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19話 七色の瞳

『異形の翼』――気弱な夫に、なぜそのような不穏スキルがついているのか。

 ドラグが昔、太古の遺跡で翼に怪我を負った――アレスターが言っていたことと、何か関係があるのだろうか。

 しかしこの世界(シビュラ)の住人たちは、自分の能力(スキル)について認識していないことは分かっている。このことは、口にするべきではないだろう。

 何より今は、この奇妙な力に理解が追いつかない。


「エメルレッテさん」


 振り返るより先に、ひんやりとしたモノが右頬に触れた。ドラグの手だ。


「両目ともキレイな緑色だったのに。すごい……極光石みたいな光の輪ができてるよ」


 先ほどとは違い、震えのない指が目の下を撫でている。「キスしたい」――あんなことを言われた後では、まともに顔を合わせることなどできない。


「ええと、自分でも確認しますわ!」


 頬の熱がドラグへ伝わる前に、さりげなく離れることにした。

 始祖の鏡のような身体に顔を近づけると、右目に七色の輪が宿っている。


「かなり目立ちますし、普段は眼帯とかするべきでしょうか?」

「いや……眼帯の領主夫人とか、そっちの方が目立つと思うけど」


 冗談のつもりだったのだが。


『本当に仲睦まじい夫婦ですね』


 始祖の柔らかな響きに対し、ドラグは気恥ずかしそうに顔を背けている。

 仲が良いと指摘されて、素直に喜べないこの状況がなんとも辛い。


『さて。その瞳は「七曜の魔法」が宿った証』

「七曜の魔法?」


 匡花(わたし)」が元々持っていたもの――『シビュラ』(ゲーム)におけるスキル知識、そしてこの地を守るというエメルレッテ(わたし)の覚悟が融合し、願望が具現化したのだという。


「始祖様が与えてくださった力なのですか?」

『いいえ。それは貴女の「こんな力が欲しい」という深層心理から引っ張り出しています』

「中二病……ゴホン。世界観を壊すようなこの力を、私が望んだと?」

『ええ。深層心理です』


 せっかくこの世界(シビュラ)を「ゲームと似たシビュラ」ではなく、現実と実感しはじめたのに――釈然としないが、この目も使い方によっては役に立ちそうだ。


『ただし始祖(わたし)が消えれば、力は失われてしまいます。いずれは消えゆくこの身ですが、故郷を憂う貴女の力になれるのならば本望です』


 始祖はまだ、自分が子どもたちの採掘によって消える運命にあると思っているのだろう。


「始祖様のことは、きっと私たちがお守りします」


 元より新エネルギーを開発するため、パープル博士へ協力を申し出たのだ。そのためには、実験の失敗のせいで心が離れてしまったクリスタルたちから、再び信頼を得る作戦を考えなければ。


「それはやっぱり、『実験の成功』……じゃないかな?」


 影から見ていたドラグは、一瞬成功しそうになった時の光景をよく覚えているという。クリスタルたちは夢中になって、実験の行く末を見守っていたと。


「ですが、また失敗してしまったら」

『何を言うのです。貴女は以前よりも「良い眼」をもっているでしょう?』


 良い眼――【能力鑑定】を宿した右目に触れると、かすかな熱を放っていた。


『その眼ならばきっと、実験を成功へ導く采配ができますよ。子どもたちの個性を自信に繋げてやってください』


 そうか。秘めた能力が分かれば、それが彼らの自信に繋がるのだ――実験の成功率は上がるかもしれない。


「分かりました。この力で、きっと実験を成功へと導いてみせますわ!」


 胸を張ってテントへ戻ると。意気消沈していた博士は、黙々と魔性ツリーを加工していた。


「あのー、博士?」


 返事がない。ただ淡々と作業をすることで、ショックを忘れているようだ。


「では勝手に失礼いたします……【スキル:紫魔法B・レベル82】」


 そういえば博士は、催眠魔法で獣を眠らせていた。紫系の魔法は神経に作用する魔法だ。この辺りの認識は、ゲーム共通と考えて良いのだろうか。


「あれ? ということは」


 思いついたことを確かめようと、クリスタル族の居住窟を訪ねることにした。家具はなくとも、博士の研究窟よりも床や岩壁が平らに整形されている。


『ニンゲン、何しに来た?』


 歓迎されるとは思っていなかったが、ここまでの塩対応は心が折れそうになる――しかし今は1人ではない。


「エメルレッテさん……」

「はい。ここまで来たらやり遂げましょう」

 

