91 勇者の挑戦
91 勇者の挑戦
女神像の目が輝きを放つ。
ヌル達4人は、まるで転送魔法を使ったとき
のような感覚に襲われ、
意識が光の中へと導かれた。
4人は気がつくと、建物の中にいた。
ヌルはその場所に見覚えがあった。
そこは懐かしい風景であった。
女神像のナレーションが始まる。
「この日、異世界・地球より1人の人間が
ケンチョーの小人族へと転生しました。
人間の魂は、リバアースで死亡した少年の
肉体に宿りました。
その少年兵はとても優秀な兵士だった
ようです。
この日、リバアースの歴史を動かす
英雄が誕生しました。」
ヌルは懐かしい景色に涙がこぼれ落ちた。
懐かしい景色。
それは王都ケンチョーの儀式の間であった。
もちろん、ヌルの思い出の景色より数百年前の
出来事である。
しかしヌルが知っているその場所と比較しても
遜色ない状態であった。
1人の少年が起き上がり、
周りの大人たちが歓声を上げていた。
その中には王の格好をした者がいたが、
ヌルが知るオレダ王ではなかった。
そこにいる人々は、
ヌル達の存在が視認できないようだ。
「英雄誕生だ!」
「これで世界が救われるぞ!」
「英雄様バンザイ!」
どこかで聞いたような台詞が飛び交う。
ヌル達の目の前が真っ白になり、
光に吸い込まれた。
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場面が切り替わる。
次に見えた光景にも、ヌルには見覚えがあった。
王都ケンチョーであった。
先ほどと場所は変わり、
王城前の広場にたくさんの人達が集まっていた。
その中心にいたのは、小人族の青年。
青年の右側に並ぶのは
セイレーン族、人魚族、白と黒のエルフ、の女性。
青年の左側に
竜人族、鬼人族、スカディ族、ドワーフ族、
大型で黒い獅子のような獣人族、の男性と
小型のタヌキのような獣人族の少年が並んでいる。
小人の男性、
勇者ザトマルが皆の前で演説をしている。
勇者「我々【シンドバッド】は、これより
魔王討伐作戦の任務を遂行します。
必ずや災厄の魔王を封印し、
また邪神の指輪を浄化し、
世界に平和をもたらすと約束します。」
「「「うおおおおおおお!!」」」
「「「英雄様バンザイ! 」」」
「「「勇者ザトマル様バンザイ!」」」
広場に集結していた群衆から歓声が上がり、
拍手喝采が起こる。
ナレーションが流れる。
「世界の人口が半分以下になってしまうほど、
この時代の魔王ラギの脅威は
人々を追い詰めました。
疫病が蔓延し、多くの人が亡くなりました。
疫病から生き延びた者は異形となり、
ラギに忠実な兵士となりました。
魔王を討伐すべく、人類は立ち上がります。
種族や国境の垣根を越え、人類の精鋭が結集した
クラン【シンドバット】が魔王を討伐し、
また邪神の指輪を封印・浄化する為の
作戦【魔王封印作戦】が始動します。」
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場面は切り替わり、草原を歩く一行。
セイレーンの少女、聖女ジャスミンが
歌いながら踊るようなステップで歩く。
翼があるためか、ジャンプの滞空時間が長い。
土の上を、まるでアイスダンスをするかの
ような流麗な動きをしながら歩く。
その肩にはウグイスのような小鳥、【ヨモギ】
が留まり、気持ちよさそうに一緒に歌っている。
聖女 「♪キミの足跡 未来を照らす〜」
ヨモギ「♪ポポポポポ〜ポポ〜ポポポ〜」
勇者「ジャスミン、そんなにはしゃぐと
疲れちゃうんじゃないか?」
聖女「魔王軍と戦って世界を救う。
とても責任が重い任務よね。
でも、どうせやるなら、
楽しんだ方がいいじゃない。
せめて平和な時間は、
ピクニックやキャンプでも
しているかのように。」
勇者「そうか。まぁ、やるべき事を
シッカリやれば、
そういうのも悪くないかもな。」
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場面は切り替わり、氷の大陸を進む一行。
聖女がフラつき、倒れそうになる。
勇者は倒れそうになる聖女の体を
受け止め介抱する。
自身の上着を聖女に被せ、
さらに背負って歩き始める。
聖女「ごめんね。重いし寒いでしょ?」
勇者「大丈夫。
それとね、自分の体温を上げる魔法を
思いついたんだ。どうだい?」
聖女「そんな魔法を?
そういえばキミの背中、
すごい温かいよ。
すごい便利な魔法ね。
今度教えてよ。」
勇者「ああ。簡単な魔法だから、
すぐに使えるようになると思うよ。」
聖女「あっ、使えない方がいいかも。」
聖女は小声で言った。
勇者「え?
