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第四話 「レア素材」


 まるで薬師の天職が手掛けた傷薬を飲んだかのような……いや、それ以上の秘薬を使ったかのように。


「ど、どういうことだ……? 俺が今飲んだのは、確かに道具師が作れる安らぎの良薬だったはずだが……」


 彼の言う通り、今のは痛み止め程度の効果しか出ないはずの安らぎの良薬で間違いない。

 しかし俺が作ったものは、ただの安らぎの良薬ではないのだ。

 変に怪しまれるのも嫌だったので、俺は噛み砕いて説明をした。


「安らぎの良薬の正式な素材は、『清香草せいかそう』と『浄雨茸じょううだけ』の二つですが、今の傷薬には『瑠璃鳥るりちょうの羽』という素材も加えてあったんです。そうすることで治癒効果が飛躍的に向上するんですよ」


「る、瑠璃鳥るりちょうの羽? 聞いたこともない素材だが……」


 まあ、それも無理はない。

 なぜなら瑠璃鳥るりちょうの羽は『レア素材』として数えられているからだ。

 滅多に採取することができず、有用性の高い素材はレア素材と呼ばれており、生産系の天職を持つ者たちは喉から手が出るほど欲している。

 というのも、生産職が手掛ける武器や道具は、使う素材によって性能が変わるようになっており、希少性の高いレア素材はその性能を大幅に向上させてくれる。

 そして道具師もその例に漏れず、レア素材を使うことで道具の性能を著しく引き上げることができるのだ。

 それこそ薬師が手掛けるような強力な薬を凌駕するほどの傷薬だって、このように作り出すことができる。

 つまり道具師は……


 生産職において器用貧乏な存在だが、レア素材さえ集めて適切に扱うことができれば、高性能の武器や薬など様々な道具を生み出すことができる、『万能生産職』となり得る天職なのである。

 

『道具師、面白いじゃん!』


 幼少時、その可能性と面白さにいち早く気付いた俺は、素材採取と道具作りに熱中した。

 希少性が高いレア素材は発見が困難で、そのため明確な加工方法も確立されていなかったが、俺は幸運体質なのか昔からレア素材を探すのが上手かった。

 幸運という隠しパラメータ的なものがあるからなのか、この世界に転生した際の影響でそうなったのか。

 ともかくそのおかげでレア素材探しには困らなかったし、色々な素材の加工や組み合わせを試すことができた。

 そうして小さい頃から道具師としての技術を高め続けた結果、いつの間にかレア素材の扱いが上手くなっていて、鍛冶師の天職が打つ特殊武器や、薬師の天職が手掛ける強力な薬を超える道具を作り出せるようになっていたのだ。

 ありふれた生産職の道具師でも、勇者パーティーの一員としてそれなりに活躍できたのは、この幸運体質と自分の天職に悲観せずその可能性を見い出すことができたおかげである。


「こ、これほどの傷薬を作れる道具師がいたのか……! 君、名前は?」


「え、えっと、名乗るほどの者では……」


 勇者パーティーにいた腰巾着と知られたくなかったため、俺は名乗ることをせずにその場を去ろうとした。


「それじゃあ、俺はこれで」


「ま、待ってくれ! せめてお礼だけはさせてもらえないか」


 男性はそう言いながら呼び止めてきて、背中の大きなカバンを探り始める。

 そこから麻の紐で網をかけられた三つのリンゴが出てきて、彼はそれを渡してきた。


「今渡せるものがこれくらいしかなくてな、容赦してもらいたい」


「いえいえ、結構なものをもらってしまって」


 随分と立派なリンゴだ。逆に先ほどの薬一つでここまで品質のいいリンゴをもらってしまって申し訳がない。


「本当にありがとう。これで大切な商談に遅れずに済みそうだよ」


 男性は最後に深く頭を下げると、町の方へ向かって足早に駆けていった。

 それを見届けた後、俺は再び故郷の村を目指して歩き始める。

 男性からの感謝の気持ちを噛み締めるように、もらったリンゴを齧りながら二時間ほど歩いていると、やがて木々に囲まれた村が見えてきた。


「久々に戻ってきたけど、全然変わってないなぁ」


 木造りの住居が建ち並び、豊かな畑が随所で広がる穏やかな雰囲気の村。

 ここが俺の故郷のチェック村。ブロードと一緒に育った村でもある。

 およそ六年ぶりに故郷に帰ってきて、懐かしさと感慨深さをしみじみと味わった。

 そしてさっそく村に来た目的を果たすために、ある場所へと向かっていく。


 程なくして教会じみた建物が見えてくると、そこの庭で子供たちに囲まれながら、洗濯物を干している細身の男性を見つけた。

 柔和な印象の顔に細いフレームの眼鏡を掛けており、赤髪を後ろで一本に結んでいる。

 シワの一つでもできただろうかと思っていたけれど、走り回る子供たちに優しく注意を呼びかけるその姿まで、六年前とまったく変わらないままだった。

 そのことに人知れず微笑んでいると、その男性は遅れてこちらに気が付いた。


「おや? もしかしてフェルト君ですか?」

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