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31話 半透明な真犯人

 このままでは、レヴィンたちがシオンを去ってしまう――しかし決定的証拠のない今のままでは、彼女たちを強制的に引き止めることはできない。

 引っ越しの準備を進めるレヴィンと、俯くララミィを交互に見つめていると。


「エメルレッテ様、一度ゴーレム族の会社へ戻りませんか?」


 まったく焦る様子のないイオは、「旦那様の様子を見に行きましょう」と微笑んだ。向こうでは、シカクと話ができるよう、ドラグがランド社長を説得してくれているはずだ。


「押してダメなら引いてみろ、ですよ」

「でも、レヴィンたちが出ていってしまいます!」

「大丈夫。今夜までに戻れば、きっと」

 

 たしかに今は、遺跡(ここ)でできることはない――妙な確信を見せるイオに従い、社長の会社へ戻ったところ。社長の説得に向かったはずのドラグは、なぜかデッキに仁王立ちする社長の前に座らされていた。


『領主として、より領内のことに目を向けねばならん。せめて代理に恥じない働きをしろ』

「……はぁ」


 これはまさか、説教されているのだろうか――笑みを深めるイオと視線を交わし、「ゴーレムがドラゴンを説教する」という不思議な光景に目を向けた。


『シオンの真の領主は代理ではない、貴様なのだ! ラグーナが今の貴様を見たら深く落胆することだろう!』


 ラグーナ。聞いたことのない名前だ。

 それにしても、社長の言葉が具現化したナイフのように、ドラグを刻んでいる様が見ていられない。言葉を投げられるたびにビクつくドラグと、真剣な社長の前に割り込むことにした。


「ランド社長、戻りましたわ」

『ああ……領主代理か』

 

 説教モードが解けた途端、社長は目に見えて元気を失った。もしやあの説教は、気を紛らわせるためだったのか――力の抜けた巨体が、ガシャンとデッキに座り込んだ瞬間。


「えっ……?」


 今、素早い影が目の前を通り過ぎたような――錯覚だろうか。

 会社の鍵をジャラジャラと腰に下げた社長は、『少し休む』とそのまま石のデッキに横たわった。


「エメルレッテさん……ごめん。社長を説得するどころか、僕が説教される羽目になって……」

「いえ、社長から話を聞こうと動いてくれただけでも嬉しいです」


 しかしドラグは、社長がシカクとミス・グラニーの関係を疑っていることを聞き出せたという。


「それは……まずいですわね」


 もしこのまま思い悩む社長が、ミス・グラニーのためにシカクが資材を盗んだと結論づけてしまったら――犬猿の仲で通っていたふたつの種族が、本格的な争いを始めるかもしれない。


「どちらにせよ、シカクから詳しい話を聞きませんと」


 2階にあるシカクの部屋を目指し、人間にとっては小さな山のような階段をよじ登ろうとしたところ。


「……僕、先に屋敷へ帰るよ。エメルレッテさんの好きな魚料理、作っておくから」


 もう日が傾いている。夕飯を作りに帰るというドラグを、引き止める理由はない。


「まぁ、それは楽しみですわね」

 

 鼻を犠牲にした資材の追跡に、ランド社長との対話と、今日の彼は十分よくやってくれたのだ。こちらを心配しつつも、真っ青な顔色の彼を休ませたい。

 あとは私とイオだけでなんとかしなければ――。


「ところでラグーナさんとは?」


 背を向けるドラグに、イオがすかさず声をかけた。

 たしかに、それは私も気になっていた。イオに対して、ドラグはどう反応するのか――一瞬こちらを見た彼は、すぐにまた玄関を振り返る。


「……祖母です。先先代の領主で、ランド社長とは懇意にしていました……妻を頼みます」

「ええ、喜んで」


 イオに警戒の目を向けつつも、ドラグはふらつきながら正面扉をすり抜けていった。

「妻」とはっきり他人に告げるところを聞くのは初めてだ。嬉しいのに、素直に喜べない――この微妙な距離感をはっきりさせたいところだが、今はシカクの部屋へ向かわなければ。

