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とりあえず今いた廃墟、もとい、ファウストの家の中と周りを回ってみよう。
家の造りは、テレビでよくみる外国の一軒家って感じだ。おそらく木造の二階建てで、何度も補強されたらしい低めの柵に囲まれている。この辺りにはこれしかまともな建造物がない。
二階の大きな一室は屋根が抜けていて、そこから入る日光を利用して食べられる植物を色々と育てているようだ。プランターのようなものがかなりの密度で並べられている。外に植えると動物や他の人に取られる可能性が上がるからこうしているらしい。
極々稀に屋内でも取りに来るやつはいるようだけど、ファウストには盗難という概念がないみたいだ。ただ見つかって、取られたというだけ。そもそもここまでくる人がほとんどいないみたいだから、防犯は必要ないんだろう。
あと、この部屋には一階から床をぶち抜いて一本の木が生えている。邪魔じゃないかとも思ったが、この木にも食べられる実がなるから敢えて育てているようだ。さすがに生えてる木は盗まれないしな。
その隣の小さい部屋にはタンクが置いてあった。
タンクと呼ぶには少し小さい、蛇口みたいなのがついてるやつもある。人数が多い運動部とかで使われてる………あれ名前何て言うんだっけ、ウォータージャグ?
大きい方のタンクには天井から続く管を通して、雨水を貯めているらしい。ファウストの記憶だと、主にこの雨水と近くにある小さな泉の水を生活に使っていた。
あれ、シキがここはドームの中とか言ってなかったっけ。雨は降るのか?………空も雲も太陽も見えてるな。シキは壁と魔術で囲まれてるとか言ってたから、実体のある天井じゃないのかもしれない。
一緒に小さな濾過装置らしきものと古いカセットコンロが置いてあるので、この部屋で水の濾過と煮沸をしているのだと思われる。こんな所でお腹壊したら大変だもんね。
あ、点火は魔法でやらないといけないのかこのコンロ。着火する部品が壊れてる。
カセットボンベはコンロと一緒に段ボール箱ごと発見したものらしく、ストックはかなりある。しばらく無くなることはないだろう。主に使っていたのはお姉さんで、ファウストは大抵魔法のみで煮沸してたみたいだ。
ボンベがなくなっても、ファウストは特に困らないんだな。俺はまだ魔法下手だから、必要な時は使わせてもらおう。ちょうど良い火力でキープするの難しいんだよ。
次は一階に降りてリビングを見てみる。家具は俺の世界にあっても違和感のないデザインで、動かないがテレビやエアコン、電子レンジもあった。パッと見る限りでは、ぼろぼろなことと木が生えていること以外はごく普通の居間だ。
色々漁っていると、服や大量のテグスのような糸、解体帳と書かれたノート数冊などが何故か冷蔵庫に入れてあるのを見つけた。電気がないし使い方もわからないから、密閉性能が高めの戸棚だと思われているらしい。シュールだ。
一階奥の方にある扉を開けてみると、中からは西洋の騎士が装備するような剣や鎧、読めない文字が書かれたお札のようなもの、踊り子が着るようなセクシー衣装、使い道のわからない謎の円盤、曇った水晶玉、金属で出来ているらしい謎のカードなど、それはもう色々なものが出てきた。
状態の良い日本の刀を見つけてにやついていると、隣に古い提灯も置いてあった。時代劇でよく見る「御用」って書いてあるやつ。昔の物にしては綺麗過ぎるし、撮影用の小道具かな。でも刀は本物だ………この提灯も本物で、歴史的な価値があったりして。日本に持って行く方法がないから意味ないけど。
ファウストは使えるものや使えそうなもの、個人的に気に入ったものなどをこの部屋に集めていたようだ。
提灯はいらないと思うけどね、手回し発電の懐中電灯が何個かあるから。
ファウストの記憶によると、この家そのものも突然異世界から現れたもののようだ。生活には問題ない程度だが、土台から少し傾いている部分がある。
家が傾いてると体調崩すんじゃなかったっけ。ファウストは大丈夫なのかな。
家の敷地辺りだけ地面の色が違うので、おそらく周りの地面ごと世界の狭間を越えたんだろう。異世界から物が落ちてくると聞いてはいたけど、本当に色々な世界から色々な物がランダムに落ちてくるんだなぁ。
………この家が元々あった所は地面がえぐれてるってこと?土台ごと消えてるはずだよな。ミステリー扱いされてるかもしれない。
