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第十五話 「いざ新天地へ」

 馬車を乗り継いでいくこと一週間。

 俺はピケと一緒に、気になっていた素材採取地へとやって来ていた。


「おぉ、本当に緑だらけだ……」


 馬車に揺られながら外の景色を眺めて、思わず感嘆の息をこぼしてしまう。

 同じくピケも子犬状態で同乗しながら、一面に広がる緑を見て興奮気味に白い尻尾をふりふりと振っていた。


 俺たちが今いるのは、トップス王国の西部に位置する森林地帯――モアレ地方と呼ばれる場所である。

 ここでは数千種類の薬草が群生していて、茶や薬の材料となる薬草が色々と手に入る……らしい。

 俺も話に聞いただけで、訪れたことがないので定かではないけど。

 ただすでに馬車から見える景色だけで自然豊かなことが明らかになっているので、これは期待せざるを得ない。

 勇者パーティー時代にも来たことがない未知の大地に、ピケと同様俺の心も湧き立っていた。


「町で宿を確保できたら、さっそく森の方へ行ってみようか」


 小さな声でピケに囁くと、言葉を理解しているようにピケは耳をピンと立てて喜びをあらわにした。

 それから程なくして、俺たちを乗せた馬車はモアレ地方のダマスクという町に到着する。


 町の景観も自然豊かな土地らしい、木造りの建物が多かった。

 町の通りも石畳ではなく土や芝でできていたり、所々で背の高い樹木が生えていたり、木の上に家を建てているところもある。

 極めつきは町の中心に立っている大木の根元が、ちょうどいい空洞になっていて、そこに数多くの商業施設が展開されているためまさに自然の中に作られた町を体現していた。


「本当に緑一色だなぁ。噂の大木もすごくでかいし」


 心なしか空気が美味しい気がする。

 自然をより身近に感じるならこの町だ、という噂は聞いていたけれど、実際にこの目で見てみると尚のことそれが実感できる。

 町のシンボルでもある『ダマスクの巨木』もかなり有名で、観光名所にもなっているほどなのでこの機会に間近で見ることができてよかった。


 某都内の巨大タワーより全然大きいんじゃないかな。

 時間があったらダマスクの巨木の下の商業区にも足を運んでみよう。

 主に木彫りの工芸品や家具などがたくさん置いてあるらしく、作り込みや技術が素晴らしいと聞く。

 お土産に買っていく人も多いみたいなので、俺も記念に何か買っておきたい。


 と、通りの隅でダマスクの巨木を眺めながら思っていると、腕の中のミニピケが食堂の方から流れてくる匂いに釣られて鼻をすんすんと動かしていた。

 ピケは花より団子みたいだな。


「ごめん、お腹空いたよね」


 というわけで軽く腹ごしらえをした後、無事に宿も確保できたので、さっそく町の近くの森に向かうことにする。

 ダマスクの町の商業区でも、森で採取できる薬草が売られているみたいだが、利用価値の高い薬草は直接薬師の手元や他の市場に流れてしまっているとのこと。

 となれば自分でそれを採りに行くしかないというわけだ。

 森の深部ではより貴重な薬草が採れる反面、魔王討伐後も凶暴な魔物が多いらしくて素材採取家も安易に立ち入れないみたいだし。

 そしてピケを連れて森へ入っていき、俺は素材採取を開始する。


「おぉ……!」


 森の中は話に聞いた通り、多種多様な薬草があちこちに群生していた。

 見たことない素材の数々に、俺の心は自然と高揚していく。

 道具師にとって薬草は、薬や茶の材料としてだけでなく、爆弾や罠など様々な道具の素材として使うことができる。


 素材と素材を掛け合わせてどんな道具が出来るのかは、実際にクラフトしてみるまでわからない。

 だから素材を消費しながら試行錯誤を繰り返していき、色々新しい道具を生み出していくのが道具師の一番の楽しみなのだ。

 ここで手に入れた薬草たちを色んな素材と掛け合わせて、どんな道具になるのか今からすごくワクワクする。

 独りでに光を放つ白い薬草。ほのかに熱を発する赤い薬草。逆に冷気を帯びている青い薬草、などなど……


 ピケと一緒に協力しながら、目を引く薬草を片っ端から採取したのだった。

 そして森での薬草採取を続けること、およそ二時間。

 だいぶ森の奥の方に進んできて、昼食休憩も兼ねてそろそろどこかで休もうかと思い始めた、その時……


「いやあぁぁぁ!!!」


「んっ?」


 不意にどこからか女の子の声が聞こえてきた。

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