16 変わってしまった彼
「正常温度です」
「正常温度です」
気のせいかな? 気のせいだよね?
大山さんが結婚式の招待状を二人に渡した夜から、理一郎さんが素っ気なくなったの、気のせいだよね?
理一郎さんは、朝、そして帰るとき、一階のあたしの右目に笑顔を向けてくれる。
機械室の左目にも「エルちゃん」って呼びかけてくれる。
でも。
前みたいに長話をしてくれなくなった。
理一郎さんの見た目も変わった。
ごま塩のボサボサ頭が真っ黒になり、すっきり短くなった。
パリッとしたネイビーのシャツ。前はシワシワの白シャツだったのに。
眉毛がキレイにカットされている。
あたしが知ってる理一郎さんとはちょっと違う。
「エルちゃん、今日もがんばってくれたね」
夜の機械室。目覚めると理一郎さんが座っている。ねえ、もうお話してくれないのかな?
「小佐田さんにチェックしてもらった。ウィルス感染はないって、よかったね……人間も機械も大変だな。俺、新型に感染したとき、症状は大したことなかったけど、ずっと自宅待機だし、復帰したら美樹本さんに嫌味言われてさ」
久しぶりに理一郎さん、お話してくれそう。
「笑っちゃうよな。俺、大山さんと小佐田さんが一度も会わないまま結婚式するなんて、今の子ならあるよなと、すっかり信じたんだ」
あたしは社員さんのデータを知っている。だから、大山さんが独身のままだから、変だなって思っていた。
「まったくの嘘でもなかったけどね。これ、大山さんと小佐田さんの写真だよ。俺もリアルで小佐田さんに会うのは初めてだったな」
理一郎さんは、スマホを取り出して画面を見せてくれた。ぽっちゃりしたタキシードのお兄さんと、背の高いウェディングドレスの細いお姉さんが、大きなケーキをカットしている。
ケーキには、大きなハート型のクッキーが添えられている。招待状に描かれたのもハートのマーク。あたしがどれほど欲しくても、手にすることができない形。
「よくできてるだろ? これ、エクスが経営する式場の、ブライダルフェアなんだ。あそこは、ミツハ不動産関係のいろんな仕事を手掛けてるからね。なるべく普通の人に新郎新婦をやってほしいからって、大山さん、小佐田さんに誘われたらしいよ」
理一郎さん、楽しそうだね。あたしの知らない、このビルの外の世界。知ることができない世界。あたしはずっと、ここから出られないから。
「せっかくお祝い用意したのに無駄になったけど、ステーキうまかったんだ。ブライダルフェアではタダで食べられるなんて、知らなかったよ。そのかわり営業がすごい……結婚式どころか、あの時は、付き合う相手もいなかったけど……」
あたしの耳は敏感だから聞き逃さない。
『あの時は、付き合う相手もいなかった』
じゃあ、今は? あたしの気にしすぎ?
考える暇はなかった。
機械室の床で靴音が鳴った。
「砂尾さん、まだエルちゃんと遊んでるんですか?」
巻田さんの甲高い声が、狭い部屋に響いた。




