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 ヒューの身体で初めて目を覚ましてから15日。屋敷内は問題なく歩き回れるようになり、抉れていた部分も塞がって、ようやく主治医から外出しても問題なしとのお墨付きをいただきました!


 いやぁ長かった、身体がなまってしょうがない。ヒューは運動苦手って言ってたし確かに筋肉はあまりないけど、俺は元の世界だと毎日身体動かしてたからな。久しぶりに思いっ切り運動したい。あ、思いっ切りはまだ駄目?


 それと、怪我による魔法の使用制限も解除された。らしい。言われるまで制限されてたこと知らなかった。

 魔力の量と質はヒューと同じって言ってたし、ヒューの魔術知識もあるし、使えるものなら使ってみたいよな。


「ユウト様ぁ、研究室長から怪我の具合はどうかと手紙が来てますよぅ。心配で、というよりは外出許可出たなら復帰してくれって感じの文面ですねぇ。」

「外出許可はもう伝わってるんだ?」

「休み取るのに医師の診断書提出してますので。

 外出許可は出たばかりですが、どうなさいますか?記憶が曖昧だということも伝わっているので、ユウト様がヒュー様として行っても問題ないとは思いますよぅ。」

「うん、行ってみようと思う。

 ヒューに事故の時の様子は少し聞いたし、今の俺は記憶喪失扱いだし、記憶見る限り人付き合いほぼなかったみたいだから何とかなるんじゃないかな。

 記憶で見た誰が室長さんか、とかはちょっとぼんやりしててわかんないけど、そこは記憶が曖昧ってことで通すよ。」


 ヒューの仕事もあるだろうし、研究室で俺達が元に戻る方法も探さないと。室長さんと顔を合わせて話すことは普段あまりないみたいだけど、どんな人なんだろう。


 ………やっぱり、ちょっとおかしいよな。


「ねぇ、ステラ。今の俺としては助かる部分もあるんだけど、ヒューってわりと人当たり良いのに何でこんなに知り合い少ないの?友人いないとか言ってたよね?」


 仕事中も書類やメモで必要事項のやり取りをしていて、人と会話している記憶はほとんどない。ヒュー自身はかなり明るい人なのに、何でこんなに人付き合い下手なんだろう。

 コミュ力は全部ハロルドさんに持っていかれたのだろうか。いや、ファウストとは楽しそうに喋ってたよな。


「人当たり良かったんですか?相手が異世界のとはいえ、ご自身だったからですかねぇ。」


 ………どゆこと?


「そうですねぇ、どうご説明しましょうか。

 まず、ヒュー様は身分の違いを全くと言っていい程気になさりませんが、国境の伯爵家ですから平民の方はまず近づきません。それにヒュー様はその………かなり魔力が強く、少し恐れられてもいまして。」


 本人も世界最強クラスとか言ってたしな。


「更にヒュー様ご自身も社交が苦手で、パーティーなどに参加しても積極的には会話なさいません。」

「貴族でも平民でもない人、とかは?」

「貴族以外を平民と呼ぶんですよぅ。全ての人がどちらかに属します。強いて言うなら王族と聖職の方々が別枠ですかねぇ。」

「つまり、ヒューは基本誰とも話さない、と。」

「はい………」


 ウィリアムズ家の面々も社交の苦手なヒューを心配していたものの、良家の子息令嬢が多く通う国立学園に入れば一人くらい友人もできるだろうと考えていた。


 家族のそんな思いとは裏腹に、学園に入ったヒューはまるで水を得た魚のように魔術にのみ熱中した。

 それだけならただの真面目な生徒で済んだのだが、ヒューは書庫にこもっては大量の魔術書を積み上げて読み漁ったり、実験失敗で焦げた服のまま廊下を歩いていたり、一人で笑い声を上げながら階段を駆け降りたり。貴公子ならぬ奇行子として有名になってしまったのだとか。

 更に何度も飛び級を繰り返したため、クラスメイトと親しくなる前に次の学年に進んでしまうという状況が入学から卒業まで続いたことも事態に拍車をかけた。


 結局今日に至るまで、極度の人見知りは治っていないとのこと。俺やファウストには積極的に話しかけてくれて、全く人見知りには見えなかったから意外な話だった。


「それに、魔術書を読んでいる間は話しかけても軽く触っても全く気付かれません。これは人見知りとか関係なく、私やハロルド様でもです。」

「あぁ、それは本人からも聞いたよ。」

「試しにその髪で三つ編みを大量に作って、それを更に編み込んで豪華に盛ってみましたけど、読み終わるまで何も言われませんでしたよぅ。ほどいたらふわふわのウェーブヘアになってました。」


 ステラ何やってんの?


