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ようやく前衛後衛揃った討伐隊は現在、小さめの会議部屋に集まって連携の確認中だ。不良四人はさっき暴れて体力を使い果たしているので、話に参加しているのは前衛隊長さんと魔導隊だけだが。俺も疲れてはいるけど、ちゃんと隊長としての役目は果たさないとね。
前衛隊の構成は、隊長さんが片手剣と軽めの盾、大剣一人、片手剣の二刀流一人、槍一人、大盾と片手剣一人。魔導隊の属性と同じく、どんな魔物にも対応できるようバランスよく編成されているようだ。
「どの魔物が出ても弱点は大体突けそうだ。治療してもらえるのも助かる。」
「大盾と、アディラさんの結界で防衛、二刀流の彼は遊撃や不意討ちが得意なんでしたっけ。」
「硬い相手は剣で対応してもらって、その間に俺達が魔法陣の構築だな。」
「魔物によっては大盾での打撃も有効だ。防衛に余裕があれば、あいつも攻撃役に回して問題ないだろう。」
「え、盾で攻撃するんですか?」
「あぁ、こう………ガツンと。」
「殴るんだ………」
こういう作戦会議って楽しいよな。学校行事とかも、当日より準備が好きなタイプだ。
でもこれは危険な実戦の作戦だし、討ち漏らしたら街道や街に魔物が向かってしまうかもしれない。真面目にやらないと。
「よし、大体こんな感じで………あとは隊長さんと俺で全体を見て指示しながら手の足りない所へ随時加勢、でしょうか?」
「ああ。………俺は、アールシュ・マンダルだ。」
? 突然何だ。相変わらず真顔で意図がわからない。
「名前で、呼べ。隊長では、俺かお前かがわからないだろう。俺も、お前を名前で呼んでいいか。」
「あ、はい。良ければヒューって呼んでください。」
そういうことか。突然過ぎて驚いたけど、なんか格好いい名前だな。
「あまり聞かない響きの名だろう。貴族位を授かった俺の曾祖父が迷い人だったそうで、その姓を継いでいる。
アールシュという名は、曾祖父の祖国で使われる言葉から、ここでも浮きにくいものをつけたらしい。アルスという名の男はそこそこいる。」
名前の響きがよく似合ってるなぁ、とかぼんやり考えていただけなのだが、名前を珍しがっていると思われたようだ。そしてどうやら隊長さんの曾祖父も異世界から迷い込んだらしい。俺と同じ世界からだったりするのだろうか。
今までヒューとしての仕事中にいくつか聞いた名前も、イタリア風だったりフランス風だったり、欧州系の名前に日本や中国っぽい名字の人がいたりした。妙にちぐはぐしていたのは、異世界の名前や文化が混ざっているからと思えば納得できる。
「そうなんですね、良いお名前だと思いますよ。」
「ありがとう。………その敬語もやめろ、俺は子爵家の人間だ。伯爵家のお前が畏まる必要なんてない。
そもそも軍では身分は関係ないだろう。この隊にいる間は階級も同じ扱いのはずだ。」
身分を気にしないのはいいけど、初対面の相手をいきなりお前呼ばわりはやっぱりどうかと思うよ?
………いや、わかりにくいけどもしかして、不良達に軍で身分を笠に着るなって示すためにわざとやってるのか?不良達はこう見えて全員貴族家出身らしいし。でもそれ伝わってないよ、絶対。
良い人なのはもうわかってるけど、圧倒的に言葉と表情筋が足りないんだよなぁ。この人も友達少なそう。
「わかった。改めてよろしく、マンダル隊長。」
「アールシュだ。」
それはさっき聞いた。あ、名前で呼べってこと?
「じゃあ、アールシュ隊長?」
「隊長はいらない。俺もヒューと呼び捨てていいか。」
「アールシュ、な。わかったよ。俺も呼び捨てで。」
「ああ。打ち合わせはこれくらいで、あとは何度か実際に練習して、討伐本番だ。よろしく頼む、ヒュー。」
………ちょっと微笑んでる?気のせいか?
かなり強引に名前呼びさせられたけど、これは友人ができたと言っても良いんじゃないだろうか。
ステラ、ヒューに友達できたよ!魔導隊の皆とも仲良くなったし、もうヒューをぼっちとは言わせない!!
