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 魔導研究棟一階、一番東の端。

 普段は俺、もといヒューがほぼ一人で使っている部屋に今日は俺とイアン、そしてあと男女二人ずつの魔導研究者が集まっている。俺が遠征で率いる隊員達だ。


 ローレンさんに会って一週間、イアンに助けてもらいながら俺はヒューの仕事を何とかやっている。ちゃんとやれているのかは正直不明だが。


 ヒューは色々な所から意見や助言を求められているようで、頼まれた仕事はそれらへの返事が大半だった。というか、それ以外の仕事の方が難しいのでほとんどローレンさんが弾いてくれたようだ。ヒューの記憶を覗く程度じゃ出来ないものも多いしね。

 とはいえ、俺に難しい魔法論理の意見を求められてもわからない。意見の代わりにヒューが知っている文献を薦めてお茶を濁している。いつまでもつかな、こんなので。


 一応、空いた時間を縫って書庫の文献を読み漁り、元の身体に戻る方法を調べてはいるが、異世界や魂に関する文献がそもそも少なく成果はまだない。文字を読むのが少し速くなっただけだ。

 その間はほとんどこの部屋に籠る事になったので、今目の前にいる人達はイアン以外全員初対面。いや、ヒューは会っているのかもしれないが、残念ながら記憶にない。


 メンバーはイアン以外、気まずそうな表情だ。誰とも視線が合わない。

 ヒューって普段そんなに近寄り難いのかな。イアンが前に、副室長の復帰を皆待ってましたよ、とか言ってたのに。上司だから気を使ってそう言っただけだったのか?


 今日はこの後討伐の際の前衛を請け負ってくれる隊との顔合わせと、連携の確認をする予定もあるんだけどな。今ここの雰囲気だけでもう不安だよ。

 でも、この空気にのまれてたら駄目だ。討伐に向けてローレンさん監修の下魔法の練習もしてるし、魔物についての勉強もしてるんだからな。隊の人達の安全は俺が預かることになるんだ、しっかりしないと。


「えーと………俺は皆さんと普段あまり話さないですし、居心地悪いのもわかります。記憶が曖昧なのも聞いているだろうから、俺が率いる隊にいるのは不安、ですよね。」

「い、いえ!そんなことは………私の研究班は副室長の助言に何度も助けられていますし、魔術の知識に関してあなた程頼りになる方はいません。」

「でもたまに暴走するから、あんまり近寄りたくはないでしょう?」

「副室長、それご自分で言ったら相手が返答に困りますよ。僕はもう慣れてきちゃいましたけど………」


 それもそうか。今の俺、貴族だし。研究室には平民出身の人も多いって言ってたな。悪い事したかも。

 ああ、皆うつむいちゃってる。ごめんなさい、今のは俺が無神経でした!


「すみません!怒ってるわけじゃないですし、ヒュ………んん、俺の行動に問題があったのもわかってます。」

「………皆さん。副室長はあの事故以降かなり振舞いが変わられていて、前のような突然の行動はなさいません。それに、その、わかりにくかっただけで、事故の前から優しい方ですよ。」


 フォローありがとう、イアン。

 俺はヒューの暴走がどんなものか知らないけど、相当なものなんだろうな。ここまで避けられているとは。


 戸惑うような視線がこちらに向いている。こっち向いてくれただけ良しとしよう、本当に良い人間関係ってのは築くのに時間がかかるものだ。


「口では何とでも言えますから、あとは行動で示します。

 俺はこの魔法隊のリーダーを任されました。皆が出来るだけ怪我なく帰れるように、そして目的を達成できるように精一杯やりたいと思っています。

 無茶な事を言うつもりはないので、指示には従って欲しいですけど、俺の指示がおかしいと思ったら遠慮なく止めてください。皆さんの意見も聞かせてください。

 俺は討伐指揮が初めてです。仕事も完璧にできる訳じゃありません。だから、力を貸してください。マークさん、アディラさん、グレンさん、セシリアさん。勿論、イアンも。これからよろしくお願いします。」


