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相変わらず何もない、だだっ広い空間。俺が二日連続で世界の狭間に来られたのは初めてだ。
ファウスト発見。おーい。
「ユウト!会えて良かったです!身体どうなってますか?俺、今度はヒューになってしまったみたいで………
ヒューの身体、事故から一ヶ月くらい経つのにまだ怪我が痛みますね。」
ってことは、ヒューは俺の身体にいるな。誰も元に戻れなかったのか。
「俺はファウストの身体にいるよ。」
「そうなんですか………一人くらいは元に戻れたかと思ったんですけど。どうしてまた入れ替わったんでしょう?今度は大怪我とかしてないですよ、俺。」
「俺もしてないよ………」
特に理由なんてなくて、ただランダムに入れ替わってるだけだったりして。
「あ、あの日記っていうの、ユウトが書いたんですよね?ヒューとしての状況確認するのにすっごく助かりました、ありがとうございます!」
それは良かった。あの日記風メモ、ステラがちゃんと渡してくれたみたいだな。
「今日はほとんどそれ読むのと、メイドさんとお兄さんとお話するので終わってしまいました。」
「一応ヒューに向けて書いてたんだけど、役に立ったなら良かったよ。」
「こんな風に突然入れ替わるなら、俺もああいうのを書いておいた方がいいでしょうか。お互いの記憶も全部は見られませんから。」
「うん、あったら助かるかも。」
元に戻って入れ替わらないのが一番だけどね。
「ファウストの世界でも何かに書いとくよ。メモとかある?」
「えと………一階の戸棚に、俺がたまに破って着火材にしてるノートがたくさんあるんで、それ使ってください。ペンも確かまだ二箱くらいあります。」
「ふたはこ」
「ペンがたくさん入った箱がたくさん落ちてたので、壊れてなさそうなのだけ選んで拾ってきたんです。書き間違えた時に消せる白いペンもあったはずですけど………んー、どこにしまいましたかね………」
「探せば結構何でもあるよね、あの家………」
「ユウトー!ファウストー!珍しく全員連続で会えたな!」
あ、ヒューだ。珍しくっていうか初めてだよ。
「ヒュー、一応聞くけど俺の身体にいるんだよな?」
「ああ、そうだ。カズマ殿は本当に兄上そっくりだな!話には聞いていたが、やはり驚いたぞ!」
そっか、ヒューは知り合いの同一人物と会うの初めてだったよな。
あれ?ヒューもファウストもぼっちで、俺もそう友人多い方じゃない………うん、これ以上考えるのはやめよう。
「おーーーい!そこのお三方ーーー!元気ぃーーー?」
シキがあらわれた!
どうする?
たたかう
まもる
どうぐ
▶️むしする
「ちょっとー!スルーしないでよ!ちゃんと用事あって来たんだからね!」
「何ですか?また前みたいに無駄話するなら、今度こそ顎の関節外しますよ?」
「それはやめてあげてファウスト………」
さらっと怖い事言わないでください。しかも今度こそってことは、前にも同じこと言ったのか。
庇護欲をそそる弟系の見た目と丁寧な口調なのに、時々結構な過激発言するよなぁ………いや、産まれた時からサバイバルだとこうなるのかな………魂は俺達と一緒なんだし………
「君達の魔力感知と操作、私が練習を手伝おうと思ってね。上手くやれば、ついでに世界同士の時間合わせも出来そうだし。損はさせないよ~?」
シキは全く気にしていないようだ。メンタル強い。
って、世界同士の時間合わせ?何それ。
「君達の世界、元は同じだから暦も同じなんだけど、君達が最近ちょいちょい時間止めちゃってるからズレてきてんの。普通の魂はここに長居出来ないから、こんなにズレる事はほとんどないんだけどねぇ。」
「元は同じ?」
「そそ。んで、君達には一人ずつここに留まってもらって三つの世界の時間を調整して、その間私が魔力操作の練習見てあげようかと思って。どお?スペシャル授業だよ?君達になら超特急コースで教えられそうだしぃ」
ストップストップ!俺の理解力が追いつかない!
「ユウト、シキが何言ってるかわかりますか?