不良隊員も気持ち悪いくらい従順になったし、アールシュと魔導隊の皆は俺と不良達が組み手してる間に打ち解けたみたいだし、なかなかいい感じなんじゃないかな。
え?不良達の名前?覚える気はありません。それぞれ不良ABCDって呼ぶ。
「ユウト様、お疲れ様でした~。」
「ありがとう………今日はさすがに疲れた………」
家に帰ってくると、用事が予定より早く済んだとご機嫌なハロルドさんが運動着で待ち構えていた。かなり疲れてはいたんだけど、あまりのいい笑顔と期待の眼差しに断るという選択肢は消失した。
ハロルドさんと剣で軽く手合わせをしたり、この世界での剣技を教えてもらったりしたのは楽しかった。だがおかげで体力ゲージは真っ赤だ。これ以上はまじで無理、倒れる。
「今日は組み手とか戦闘訓練ばっかりしてた気がする………」
「あんなに身軽なヒュー様なんて、私初めて見ましたよぅ。」
俺はあんなにぽかんとした顔のステラを初めて見たよ。
「ユウト様は徒手格闘も剣術もお上手なんですねぇ。魔術を斬るのなんて、かなりの高等技術ですよ?
ユウト様はやっぱりヒュー様じゃないんだなぁって、今更ながらに実感しましたぁ。」
「ほんとに今更だね………?」
「ヒュー様に剣は絶望的に似合わないと思ってましたけど、中身がユウト様だと堂に入った構えって感じで格好良かったです!容姿に似合わないわけじゃなかったんですねぇ。」
………機会があったら、ヒューに剣の構え方教えてみようかな。正しい構えはそれだけで牽制になるし。
「先ほどのおっしゃり方だと、軍でも組み手なさってたんですか?ユウト様ならともかく、ヒュー様は魔導士ですよ?」
「色々あって一時間くらい、四人の兵士相手してた。ヒューはほんとに体力ないね、びっくりした。」
「それは………お疲れ様ですぅ。
今日は特製のハーブティーをお淹れしましたよぅ。これ飲むと落ち着いてよく眠れるって、ヒュー様のお墨付きです。」
「いつもありがとう、ステラ。」
ステラのこういうサポートがなければ、俺はとっくに倒れている気がする。ヒューの仕事しつつ、討伐に向けての魔物の勉強、魔法の練習、元に戻るための調べものなど、やることはたくさんあるからな。まだまだ頑張らないと。
あれ以来全然夢で二人に会えないので、突然元に戻った時に今の状況を知らせるための日記のようなものを書いている。
はじめはヒューへの手紙のように書いていたが、徐々に自分のためのメモみたいになってきてしまった。もしヒューに上手く伝わらなくても、ステラとハロルドさんが補足説明してくれるよね。大丈夫だよね。
………今日は濃い一日だった。明日休みだし、今日の分の日記書いてゆっくり寝よう………
久々に例の、真っ白な空間にきた………ようだが、何だかほんのりと周りが色づいて見える。ほとんど白だが、青っぽい所、赤っぽい所、黄色、緑、紫。見回すと色々な色が見える。
あれ?なんか違う所に来ちゃった?
「ユウト!良かった、無事だったんですね!」
「あ、ファウスト。無事って何が………ああそっか、前回の別れ際があれだったから。」
「全く、心配したぞ。久しぶりだな。
ああそうだ、ユウトの言った通り、俺もファウストの記憶を見ることができた。かなり助けられている。」
「俺も何とかユウトの記憶を少し見られました………久しぶりっていう程ですかね?」
「十日は会っていなかっただろう?十分久しぶりだと思うが。」
ヒューとファウストに会えたってことは、ここは例の空間なのか。でも、なんか前とは少し雰囲気が違う気が………?
「ユウト君だ~、はじめましてだねぇ~。」
一人増えてる!?え、この人誰??
顔は隠してるけど、多分俺達よりは年上。でもそんなに年齢を重ねた声じゃないから、二十代から三十代くらいかな?なんとなく。
黒っぽいフードのついたマントと顔全体を覆うシンプルな白い仮面を着けていて、着ている服は素材がよくわからない。なんとなくSF映画っぽいデザインだ。宇宙船とかモビルスーツ操縦してそう。
「どちら様ですか………?」
「私は、世界の狭間を気ままに揺蕩う旅人さぁ~。」
「俺達には、自分の世界に帰れなくなった迷子みたいなもの、とか言ってませんでした?」
「似たようなもんでしょ~。」
世界の狭間?夢の世界じゃないの?