 夫を送り出しつつ、ふとさっきの影のことを思い出した。デッキでランド社長の腰元を通り過ぎたアレはなんだったのか――首を傾げつつも、イオの手を借りて2階まで到達すると。


「……やっときた」


 シカクの部屋の前にいたのは、赤茶色の毛の子狼。その腕には、彼女と同じくらい大きな鍵が抱えられていた。


「ララミィ……その鍵は?」

「レヴィンお姉ちゃんと会うまえ、盗む(こう)して生きてきた……でも今は、お姉ちゃんのおかげで食べるものと着るものがある」

「……そう、だったのですね」


 先ほど見た影は、ランド社長から鍵をかすめ取ったララミィだったのか――どうやら彼女たちは、レヴィンを家族同然に思っているらしい。

 温かい気持ちになる一方、彼女たちの間には違和感がある。この強固な絆の裏にあるものは何なのか――。


「……カギ、あけて。たくさん遊んでくれたシカクに、お別れしにきた」


 あの暗い横顔は、別れの辛さではない。そんな気がする。

 見張のいないタイミングを狙い、巨大な錠を解くと。シカクは相変わらず、石のベッドに横たわっていた。親子そろって、同じ格好で落ち込んでいる。


「シカク……!」


 肩に乗ったララミィを振り返ったシカクは、ようやく真っ青ボディを起こした。


『どうして、ここに?』

「……お別れ言いにきた」


 巨大な指が、狼の赤毛を優しく撫でている。

 きっとあの倉庫で、彼らも絆を育んでいたのだろう。


「シカク。ララミィとは、倉庫でどのように遊んでいたのですか?」

『じゃれたり、追いかけっこしたり、丸太を数えたり……』


 もう何度もそうして遊んだ――シカクの言葉に、「えっ」と声が上がった。


「丸太を数える遊び、してな……」


 そう言いかけて、ララミィはすぐに口を塞いだ。その隙にイオが、「シカク様」と口を挟む。


「もっと詳しく教えていただけませんか? 丸太を数えるその時、何か変わったことは?」

『変わったコト……あ』


 頭がぼうっとして眠くなった――シカクはそれを、「数を数えているから」だと思っていたらしい。羊を数えて眠るのはよく聞く話だが、ゴーレムの活動時間である昼間に、そんな眠気に襲われるのだろうか。


「もっと詳しく思い出してください。その前後に何があったのか」


 イオの追求に、シカクは手のひらに乗ったララミィを見つめたまま続ける。

 

『眠くなる前、ボディに溶け込むような……なんだろう、声のカタマリ? それ聞いてたら、勝手に身体が動いてる感じがした。よく、分からない』

「それって……」

 

 その感覚に覚えがある。しかしどこで感じたことか、すぐには思い出せない。


『エメル、それより、ミス・グラニーは? トーさん、ナンカ言ってた?』

「それは……」

 

 ドラグによると。ランド社長は、ミス・グラニーとシカクの間に特別な関係性があるのでは、と疑っているらしい。自然保護派のミスを助けるため、シカクが資材を隠してしまったのでは――そう考えているらしいことも、隠さず伝えた。

 シカクは話を聞いている最中も、話し終えた後も、まったく動いていない。


『ボク、彼女と別れる』

「え……どうしてそんな!」

 

 大切な恋人を共犯にしたくないから、関係がバレる前に別れる――淡々と言うシカクに、彼の肩に乗ったララミィが顔を寄せた。亜麻色のつぶらな瞳は、かすかに揺れている。


「そのエルフ、家族みたいにたいせつ……?」


 シカクは深く頷き、目の光を弱めた。

 カフェの新装イベントで、2人が秘密のデートをしていた時のことを今でもよく覚えている。喉が焼けるほどラブラブだった、あの光景を――。


『でも、ミス・グラニーの弟にも反対されてたし、ちょうどいい』

「ナノ、2人が付き合っていることを知っていたのですね……」


 あのシスコンに知られていて、よく今まで戦争が起きなかったものだ。「姉さん」と聞けば、大抵大人しくなる彼を思い出していると。


「……ララミィ、知ってる」

 