俺、もっとカズマさんに勉強教えてもらわないといけなかったですかね。」
ファウストも隣でこてんと首を傾げている。
一応義務教育を受けている俺でもわからないから、勉強は関係ないと思うな。
「心配するな、俺もわからん。
元は同じ、ということは………どこかで歴史が分岐した世界といったところか?」
ヒューでもわからないのか。
でもさすがは研究者、シキの話を聞いただけですぐに自分なりに理解しようとしているようだ。
「うん、ヒューバート君正解。世界ってのは、選択がなされることによって分裂するものらしいから。君達がいる三つの世界も大元は同じ世界ってだけだよ。
あ、あんまり細かいこと聞かないでね?私も詳しくは知らないから。」
じゃあ、俺の世界も大昔は普通に魔法あったのかな。
ヒューの世界が俺の世界の影響を少し受けているのかと思っていたが、大元が同じだから似ているという所もあるようだ。
「時間がズレてきているというのはどういう事ですか?何か困ることあります?」
「まぁ、別に不都合はないよ。放っておいても共鳴してじわじわ揃っていくし。
でも、その途中で皆の睡眠時間がズレるでしょ?ここに来る時間は出来るだけ揃えておいた方が、偶然でも皆が元に戻る確率上がるかなと思っただけ。入れ替わっちゃった時の混乱も少ないしね。
あくまでもメインは君達の訓練だよ~。また入れ替わっちゃったんでしょ?今のままだと、元に戻れてもまた何かの拍子に入れ替わる可能性があるからねぇ。自分の身体に魂固定できるようにならないと。」
成程、確かに。自分の身体に戻れば万事解決、じゃないんだ。また入れ替わったら意味がない。
「俺達がここにいる間は世界の時間が止まる、という話は前に聞いたが、何故それがズレるんだ。全ての世界の時間が止まっているわけではないのか?」
「正確には、世界の狭間に来た生きてる魂が最後にいた世界だけ時間が止まるんだよ。全ての世界が止まるなら、私がここにいる限り君達の時間も止まっちゃうじゃん?
私は自分の世界に帰れないんだって言ったでしょ。ずーっとここにいるんだよ?」
??? もうちょっとわかりやすくお願いします。
「ヒューバート君とファウスト君はほとんど同じ位の頻度でここに来てたけど、ユウト君だけあまり来なかった。二人だけで話してた間も、検証のために二人が丸一日ここにいた時も、ユウト君がいた世界は時間が普通に進んでたんだよ。
そうだねぇ、現在の状況を言えば、ヒューバート君の出身世界だけ今はぴったり五日くらい時間が進んでるかなぁ~。」
わかるような、わからないような。俺だけがここにいない時は俺のいる世界の時間だけ進むから、昨日まで俺がいたヒューの世界の時間が他二つの世界と比べて進んじゃってる………って事かな。
「ユウト君だけあまりここに来られなかったんじゃなくて、ユウト君と二人の寝る時間が大きくズレちゃってたから会いにくかっただけだよ。
ユウト君もたまに一人でここに来てたけど、その時はすぐ身体に魂が帰っちゃって、記憶にあまり残らないみたいだね。最近また皆が寝る時間が揃ったから三人で会えてるんだと思うよ?知らんけど~。」
何だその急な関西弁。
「あれ?話の最後に知らんけどってつけるの、日本で流行ってるんじゃないの?」
「流行ってるとは聞いたことないけど………それどこ情報?」
「テレビでやってたよぉ?話の「オチ」につけるんでしょ?知らんけどって言えば、相手は知らんのかい!って返してくれるんだよね?」
「それは関西のノリが良い人限定だよ、多分………」
ツッコミが欲しかったのか。
………シキが鬱陶しいのって、単に寂しくて構って欲しいだけなのかな。自分の世界に帰れないってことは、基本ここでずっと一人なんだろうから。
「ユウトは入れ替わってから何日か昏睡状態だったと言っていたな。その間に俺達だけで何度も会っていたから、その分時間がズレてしまったという事か。」
「昏睡状態って、気を失ってることですよね。だったらむしろ魂抜けてここに来そうですけど。」
