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魔導士隊と打ち解けられたのは良いが、この後は討伐で組む前衛隊との打ち合わせが待っている。あんまり変な人達じゃないといいんだけど………あれ、今俺フラグ立てた?
指定された待ち合わせ場所で皆と待っていると、それらしい人達が近づいてきた。あちらは五人組のようだ。
先頭に立つ、仏頂面の男性が口を開く。
………ブロンドなのに少し青みがかっても見える、不思議な髪色だ。いい加減慣れてきたけど、ほんとこの世界の色素どうなってんだろ。
「お前達が、ウィリアムズの隊か。」
初対面なのにいきなりお前呼ばわりだが、いちいち気にしないでおく。
ローレンさん達に聞いた話では、今回の作戦の間俺と向こうの隊長さんは同格だから、互いに敬語で話す必要はない。だからまぁ、お前呼ばわりも一応セーフになる。はず。
向こうの隊長さんの顔、どことなく見覚えある気がするけど誰だかわからないな。同級生の同一人物とか?うーん………ま、いっか。
「はい、そうです。よろしくお願いします。」
「お前達は研究が仕事だ。後ろに下がっていろ。俺達で片付ける。邪魔はするな。」
ばっさりと戦力外通告された。一応討伐経験者もいるし、せめて何が出来るかくらいは聞いてくれませんかね。
「治癒要員なら、後ろのお嬢さんに来て欲しいなぁ~。」
「俺らがちゃんと守ってあげるからさぁ?」
隊長さんの後ろにいる隊員の態度、というより柄が悪い。本当に国の兵士かあんた達。
アディラさんは平気そうだけど、セシリアさん怖がってんじゃん。やめろよな。
グレンさんとマークさんが同時にずいっと前に出たが、俺達が抗議する前に前衛の隊長さんがたしなめていた。
………隊長さん、第一声はあれだったけど、内容だけ聞けば俺達の事を心配していると言えなくもない。隊員はともかく、隊長さんはまだ話せる人かも。
「面倒そうな班に当たっちまったな。隊長、俺が対応しようか。見た目の威圧感ならそこそこ自信あるぜ。場が荒れるかもしれねぇが。」
グレンさんが無表情で仁王立ちしてたら確かに迫力あるな。
俺のことを気遣ってくれるのは素直に嬉しいけど、喧嘩にでもなったら困るから却下です。気持ちだけもらっておきます。
隊長さんの小言程度では、前衛隊のやつらは懲りていないようだ。まだ俺達に絡んでくる。
「あんた達は俺達が守ってやって、時間稼いでやらないとろくに魔術使えないんだろ?くれぐれも俺達の邪魔はするなよ。」
「魔導士が使えるのなんて、群れた雑魚を散らす時くらいなもんだ。しかも正規の魔導部隊ですらない、ただの研究者だろ?何の役にも立たないな。」
うわぁ、典型的嫌なやつら。組みたくないけど、正式に指令出てるしそうもいかないよなぁ。
魔導士のことなめてんの?俺ですらもう初級の風魔法ならほぼノータイムで撃てるんだよ?ヒューだったら全員一瞬で消し炭だからね?多分。
………なんか、さっきから足下が寒いな。もしかしてマークさんから冷気出てる?気持ちはわかるけどもう少し抑えてくれないかな、俺が凍りそう。
そもそもこの編成は上の決定なんだから、俺達に文句言わないでほしい。文句言いたいのはこっちだ。
「えー………物理攻撃の通りが悪い魔物も確認されていますから、同行はさせてもらいますよ。」
「お前みたいなひょろい野郎なんかいらねーよ。武器に魔力流せば攻撃は入れられるんだからな。」
魔導士を馬鹿にしているのは確かだが、特になめられているのはヒューの見た目らしい。まぁ、確かに筋肉無くて細いよね。
こいつら、直接殴る力が無いやつは総じて弱いとでも思ってんのか?筋力こそが正義だって?なら話は簡単だ。
俺は沸点高い方だと自負してるけど、イラつかない訳じゃないんだからな?厳しめにやっちゃうかもよ?
