表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/103

47話 レビュー:星1

『農業で鍛錬』

『極上リゾート』

『ジョブカフェ』


 神官たちが考えてくれた3つのプランは、どれも外せない。


「だったら、全部採用して『ゲーム』にしてしまえば良いのです!」


 神官やリーダーたちを見まわし、テント中に声を響かせると。彼らは「ゲーム?」と首を捻った。

 たぶんこの世界に、元の世界のような電子機器は存在しない。が、もっとルールが単純明快な、チェスのような盤上ゲームの存在は確認している。

 ならば、「ゲーム感覚の体験農業システム」を説明するのに支障はないはずだ。


「まず最初に3つのプランから、お客様の需要に合ったものを選んでいただきます。そして同じプランを選択した方々がチームとなって、作物の収穫高などを競うのです!」


 プランの選択は、いわば冒険の最初に所属するギルドを決めるようなものだ。

 そして1ヶ月単位などで成果を集計して、もっとも優れていたチームには特典を付与する。


「これならリピーターを増やしつつ収穫高を上げられると思うのですが、いかがでしょうか?」


 紙に書き起こしながら、順を追って説明すると。

 ドラグとちびドラ神官は頷いてくれたが、両チームのリーダーと凸凹神官は「つまり?」と口を揃えた。


「えっ……そんなに分かりにくかったのでしょうか?」


 幾度とプレゼンをこなしてきた元社畜ですらも、オークたちを納得させるには力不足だったか――。

 肩を落としていると、「僕には分かりやすかったけど」、と大きな手が背中に触れた。


「実際にやった方が早いんじゃない……? どのプランも採用するなら、彼らに異存はないだろうし」

「ドラグ様……」


 こういう時に、肯定してくれる存在がいると安心する。

 背に添えられた夫の手を取り、「ありがとうございます」と微笑んだ。


「では細部を練り直して、実際に『プレオープン』してみましょう!」


 いざ計画が本格始動すると、「やるべきこと」が山ほどのしかかってきた。ここまで大きな施設の計画から立ち上げまでを担当するのは、前の世界を通してもこれが初めてだ。

 経営チームのリーダーであるカナメロに手伝いを頼み、計画表を詰めていく。


「ゴーレムたちに宿泊棟の増設を依頼して、オークたちはシンシアから接客の訓練を受けてもらって……」

「エメル……パパたちに接客とか、できっかな?」


 カナメロの不安はもっともだが、「できるかな?」ではなく、「できる」状態になってもらわなくては困る。


「ディズロムさんたちも生活がかかっていますから、きっと必死に勉強してくださいますわ」


 汗を拭い、紙の上から視線を上げると。常設テントの外では、エルフやノームたちが畑に手を加えていた。

 オークたちが強靭な肉体と体力を生かして耕した畑には、すでにいくつもの芽が出ている。それをエルフたちが魔力で育て、ノームたちが苗の様子を見ていた。

 要である広大な畑は順調――あとは滞在者(ビジター)に貸し出す畑を追加で耕して、温泉周りの設備も整えれば、なんとかプレオープンまで漕ぎ着けられそうだ。


「ところで、施設の名前は『エルフ村』と『オーク村』、どちらに決まったのです?」


 つい先日まで、彼らは共に温泉に入りながら、そんな楽しい争いを繰り広げていた。

 カナメロに問いかけたつもりが――。


「もちろん、決まっただな」


 いつの間にかテントの下へ休みにきていた、ディズロム。


「ああ、アレしかないな」


 同じく休憩で居合わせたナノが、両者顔を合わせて頬を緩めた。

 そして同時に口にしたのは、『エメル村』――。


「……って私、ですか?」

「んだ! 領主代理さまがオラたちをここまで団結させてくださったんだ」

「皆が『ぜひこの名前が良い』と言うから、仕方なく、な」


 ナノのデレ具合がいつもの3割り増しだ。

 こういう時、どんな顔をしたら良いのか分からない――前の世界では、「仕事」はあくまで「仕事」。何かをやり遂げたことで「お疲れ様」の言葉はあっても、感謝されることはあまりなかった。