聞こえなかった。なんて言ったの?」
聖女「……なんでもない。
ひとりごと///」
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場面は切り替わり、龍神村付近の天使の谷で
アラクネ絹を探す
聖女、白黒エルフ、人魚、獣人の少年。
場面は切り替わり、火山地帯で
ピッケルやスコップを持ち
鉱石の採掘をする男たち。
あまりの酷暑にダウンしているスカディの男性。
空からスカディの男性を急襲する銀竜。
スカディの男性を庇い、負傷する勇者。
場面は切り替わり、夜の天使の谷で
キャンプをする女性たちと少年。
聖女は白くなる吐息で
かじかむ手を温めながら、
澄んだ空気の夜空を見上げる。
空は満点の星空だ。
場面は鉱山に切り替わる。
地に伏す銀竜の横で、ドワーフ男が白銀に輝く
鉱石を掲げる。
大喜びする男たち。
場面は土砂降りの雨が降る温泉街。
聖女が街の入り口近くで遠くを見ている。
その視界に帰還した男たちが入ると
聖女は駆け出し、勇者に抱きつく。
傷だらけの勇者が痛そうな表情をしながらも、
口元は綻んでいる。
すぐさま聖女が
治癒の魔法を負傷者に施す。
他の女性メンバーと少年も駆けつけ、
互いの生還を喜ぶ。
久しぶりの全員集合といった雰囲気である。
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次の場面は緑豊かな森であった。
その森は湖を囲むような形で広がる。
体長20メートルはあろうかという
巨大な三ツ首の翼竜を、
シンドバットのメンバーが囲んでいる。
盾と剣を持った勇者が竜を引きつけ、
攻撃を空振りさせる。
竜の攻撃パターンの引き出しを全て開くように、
様々な角度から軽快なステップで
踏み込み挑発する。
ドワーフ男がモノクルのような魔法具で
竜を観察し、仲間に指示を出す。
電気を帯びた黒いライオンのような獣人が
飛び出し、目にも留まらぬような速さで動き
両手に持った短めの2対の片手剣と
雷を駆使して特攻していく。
竜が放つ炎のブレスを黒エルフ女性が扇を使い
風の魔法で薙ぎ払い、
また人魚の女性は湖の水面を蹴り、
足から巨大な水の刃を放ち炎を切り裂く。
竜が尾を使い、人間たちを薙ぎ払おうとする。
鬼人族の男は大楯を使い受け止める。
スカディの男性が六角形の箱のような魔法具を
振ると、竜の足元が凍りついた。
獣人族の少年は小箱のような魔法具、
パンドーラーの匣を使い、
竜の首を空間に貼り付けるように固定する。
竜人の男性が竜の左の頭を槍で突き刺さし、
雷を落とし仕留める。
白エルフ女性が植物のツタを操作し、
竜の右の首を締め上げる。
続け様に刹那の杖を取り出し、
竜の頭に炎魔法の集中砲火を浴びせる。
聖女が脇差のような刀、アメノウズメを握り
竜の上空から落ちるような
滑空で右の竜の頭に突きを喰らわせ、仕留めた。
盾を投げ捨てた勇者が
竜の中央の首を、両手で握り締めた
虹色の刀で斬り落とす。
緑色の小鳥ヨモギが竜の首に留まり、
嘴でつつく。
そこには他の鱗とは違う虹色の鱗があった。
ドワーフ男は小鳥が乗る竜の首から
虹色の鱗を剥ぎ取り、鑑定をしている。
ドワーフが竜の鱗を高々と掲げる。
ドワーフを囲み、
パーティの皆が歓声を上げていた。
ナレーションが流れる。
「宝玉を持つと言う伝説の竜、驪竜
を力を合わせて討伐した一行。
その鱗から、
後の至宝となる龍首宝珠を創り出しました。」
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場面は切り替わり、そこは夜の草原であった。
一行のキャンプの様子であった。
クランのメンバーが火を囲んで談笑している。
勇者が踊っている。
それはまるで、地球の【ブレイキン】のような
激しいアクションのダンスだ。
美しいセイレーンの女性
聖女ジャスミンが歌っている。
聖女の肩には、
ずんだによく似た緑色の小鳥、ヨモギの姿が。
聖女と一緒に気持ちよさそうに囀っている。
その2人の様子を見ながら、ある者は酒を呑み、
ある者は骨つき肉に齧り付いている。
宴の終盤
各メンバーが順番に聖杯を掲げて祈りを捧げる、
という行為を行なっていた。
一通り皆の手を介した聖杯は勇者に託された。
宴の最後に勇者が聖女の前に跪き
贈り物をしている。
聖女は驚き、両手で顔を覆う。
メンバーは拍手を贈る。
ナレーションが流れる。
「シンドバットは冒険の果てに
様々な魔法具を発見し、揃えていきます。
この日は魔力を水に変換する聖杯に、