「………おい、隊長?」
「何?グレンさん。」
「なんつーか、その………すげぇ悪人面になってんぞ。自覚あるか?」
失礼な。悪人はどちらかといえば向こうだろ。
顔を揉んで表情を整え直してから、前衛隊の方を向く。
「前衛隊長さん、彼と手合わせさせてもらえませんか?勿論魔法は無しで。近くに中庭ありますよね?」
「お前がか?………構わない、何ならそのまま鼻っ柱を叩き折ってくれ。」
あ、前衛隊長さんも一応怒ってはいるんだ?無表情過ぎて伝わらないだけで。
「はぁ?何でお前なんかと。隊長も何言ってんだよ。」
「随分なめられているようなんで。勝てば、認めてもらえます?」
筋力が無い者なりの戦い方、見せてやろうじゃないか。
魔導士のローブはさすがに動きづらいので脱いだ。今は普通のシャツとズボンで、髪もいつもよりしっかりときつくまとめている。これなら筋力体力共に低いヒューの身体でも戦えるだろう。
準備運動をしてから試しに軽くバク宙してみると、あわあわしながらこちらを見ていたイアンの目が点になった。びっくりした?
日本での習慣だった基本練習は医者の許可が出てからこっちでもやってるけど、実践的な組み手はまだほとんどやってないんだよな。この前ハロルドさんとほんの少し組み合ってみた程度だ。今度予定が合ったらもっと実戦的な手合わせをしようと約束している。
さて、じゃあ目の前の彼には、この身体でどれくらいの事が出来るかの実験台になってもらおう。
立ち姿を改めてよく見ると、全身にバランス良く筋肉がついていて、重心のブレも少ない。訓練は真面目にしているらしい。
「やめるなら今のうちだぞ?お前に俺の相手が務まると本気で思ってんのか、もやし野郎。」
本当にテンプレートな台詞しか言わないな。ゲームのNPCとかだったりしない?不良兵士Aなの?
っていうか、この世界にももやしあるんだ。家計の心強い味方だよね。
「はいはい、ぐたぐた言うのは後でな。
制限時間は三分、どちらかの胴体が地面についたら勝負あり。武器と魔法は無しで、首から上への打撃も無し。審判は前衛隊長さんにお願いします。」
「おい、防具。」
前衛隊長さんが軽めの装備をぶっきらぼうに突きつけて………もとい、差し出してきた。
優しさからの行動だと一応はわかるんだけど、表情の固さや台詞の簡潔さがそれを打ち消しちゃってるんだよなぁ。
「動きの邪魔になるんで今はいいです、当てさせないし。お気遣いありがとうございます、隊長さん。」
「なめやがって………!」
なめた態度とってきたのはそっちだろうが、不良A。
あれ、何で隊長さん固まってるの?俺何か変なこと言いました?防具断ったのそんなにショックでした??………なんかすみません。
えーと………気まずくなってきたんで、早く始めちゃってくれませんかね。
「はぁ………両者、構え。」
え、何でため息つかれたの今。
相手は足を少し広めに開き、重心を軽く落とした構え。悪くないと思うよ。
だがあいつ、まだ俺をなめてるな。身体は半身にしておかないと的が大きくなるって習わなかったか?
………何発か当てられても大したダメージが無い、とか思われてそうだ。それは実際そうだけど、人体には急所ってものがあるんだよ?
でも、今日は狙わないでおいてあげよう。怪我はさせず、心が折れるまで地面に転がすつもりだ。
ちなみに俺はほとんど構えていない。足は一応前後に開いているけどその程度。相手の額に青筋が見える気がするけどこれはなめてるんじゃなくて、俺が父さんに習ったのがこういう構えだったんだよ。
合気道は特定の構えじゃなくて自然な体勢でやるものだって言ってたんだよね。ポーズだけでも手の構えはしとくべきだったかな。
「はじめ!」
ちょっと煽り過ぎたかもしれない。特に俺の出方を見るわけでもなく突っ込んできたので、突き出してきた拳の勢いを殺さないよう手首を掴み、捻りながら後ろに流すように軽く引っ張る………あれ?