 静寂の中響いたのは、ララミィの声だった。


「知っている? 何をですか?」


 久しぶりに聞いたイオの声には、かすかな圧がこもっていた。顔はいつも通り笑っているが、ララミィを見下ろす視線はどこか冷たい。


「……ほんとうの犯人がダレか、知ってる」


 本当の犯人。

 そう白状したララミィの瞳は、日の落ちかけた窓の外を見つめている。


「では……ララミィは、その誰かの居場所もご存知なのですか?」


 今にも逃げ出しそうに震えるララミィを刺激しないよう、そっと問いかけると。彼女はシカクの肩から飛び降り、出口へ向かっていった。


「……来て」


 まさか、真犯人のところへ案内してくれるのだろうか――急な告白に頭が追い付かないが、せっかくの手がかりを逃すわけにはいかない。


『ララミィ、ボクも……』


 震えるララミィを見たシカクが、とうとう立ち上がったのだが。目の光をふっと消した彼は、突然電源が切れたように床へ崩れた。


「日が完全に落ちたのですね」

「あっ、なるほど……待っててね、シカク」


 夜になり、ゴーレムはみんな休眠モードに入ったはずだ。こうなれば、イオと2人で乗り込んでいくしかない――覚悟を決めたところで、イオが「お待ちください」と立ち止まった。


「案内を受ける前に、彼女たち……そう、傭兵ノームの方々を呼び寄せてはいかがでしょうか?」

「サツキさんたちを?」

「ええ。思わぬ危険があるかもしれませんから」


 いつもの笑みがない。初めて見る真剣な面持ちに、頷かざるを得なかった。

 そうだ、こういう時こそ慎重にならなければ――先にギルドへ立ち寄り、シンシアの娘たちに護衛の依頼を出すことにした。


「ようやくだなぁエメル様! 腕が錆びついちまうか思ったぜ」

「相手がどの種族かは判明していないのですが、よろしくお願いします」


【スキル:擬態】をもつララミィが知る真犯人。彼女が先導して向かう先に、何となく予想はついているが――分からない。いったい彼女が、どうやって資材を盗み出したのか。


「おや、雨が降ってきましたね」


 イオの声とともに思考を打ち切ったのは、頭をしっとり濡らすような雨。遺跡へ近づくごとに、雨足は強まっていく。


「雨か……コガネ、シズキ、トウカ、アカネ! 気合い入れろよ」


 姉の威勢に対し、4人の妹たちは無言で頷いた。同時に私とイオを囲むと、あらゆる方向に視線を巡らせはじめる。

 彼女たちの持つランプが照らす先には、糸状の雨が轟々と降り注いでいた。


「……っ、前がまったく見えなくなってきましたわね。この雨、もしかして……」

「もうちょっとだよ。そこに着いたら、ララミィはもう味方できない」


 本物のブラックから犯人の特徴を聞いた時、なぜピンと来なかったのだろう。やはり真犯人は――。


「……裏切りモノ」

 

 ぼんやり光る、虹色の結晶石がそびえる祭壇。そこに踏み入った瞬間、目の眩むような光が閃いた。

 遅れて響く落雷の音に耳を塞いでいると――針のような雨が弱まり、闇の中にふたつの深淵が浮かび上がった。


「……ついに本性を現しましたわね、ゴシックガール」


 向こう側が透けて見える肌に、雨雲を吐き出す青紫色の唇――真の姿を現した彼女は、結晶石の祠に腰かけ、レースのついた和風の雨傘をさしている。

 元神王が、愚かにもこの豪雨でようやく気がついた。彼女たちの立つところは雨に濡れ、キノコが生える。そして身体は半透明のアンデッド――。


「貴女、レヴナント族だったのですね?」


 震える指先を押さえ、深淵をまっすぐに見つめると。目を丸くしたレヴィンは、やがて嘲笑うように口角を上げた。そして子狼たちが遊んでいたような手振りで、「ヒュードロドロ」と笑い混じりに言う。

 

「……あーあ、もうちょいで逃げられたんだけどなぁ。スキだらけでカワイイ、『領主代理』さん?」

次回:領主代理に迫るのは、三度目の命の危機…そして、レヴナント族レヴィンの正体とは?

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