 胸の内がむず痒いまま、彼らの笑顔にただ微笑み返すしかできない。


「オラも最高の案だど思う……『エメル村』」

「カナメロ……」


 ここまで来たら、絶対に成功させなければ。

 彼らの感謝と期待に応えるためにも、「農業体験型リゾート施設『エメル村』」を、良い形でオープンさせなければ。


「では1か月後のプレオープンに向けて、『エメル村』始動計画スタートですわ!」


 そうして、能力や特性の異なる多くの種族が力を合わせ、各々の仕事をこなした1か月――。

 初めての接客練習で頬の筋肉がつったディズロム、知らないところで心の距離を詰めているカナメロとナノなど、挙げればきりのない出来事が飛ぶように過ぎていった。

 そして――。

 いよいよ施設や設備が整った本日。

 多種族の協力の結晶であり、何より私が心血を注いだ「農業体験型リゾート施設『エメル村』」がプレオープンする。


「よくお越しくださった、お客人!」


 まずはシンシアの指導で「接客スキル」を磨いた案内役のディズロムが、15名の客を出迎える。

 彼らはギルド経由で領内外から集めた、獣族、魔族問わず、様々な種族のモニター客だ。


「まずは、ビビッときた農業ギルドを選んでくだせぇませ」


 ディズロムの、長年の言葉遣いまでは1ヶ月で変えられなかったらしいが――逆にいい感じだ。

 最前列のくたびれたドワーフが、メニュー表を見て目を輝かせている。


「身体も鍛えたい人」は『ギルド:オーク』。

「リラックスしたい人」は『ギルド:エルフ』。

「バランス重視の人」は『ギルド:領主』。


 そして1週間のプレ農業体験中、3つのチームで収穫量や味を競ってもらう。いわばギルド対抗戦だ。

 ただ、基本はゆっくり過ごしてもらうことが目的。滞在中の目標をやんわり提示しつつ、田舎体験を堪能してもらいたい。


「迷っちゃうなぁ……あんたはどうするんだね?」

「オレはのんびりゆったりしてぇなぁ。『ギルド:エルフ』に入ろう」


 客同士の会話が生まれている。

 ここまで非常にいい感じだ。


「農作業の時間だけは決まってますが、その他は自由だす」


 温泉入り放題かつお部屋でくつろげる――支配人の言葉に、客たちはにっこり微笑んだ。

 良かった。

「癒しの空間」は、人間以外にも需要があるらしい。


「そんだら、皆さまギルドは決まったな。これから1週間、『エメル村』でゆっくりしてってくだせぇ!」


 いよいよ、モニター客の滞在期間がはじまった。

 私の方はゆっくりしていられない。

 提供されるサービスに対して、客がどのような反応をするのか、こっそり見ていなければ。


「うわぁ……温泉って初めてだけど、あったかいんだネェ。ボク溶けちゃわないかなァ」


 スライム族には好評――と。


「俺も一緒に入れたらいいんだけどな、流石に無理かぁ」


 身体が常に燃えている、火の精霊族はさすがに入れないか――。

 例外はあるとしても、温泉は各種族向けに最適化された湯船の構造と広さだ。そしてレヴィンの提案で、緩やかなバフ効果のある入浴剤を投入している。


「次はごはんー! この『石ころの田舎煮』おいしそー!」


 鉱石が好物の精霊族は例外として。

 人型種族の方達に用意したご飯は、畑の恵みをふんだんに使用した、オークたちの振る舞う田舎料理。これもシンシアに仕込まれているから、味は保障できる。

 温泉、料理は好評。

 そして肝心の農業も、「日常から解放されたチル体験」として好感触――特にそれぞれのギルド所属のインストラクターであるオーク、エルフたちがよく働いてくれている。


「僕らの育てたカブさん、大きくなるところ見たかったなぁ〜」

「また来週末くりゃいいべ。その間、オラたちがちゃーんと面倒見ておくかんな」


 うん、オークたちも意外と商売上手だ。

 経営サイド(こちら)としても、「また来たい」に応えられる提案を、最後に用意している。

 そして――。

 あっという間に訪れた、最終日の帰り際。


「また来たいけど、1泊10000ソロンだからなぁ」

「頻繁に来れないかも。カブちゃん気になるけど……」


 来た、今こそ私の出番だ。


「ご安心を! ギルドに継続所属すれば、割引特典が適用されます!」


 1ヶ月の定期契約で、1泊あたり3000円以下。

 解約いつでも自由の良心的なサービスの概要を、玄関口の壁に映し出す――ここを結晶石のスクリーンにしておいて正解だった。


「えっ! 月たった30000ソロンでいいの? それでいつ来てもいいって?」

「ええ! お仕事の合間に、ご飯を食べにくるもよし、温泉に浸かるもよし! ただし作物たちの様子も見ていってあげてくださいませ」


 その上「季節ごとのイベントへの参加もできる」と畳みかけたところ。多くのモニター客が、「ぜひまた来たい」とこの場でサブスク契約をしていってくれた。

 まさか、ここまで上手くいくなんて――たぶん、ここが異世界だからだろう。元の世界では珍しくない体験型リゾートも、このシビュラでは斬新に見えたらしい。

 

「では、最後にアンケート用紙をお配りいたします! 後日返送をお願いいたしますわ」


 ナノに作ってもらった魔法の紙は、封筒に押印がされると、勝手に私の手元へ戻っていくという優れものだ。


「ありがとう! 世話になったね」

「すぐにアンケート書くよ。なんなら来週来たとき出す」


 笑顔で帰っていくモニター客を敷地の外まで送り出し、ようやく深呼吸することができた。


「お、お疲れ様」


 耳慣れた穏やかな小声を振り返ると。

 夫がタオルを手に立っていた。


「ドラグ様?」

「……少し休憩、しない?」


 夕陽を受けた黄金の瞳が、小さく揺れている。

 なんだか緊張しているような――夫の後に続き、たどり着いた場所は。


「温泉、ですか?」


 ドラグは「うん」と呟いただけで、カップル・その他用に作った貸切露天スペースに入っていく。


「え……と?」

 