ずさぁぁっ………
相手はそのまま呆気なく俺の後ろに転がって行った。呆気なさすぎて俺まで呆然としちゃったよ、考えなしにも程があるだろ。こういう、相手の力を使う武術が一般的じゃないのかな。
周りで見ていた残りの前衛隊員達もぽかんとしている。魔導隊の皆はよくわからないけどやったー、みたいな反応だな。後で皆にも教えてみよう。力はいらないから女性の自衛にもおすすめだよ。
「えっと、勝負あり、で良い?」
「………ああ、決着が早過ぎて驚いた。間違いなくお前の勝ちだ。」
お相手さん、納得がいかない顔してるな。正直俺も不完全燃焼だ。
「イカサマだ!魔法使っただろ!」
「使えないように魔封じの腕輪着けたでしょー?転んだのが恥ずかしいのかなー?んー?」
「ぐぅ………俺はあんなの認めねぇぞ!にやついてんじゃねぇよ、くそ!」
なんか煽るの楽しくなってきちゃった。ローレンさんのSっ気がうつったかな。
でも、さすがに今のじゃ俺が実力で勝ったとは思われないだろう。こういうやつらは、偶然とは言えないくらい何度も転がしてやらないとね。
「おい、お前らもやれよ!」
あれ、皆さんもやられたいんですかー?実験台が増えるなら大歓迎ですよー?皆さんが満足できるまでお相手致しましょう!あ、魔封じの腕輪は着けてね。
「隊長がまた悪い顔してます………。」
「楽しそうだね………一応回復魔法の準備しとこうか。」
小一時間程、俺は前衛隊長さん以外の前衛隊四人を相手に楽しくお稽古した。うーん、やっぱり自分の身体のようには動けないなー。ヒューの身体でももっと柔軟と筋トレしておこう。
「もういいだろ?そろそろ怪我させちゃいそうだ。」
「あと一回だけ、お願いします!コツが掴めそうなんすよ!」
「何のコツだよ。」
なんでこういう人達って倒された相手に懐くんだろうか。野生動物かっての。
「いい加減にしろ、お前達。彼は魔導隊長だ。それに、先日大事故にあってまだ怪我が治りきっていないと聞く。」
「怪我しててもこんなに強いんすか………半端ねぇっすね、兄貴………」
余計な情報与えないでくださいよ隊長さん、こいつらの目がまた輝き出したじゃないですか。あと不良B、俺がいつお前の兄貴になった。
怪我はもう大丈夫ですよ。傷痕はまだ結構残ってるけど、体感的にはほぼ全快です。
「魔導隊長、利用して悪かった。」
「え?………あ、頭を上げてください!」
前衛隊長さんに深々と頭を下げられ、少し慌てる。
俺、後半は目的忘れて組み手を楽しんでたし。
「この隊は「腕の立つ問題児の寄せ集め」でな。俺はその監督を頼まれた。
だが、俺は話すのが苦手だ。叱ってもあまり、響かない。」
俺の隊がこんなやつらだったら投げ出してたかもしれない。面倒見て更正させようとしてた隊長さんはえらいと思いますよ。
「あいつらが軽視している魔導士に物理で倒されれば、態度を改めるかもしれないと思って、任せてみた。お前も、妙に自信があるようだったから。」
俺を利用したってそういうことか。
自信はあったけど、得物持ってたらここまで楽勝ではなかったと思う。前衛隊長さんも「腕は立つ」って認識みたいだし、そこそこ実力はあるんだろう。馬鹿だけど。
「隊長、すごいじゃん!いつあんなことできるようになったの?運動はダメダメって………えっと、あまり得意じゃないって聞いてたんだけど。」
アディラさんが破れたオブラートに包んでくれたけど、ヒューの運動神経が悪いことって研究室でも周知の事実なの?基本は部屋に引きこもってるのに?
………ちらりとイアンの方を見ると、さっと目を逸らされた。広めたの君だな?
「えーと………今使ったのは、そこまで力がいらない武術なんだよ………」
「ああ、見た事の無い美しい動きだった………俺にもあの技、教えてもらえないだろうか。」
おっと、隊長さんまでそんなこと言い出しますか。無表情なのに目がキラキラしてるよ、器用なことするなぁ。
「対人専用なので討伐に使えるかはわかりませんが、それで良ければ。」
「本当か………!」
お、初めて隊長さんの口角がわかりやすく上がった。なんだ、普通に笑えるんじゃん。
「これだけやれば、あいつらもお前の指示を聞くだろう。軍での討伐には不慣れだろうから、あまり前には来て欲しくないが………」
「魔導隊も、あなたの指示に従いますよ。後ろからの援護に徹します。連携について話す予定でしたけど………時間、押してますよね?」
「この後は決まった予定がないから、うちは問題ない。そちらにも用がなければ、このまま連携の確認をしたい。」
「こちらも予定は空けてあるので大丈夫です。よろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしく頼む。」




