を説明してからは一転して大歓迎された。健一さんの家族だという人達に至っては、泣きながらお礼を言ってきたくらいだ。

 健一さんを手にかけた罪悪感はちょっと軽くなったけど、そんなあっさり信じて大丈夫?こっちが軽く引いちゃうレベルだよ?


「わしが連れてきたからじゃろう。わしは皆に信頼されとるからのぅ。」

「自分で言うなよジジイ………ってぇ!」

「ジジイの拳を避けられんようではまだまだじゃの。ほっほっほ」


 あ、源之助さんそんなキャラなんだ。ちょっと意外。


 蛇は蛇で愛嬌を振り撒き、すっかり人気者になっている。何故か義親さんにだけは冷たいんだけど、何が嫌なんだろ。

 というか、ずっと蛇って呼ぶのもな。今後もついてくるのなら、何か名前考えてやらないと。


 コンクリートの建物より少し先に、建物が複数建っていた。ここがこの人達の村。その中でも一番奥の、比較的大きな家に案内される。

 この大きな家は状態が良いものをそのまま使っているらしく、畳がない以外は純和風だが、周りの家は材料を集めて自力で建てたそうだ。言われてみると確かに、壁や屋根の材質が滅茶苦茶だ。


「儂の家じゃ。大したものはないが、ゆっくりしていきなされ。」

「ありがと、ござい、ます。」


 源之助さんはここの村長で、一番の物知りらしい。今の村民は20人程度、全員日本人だそうだ。


「さて、聞きたいことがあると言うておられたな。礼になるかはわからんが、答えられることであれば何でも答える所存じゃよ。」

「………なぜ、てをにぎる?」

「ほっほっ、気にしなさんな。親愛のしるしみたいなものだと思ってくれればええ。」


 気になるわ。逃げないように、とか?そのわりには握力が優しいけど。

 ………ちょっと骨ばっているけど暖かい。おじいちゃんの手ってこんな感じなのかな。


「まず、なぜ、ここのいと、ひ、ひと、にふぉんご、は、はなすか、ききたい。ここ、にほんか?」


 日本語って発音難しいんだな………特に「は」行。


「焦らずゆっくり話せばええ、わしは逃げたりせんぞい。

 この村の者は、日本からここに落ちてきた者と、その子孫での。健一が死んだ今となっては子孫しかおらん。

 日本語で話してはおるが、わしを含め皆日本の事はほとんど知らんのじゃよ。お主はどこで学んだ?」

「あー………はなす、うまく、できない。せつめい、むずかし。」

「左様か。まぁ、話が通じるだけでも助かる、細かい事情は気にせんよ。聞いてみただけじゃ。」


 このカタコトで一連の事情説明は至難の技です。


 ここの人達はヒューの世界で言う所の、迷い人の子孫らしい。迷い込んだ人がここで子供つくったのがすごいな。こんな所での子育ては大変そうだ。


 ………あ、そうだ。


「あの、カリン、なげてた、いし、なに?」

「あの石はある程度霊力を込めると、込めた霊力を激しく放出する性質がある。カゲは強い霊力に惹かれるようじゃから、上手く使えば逃げる時間を稼げるぞい。」


 やっぱりそんな感じか。俺が魔力出したらカゲ釣れたしな。

 それと、ここの人は魔力を霊力と呼ぶらしい。やっぱり、魔力と霊力は同じものっぽい。日本では俺も霊力って呼んでたから、こっちの方が馴染みあるな。


「おれ、なかま、いない。わからない、こと、たくさんある。ここの、ひとと、きょうりょく、したい。

 できるだけ、おれの、しってること、ふぁ、はなす。だから、おれが、しあ………しらないこと、おしえて、ください。」


 うー、長文はキツい。息切れしそう。


「情報の共有をしたい、ということかの?それならこちらからお願いしたいくらいじゃ。よろしく頼むぞ、少年よ。」

「よろしく、おねがい、します。いま、ぁ、はなしたい、こと、ある。いいか?」


 俺は、ヒューに聞いたカゲになるメカニズムを源之助さんに話した。魔力が減っている状態でカゲに近寄らないようにすれば、カゲになってしまう人は減らせるはずだ。

 前に進めない箇所があることについては話していない。まだ不明点が多すぎるし、まだ俺が自分で確認したわけじゃないので説明しづらい。


「ほぅ。その情報が本当ならば、早く皆に伝えねばな。カゲになるのも、カゲになった同胞を止めるのも、つらいものじゃからのぅ。」

「そいつの言う事、信じるのかよ。」


 長髪のお兄さん、義親さんが話に入ってきた。彼は俺をかなり怪しんでいるようだ。まぁさっき会ったばかりだし、怪しまれるのは仕方ないと思う。

 というか、俺の方も義親さんに後ろから刺されるんじゃないかとずっと警戒しているのでお互い様である。


「騙し、誘い込み、嵌める。卑怯な手も使う、ずる賢い野郎だから豺って呼んでたんだろ。

 それに、いきなり言葉が通じるのもおかしい。うちの村から消えたやつ、こいつが連れてったんじゃねぇのか。」


 ファウストは一体何をしたんだ?カゲや動物になら確実に倒すための罠は確かによく使ってたみたいだけど、人には基本的に罠仕掛けてないよな?


