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第二十六話 「再会」


 かつて一緒に旅をした仲間たち――勇者ブロード、賢者ビエラ、聖騎士ラッセル、聖女ガーゼ。

 と言うほど、別れてからまだそんなに経過していないはずなのだが、彼らの顔を見た瞬間に随分と懐かしい気持ちにさせられた。

 一瞬、実はスライムの毒素でも浴びていて、かつての仲間たちの幻覚でも見えているんじゃないかと錯覚してしまう。

 しかしすぐにそれを現実だと悟り、俺は少し気まずい気持ちで問いかけた。


「どうしてみんながここに……?」


「それはこっちの台詞だよフェルト。僕たちはバブルドットの町長のギャバジンさんから、魔力水の水源が汚染されている件について依頼を受けたんだ。ここにその原因の魔物がいるって聞いたから来たんだけど」


 そういえばと思い出す。

 町長さんはタフタのパーティーだけではなく、ブロードたちにも依頼を出したと言っていた。

 それはきちんと届いていたらしく、少し遅れてだけど駆けつけて来てくれたってわけか。


「まだ四人で一緒にいたんだな。てっきりもう解散して、それぞれ自由なことしてると思ったけど」


 だからブロードたちの到着は最初から期待できないと思っていたので、その可能性を頭から完全に除外していた。

 するとビエラが、肩をすくめながら呆れ気味に言った。


「そのつもりだったけど、王都で祝賀会が終わってから一気に疲れがきちゃってね。みんなしばらく町で休んでたのよ。そんな時に私たち充てに依頼の手紙が届いて……私たちはこれ以上、勇者パーティーとして依頼を引き受けるつもりはなかったのだけど、知っての通りこの人がお人好しのせいでね」


「みんなだって、依頼先が観光地のバブルドットだってわかって乗り気になってくれたじゃないか。解散祝いの旅行にちょうどいいって。もしかしてフェルトも町長さんから同じ依頼を……?」


「うーん、俺は別に町長さんから依頼を受けたわけじゃなくて、話せば色々と長くなるんだけど……。まあここに来た目的はブロードたちと同じだよ」


 俺の場合は、高濃度の魔力水っていう貴重な素材を得るために、水源を汚染している魔物を倒しに来ただけだけど。

 ブロードは荒れたこの場を見渡してから、再び俺に視線を戻して続けた。


「っていうことは、僕たちは一足遅くここに来て、君が先に一人で問題の魔物を倒したってことかな? さすがだね」


「ただ運がよかっただけだよ」


 本当に、色々と運がよかっただけ。

 するとブロードは、ずっと気になっていたのか、俺の隣に立っているピケを見ながら怪訝な顔で問いかけてきた。


「ところで、そこにいる子は? 狼にも魔物にも見えないけど」


「あぁ、こいつはピケっていうんだけど、覚えてないか? チェック村の近くで助けた子犬のこと」


「子犬……?」


 ブロードは眉を寄せて考える。

 次いですぐにハッとすると、すっきりした笑顔で返してきた。


「もしかしてあの時の、魔物に襲われていた子犬かい? 随分と大きくなったんだね」


「だよなぁ。やっぱあの時と比べて相当でかくなってるよな。あっ、でも実はピケって、体の大きさを自由に変えることができ……」


 と、少し逸れた話をしてしまいそうになった瞬間――

 ビエラがパンパンと手を叩いて俺とブロードの間に割って入ってきた。


「はいはい、世間話はそこまで。私たちにはまず先にやることがあるでしょ」


「あ、あぁ。そうだったな」


「すまないビエラ」


 俺とブロードは顔を合わせて苦笑する。

 確かに今ここでピケの話で盛り上がるのはまずいよな。

 それよりも先に片付けなければいけない話題が、俺たちの間にはあるのだから。

 そのことを改めて気付かせてくれたビエラが、相変わらず冷静な様子で状況の整理を始めてくれた。


「改めて聞くけれど、あなたはここに、魔力水の水源を汚染している魔物を倒しに来たのよね?」


「あぁ、そうだよ」


「それで私たちが来るよりも先に、くだんの魔物を倒したと」


「合ってる合ってる」


 そこでビエラは一度口を止めて、ふむと顎に手を当ててから続けた。


「でもあなたは町長さんから依頼を受けたわけでもなく、独断で汚染の原因である魔物を倒したってことよね。じゃあこの場合私たちは『現着した時すでにフェルト・モードという勇敢な冒険者の活躍によって魔物は倒されていました』って報告するのが筋よね?」


