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12 前衛隊長side

 遂に俺の隊にも、魔物討伐参加の命令書が届いた。


 王都周辺での目撃情報も増えている、人手を少しでも増やしたいのだろう。問題児ばかりとはいえ、そこらの魔物相手に遅れを取るような腕ではないからな。うちと組まされる魔導士達には少し同情するが。


 ………連絡が来た当初はそう思っていたが、同情されるべきはこちらだったかもしれない。


 どうやら魔導士団所属ではない、魔導研究室所属の研究者達と組まされるらしい。しかもその隊長を担うウィリアムズ伯爵家の次男は先日実験で大怪我を負い、記憶に障害が出ているという。

 最強に近い魔導士との噂を耳にしたことはあるが、そんな状態ではただの足手纏いじゃないのか。


 うちの上司、面倒事はまとめて俺に押し付けておけばいいと思っているのでは………だが仕方ない、これは命令だ。


「お前達が、ウィリアムズの隊か。」

「はい、そうです。よろしくお願いします。」


 いかにも討伐には不向きそうな、線の細い男が例の隊長殿らしい。顔をじっと見られている気がするが………俺はまた不機嫌に見える顔をしているのだろうか。


 第一印象が悪いと自覚はあるが、無理に笑うと余計に怖いと言われるからやめた。言葉選びの問題ではと言われたこともあるが、そちらは変え方がわからん。

 避けられるのにはもう慣れた、任務に支障がでなければ問題ないだろう。


「お前達は研究が仕事だ。後ろに下がっていろ。俺達で片付ける。邪魔はするな。」


 研究者を戦力に数えるつもりはない。どういうつもりで彼らが討伐に加えられたのかはわからないが、俺には前衛隊長として彼らを守る責任がある。


 はじめから後ろで何もしないでいてもらった方が、危険は減らせるはずだ。問題はうちの隊員がきちんと彼らを守るかどうかだか、辛うじて俺の命令は聞くようにできたから何とか………


「治癒要員なら、後ろのお嬢さんに来て欲しいなぁ~。」

「俺らがちゃんと守ってあげるからさぁ?」


 しまった、色々考えている間にうちの隊員が向こうの女性メンバーに絡み出した。

 自分より下と見た相手に横柄な態度を取るのだけでも矯正したいのだが、何度言っても変わらない。一先ず口頭で注意したが………後でもう一度ぶちのめしておこう。


 以前からこいつらは魔導士を馬鹿にしていたから、こうなることはある程度予想していた。武芸に秀でた家系だとこういう者は少なくないが、いずれ痛い目を見るぞお前達。


 向こうの隊員と何やら話をしていた魔導隊長殿が、くるりとこちらに向き直る。

 ………何だ?雰囲気が、変わった?


「前衛隊長さん、彼と手合わせさせてもらえませんか?勿論魔法は無しで。近くに中庭ありますよね?」

「お前がか?」


 魔法無しで手合わせだと?こいつらは仮にも軍の兵士だぞ?しかもよりによって、この中で一番体格が良いモルガンを相手に選ぶか。


 ………ローブでわかりにくいが、歩く時の重心や足さばきを見るに、魔導隊長殿もある程度戦闘訓練は受けているようだ。

 所詮研究者だろうと彼を侮っていたのは俺も、ということか。


 隊長殿の顔には不敵な笑みが浮かび、気負った様子は欠片もない。あれは、勝てると確信している者の目だ。

 ………彼になら、賭けてみてもいいかもしれない。


「構わない、何ならそのまま鼻っ柱を叩き折ってくれ。」


 うちの問題児達は単純だ。腕っぷしが自分よりあれば従う。こいつらは魔導士のことを近接戦が苦手で弱いと決めつけているが、彼がそれを覆してくれるかもしれん。

 勝てずとも何度か打ち合うことができれば、あいつらが多少考えを改めるきっかけにはなるだろう。





 魔導隊長がローブを脱ぎ、準備運動をしている。やはり心配になる細さだが………


「よ………っと。うん、いけるな………」


 徐々に動きが大きくなっていき、最終的には宙返りまでしだした。猫を思わせる軽くしなやかな身のこなしに、俺以外の面々も目を丸くしている。


 力で戦う重戦士には向かんだろうが、速度や手数で相手を翻弄するタイプだとすればかなり強そうだ。後で俺とも手合わせしてもらえないだろうか。


 あぁ、彼は研究者だから防具がないな。身長はさほど変わらんから、俺のものを貸そう。討伐前に無駄な怪我をさせるわけには………そういえば元々怪我人だった。尚更怪我を増やすわけにはいかない。


