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第二十話 「水の都」

 ダマスクの町に数日滞在し、モアレ地方の薬草をあらかた採取した後。

 俺とピケは水の都バブルドットに向かうために、ダマスクの町を後にすることにした。

 すでに欲しかった薬草は充分に集まった。

 バラシアのガイドのおかげでお土産選びにも迷わなかったし、一緒に巨木の下の商業区『ダマスクマーケット』を回って楽しく過ごすこともできた。

 ダマスクの町を堪能し尽くしたため思い残すことはない。

 そしてバラシアとも一つの約束を交わしたので、別れは爽やかなものになった。


『今度は私の住む町にも遊びに来てください。楽しいところもたくさんありますから、色々とご案内させていただきます!』


『うん。いつかピケと一緒にお邪魔させてもらうね』


 そう言って、故郷の町へ帰っていくバラシアを見送ったのだった。

 ただ、ピケは少し寂しそうにバラシアの背中を見届けていた。

 それだけバラシアのことを気に入っていたということだろう。

 彼女が親しみやすい性格だったというのもそうだろうけど、ピケは元々人懐っこい子だし、また行く先々で出会った人たちとすぐに仲良くなれるんじゃないかな。

 それが改めてわかり、様々な期待を胸に俺とピケはバブルドットを目指して馬車に乗り込んだのだった。


 馬車を乗り継いで町を転々とし、トップス王国からアウター王国へと景色が変わる。

 自然豊かなトップス王国と比べて、アウター王国はどちらかと言えば川や湖などが多く水がよく目に飛び込んでくる景観をしていた。

 その影響か湿度もそれなりに高くて、まあまあ暑い。

 馬車の中で子犬モードになっているピケが、犬のように舌を出して「へっへっ」と体温調節に勤しんでいる。

 体の構造が本当に犬に近いのだろうか?