 まあそうなるよなぁ。

 勇敢な冒険者って部分は誇張ではあるけど、俺が独断かつ単独で倒したのは紛うことなき事実だ。

 けど……


「えーと、そのことでちょっと頼みがあるんだけど……」


 気まずい気持ちで、あることをお願いしようと思ったら、ブロードが俺の言いたいことを先に言ってくれた。


「僕たちが解決したってことにしてくれって言いたいんだろ?」


「えっ? そ、そうだけど、よくわかったな」


「似たようなことをついこの間聞いたばかりだからね。たとえ名誉や報酬がもらえるとしても、“目立つのが嫌だから”それを受け取らないと。相変わらずだね君は」


 ビエラは心底呆れた様子で、頭を抱えながら盛大なため息を吐き出した。


「私も薄々そうなんじゃないかと思ったから、さっきみたいな聞き方をしたのだけど、まさか本当に手柄を譲ろうとしてくるなんてね。相変わらずあなたには野心というものが微塵もないのかしら? それとも格好をつけているだけ?」


「ひ、ひどい言われようだ……。単に目立つのが嫌なだけだよ」


 たぶん今回の件は公にはならない、てかできないだろうから、町長さんや一部の人たちだけに知られるくらいだろうけど。

 それでも俺は目立つのが嫌なのである。

 これから先も平穏で自由で気ままな異世界旅を楽しみたいから。

 そもそも依頼を受けてここに来たわけではないし、証人もいないから俺が倒して解決したと言っても信じてもらえないんじゃないかな。

 という判断の元で、ブロードたちが解決したことにしてほしいと頼んだのだが、それに対し聖女ガーゼが眠そうな顔で首を傾げた。


「報酬も何もいらないの? たぶん、お金いっぱいもらえるよ」


「いいよ別に、そこまで困ってないし。ていうかだから聖女があんまカネカネ言うなよ!」


 この守銭奴聖女が。

 ただ聖女ガーゼの疑問も妥当なもので、事実ブロードとビエラも本当に報酬はいらないのかと怪訝な眼差しを向けてきていた。

 そこに聖騎士ラッセルが、珍しく口を開いて、なんとも丸い収め方を提案してくれる。


「報酬金は、俺たちが受け取った後、フェルトに渡せばいい」


「うん、確かにそれなら僕たちが代わりに受け取るのは名誉だけになるね。フェルトは目立たず成果に応じた報酬も得られる。これでどうかなフェルト?」


「うーん、まあ、そうしてくれるなら一番ありがたいけど」


 正直、懐事情についてはあまり芳しくないからな。

 目立たずもらえるというのならありがたく受け取らせてもらいたい。


「ただし一つだけ条件がある」


「えっ、条件?」


 唐突な提案にびっくりしてしまう。

 条件があること自体に驚いたのではなく、条件を提示するというのがブロードらしくなくて俺は目を丸くした。

 いったいどんな条件を言われるのか。

 密かに不安を抱いていると、ブロードは思いもよらない条件を突きつけてきた。


「タフタのところに、一緒に来てくれないか?」


「タ、タフタ!? なんでわざわざあいつのところになんか……」


 今さらあいつになんの用があるというのか。

 その提案の真意はまるでわからなかったが、まず先に来た疑問はこれだった。


「ていうかブロードたちは、バブルドットにあいつらが来てるの知ってるのか」


「うん。この山に来る前に町中で会ってね。町長さんからの依頼を受けるために来たと言ったら、また色々と言われたもんだよ」


 苦笑を浮かべたブロードから言葉を引き継ぐように、ビエラがため息交じりに続ける。


「無駄だから帰った方がいいだの、勇者パーティーでもどうせ何もできないだの、散々な口ぶりだったわね。自分たちじゃ手も足も出せなかったからって、私たちに八つ当たりしないでもらいたいわ」


 うわぁ、言いそう……

 だから俺も顔を合わせたくなかったんだ。

 きっと一人でいる俺を見たら、意気揚々と罵倒や皮肉を浴びせてくるに決まっているから。


「そんなタフタたちに言ってやりたいことがあるから、フェルトにも少し付き合ってもらいたいんだよ」


「そこに俺が必要なのか? まあいいけど、俺がいてもあんまり変わらないと思うぞ。ちなみに何を言うつもりなんだ?」


 喧嘩とかになりそうなら、できれば一緒に行きたくないなぁ。

 なんて不安に思う俺の前で、ブロードは爽やかな笑みを浮かべた。


「大事な親友を侮辱されて、虫の居所が悪いままだったんだ。だからこれは、いわば僕の憂さ晴らしだよ」

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