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1 ???side

「………と!結斗、気がついたのか!!」

「結斗、しっかり!私のことわかる!?」


 姉、さん?

 あれ、俺も、死んじゃったんですか?


「良かった、目ぇ開いた!」


 ………?


 眩しいくらいの白い部屋に、柔らかい寝床らしきもの。腕には何かついていて………透明な管で水が入った袋に繋がってますね。何ですかこれ。


 知らない人が二人、俺の顔を覗き込んできた。敵………!?


「っ!!」

「あっ、そんな急に動いちゃ駄目だよ点滴取れちゃう。痛い所ない?」

「来ないでくださいっ!!」

「どうしたんだよ結斗、変な夢でも見てたのか?」


 言葉、通じてます、よね。あれ、俺今、いつもと違う言葉を話しませんでしたか?

 何が起きたんでしょうか。さっき受けたはずの傷がない、姉さんもいない、こんな部屋も道具も見たことない。


 ………え、ここ、どこ?


「おい、結斗?………急に顔色悪くなってきたな。どっか痛むのか?」


 ! 何か、言わないと。話し合いができる人とはまず話をしてみなさいって、小さい頃おじさんに言われました。

 でも、何を話したらいいかわかりません。頭が真っ白になるって、こういうことを言うんでしょうか。


 ………知らない人は、姉さん以外の人は、怖い。でも、怖がってると相手に思わせちゃいけない。うう、しっかりしないと。


「えと、ユウトって、俺のことですか。」

「そうだよ。………奏江さん、これちょっとヤバくね?」

「うん、先生呼んでくる。」


 女の人の方が、小走りで部屋を出ていく。呼ぶって、仲間をでしょうか。


「………なぁ、結斗」

「!」


 パシッ


「痛、何その高速猫パンチ。地味に威力高い。」

「あっ、あの………ごめ、なさい。」

「いやこっちこそ、いきなり触って悪かった。記憶喪失なんだったら、俺も知らないやつなんだよな。

 えーっと、俺は榊原司馬。お前んトコとはご近所さんで、昔からよく一緒に遊ぶ仲だよ。で、お前は刀伎結斗。そよぎ野高校二年、帰宅部。」


 えと………その人と間違われてるんですかね?


 記憶喪失ってあれですよね、今までのこと忘れちゃうやつですよね。家にある本に出てきたから知ってます。

 俺がそのユウトって人じゃないって言ったら殺されるかもしれませんし、しばらくはそういうことにしておいた方が良いんでしょうか。今戦いになったら絶対負けます。全身痛いですし、なんか脚が固められてるので。


 言葉が通じるなら、俺がユウトって人じゃないとバレても仲間にしてもらえるかもしれませんけど………それはまだ怖い。確実じゃないから。


「………怖いよな。」


 え、あれ、声には出してないのに。


「痛いことはしないって。ちょっと頭撫でようとしただけ。」

「っ………!」

「ほら、怖くないだろ?」


 頭をそっと撫でる手に、姉さんのことを思い出す。姉さんが俺を撫でてくれる時はいつも笑顔だったのに、どうしてこの人は悲しい顔なんでしょうか。


「大丈夫、俺は何があっても結斗の味方してやるからな。たとえ結斗が凶悪犯になっていようが、俺はいつも通りおやつでも持って話聞きに行くよ。」


 おやつって何ですかね………


 この人とユウトって人は、俺と姉さんみたいな関係なのかもしれません。優しい顔をしています。仲間なら普通のことかもしれないですけど、俺は姉さんしかちゃんと知らないから他の人はどうなのかわからないです。


 姉さんとおじさん以外に笑いかけられたことなんて、今まで一度もありませんでした。………何だか、むずむずします。


「ん?何だよ、照れてんのか?やめろよ俺まで恥ずかしくなるだろ。」

「………照れてるって、どんな感じですか。」

「え、記憶喪失ってそういうのもわかんなくなるのか?

 照れるってのはほら、嬉しいけど恥ずかしい、みたいな………改めて聞かれると説明しづらいな。ググるからちょっと待ってろ。」


 ぐぐ………?


 あ、さっきの女の人が帰ってきました。白い服を着た男の人も一緒です。さっきから周りが白ばっかりで落ち着きません。


「こらこら、携帯使うなら待合室の使用スペースに行ってくださいよ。

 刀伎君、最近あまり来なくなって安心していたのに、今度はまた交通事故ですか。本当についてませんねぇ。やっぱり前世で大量殺人でもやらかしてるんじゃないですか?」


 「ぜんせ」が何かはわかりませんけど、殺人はしたことあります。何でわかるんですかね。

 ………もしかして、この白い服の人は俺のこと知ってるんでしょうか。だとしたら、いつ攻撃されてもおかしくない。この怪我で逃げ切れるでしょうか。


「………おや、いつもなら軽口を返してくれるのですが。」

「様子がおかしいってさっきから言ってるじゃないですか。

 ほら結斗、気持ちはわかるけど睨まないの。東先生だよ、結斗が怪我した時によく見てもらってる外科の先生。わかる?」

「せん、せい?」


 げかって何ですか?