 さて、自分から他人に声をかけるのは少し苦手なんだが。


「おい………防具。」

「あ、動きの邪魔になるんで今はいいです、当てさせないし。お気遣いありがとうございます、隊長さん。」

「!」


 自分で言うのは悲しいが、俺がこういうことをすると相手が怖がることが多い。平身低頭されてしまうこともある。

 あれほど爽やかに礼を言われたのなんて、子どもの頃以来かもしれない。十を過ぎた頃には既に表情が固いだの怖いだの言われていた。


 というかちょっと待て、当てさせないって何だ。相当自信がないとそんなことは言えないだろう。こいつ本当に研究者か?

 おい、「まだですか?」みたいな顔でこっちを見るんじゃない。俺は一応お前の心配をしているんだぞ。

 はぁ………杞憂に終わりそうな気がしてきた。


「両者、構え。」


 あいつ、黙って構えていればまともなのだが………武門の名家出身というだけはある。

 今は素手だが、モルガンは普段大盾を扱っている。相手の攻撃は全て受け止め、自分が攻撃する時は相手ごとはね飛ばす、見た目通り鋼鉄の体幹を持った男だ。


 対する魔導隊長殿は、構える様子がまるでない。

 だがよく見ると先ほどまでより体重を少し爪先側にかけ、いつどの方向にでも素早く蹴り出せるようにしているようだ。

 成程、あれならあらゆる方向からの攻撃に対応できる上に、彼の強さを推し測れない程度の相手には彼が隙だらけに見えることだろう。構えを見せるだけでも、相手の力量をある程度見極められるというわけか。勉強になった。


 ………これは、戦うまでもなく魔導隊長殿の勝ちだな。この際だ、思いっ切りこてんぱんにしてもらおう。その方があいつらも彼の指示に従うだろうから。


「はじめ!」


 ずさぁぁっ………


 ………!?

 今、何が起きた?


 モルガンが馬鹿正直に真っ直ぐ殴りにいったのはわかる。その拳をどう受けるのかと思っていたら、次の瞬間モルガンが地面に転がっていた。かわした様子もなかったのに。


 いや、おそらくかわしてはいたのだろう。必要最小限の動きだったからそう見えなかっただけだ。

 だが攻撃をかわしただけでああはならない。あれでも国の兵士、空振っただけであれほど体勢を崩すわけがない。


 ………とんでもない手練れじゃないか。


「えっと、勝負あり、で良い?」


 魔導隊長殿が、何事もなかったかのような涼しい顔で俺の判定を促す。


「ああ、決着が早過ぎて驚いた。間違いなくお前の勝ちだ。」


 ………掴まれたらしい手首をさすってはいるが、モルガンがどこかを痛めた様子はない。本当にただ「倒した」だけなのか。


 絡まれても声を荒らげたりはせず冷静で、相手が納得できるようにとルールを決めての手合わせを提案、その相手を怪我もさせずに一瞬で倒す。

 こんなことができる人物の下でなら、こいつらも更正させられるのではないだろうか。正直、俺一人では荷が重いと思っていた所だ。基本的には優しい人物のようだし………


「イカサマだ!魔法使っただろ!」

「使えないように魔封じの腕輪着けたでしょー?転んだのが恥ずかしいのかなー?んー?」

「ぐぅ………俺はあんなの認めねぇぞ!にやついてんじゃねぇよ、くそ!」


 前言撤回、魔導隊長殿はなかなか良い性格をなさっているようだ。


 ………いつの間にか四対一になっているが、魔導隊長殿は余裕綽々で捌き切っている上、時折それぞれに合わせた助言までしている。あれだけの実力があって、何故彼は研究者なんだ?望めば近衛にだってなれるだろうに。


 うちの馬鹿共がゴロゴロと転がされている間に、暇そうにしている魔導隊の面々と自己紹介を済ませておいた。彼らのうち二人は元兵士で、討伐の経験もあるらしい。残りのメンバーも冒険者登録をしており、実力は折紙つきだそうだ。