 頭を下げる。思ったことをそのまま言ったけど、俺みたいなのを隊長と認めてくれるだろうか。


「副室長にそんなこと言ってもらえるなんて………」

「俺達の名前、事前に確認してくれてたんですね。」

「頭なんて下げないでください!こちらこそ、よろしくお願いします!」

「長文喋れたのか………」


 良かった。さっきまでよりは真っ直ぐこっち見てくれるようになったかな。あとは有言実行するだけ、これからの行動で示そう。

 ………最後の台詞はちょっと気になるけど、今はスルーだ。


 この隊、イアン以外は全員俺より年上っぽいんだけど、敬語で話されると落ち着かないな。楽に喋っちゃ駄目かな。


「あの、頼みがあるんですけど………もっと普段通りの、気楽な感じで喋ってくれませんか?落ち着かないし、俺、気軽に話せる相手いないんですよね。」

「確かに副室長、話し相手いないかも………前は僕とすらほとんど会話なかったですし。」


 イアンが言うならほんとにそうなんだろうな………ってか、助手とは会話しろよヒュー。仕事に支障きたすだろ。


「あー………後になって無礼とか言われないか?」


 がしがしと頭の後ろを掻きながら最初に口を開いたのは、少し強面のグレンさん。


「言わない言わない。その、俺もこんな感じでいい?」


 俺が敬語だと皆は畏縮しちゃうみたいだし。

 ついつい忘れてしまいがちだが、今の俺は正真正銘のお貴族様なのである。


「俺達はともかく、副室長は元々敬語なんて使う必要ないだろ。俺達は全員平民で、副室長は俺達の上司なんだぜ?」

「そう、かもしれないけど、俺の方が年下だから敬語使うのが普通な気もしてて。」

「貴族の発言とは思えねぇな………。副室長の年齢なんて知らねぇぞ。」


 ヒューの年齢は俺も知らないな。見た目は少し大人っぽいけど、俺は高二だから多分それくらいじゃない?


「ま、少なくとも俺よりは年下だな。」

「多分そうだと………えー、グレンさんおいくつですか?」

「29だ。見た目より若い、とか思ったか?よく老け顔って言われるんだよな。」

「そうですか?若々しさと貫禄が両立してて、俺は格好良いと思いますけど。」

「そりゃ世辞でも嬉しい台詞だが………敬語に戻ってんぞ、副室長。」

「あ、ほんとだ。うーん、慣れないな………」


 俺とグレンさんが普通に話しているのを見て、他の人達も少し安心したようだ。


「副室長が、思ってたより普通の人だ………」

「それはさすがに失礼じゃないです?アディラ。確かに激しい実験の噂は聞きますけど、お人柄についての悪い話は聞きませんよ?その、変わった方とは、言われていますが………」

「………お互い気軽に発言できた方が連携も取りやすい。副室長はそう考えて提案してくださったんだろう。」


 え、いや、俺そんな大層な事考えてないよ?自分が落ち着かなかっただけで………そういう事にしておこうかな、うん。円滑なコミュニケーションは大事だよね!


「じゃあ、ここからは楽に話すから、皆も普段通りにしてね。

 俺は前もって皆の情報を確認させてもらってるんだけど、皆はお互いの事とか得意属性とか知ってる?」


 魔力の属性は、フィクション等でお馴染みの地水火風雷。光属性や闇属性、聖属性とかは存在しない模様。

 魔力があればどの属性の魔法も使えるし、属性に関わらず発動出来る無属性と呼ばれる魔法もあるが、人によって楽に使える属性には多少の偏りがある。

 ヒューは風に適性を持つが、彼は魔力が膨大なので全属性の魔法を何の苦もなく扱えるらしい。魔力量が同じ俺もそう………なはず。


 魔物にも弱点となる属性があったりするので、これは全員がお互いに知っておかないと。


「部署は同じだから顔は皆知ってるけど、そういえば属性までは知らないなぁ。改めて自己紹介しとこっか?

 私の名前はアディラ。得意なのは土魔法で、特に防御と強化支援には自信あるよ!普段は結界魔術の研究してるの。」


 黙って俯いていた時はわからなかったが、本来は快活な女性だったようだ。黄色味の強い茶色のショートヘアとぱっちりとした赤茶色の瞳、ころころ変わる表情がその雰囲気によく似合う。

 聞いてる限りは防御担当、かな。土属性の魔力はそういうのに向いてるってローレンさんに教わった。


「………副室長にも、これくらいの気軽さでいいの?」

「うん、むしろその調子でお願いしたい。」

「やった!私、堅っ苦しいの苦手なんだよね~。改めてよろしく!」

「え、あ、はい。」


 ………何だろう、気軽にって言ったのは俺なんだけど、さっきまでとテンションの差が激し過ぎて、精神的な気温差でちょっと風邪ひきそう。アディラさん以外のメンバーもその後ろで慌てるか若干引くかしちゃってるよ。