 相手がしつこく殺そうとしてくる時は、自分とお姉さんの身を守るために人を殺したことも確かにあるみたいだ。

 でも、基本的に来る者からは逃げ、去る者は追わずを貫いていた。


「儂は信じると決めたぞ。生き抜くために策を凝らし、敵対する者を倒すのは悪いことか?儂らとて、言葉の通じぬ者達を見捨て、命を奪ったことくらい何度もあるじゃろう。

 話し合いができ、腕も立つ彼が協力したいと言っておるのじゃ。敵対するよりは村のためになろう。」

「村の中で暴れたらどうするんだよ。誰も止められない。」

「外から攻められたとて同じことじゃろうて。儂が責任をとる。はうすと殿は大丈夫じゃ。」


 言いづらいか。豺でいいですよ。


 ………源之助さんはすごく友好的だけど、俺が村人の立場なら義親さんに賛成なんだよな。自分で言うのもだけど、得体が知れない人物じゃん。村に招かれただけでも結構驚きだよ?


「なぜ、おれを、しんじる?うたがう、あたりまえ、です。」

「儂は、触れている者の発言の真偽や敵意がなんとなくわかるんじゃよ。無意味に貴殿の手を握っておったわけではないぞ。」

「は?おい、そんなの聞いたことねぇぞ。」

「言ったら義親は触らせてくれなくなるかと思ってのぅ。村人の半数くらいは知っておるぞ。ほっほっ」

「………俺は別に、村長に嘘はつかねぇよ。」


 ヒューが目で見ているという魔力の揺らぎを、源之助さんは触れることで感じているのかもしれない。だから俺が言ったことを信じられるのか。


「まぁそういう事じゃ。定期的に会って、情報を交換する形でええかの?貴殿一人なら、村に住んでも構わんぞ?」

「いい、いえに、かえる。なにかあれば、あいにくる。」

「あいわかった。よろしく頼む、はすと殿。」

「………やまいぬで、いい、です。」





 源さんと義親さんが村の外まで見送りに来てくれた。蛇は相変わらず俺についてくるようだ。


「………俺はまだお前を信用したわけじゃねぇからな。妙な真似したらただじゃおかねぇぞ。」

「けいかい、ひつよう。まだ、しんじなくて、いい。」

「シャアァァァァァァァ」


 こらこら。何でお前はそんなに義親さん嫌いなの?


「しつれい、します。なにか、あれば、うちにきて。」

「気をつけてのぅ。お主は何でも一人でやりそうじゃが、人手が必要なら力を貸すから言いなさい。」

「………。」


 義親さんの視線が痛いなぁ………


 二人に見送られながら、俺は村をあとにした。

 途中の泉で目的の一つだった水を汲み、何事もなく帰宅。家に着いた時はもう日が沈むぎりぎりだった。





 蛇は当然のように家にあがってきた。住み着く気満々だな。蛇なんて飼った事ないけど、何が必要なんだろう。まぁ元々野生だし、放っておいてもすぐ死んだりはしないか。


 ………とりあえず、こいつの名前だな。帰り道はずっとそれを考えていた。


「なぁ、名前さ、「虹」って書いて「コウ」とかどう?」


 こいつの鱗は、日の光を浴びてたまに虹色に光るから。あと単純に呼びやすい。


「これからお前のことはコウって呼ぶな。よろしく、コウ。」

「♪」


 まぁ蛇だし、犬みたいに呼んだら来るってことはないと思うけど。


 それと、やっておきたいことが増えたので、新しいノートと原理がよくわからないペンを用意する。何故か冊数はかなりあるし、ファウストの許可ももらっているので遠慮なく使わせてもらおう。


 一冊はヒューの世界でも書いていた、日記に使う。またいつ入れ替わってもいいように。

 もう一冊ノートを出し、ファウストの言葉と日本語の対応表を作る。急にヒューやファウストと入れ替わった時、彼らが簡単な単語だけでもわかるようにしておきたい。肯定、否定、指示語がわかるだけでもだいぶ違うはずだ。

 それが終わったら寝室の絵本の日本語翻訳でもしよう。語彙は多い方がいいだろうし、絵がついててわかりやすいと思うんだよね。


 一気に書くのは大変なので、これは少しずつ作っていくことにした。今日はここまでにして、ご飯食べて身体拭いて、魔力感知と操作の練習をして寝ることにする。予想以上に色々あった一日だったからさすがに疲れた。

 ファウストのお姉さんのカゲは………じっと固まって動かない。昨日からずっとあんな感じだ。


 戸棚の奥で見つけたゼンマイ式の時計を見ると、22時を回った頃だった。太陽が一番高い時を12時に合わせただけなので合っているかどうかわからないけど。

 0時に待ち合わせって言ってたけど、早くてもいいかな。


 身体中の魔力を感じながら、あの空間に行くイメージをして、目を閉じる。行けるといいな。

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