 それにしても、ヒューの魔導研究馬鹿は本当に筋金入りなんだな。きっと超合金の筋金だ。


「あと、少し仲良くなれても、魔術に関する話をしてしまうとお話が止まらなくなるんですぅ。あまりの情報量に大抵の人はここで引いてしまわれます。

 さらに、突然何か思い付いたり実験したいって言い出したりして、大暴走する事もあるので。勇気出して話しかけてくれた猛者達も、話の展開について行けずにやはり去ってしまうんですよぅ。」

「話しかけただけで猛者って言われるんだ………」

「魔導研究室長は数少ない、ヒュー様のお話について行ける方みたいです。室長もヒュー様もお忙しくて、仕事以外のやり取りは普段されないみたいですけど。」


 ヒューは俺の世界で言うところの、重度のオタクって感じらしい。好きなことの話になるとマシンガントークしちゃう人ってどこにでもいるよね。俺もたまにやっちゃう。


 確かに夢の中でも一人でぶつぶつ言ってたし、実験はあそこじゃできないからしなかっただけなのかもしれない。


「ヒュー様ご自身、友人作る暇があるなら研究したいという方でして。この際、ユウト様がいらっしゃるうちに友人の一人や二人作っておいていただけませんか?」

「ヒューに戻ったらまた引かれるだけなんじゃ。」

「ですよねぇ。」


 ………あれ、俺までヒューの扱いひどくなってきてる?


「ヒューは気にしてなさそうだったけど、異世界の俺がぼっちってのもなんか悲しいから少しはやってみるよ。」


 あんまり期待はしないでね、俺だってそんなに友人多い方ではないんだから。


「………あそこの方々はヒュー様の魔力怖がりませんし、ユウト様の性格ならあるいは………」

「ん?何か言った?」

「いえ、何でもないですよぅ。では、研究室に連絡を入れますね!」





 はい、こちら現場の刀伎です!

 私は今、王都中央部にある国軍本部の門の前に来ています!

 ここから見えている建物だけでもかなり大きいですが、ここはあくまでも入り口。入場する人やその持ち物などの検査を主にしている所で、兵士の訓練場やヒューが勤めている研究室はもっと奥にあるそうです!

 いやぁ、入るのに腰が引けるくらいの荘厳さですね!ガーゴイルついてますよ!


 ………はぁ。こんなテンションでもないとやってられないよ。威圧感が半端ない。せっかく家からついてきていた強面の護衛がいなくなったのに、これじゃさっきまでとほとんど変わらないじゃん。

 至る所に剣を腰から下げた厳つい兵士さんが立っていて、鋭い目つきで周囲を警戒している。お、お仕事お疲れ様です。


 じろり。


 うああ、こっち見ないでください、俺何もしてませんから。

 あれ、俺ヒューじゃないから身分詐称とかになるのか?バレたらヤバい!消される!

 魔法を使われなければ倒して逃げられるかな?いや、一人ならともかく数多いから普通に無理だよな。

 ヒューはこんな所に毎日通ってたの?俺はここにいるだけでメンタルごりごり削られるんだけど?


 何とか平静を装って建物に入ると、俺と同い年か少し下くらいに見える金髪男子がこちらに大きく手を振ってきた。そっちに行けばいいのかな。


「副室長、お久しぶりです。お身体は大丈夫なんですか?」

「問題ない。ただ記憶が………」

「はい、伺ってます。なので僕が、室長の所までご案内させていただきます。」

「わかった。あの………お名前聞いていいですか?」


 彼はぴたりと動きを止めた後、ぎぎぎ、と音が鳴りそうな動きでこちらを振り向いた。その反応はさすがにちょっと傷つくよ?


 名前忘れられたから?それとも、最後うっかり敬語で話しちゃったのがまずかったのかな。

 でも仕方ないじゃん!まだ口調を完璧に真似られる程ヒューのこと知らないんだから!