次は家の周囲を見てみよう。
話に聞いていた通り、見渡す限り砂と岩の荒野といった感じだ。ぽつぽつと植物や小さな廃屋、元廃屋の瓦礫が見える。今いるこの家は状態がとても良い建物らしい。窓割れてるし鍵もないけど、この世界ではかなりの優良物件なんだな、ここ。
ヒューは「廃屋や不可思議な塊がある」とか言っていたのだが、その不可思議な塊というのは多分家から少し離れた所に見えるクレーン車の事だと思う。ヒューの世界での土木作業は人力と魔法が主で、クレーン的なものは存在しないはずだ。
この世界に落ちてかなり経つようで、座席のシートや表面の塗装がだいぶ風化している。万が一倒れてきたら危ないから、今は近づかないでおこう。
今わかるのはこのくらいかな。普段はこの周辺と、少し離れた場所にある泉だけで生活出来ているようだ。
家の二階の植物を世話して、収穫があれば食べる分を除いて保存用に加工して、泉で水を汲んで、周りを少し探索して使えそうな物や食べ物を集める。ファウストの一日は大体そんな感じだ。
動物を見つけたら、狩りをして干し肉を作ったりもしているようだ。貴重なタンパク源だからね。
この世界は「社会」がないので時間がかなり自由に使える。生活に必要な最低限の事さえやれば、残りの時間は全て調査と魔力操作の練習に費やせそうだ。ヒューの世界ではなんだかんだやる事がたくさんあって、自分の時間は限られていた。
ヒューを見習ってポジティブにいこう。時間を好きに使えるのはとても助かるよな、うん。最低限の警戒さえしていれば寝坊とかしちゃっても大丈夫ってことだ。
………先程から脳内で周りの様子を実況しているわけだが、話し相手がいないのはやっぱりちょっと寂しい。俺達が元の身体に戻れたとしても、ファウストはずっとここで一人になるわけだよな。
問答無用で襲ってこない、友好的な人を見つけたら協力関係を築く努力はしてみようかな。一人よりも出来ることが増えるはずだし、ファウストが知らないここの情報を教えてもらえるかもしれない。
言葉が通じないって言ってたけど、ボディランゲージとかで何とかならないだろうか。もし英語に近い言葉だったら、喋るのは無理でも言ってることの推測くらいはできるし………多分。メイビー。
………ふと地面を見ると、自分の影がだいぶ長く伸びていた。もうすぐ日が沈んでしまうな。今日の所はお姉さんの位置だけ確認して、家に戻ろう。
お姉さんのカゲはその場から基本的にあまり動かないようだ。家からあれだけ離れていれば寝込みを襲われたりもしないな。
日は完全に沈み、今は夜。
ここは世界の狭間から見えないとシキが言っていたが、この広い空を見ているとドームに覆われているとはとても思えない。
街じゃ絶対に見られない、満天の星々。視界を遮る建物もない。綺麗だなぁ………
周囲の安全を確認して、外の地面に寝転がってみる。星空を立ったままずっと見上げてたら足元ふらつくよね。
本来月明かりは星を見るのに邪魔だが、光源がなくても家の周りくらいなら行動できる明るさなので今はありがたい。
天の川が見えるけど、星の位置は地球と同じなのかな?あ、織姫と彦星だ。夏の大三角に、あの赤い星はさそりの心臓………授業で習った通りだ。折角異世界なんだから、月が二つくらいあっても良かったのに。
ヒューの世界では忙しくて天体観測しようなんて思いつきもしなかったけど、あそこも星座は同じだったのかな。見ておけば良かった。
「………はぁ。」
星空が広大過ぎて、物悲しくなってきた。孤独感が際立つというか、呑み込まれてしまいそうというか。
絶景なのは確かだけど、一人で見るものじゃないかもしれない。家に戻ろう、そうしよう。
今日は、家とその周辺の確認で一日過ぎてしまった。光源を持てばもう少し行動できるが、カゲや他の人に自分の存在を教えるようなものだ。もう少しこの世界に慣れるまでは、夜動くのは控えるべきだろう。
とはいえまだ眠くはないので、家の中で魔力感知と操作の練習でもしておく事にする。もっとヒューやファウストと話せる時間を伸ばしたい。
まずは魔力感知を発動して、家の中を歩き回ってみよう。
最近はローレンさんに教わりながら、周囲の魔力だけを頼りに、つまり、目を閉じたまま魔力感知だけで部屋の中を歩くという練習をしていた。一応できるようにはなっていたが、この世界でもできるかどうか試してみたい。
レッツトライ!寂しさはテンションでカバーだ!!