 ともあれ手持ちの水などを飲ませてあげたりうちわで扇いだりしてあげた。


 そんな馬車の旅を続けていると……


「あっ、見えてきたよピケ」


 遠方に水路や噴水が目立つ、違う意味でみずみずしい町の景色が見えてきた。

 水路や噴水を巡る水は、噂通りキラキラと輝いて見えて、町の景観を彩っている。

 全体的に白を基調とした石造りの建物が多く、見た目から清潔感と爽やかさを感じて観光名所に相応しい場所だと感じる。

 前世にて写真でしか見たことないけど、外国の海沿いにこのような町があった気がする。


 ダマスクの町を旅立ってから、およそ一週間。

 ようやくのことでそんな町に辿り着き、俺の心は高揚感で満たされたのだった。

 やっぱり見たこともない国や町に行くのはわくわくする。

 ここではどんな美味しいものが食べられるか。面白いものが見られるか。珍しい素材が見つかるか。

 色んな楽しみがあるから、旅はやめられない。


「ピケにも美味しいもの、たくさん食べさせてあげるからね」


 抱えているミニピケにこっそり話しかけると、ピケはくいっと顔を上げて、チロッと俺の頬を舐めてきた。

 よしよしとピケの頭を撫でながら、俺はふとバラシアが言っていたことを思い出す。


『ちょっとくらい前から、バブルドットで一部の魔力水の購入が制限されてませんでしたっけ?』


 彼女が風の噂で聞いたらしい話。

 バブルドットで名産となっている魔力水の、一部の商品が購入制限をされているという。

 俺はそのような話を聞いたことがなく、バブルドットに向かおうとしていたのでバラシアの口から聞かされた時は驚いたものだ。

 ただ彼女も人伝てに聞いただけだから、実際のところはわからないと言っていた。

 もし本当に購入制限されているとしたら、俺としては望ましくない展開である。


 勇者パーティー時代からバブルドットの魔力水は気になっていたし、機会があれば手に入れて道具製作の素材として使おうと思っていたから。

 制限されているとしたら具体的にどういう風に? 一人何個までの購入とか? 道具作りの試作のためにいくつか仕入れておきたいんだけどなぁ。

 高揚感の傍らでそんな小さな不安を抱いていると、馬車は滞りなく進んでバブルドットの入口に辿り着いた。

 ピケと一緒に馬車から降りて、バブルドットの爽やかな空気を吸い込む。


「よし、じゃあさっそく宿探しをしようか。無事にそれが取れたら、商業施設の方に行ってみよう」


 腕に抱えたピケにそう話しかけると、ピケはまるで頷くみたいに「くぅ」と鳴いた。

 人混みがまあまあすごいので、ピケには引き続き腕の中にいてもらう。

 そんな形で町の大通りを進んでいると、至るところにある魔力水の流れる水路が目に飛び込んできた。

 キラキラとしている水に触れて、気持ちのいい冷たさを感じる。


 魔力水にも種類があり、薬の調合に適したもの、武器製作に応用できるもの、温泉として人体に有益な効果をもたらすものなど様々だ。

 そして町中の水路に流れているものや、噴水から湧き出ている魔力水は基本的に人に無害なものと聞いている。

 ただ飲むのはさすがに衛生的によろしくないらしい。

 ピケがくんくんと匂いを嗅いだので、飲んじゃダメだよと軽く注意を促してから、俺は宿屋探しを再開しようとした。

 だが、それよりも早く不穏なものを見てしまう。


「うわっ、あの噂は本当っぽいな」


 おそらく魔力水を販売していると思しき商業施設。

 そのお店の前に、目を見開いてしまうほどの行列ができていた。

 これ、たぶん噂の購入制限を設けられている魔力水の行列だよね。


 看板を見るに、飲料水として服用するだけでも肉体活性を促す効果があるようだ。

 さらに鍛冶、調薬、料理、化粧品製作などなど様々な分野で重宝される高濃度の魔力水らしい。

 見たところ並んでいる人たちの多くが生産職の人間だと窺える。

 みんな高濃度の魔力水を求めてここに来たらしい。


「抽選券の配布を始めます。押さずにお一人ずつお受け取りください」


 行列に驚いて見入っていると、やがてお店の中から従業員さんらしき人が出てきた。

 その人は並んでいる人たちに何やら券らしきものを配り始める。

 抽選権の配布と言っていたところから、おそらく高濃度の魔力水は抽選販売となっているようだ。

 お一人様いくつまで、という購入制限ではなく、販売そのものが抽選形式だとは。


 これは高濃度の魔力水を手に入れるのはなかなかに骨だな。

 とりあえず俺も列に並んで抽選券だけは入手しておく。

 そこには番号が書かれていて、俺のは“122”となっていた。


「うーん、できれば瓶詰め三本分くらいは欲しいんだけど……」


 一つ分を確保するのも難しそうな状況だとは思いもしなかった。

 道具作りの素材にするには、正確な加工方法を模索する必要がある。

 高濃度の魔力水を用いて道具作りをした【道具師】は過去にほとんどいなかったのか、調べても加工方法は出てこなかったので自分で試す他ないのだ。

 それだけではなく色々な道具の試作に使いたいので、なるべくたくさんの魔力水が欲しい。


 もはや自分で採取しに行った方がいいかな?

 いやでも、高濃度の魔力水の水源は、バブルドットの地下に保有されていると聞く。

 当然一般人の立ち入りは許されていないだろう。


 ていうかどうして購入制限なんてされているんだろう?

 汎用性が高くて人気なのはわかるけど、これまではそんな話まったくなかったじゃないか。

 最近、度を超えた買い占めをした迷惑客がいたとか? それとも時期によって魔力水の生産量が低下するとか?

 確か近くの山で溜まった雨水が地層を通じてバブルドットの地下まで流れ着いて、地下水脈として水源になっているって話だよね。

 地層が特殊だから、流れ着くまでの過程で水に魔力が宿って魔力水が出来上がるのだとか。


 雨がまったく降らない時期とかになったら、こういう品薄状態とかになったりするんだろうか?

 でも別にアウター王国で乾季が到来したという話も聞いてないよなぁ、なんて思いながら再び宿探しのために通りを歩き出そうとした時、魔力水のお店の前にいた男性二人組の会話が不意に耳に入ってきた。


「今回もこの人数だと無理そうかなぁ。早く普通に販売再開してほしいもんだぜ」


「まあ汲み上げ装置の長期点検なら仕方ねえよ。気長に待とうぜ」

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