仲間たちが魔力を注いでいきます。
また、聖女の懐妊が
判明し、子の父親である勇者が
聖女に求婚をしました。
勇者と聖女が結ばれました。
クランの皆もそれを祝福しました。」
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場面が切り替わる。
シロイナワ高地の頂上付近であった。
今と少し違うのは、
辺りが雪と氷に覆われている。
現代の女神像がある場所で
シンドバットのメンバーが黙祷を捧げている。
小さな獣人の姿だけが無かった。
ドワーフ男が大きな
カブトガニのような生物を鑑定している。
そしてお手上げ、匙をなげるような仕草をする。
人魚の女性が近くの岩を
足から出した水の刃を使い、彫る。
凄まじく正確で高速な彫刻であった。
瞬く間に岩が女神像となった。
聖女がその手に持つ茶碗のような物を
像の台座の窪みに収める様子が見えた。
ナレーションが流れる。
「邪神の指輪を封印し浄化する魔法具
【イムの御石鉢】を製作すべく、
一行は素材を求めてシロイナワ高地を訪れます。
しかし過酷な旅により、
封印スキルと聖属性のチカラを持つ
レッサーパンダ獣人の
少年【奇跡を起こす聖人・イム】が
命を落としてしまいます。
残ったメンバーで製作に挑むも、
最高峰の職人ドワーフ、ズークのチカラを
持ってしても最後の工程はかないませんでした。
イムの石鉢は邪神の指輪の浄化、そして穢れの魔王の肉体の封印に必須のアイテムでした。
全ての過酷な冒険は、イムの御石鉢を作成するため
と言っても過言では無いほど
重要なアイテムでした。
未完成の石鉢は盗難防止のため、
イムの墓標となった女神像の中に格納されました。
邪神の指輪の浄化を諦め、一行は魔王を倒すべく
最終決戦に臨むこととなりました。」
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場面が切り替わる。
そこでは異形の大群に囲まれた、
英雄たちの姿があった。
勇者の号令で鬼人の男が大楯を掲げると、
戦場が光の結界に覆われた。
聖女が勇者に聖杯を手渡す。
聖杯を左手に受け取った勇者が
右手で剣を掲げ、皆に語りかけた。
勇者「みんなにお願いがあるんだ。
魔王を封印する作戦は失敗に終わった。
魔王を倒すだけなら
そんなに難しい事は無い。
それよりも、これから先
荒廃した世界の復興の方が
困難な道のりだと思うんだ。
皆んなにはその復興をお願いしたいんだ。
俺の子供が平和に生きられるような
世界作りを頼みたい。」
勇者以外のクランのメンバーの足元に
魔法陣が現れ、メンバーが光の粒子となっていく。
「何を言って!?」
「お前! ふざけんじゃねえよ!」
「やめろ! 考え直せ!!」
勇者以外のクランのメンバーが消えた。
勇者「魔王ラギよ! 俺は人間族の代表だ。
お前を滅ぼす為にやって来た。」
勇者に向かい、
雷を纏った猿のような者が走り出した。
その速さは、うまーると同等レベルの
速さであった。
鵺「我は三大天・鵺、きさまごとk……」
勇者「身体強化・韋駄天
地属性魔法・縮地
剣技・雲耀〈うんよう〉」
勇者は鵺よりも速く踏み込み、駆け抜けた。
接触の瞬間、勇者の剣が眩く輝いた。
2人が交差すると、鵺の体は両断されていた。
鵺の血液を浴びた
勇者の体から湯気が立ち昇る。
ラギ「喰らったな!
鵺の血には最強の呪い、
憤血熱が含まれている。
もう生きては帰れんぞ!」
勇者「生きて帰るつもりなど無い。」
九尾の狐が九つの尾を使い、風の魔法を放つ。
勇者は竜巻のような風に囚われた。
竜巻をブチ破り、虹色の龍が飛び出した。
龍は狐を飲み込んで空の彼方に消えた。
勇者「其龍・架空如虹
〈ソノリュウ・ソラニカカルニジノゴトシ〉」
ラギ「天狐の風にも呪いは含まれる。
俺の術で即座に症状が出るハズだが。
なぜ奴は立っていられる?
体から立ち昇る蒸気……。
高熱か! 相殺してやがる。
しかしあの高熱でなぜ動ける!?」
勇者は疫病に対抗する為、
自身に魔法で高熱を付与していた。
また、その熱のダメージに負けないよう
常に治癒の魔法をかけ続けていた。
勇者は聖杯を取り出し、
中の液体を飲み干した。
勇者の体から凄まじい量の魔力が溢れ出す。
魔王ラギは魔力を全開にし、
全身から粉を噴き出した。
ラギ「大気を呪いで満たしてやる。
その無茶苦茶な魔力消費が
いつまで続くかな?
魔力が切れた時がお前の最期だ。
最強クラスの呪いを味わえ。」
勇者「もう終わりにしよう。」