 前回は偶然だったが、今回は明らかに誘われてしまった。お約束の邪魔が入る確率も少ない。

 夫、つまり『人生の推し』と合法的に混浴――頭がすでにのぼせそうだ。


「エメル、いや……かな?」

「えっ! いえ、そんなずなくなくもないです!」

「……どっち?」


 冷静になろう、私。

 これは仕事(ビジネス)

 まだ貸切露天は利用したことがないから、試しに利用するだけ――そう、それだけだ。

 ドラグに渡されたタオルを巻いて、先に心地よい温度の湯に浸かると。


「……失礼します」


 夕焼け色に染まる湯船に、大きな波が音もなく立つ。

 彼は前回同様、肩が触れるか触れないかの位置に腰を落とした。


「……あ、温かいですわね」

「うん……気持ち良いね」


 前回は完全に仕事だと思っていたから切り抜けられたが、今回は隣のドラゴンを妙に意識してしまう。

 黒いツノが視界の端で揺れ、つい顔を背けると。


「施設……すごく上手くいってるね」


 ドラグは、「農園」から「農業体験型リゾート施設」にまで成長したこの場所を褒めてくれた。


「君のことは、ギルドを作った初めの頃からすごいと思ってたけど……どんどん遠くに行っちゃうな」


 なんだか声に元気がない。元から柔らかい声色だが、いつも以上に輪郭があやふやな気がする。


「そんな、ドラグ様の支えもあってこそですわ」


 お世辞でも慰めでもない、心からの言葉を口にすると。


「僕は本当に、このままでいいのかな?」


 いつか聞いた言葉が、また繰り返された。

 やっぱり、ロードンの言葉が胸に残っていたのか――『ドラグ様は、そのままでいてください』――いつかの言葉は、やはり彼の胸に届いていなかったようだ。


「やっぱり領主なら、このままじゃダメだ。もしもの時、領を守れる強さがないと……」


 君といると、よりそう思う――苦しそうに微笑む夫に、口を引き結んだ。

 今の彼に、「そのままで良い」なんて言えない。

 でも、言葉が見つからない――だったら、今の私にできることは。


「……あの、ドラグ様」


 こっちを向いて欲しい、と告げた直後。

 不安に沈む顔が振り返ると同時に、立ち上がり、意外と筋肉質な肩に手を添えた。


「なにを……」


 目を丸くする夫の、薄く染まった頬に口付ける――いま、精一杯の勇気を振り絞って。

「好き」は言えない。これからも、ずっと言えないかもしれない。

 でも、これくらいなら――。


「ありがとう……」


 ドラグの腕が伸びてきて、そっと抱きしめてくれた。

 暖かい。暑すぎるほどに。

 でも素肌同士が触れる感覚に緊張する反面、心地良い。

 好き――。


「……ねぇ」

「はい?」

「君は……何があっても、僕とずっと一緒にいてくれる?」


 それはどういう意味なのか。

 特に、「何があっても」とは――。

 夜色に侵食されつつある、黄金の瞳。吸い込まれそうで、ちょっと怖いそれを見つめ返した瞬間。


「ん?」


 頭の上で、カサッと音がした。


「あっ、これ……」


 ドラグが指しているのは、見覚えのある封筒。


「もうアンケートが届いたのですか!?」


 嬉しい一方で、緊張する。

 私の指先に触れた封筒は、勝手に開いて中の評価を読み上げはじめた。


『サービス:星5、食事:星5、風呂:星5、体験星5……』


 評価は星5が最高。

 なんと、ここまで満点だ。


「エメル、すごいよ……!」

「これはいきなり、高評価ですわね!」


 すると総合評価は、もちろん――。


『総合:星1』

「やりましたわ…………え?」


 聞き間違いだろうか。

 改めて手紙を開いて読んでみると。


「本当に、星1……?」


 てっぺんから、一気に谷底へ突き落とされた気分だ。

 それぞれの細かい項目は満点評価なのに、なぜ――。


「エメル、ここ……」


 ドラグが指したのは、自由記入欄。

 そこには、こう書かれていた――『最後が全てを台無しにしている』、と。


 最後――サブスク契約のこと?


 しかし強引な勧誘はしていない上に、多くのモニター客が提案に快く乗ってくれたはず。

 なのに、どうして――。

次回:4章最終話「商売敵の黄金眼」


「あなたたち! いきなり飛んできてイチャつくなんて、いい度胸じゃない」


レビュー低評価の裏には、思わぬ「真犯人」が…?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