 さっきから言葉はほとんど通じてるのに、話の内容がよくわかりません。何言ってるんでしょう。攻撃はしてこないみたいですけど………


「………成程。」

「先生、こいつ自分のことすらわからないみたいなんだよ。」

「事故直後ですからねぇ。事故の衝撃による健忘の可能性が高いでしょう。

 外傷の状態は確認済みですから、記憶障害の程度や感覚障害の有無などを確認しましょうか。脇坂さんと榊原君も一緒に。いきなり私と一対一は怖いでしょうから。」

「いや、今の結斗は俺達のこともわからないけど?」

「刀伎君、君の服をしっかり掴んでますが。」


 え………あ、本当ですね。いつからでしょう、無意識でした。


「………記憶をなくしてもかわいいやつだな、結斗は!」

「痛っ、そこ痛い、です。」

「はいはい、始めますから放してあげてください。

 では刀伎君、ゆっくりで構いませんから、今から私がする質問に答えてくださいね。」





「では、今日はここに泊まって経過観察です。脇坂さん、いくつか書いていただきたい書類があるのですが。」

「わかりました。司馬君、結斗をしばらく頼むね。」

「了解。」


 確認テストっていうやつ、ほとんど何も答えられませんでしたけど、あれで良かったんでしょうか。


 この人達が俺をユウトって人だと勘違いしてるんだと思ってましたけど、そうじゃないかもしれません。鏡に映った俺の顔、俺だけど俺じゃなかったから。


「結斗、焦らなくていいからな。新しい人生始まった、くらいに思ってればいいよ。

 ………一気に思い出したら、キツいかもしれないし。」


 ?


「退院できたら、一緒に色々見て回ろう。家とか、学校とか、いつも行ってるスーパーとか。

 今日はもう休んどけ。骨は片足にひび入っただけだったけど、全身何ヵ所も打ち身やら内出血やらできてんだぞ、お前。内臓破裂とかしてなくて幸運だったってさ。」


 右足が固めてあるのって、折れた骨の固定だったんですか。捕獲道具かと思ってました。

 言われてみれば、仲間だと思ってる人を捕まえるのはおかしいですよね。


 ………なんだか、疲れちゃいました。久しぶりにいっぱい喋ったからでしょうか。

 カゲになった姉さんのことも気になりますけど、まずは怪我を、治さ、ない、と………


「ただいまぁ。」

「あれ、速くね?」

「慣れてるからね~、悲しいことに。

 司馬君今日はありがとう、すぐ駆けつけてくれて。私もすっ飛んで来たけど、珍しく国内だったとはいえ飛行機に乗らなきゃいけない距離でさぁ。」

「頼まれなくても来るよ、俺が電話かけたからかもしれないし。………電話越しに事故の音だけ聞こえて、マジ心臓止まるかと思った。」

「運転手が何かの発作起こしたんでしょ?運が悪かっただけだよ今回も。

 さ、司馬君はそろそろ帰りな。私今日はここに泊まってく。数日後にまた海外の予定だったけど、どうしようかなぁ………」

「じゃあ、俺はまた明日来るから………あれ、結斗?もう寝たのか。」


 ………むにゅ。


「ほんとだ、眉間のしわすっごい。痛いのかな。

 ………これからも、結斗のこと頼むね。私より司馬君の方がきっと信頼されてるから。」

「そんなことないって。まぁでも、そばにいる時間だけは長いしな。任しといて。」

「うん………ほんと、何で結斗ってこんなに運悪いんだろ。お姉ちゃん達の分まで幸せになってほしいのに。」


 ………おねえちゃん?


「姉、さん………いったら、いや………です………」


 いかないで。

 ちゃんと、いいこにするから、おねがい。

 おれを、ひとりに、しないで。


「あらら。結斗ったら、また司馬君の裾掴んで。今日は珍しく甘えただねぇ。」

「おーい、俺は姉さんじゃないぞ………あれ、結斗が姉さんって呼ぶ人なんていたか?奏江さんのこと?」

「私のことは頑なに奏江さん呼びだよ?」

「じゃあ姉さんって誰だろ。俺じゃあるまいし。」

「夢の中にいるんじゃない?甘えさせてくれる、いい感じにボインのお姉さんが。」

「あんまそういうの欲しがるイメージないけどなぁ………」


 ………誰かがまた、頭を撫でてくれてる気がする。あったかい。


「よしよし。どんな夢見てんのかは知らないけど、夢の中でくらいは楽しくやれよ、結斗。」

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