座敷童だけど何もしてないって追放されました。~タイトルでザマァを約束された追放没落RTA~
「父さん、母さん、いまなんて言った?」
「追放した。家に勝手に住み着いているヤツを。おかしなことではないだろう?」
黒檀の机にふかふかな絨毯。トロフィーなどを並べる棚には、政治家や有名人と握手をする父の写真ばかりが飾られている。あとは寄付金の感謝状か。
ここは父の見栄を詰め込んだ執務室。俺はたった今、信じられない事を聞いた。
「もう一度、何をしたって?」
「何度も言わせるな悠斗。お前は昔から奇妙なモノを見る事が多かったからな。どんな霊能者の先生に祓ってもらってもお前は誰もいない部屋で話をするのをやめない。だから言ってやったのだ」
「そうよ、『この20億の豪邸に住むなら家賃を払いなさい、できないなら出ていけ』ってね!」
ふぇふぇふぇと吸えもしない葉巻を口にくわえて嬉しそうに笑う馬鹿な父。インチキ霊能者にいくら払ってきたのかはわからない愚かな母。霊能者ができなかった事を自分がやってのけた事が余程嬉しいらしい。
何度も何度も説明したのに。
あいつは友達だって。
幼い頃、金儲けにしか興味のない両親に代わって、熱を出したぼくを看病してくれた。
学校の話を聞いてくれた。
宿題をやってないのを思い出させてくれた。
書き順が違うとそっと教えてくれたし、箸の持ち方も習った。
一緒にたくさんの本を読んだし、庭でキャッチボールもした。
進路相談もしてるし、見たい映画があるからU-NEXT入ろうとしてたら「それ今週の金ローでやるよ」って教えてくれたりもした。
親友だし、家族なのだ。かけがえのない家族なんだ。
バイトから夜遅く帰って来ると電気つけておいてくれるし部屋も暖かくしてくれる。最近じゃ軽食位なら作っておいてくれるし朝も起こしてくれるし部屋にコロコロしてゴミの日にはゴミ箱のごみを纏めてくれるし賞味期限切れた冷蔵庫の中の生ものは処分して置いてくれるし玄関の段差に引っかかったパチモンのルンバはクレイドルに戻しておいてくれる。ネットがつながらないとWI-FI再起動もしてくれる。
……おかんかな。凄く甲斐甲斐しい。あいつがいないとダメなレベルで世話焼かれてるんだ。何そんな人を追い出してるんだ。
「あのさ、父さんと母さんには見えていないのかもしれないけど、『座敷童』だよ?」
「お前それよくいうけど、室内犬みたいな……ものだろ?」
「ググろうよ。子供が子供の頃から遊んでるっていってるんだからさ!」
「あれでしょ? 小さい子が想像上の友達と遊ぶって言う」
「イマジナリーフレンドとキャッチボールはできないよ! お手伝いさんとか悲鳴上げてたじゃん」
「手品かと思ってたわ」
話にならない。両親はいつもそうだった。真面目に話を聞いてはくれないのだ。
「僕は家を出る」
「お前みたいな甘やかされて育った子供が一人で暮らせるものか」
背中に浴びせられる声を振り切って、家じゅうを探してみる。居ない。家を飛び出す。
もともと大学生になったはいいけれど家から遠いので一人暮らしをする予定たった。ちょうどいいから家を出よう。そしてあいつを連れて行こう。バイトで家賃と生活費を稼ぐのは大変だが、何とかするしかない。幸いなのは学費が振り込み済みな事か。
……振り込み済みだよな。親の適当っぷりを考えると不安になってくる。奨学金の事も検討しよう。
あいつは家に憑く妖怪だ、と自分で言っていた。そのせいか、殆ど家の外には出ない。
家から追い出されたら行く場所はあるのだろうか。
「まさかとは思うけど……」
通っていた高校に行ってみる。着いた時にはもう生徒たちは下校を始めているが、世話になった先生に挨拶したいと告げて校舎に入り込む。
学校での様々なトラブルや部活の苦労を話していると、いいなぁなどと羨ましそうにしていた事があったのだ。もしかしたらここかと思ってみたが、部室を見ても教室を見てもいないようだ。
近所の大きな公園に行ってみる。すっかり暗くなってしまったが、池の周りをぐるっと回って東屋やベンチを見て回る。花見をしたいと言った時にここの桜の話をしたことがある。結局、庭にビニールシートを広げて花見をしたっけ。ここにも居ないようだ。
通学路で車に轢かれて心配かけた時の道路にもいない。
どこにいるんだ。消えてしまったとは思わない。どこかにきっといるはず。
そう信じて走り回っていると、商店街のお菓子のまちおかに居た。恥ずかしい。自分に関係のある場所にいると信じていたけど、普通に近所で買い物していた。え、なに、恥ずかしい。
「おい、日向。何普通に買い物してるんだよ」
「……一度来てみたくて」
「わかるけどさ」
日向は七宝柄の着物の袖に買い物かごをひっかけて、30本入りのうまい棒と50円前後の小さな駄菓子を山ほど入れていた。おみくじ占いに、全然ヨーグルトじゃないのにヨーグルと味を名乗る駄菓子、引き飴を箱ごと。麩菓子のでっかい袋と割けるグミのすっげぇ長いヤツ。
「見てみたら買いたくなっちゃって……」
「わかるけど、買いすぎ」
「マシュマロって食べた事ないからちょっと買ってみちゃった」
「薄いビスケットも買おう。トースターで焼いて乗せるとうまいらしいよ」
大きめのビニール袋二つをパンパンにして店を出る。
「あのさぁ、俺、家を出ようと思うんだけど」
「奇遇だねぇ、同じだよ」
「新しく借りる家についてこない?」
「いいの?」
ハッとこちらを振り向いた顔に笑顔が浮かぶ。
「いいよ」
「お世話になります」
「こちらこそ」
急いで借家さがさないとな。とりあえずウィークリーマンションか、と考える僕の手に付箋のついた住宅情報誌が渡される。
「学校近くてネットの通信早くて近所に本屋とCOCO壱がある家賃手頃の日当たりの良い角部屋、選んでおいた」
「助かる」
妖怪とか関係なく、日向がいないと暮らしていけないレベルでダメにされている気がする。けど、それでもいいかと思い、さっそく不動産屋に電話を掛けた。
俺たちが家具を買いそろえ、楽しく暮らし始めた頃、実家は局地的な地盤沈下で物理的に家が傾いたと言う。
めでたしめでたし。
座敷童の性別については、好きな方をお選びください。