「む、確かにそうだな。だが実際来なかっただろう。」
ヒューとファウストは二人で話を続けている。俺もそっちに混ぜてくれ。
たまにはちゃんとシキの相手してあげた方がいいかな、とは確かに思ったけど、一人で相手するのはやっぱり疲れるんだよ。
「昏睡状態でも魂抜けるとは限らないからねぇ。」
あ、俺が行く前にシキが二人の話に加わりにいった。
「むしろあんな大怪我した上に魂まで抜けてたら、それこそ数日も経たずに死んでたんじゃないかなぁ。健康体でも長く魂抜けてると弱っちゃうから。」
「それほどの状態だったのか。なら、今俺が生きているのはユウトのおかげだな。」
よく生きてたなってくらいぼろぼろだったからね、ヒューの身体。骨出てたらしいし。
「また話が逸れちゃってるねぇ。時間調整はこっちで勝手にやるから気にしなくていいよ、ほぼ自己満足だし。
私がやりたいのは君達の、魔力操作の訓練なんだよ~。」
そうでした、忘れてた。
シキは言わずもがな、俺もわりとすぐ話逸れちゃうし、ヒューは気になる事を聞くと話題をどんどん広げちゃうし、ファウストは多少話が逸れてもなんだかんだ最後まで聞いちゃうから止めるやつがいないんだよな………
昨日のシキみたいに、重要な話なのに大幅に逸れるとかだったらさすがに修正するけどね。一つの議題を話し続けるのには向かないメンバーが集まっちゃってるんだ。
俺達の話の軌道修正をしてくれるメンバーを募集してます。
「私が一緒にいれば、今の君達でも長くここにいて訓練できるよ~、魂の拡散を防ぐ道具持ってきたから。ヒューバート君はもうかなり上手いから、そんなに練習しなくてもいいかもだけどね。多分もうすぐ自力で魂感知できるようになるよ。
全員がこれをできるようになれば、それぞれ元の身体に戻れると思う。」
「訓練って何するんですか?教えてもらえれば、自分の世界でもできる訓練ですか?」
………ファウスト、できるだけシキと一緒にいたくないんだろうなぁ。
「私が君達に触れて魔力を流して、感知と操作の感覚を体感してもらうの。感覚さえ掴めれば、君達ならすぐできる。自主練習もして欲しいけどねぇ~。」
「………そうですか。」
そんなにがっかりしないであげてよ。魔力操作教えるって言ってくれてるんだから。
「他人の魔力を流すだと?そんなことをして大丈夫なのか?」
「ちょぴっとしか流さないし、目的は君達の魂を動かすことだよ。感覚を知って欲しいの。
私の専売特許だから、良い子は真似しちゃ駄目だよ?君達にしか使えない方法だしね。」
前にも、俺達の魂は丈夫だとか聞いたな。だからこそできる荒業って所だろうか。………ほんとに大丈夫か?
「今、ヒューバート君の世界にいるのはファウスト君だよね。よぅーし!まずは君からだ!ついでに世界の時間合わせるから、とりあえず今日はファウスト君一人だけ残ってね。明日まではここにいてもらおうかな?」
「………よろしくお願いします。」
あ、ファウストが諦めた。無表情にうっすら哀愁を漂わせている。訓練はして欲しいけどシキと二人きりは嫌なんだよな、わかる。ごめんな、世界の時間ずらしちゃって。
「あと、ユウト君とヒューバート君も出来るだけ毎日ここに来てね、訓練するから。0時に夢で待ち合わせでおっけー?」
「自分の意思で来られるものなのか?」
「ヒューバート君は魔力操作上手いから、今ならほぼ百発百中来られるよ。ユウト君はまだ微妙だけど、強くここに来るイメージをしながら、さらに自分の魔力を感知しながら眠ったら多分来られる。君も着実に操作上手くなってるから、その調子で頑張れ~。
慣れてきたら時間も調整できると思うよ。0時ぴったりに来る、とかね。」
イメージする程度で来られるの?………まぁ、頑張ってみますか。俺も皆に会うの楽しみにしてるし。あの世界寂しいし。
「今日はそろそろ身体に帰った方がいいかな?じゃあお二人さんは、また明日ねぇ~!ファウスト君は練習頑張ろ~!」
「………!」
ファウストが涙目でこっち見てるけど、ごめん。愚痴は明日聞くから。