………あれ、周りの魔力が全然わからない。まだそこまで上手くないとはいえ、さすがにちょっとおかしい。このまま歩いたら………やっぱり、壁にぶつかった。1m以内なら絶対感知できるようにはなってたはずなのに。
壁に手を当てて、魔力に集中する。………うん、一応感知はできた。できたけど、ヒューの世界と比べると何というか、存在感が薄いように感じる。
ここでは魔力が上に吸い取られている、とヒューは言っていた。まだ俺にはそこまではわからないが、ヒューの世界では例えただの壁でも草でも地面でも、存在するものなら必ず魔力が少しは宿っていた。宿っていなくても、自分の魔力が反射して大体の位置がわかる。
だが、この世界の物体や空気中の魔力は大半がすぐに吸い取られてしまうようだ。だから上手く感知できないのか。
魔力が全くないわけではないんだから………感知のとても良い練習になるということだな。ポジティブにいこう。
壁の魔力を何とか感じようとうんうん唸っていると、家の一階から少しだけ魔力を感じた。何だろう。
危ないものだと困るのでファウストのナイフを右手に、懐中電灯を左手に一階の奥へ向かう。一番強く感じるのはここだな。ファウストのコレクション部屋だ。
こういう、懐中電灯一つで家を探索させられるホラゲーあるよな………ホラーはあんまり好きじゃないんだけど………
ナイフを構え、そっと扉を押し開けてみると………昼間見た時と何も変わらなかった。すごくビビったのに。いや、何もないに越したことはないか。
昼間は魔力感知を使っていなかったから気づかなかっただけで、ここにある物の多くは他の物よりも魔力を帯びているようだ。魔力がない物もあるが、魔力がないと役に立たないってわけじゃない。
正直、ほとんどガラクタにしか見えないとか思っててすみませんでした。
こういうことがあるなら、普段からずっと魔力感知は発動させ続けられた方が良いんだろうな。ヒューみたいに。
今はまだ集中しないと出来ないけど、「ながら感知」が出来るくらいまでは練習頑張ろう。
部屋のものを物色しているうちに、だんだん眠くなってきた。この家には動いてる時計がないから時間がわからないんだよな。そろそろ寝ようっと。
ベッドに横になり、目を閉じる。魔力操作の練習は、大体寝る直前にやる事にしている。教えてもらった日の夜に椅子に座ってやったら、そのまま寝ちゃったんだよね。
最終的には床に倒れた状態で爆睡、様子を見に来たステラに悲鳴を上げられたのは記憶に新しい。
えーと、まずは自分の魔力を感知、それを身体の中で循環させ、自分の存在をしっかりと意識する。しばらく続けるとふわりと身体が暖かくなり、眠気が強くなってきた。
いつもはこんなに眠くならないんだけど、思っていたよりも疲れていたんだろうか。二人と、ついでにシキとまた会えると良いな。俺は眠気に抗わず、そのまま意識を手離した。