あと、結局この人は何者?
「何者かはいまいちわからんが、役に立ちそうな話は色々と聞かせてもらったぞ。」
「信じるかどうかは別として、確かめてみようとは思える情報も多かったです。」
「信じてくれてないのぉ?ひどい~。
ユウト君、私の事はシキって呼んでね。とりあえず。」
とりあえずって何。
「シキさん、ですね。よろしくお願いします。」
「はい、よろしく~。
喋るのは初めてだけど、直接会うとより人が良さそうな印象だねぇ。いじりたくなっちゃう。
そうだ、ユウト君って服で目立たないけど良い筋肉してると思ってたんだよね!触ってい~い?」
は?………ちょ、近い、近いから!
ぐいぐいくるな、この人。初対面だぞ。
「すみません、先に二人と話したいんでちょっと待」
「はじめはやっぱり上腕二頭筋かな!………んん、なかなか仕上がってるねぇ。」
ちょっと………あの………
「あ、私のも触っていーよ!あんまり鍛えてないけど!」
いや、いらないし………
「ん~、これって傷痕?カッコいいね!何してついたの?若気の至りとか?お年頃だもんねぇ~」
「………………」
だ ま れ
「ゴメンナサイ」
「よし。」
「………ユウト、お前今一瞬、犯罪者紛いの凶悪な目付きになったぞ。俺の身体でそんな顔してないだろうな?」
ん?………あー、昼間不良を相手にしてた時のテンションがまだ残ってたかな?
「き、気のせいだよ、気のせい。
それよりヒュー、ここって前と同じ場所?こんな色ついてた?白くなかったっけ?」
「白かったのか?むぅ………おそらくだが、ユウトが前より魔力を感知できるようになったんだろう。俺の感覚では前より少し色が濃くなったか、くらいだな。」
よし、話を逸らせた。
ヒューとファウストには以前からここがカラフルに見えていたらしい。
「ヒューは普段から注意すれぱ魔力見られるみたいですけど、俺もここでしか見えませんよ。」
「魔力の感覚が掴めたなら、前回程短時間で存在がぼやけたりはしないだろう。今度ああなったら自分の魔力を意識的に感じて、落ち着いて帰ればいいからな。」
これ、魔力の色なのか。綺麗だな。
魔力の感知や操作は、ローレンさんに色々教わったので前よりはかなり上手くなっていると思う。一度経験済みだし、前回程は慌てずに済みそうだ。
「その言い方だと、魔力が俺の存在そのものみたいな感じなのかな。魔力が散ったり混ざったりすると、自我も消えたり混ざったりする………みたいな?」
「お、なかなか惜しい所まできてるよ。もうちょっと頑張ってみて~、新人探偵君。」
シキが話に乱入してきた。誰が新人探偵だ。
「通じるわけないよねぇ、私の世界の小説ネタだし。新人探偵シリーズ、久々に読みたいなぁ。続きが気になるよ~。」
「何言ってるんですか。ユウトは俺達よりもここにいられる時間が短いんです、説明するならさっさとしてください。」
ファウストがシキにジト目を向けている。なんか、俺達と話す時より厳しくない?気持ちはわかるけど。
というか、シキも当然のように異世界の人なんだな。俺達三人の世界とは更に別の世界の人らしい。
「いつ何時も遊び心は必要だよ~ファウスト君。それに、初めて会う人には私のこの性格早く知ってもらわないと!仕事の関係ならともかく、個人的に仲良くなりたい人にはふざけ倒したくなるんだよねぇ。」
………ファウストの目付きがどんどん冷えていく。このまま放っておいたら冷凍ビームでも放ちそうだ。
「わかったわかった、ちゃんと喋るよぅ。
えっとね、今私達がいるのはどこの世界でもない所、世界の狭間と呼ばれる場所だよ。ここに君達がいる間は君達と、君達の世界の時間は進まないからね。消えない程度にゆっくりしていって。
君達三人は今みたいに、ちょくちょく魂のみの状態でここに来てるんだ。魂は魔力の源、性質も魔力に似ているんだよねぇ。わかる~?」
………よくわからないけど、俺達はここに来るたびに幽体離脱してるってこと?




