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ガレーロ ー有事ー

『サバロがロサワラに宣戦布告してから二カ月が経とうとしています。両国は同盟国を巻き込む形で、世界は共栄国と連盟国とで二分しており戦争の影響はとめどなく全世界へと波及する恐れがあります。わが国では引き続き連盟国の各国と綿密に協議を重ね早急の停戦を求めています。続いて現在までの我が国の被害状況を申し上げます。現在までの死者数は五十三人、負傷者は二千人に迫っています。さらなる戦地の拡大、戦争の激化により死者数は増加する見込みです』


 世界が神々への盲信的服従から人民主体の価値観を獲得し、新たなる時代を開拓し神暦から民暦に変遷して百年も経たずして世界は二分化してしまった。

 神暦において人々はすべての根源を神に求め、神に従い文明を発展させてきた。

 そして神の下では平等という考えから、世界は絶妙なバランスを保っていた。

 土地柄も人民柄も度外視で政策は行われ、政策が適した国は発展し、そうでない国は発展国から施しを受けるかたちとなった。

 一方で、発展国からすれば自身の収入を後発展国への援助へ自動的に回す結果となり、不満が募っていくこととなった。

 神想世界の不平等性を説いた発展国の豊かなエリート層はやがて神想世界からの解脱を誓い、頑固な保守派と後発展国諸国との間で、長年抗争を繰り返し、ついに人類主義を手に入れた。

 そしてそれに呼応し各発展国の革新派が大勢なりと前時代的な考えを払拭し、ついに神からの解放を達成した。それを記念して暦をすら変えたのだが……。

「どうして、人類はこうも争い事ばかりなんですかね?そもそも歴史的に見れば人類主義になってから急進的に発展したところを見ると変革なんて馬鹿らしいのにと、私は思っちゃいますね」

「それはどうかしらね。昔までは神のもとの平等という理念のもと、表面上は各国が対等だった。しかし現代では人類主義の名のもと言ってしまえば実力至上主義社会。地理的に不利な国々が神治思想を望むのも無理ないわ」

 神想世界とは結局のところ世界規模での独裁政治といえる。

 そもそも神とは人間が想像し生み出されたに過ぎない幻影概念なのである。

 とある国の権力者は各地域に散らばった人々の統治に難儀していた。そんなある時、突如として現れた賢者の指示通り民を統轄したところ、国としての体裁を保つに至った。だから彼を神格化した。そして彼に政治を委任した。

 そしてこの幻想は周辺地域に伝播していく。現在とは異なり民草に国民意識が芽生えてない当時、この成功例は各地域の豪族にとっては都合の良い思想であった。神という超次元的影響力をもとで、民草に畏怖の念を抱かせてしまえば、形式的に国を形成できることを証明したからである。

 こうして世界的な変革をもたらしたその賢者は至る所で神格化し、彼の生誕国は「神の国」と呼称されるまでに至った。

 そこから「神の国」を中心に世界は動き始めた。全ては「神の国」の思うが儘に……。

 とはいかず、「神の国」一強の世界に不満を持つ国は当たり前だが多く、あくまで神託を受ける地という側面が強くなり、中期以降は神の下では平等という考えが広まり今に至る。

 此度の世界大戦もかつての革新派と保守派の立場が入れ替わっただけの、抗争の延長戦に過ぎないのである。

「私としては、カレイドが平穏で日常生活を送れればいいと思いますけどね」

 私たちが住んでいる、ここカレイドは戦火を免れていること、また、防衛システムが他国を圧倒している点から被害は最小限に留まっている。

 それゆえ、今世界で起きていることがどこか遠くの、別世界の出来事のように捉えてしまう節がある。

「サラの言いたいこともわかるけど、カレイドだって犠牲者は出ているのよ。あまり不謹慎なことは言わないほうがいいわ」

「むう。私だってそれくらいわきまえてますけど……。それをいったらエリサだってガレーロにまで修理依頼が来て喜んでたじゃない。うちは古魔道具修理やだというのに」

 そう、戦争による特需の影響を我々ももれなく受けているのである。

 元来当店「ガレーロ」は古魔道具と言って古の魔導を用いた道具を専門的に修理する店である。

 しかしながら古のものが毎日のように店に舞い込むようなことはなく、むしろ一般的な魔道具の製造も取り扱い、販売している。

 その副次結果として今回の戦中における軍用魔道具の修理も行っているのだが、その利益がうますぎるのは確かにそうである。

「さてさてそろそろお店を開ける時間なので、はやく支度をしてください。ライカは……今日も遅刻ですかね」

「まあ、連日の修理対応で彼も疲弊しているだろうし多少は多めに見てあげようよ」

 ガレーロは店長の私と接客担当のサラ、そして修理技師のライカの三名で経営している。もともとは小さな町の小規模のお店なため今回のような緊急事態に人手が足りなくなってしまう。

 それに加えて修理技師は資格を保有していないと法に触れてしまうため、簡単に人員を増やせる状況ではない。

 ガレーロでは私とライカが保有者だが、サラは持っていない。

 平時は私も修理の仕事に携わっているが、材料不足の解決や依頼の処理といった雑務に追われており、実質的にほとんどをライカに任せてしまっている。

 だからライカには甘めに接してあげたいのだが……、本日中納品のものが少なくとも3個はある。

 しかもどれも軍絡みの重要なものである。

 私も今日は全ての業務を中止してこちらに専念するつもりではあるが、やはり1人では限界があるため彼にはなるべく早く来て欲しい。

「サラ、今日は私もライカも基本的には作業場にいるから、売り場の方は任せたよ」

 サラは愛嬌もよくお客さんウケはかなりいいため、問題が起きたことは過去にない。

 仮に何かあっても作業場はすぐ裏手であるため、すぐに駆けつけられる上に、店内の防衛システムも1級品である。

 心配は全くと言っていいほどしていない。

「あ〜、それがちょっと大変な案件が舞い込みそうな予感がするだよな……。あはは」

 サラがそう言いながら、店のドアの施錠を開けるとともに1人の男性が入店してきたのであった。

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