 警戒したクリスタル族の面々に構わず、七曜魔法の宿った目で、彼らをなぞっていった。この目に映すだけで、普通は知り得ない情報が浮かび上がる。


「赤は炎魔法、青は水魔法」


 やはり間違いない。得意な魔法は、そのままボディの色と一致している。


「彼女は……あれ?」

 

 リーダー格の黒いクリスタルだけ、何も表示されていない。力を使いすぎて目が霞んでいるのか――瞬きをして目を凝らすと。かすれた黒い文字が複数、ぼんやりと浮かび上がった。


「最初の文字は、()()……いつっ!」


 今のは風、いや衝撃波か。


「どうしたの……!?」

「わかりません。ただ、彼女を【鑑定】しようとしたら」


 見えない何かに打たれた右目から、涙がひと筋溢れた。


「力が弾かれるのは、相手が自分より強い力で隠そうとしてる場合……だと思うけど」


 ドラグはハンドタオルを差し出しつつ、そう教えてくれた。力を弾かれたせいか、この眼力になんらかの制限があるのか、他のクリスタルからも何も見えなくなってしまった。

 それにしても、黒いクリスタルは何者なのだろう――周りは彼女を現場監督として慕っている様子だが。


『さっきから何、ジロジロ見テ』

「あの……少しお話が」


 彼らの信頼を得るには、正直に明かすべきだろう。始祖から力を賜ったことを話すことにした。また、鑑定結果を元に配役をして、再び実験をしたいと。


「先ほどは私の力が及ばず、実験が失敗してしまいました。ですが今度こそ、皆さんの真の実力が発揮できる配役をすれば、きっと成功します!」

「ぼっ、僕も、始祖が妻を認め力を与える瞬間を目の当たりにしました! 皆さんの力が必要です。どうか……力を貸してください」


 ドラグも頭を下げると、クリスタルたちはそれぞれ主張をはじめた。私が始祖と会話できたことに興味をもつ者や、初めて明らかになった能力を試したい者――かたや私の鑑定を疑う者とで分かれている。しかし今のところ、前者の方が多いようだ。


監督(リーダー)は? ブラックはどんな能力だった?』


 白いクリスタルの声に、『知りたい』と他の声も重なっていく中。ブラックがこちらへ近づいてきた。

 腕をこちらへ出し、何をするかと思いきや。魔法で綴った文字を見せてきた――『黒魔法』と浮遊する光を、他のクリスタルたちには見えないように。


「……どうして」

『ついさっき能力を覚醒したアナタより、私の魔法が格上だっただけのこト。鑑定できないのは仕方なイ』


 彼女の言い分はもっともに聞こえるが――何かが引っかかる。

 ひとまず指示通り、「黒魔法」と公言すると。納得したクリスタルたちは、新たな実験の配役について尋ねてきた。

 ブラックが鑑定結果を認めたことで、能力の信憑性が増したのだろう。再実験への参加にほとんどが乗り気だ。


「では先ほどと同じように、テントへご移動ください! 今度こそ、私たちの手で新エネルギーを完成させましょう」


 鼓舞するように声を張ったが、もしまた失敗してしまったら――そんな、()()()()()考えが頭をよぎる。クリスタルたちが先に洞窟から出ていく中、足を止めていると。


「……大丈夫だよ、きっと」


 柔らかい熱が、そっと手のひらに触れた――ドラグの頑丈な手が、震える手を包んでくれている。


「特別な力がなくても、君はすごいことをしてきたんだ……これからは、もっと大きなことを成し遂げられるよ」

「ドラグ様……」


 この言葉がエメルレッテではなく、匡花(わたし)に向けられていたらどんなに良かっただろうか――以前よりも力強くなった手を握り返せないまま、洞窟を出るドラグに続いた。

 落ち込んでいた博士は、戻ってきたクリスタルたちに驚いている。ここは考える間を与えないようにしよう――。


「再実験です! さっそくスキルの鑑定結果に基づいて、配役を発表いたします」

 

 テントへ集った色とりどりのクリスタルを前に、息を呑んだ。前回は魔法のレベルが低く、しかも物体強化は専門外の赤いクリスタルに任せてしまった。できるだけ魔法のレベルが高いクリスタルに頼むとしたら――。