「僕は、イアンです。普段は副室長の下で主に業務補佐や実験の手伝いをさせてもらってます。

 ………あのぅ、普段通り話してもらえませんか?」

「ごめん、その普段通りっていうのがわからなくて。えっと、イアンだね。初対面ではないんだろうけど、改めてよろしく。」

「は、はいっ!頑張ってサポートします!」


 良い人そうだけど、ヒューに振り回されて苦労もしてそうな感じがする。ヒューと会話した記憶がほとんど見られないのがまた可哀想だ。一応、助手みたいなのに。


 ヒューは近寄りにくいだけで嫌われているわけではないらしいってステラに聞いたから、彼もヒューの事を嫌ってはいないと思いたい。

 だったら目指せ、近寄り難いイメージ払拭!という訳でステラに頼まれた友達作り、候補者第一号は彼にしよう。何話せばいいかな。


「あ、あのっ、副室長。」


 おっと、話題を考えている間に先を越されてしまった。専門的な話とか、俺じゃ答えにくい話されたらまずいな。


「はい、何ですか………じゃなくて、何だ?」

「記憶にないのかもしれませんけど、事故の時は僕達を守って下さって、本当にありがとうございました!」

「あぁ………えーと、どういたしまして?」


 ごめん、それ、俺じゃないんだ。

 守ったって何だろ。ヒューは自分だけじゃなくて、魔法陣も魔術盾で囲んだとか言ってたからそれかな。


「僕達を守るために、あんな、あんな大怪我を………今度こそもう駄目かと………!」


 質問とかじゃなくて安心したけど………うん、話題を変えよう。こちらから質問しよう。話の主導権を握っておかないと、話し掛けられる度に緊張する羽目になっちゃうよ。


「イアン、俺が休んでいた期間の仕事はどうしてた?かなり休んでしまったし、溜まってたりする?」

「ぐずっ………いえ、室長が他の班に割り振って下さったので、今はまだ問題なく回ってます。」


 他の班?

 そういえば研究「室」っていうわりには向こうに見える建物一棟全て研究室の区画みたいだし、かなり規模は大きいのか。


「………ちょっと記憶が不安だから、魔導研究室の組織構造とか軽く教えてもらっていいかな。」

「そっか、そうですよね。えー、魔導研究室は、大きく分けて三つの部署があります。


 まずは軍事魔導部、第一研究室とも呼ばれます。副室長は一応そこのリーダーです。主に攻撃魔法や防御魔法、回復魔法など、人や魔物が直接発動する魔術やその運用方法の研究をしています。


 第二研究室は魔導技術部、ここは魔法を使った街の整備や、転移魔法陣の汎用化など、社会に根差して暮らしを豊かにする魔術の研究が主ですね。魔導車を初めに作ったのとか、王都の上下水道を整備したのとかがここです。


 第三研究室は最近第二から独立した魔導具開発部、作っている物は技術部に近いですけど、魔力が切れた人や魔力が弱い人でも使える魔石を使った魔導具を主に開発しています。あそこは回路の知識さえあればいいので、魔法があまり使えない人も多いです。


 副室長は名義上第一研究室長ではあるんですけど、他の部署からの協力依頼があまりに多いので、一部屋もらってお一人で全ての部署の仕事に関わられてました。僕はその予定管理とかもしてます。」


 丁寧な説明ありがとうございます。

 軍の研究室と言っても、軍事的な魔法だけでなく様々な分野の研究がされているようだ。所属が軍なだけで、実質国の研究所みたいなものらしい。


「あ、いつも通り予定を書いておいたので、手帳渡しておきますね。体調を考慮して少なめにしてもらいました、けど………もうちょっと減らせるよう調整してみます。」


 うわ、重………手帳とは言い難いくらい分厚いな。メモ書きらしき紙が大量に挟まれていて、表紙と裏表紙の角度が30°くらいある。もっとあるかも。挟む必要あるのか?

 これで少なめって言ったよな………ヒュー、オーバーワークなのでは。


 各研究室のトップが副室長と呼ばれているので副室長はヒューを含めて三人。三つの部署を統括し、国軍や王家との連携をしているのが今から会う研究室長らしい。

 予想はしてたけどなんかすごそうな人だ。そんな情報聞いたら余計緊張してきた。 

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