 まぁでも、警戒して距離おかれるよりはいいか。この調子でいこう。


「ええと、次は私ですね………セシリアです。アディラとは同じ研究班で、結界魔術や支援魔術の研究をしています。得意な属性は水と風ですが、攻撃は苦手で回復魔術と支援魔術が得意です。」


 こちらは大人しそうな雰囲気の、癒し系美人さん。輝くブロンドの長い髪に優しい青緑の瞳で、小悪党くらいだったら微笑みだけで改心させられそうだ。

 回復役がいるのは安心できるな。ゲームやる時も、ヒーラーとバッファーは大事だよね。


「俺は、マークだ。よく使うのは水と氷の魔術だが、強い一撃を撃つよりは細かく連射する方が上手くやれる。魔力量は、さほど多くない。」


 マークさんはヒューより少し短い、と言っても肩よりは長い灰青の髪にすらっとした体躯、表情が固めなお兄さんだ。少し冷たさを感じさせる水色の瞳も相まって、無口な必殺仕事人って感じがする。

 ただ人と喋らないだけだったら研究中のヒューもこういうクール系に見えたのかもしれないけど、暴走するらしいから多分違うんだろうな。


「グレンだ。火魔法が得意だな。マークとは逆に範囲の広い魔術ぶっ放す方が得意で、研究も広範囲魔術が専門だ。

 ………あと、あんまり礼儀はわかんねェから多少の事は大目にみてくれよな。」


 最初に話しかけてくれたグレンさんは、赤茶の短髪が男らしい男性。体格も良く、ローブを着ていても正直魔導士には見えない。なんかもっとこう、物理的に強そう。

 強面ではあるものの、自己紹介の最後にぱちっとウインクしてきたので結構お茶目な人かもしれない。


「あとは僕、ですか。イアンと言います。僕が得意なのは雷の魔術です。でも、副室長の実験の手伝いしてる時に色々な魔術を見せていただいたので、大抵の魔術はそこそこ使えるようになりました。」


 記憶を見た限りでは、イアンには準備の手伝いだけ頼んで実験は大抵ヒューが一人でしていると思っていたんだけど。実際は実験中も一緒にいて、ヒューの技術を学んでいたらしい。

 ヒュー、もっと周りに意識を向けてくれ。頼むから。


「僕は研究班には所属してないですし、皆さんとはあまり面識ありません。その………僕も普通に喋っていい、の………ですか?若輩ですけど。」

「副室長が言ってるんだから良いでしょ。無理にとは言わないけどさ。」

「えっと、じゃあ、落ち着かないんで、しばらくは今まで通り話します………。」


 イアンは正確には研究員ではなくヒューの助手なので、研究員である他のメンバーと接点があまりなかったらしい。この機会に会話が増えるといいね。


「よし、俺も自己紹介しないとな。名前はヒューバート、属性は風だけど、大抵の属性は使える、はず。

 ただ、皆も知っている通り記憶が怪しいし、そうでなくても討伐は初めてでわからない事も多いから、そこは皆に色々教えてもらえると助かる。」

「いつも魔術理論教わってる側だから変な感じするけど、任せといて!私とグレンは元兵士だから、討伐の経験もあるよ!」


 アディラさんは魔導士部隊員、グレンさんは魔法を大剣に乗せて前衛で戦う魔法剣士だったそうだ。

 討伐経験があるんだったら、隊長は二人のどちらかに任せた方がよくない?


「討伐で組む前衛隊に貴族が多いと、平民リーダーに文句言ってきたりすんだよ。名前だけでもいいから引き受けといてくれ、隊長。」

「あー成程、そういうのがあるのか。」


 軍では出自で待遇などを変えることはない、階級は実力と成果のみで決まる、ということになっている。それでも、身分を笠に着るテンプレ悪役貴族みたいなやつは少なからず存在するようだ。


「そういうことなら、わかったよ。

 ………隊長って呼ばれるのはむず痒いけど。普通に名前で呼ぶんじゃ駄目?」

「えー、隊長の方が格好いいって!」

「よろしくお願いしますね、隊長。」


 隊長で決定らしい。が、頑張ります。

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