「ブラックさん。器の強化をお願いできますか?」


 謎は多いが、魔法のレベルは彼女が1番高いはずだ。


『どうしてワタシ……』

『ブラックすげぇ! さすが監督だな』


 明らか乗り気ではなかったブラックも、周囲からの期待には逆らえないようだ。


『もし成功したラ、……様に報告しないト』

「え……?」


 何か引っかかるが、ブラックも参加せざるを得ない流れになったところで。


『おい人間、俺らは用済みか?』


 参加に高い意欲を見せているのは、赤、黄、白の体格トリオだ。


「まさか! 貴方たちには、ツリーを燃やす炎魔法の調整をお願いいたします」


 黒い半透明の腕を中心に、赤、黄、白の手をフラスコへかざす――いよいよだ。前回は以上の緊張が流れる中、半信半疑のパープル博士が実験開始の合図を出した。


『よし、今度こそ……ムンっ!』


 色とりどりの光は前回よりも強い。それでもブラックが外からかけている魔法と吊りあうように、3体のクリスタルが内の炎を調整している。


『これは……いいぞ』


 それは初めて博士が出した、彼らへの肯定的な言葉だった。集中する4体は頷くだけで、一心にフラスコを見つめている。

 やはり前回よりも光の増幅が早い。中の資材が赤、黄、白と混合した炎に包まれている。燃え盛る勢いがある地点まで達した瞬間、今度ははっきりと目に見える、七色の光を放ちはじめた。


「きれい……」

『……ああ』


 隣の博士もフラスコを囲むクリスタルたちも、おそらく確信している。この光が連れてくるのは、間違いなく成功に違いない。

 徐々に高鳴る鼓動を感じながら、瞬きもせずに見守っていると――ピシッと小さな亀裂音がした。


「あっ、フラスコが!」


 球体の一部に、ひびが一筋入っている。まさか今回も――。


「……大丈夫」


 落ち着いた低音に顔を上げると。迷いのない金色の瞳が、七色の輝きを映していた。

 そうだ。私が早々に諦めてどうするのか――誰よりも、この実験の成功を願わなければ。


『魔力が、尽きる!』

『もうすぐだ! 持ちこたえろレッド!』


 テーブルに身を乗り出した博士の言葉に呼応して、輝きが増していく。そうして視界一面に光が飽和した瞬間――輝きは急速に小さくなり、フラスコの中に凝縮された。


「これは……」


 結晶石だ。しかし鉱山では見たことのない、虹色の輝きを有している。


『できた……おい、できたぞ。新エネルギーの結晶だ』

「ええ……そのよう、ですわね」


 博士は放心している。こちらも一瞬のことに、まだ実感が追いついていない。そんな中、色とりどりの硬い腕に強く抱きしめられた。


『成功したな人間! パープルももっと喜べよ!』


 赤いクリスタルのはしゃぎ声をきっかけに、見守っていたクリスタルたちが洪水のように押し寄せてきた。


「ちょっと皆さん落ち着いて! ドラグ様、お手をお貸しください!」

「う、うん……!」


 危うく潰されるところを、彼らの倍近く背が高いドラグに引き上げてもらった。まったく、感動の場面で圧死は笑えない。


『博士の研究すごかったんだね! この結晶に込められてる魔力が、いつものと何千倍も違うって分かるよ』

『これからは僕たちも協力していいかな? 実はずっとキミに興味があったんだ』

『あ、ああ』


 戸惑いつつも仲間たちの抱擁を受け入れている博士は、柔らかい光を発しながらこちらを振り返った。


『奥方……いや、領主代理。貴様に礼を言わねばならんな』

「柄にもないこと言わないでください! でも……良かったですね、博士」


 実験の成功もだが。博士が同族たちと分かり合えたことが、何よりの喜びだ。

 色とりどりの輝きを発するクリスタルたちを見回していると――ブラックがいない。

 彼女の助けもあって実験は成功したというのに、一体どこへ消えてしまったのか。


『ミンナ大変だよぉ!』


 鉱山の方から駆け寄ってきたのは、緑のクリスタル――結晶石の加工が得意だという子だ。


「どうしたのです? そんなに慌てて」

『加工した結晶石がぜんぶ消えてるんだ!』


 実験成功直後の不穏な知らせに、博士をはじめ全員が無言のまま固まっている。ほぼ全員が鉱山を空けていたとはいえ、この一瞬で誰が持ち去ったというのか――。

次回:結晶石を盗んだのは誰なのか…?

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