 正直、研究室からも人を出すことで軍が総力を上げていると外部に示すためのパフォーマンスだと思っていた。肩書きだけで実力を疑って申し訳ない。


 組み手が終わらないので話を続けると、魔導隊員達も隊長殿についてはよくわからないとのことだった。今まではほとんど話したこともなく、人嫌いの変わり者と言われていたらしい。

 助手殿によると、例の大事故以降別人のように性格が変わったのだという。今も相当変わり者だと思うのだが、元はどんな人物だったのだろうか。


 ………あいつら楽しそうだな。俺も組み手に混ざりたくなってきた。





「もういいだろ?そろそろ怪我させちゃいそうだ。」

「あと一回だけ、お願いします!コツが掴めそうなんすよ!」

「何のコツだよ。」


 やっと終わりか。


 あれだけやりあっていたというのに、誰一人怪我をしていないとは。達人にしかできない所業だ。


「いい加減にしろ、お前達。彼は魔導隊長だ。それに、先日大事故にあってまだ怪我が治りきっていないと聞く。」

「怪我しててもこんなに強いんすか………半端ねぇっすね、兄貴………」


 あいつら、想像以上に魔導隊長殿に心酔したらしい。俺のこと以上に慕っている気がする。おい、お前達の隊長は俺だ。

 だが、この様子なら彼の指示にも従うだろう。やらせたのは正解だった。


「魔導隊長、利用して悪かった。」

「え?………あ、頭を上げてください!」


 隊長殿は、口下手な俺の説明をしっかり最後まで聞いてくれた。やはり、基本的には心の広い人物のようだ。

 ただ優しいだけではなく、聞き分けのない者をねじ伏せられる程度には荒事に慣れているのもありがたい。こいつらには言葉よりそちらの方が効く。


「隊長、すごいじゃん!いつあんなことできるようになったの?運動はダメダメって………えっと、あまり得意じゃないって聞いてたんだけど。」

「えーと………今使ったのは、そこまで力がいらない武術なんだよ………」


 ああ、見た事の無い美しい動きだった。


「………俺にもあの技、教えてもらえないだろうか。」


 頭の中では「どこの何という武術か」を聞こうとしていたのだが、気がつくと口が教えを乞うていた。

 洗練されて無駄がなく、相手の力すら利用する、あの武術。門外不出だと言われれば仕方ないが、是非とも教わりたい。


「対人専用なので討伐に使えるかはわかりませんが、それで良ければ。」

「本当か!」


 これは嬉しい!知らない武術や技を学ぶのは昔から好きだ。これだけは死ぬまでやめない、やめられないと思う。


「あれだけやれば、あいつらもお前の指示を聞くだろう。軍での討伐には不慣れだろうから、あまり前には来て欲しくないが………」

「魔導隊も、あなたの指示に従いますよ。後ろからの援護に徹します。連携について話す予定でしたけど………時間、押してますよね?」


 うん?………小一時間も暴れていたのか、あいつら。俺も途中から時計を見るのを忘れていた。


「この後は決まった予定がないから、うちは問題ない。そちらにも用がなければ、このまま連携の確認をしたい。」

「こちらも予定は空けてあるので大丈夫です。よろしくお願いします。」


 ………先ほども少し思ったが、腰から深く折るような礼は違和感があるな。貴族は基本、謝罪や高位の者への礼以外では頭を下げない。

 会釈や挨拶として礼をする時は目線を少し下げ、片手を胸に当てて片足は半歩後ろ、膝と腰を軽く折って身体全体をほんの少しだけ沈ませるようにする。少なくとも俺はそう教わった。


 魔導隊の面々に聞いた「貴族らしくない」というのはこういうことだろうか。いや、違うな。もっと根本的な何かが貴族とは異なる気がする。平民らしいかと言われればそれもないが。


 何とも不思議な男だが、彼となら上手くやれそうだと思わせられる何かがある。俺は基本的に他者と関わるのが苦手だが、今はそのことを忘れそうにすらなっていた。


 いつもは社交辞令的に言うこの言葉を、初めて心から口にできる。


「こちらこそ、よろしく頼む。」

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