90 涙を流す女神像
90 涙を流す女神像
頂上まであと少しというところで、
地鳴りのような音が鳴り響いた。
レスベラ「なんだ?地震か?」
クルム「まずいわね……。どうするのコレ。」
うまーる「土砂崩れの音なんだよ!?」
ヌル「雪崩れ……。」
(どうする?どこに逃げればいい!?
このままじゃ全滅だ。
いや、この3人は大丈夫か?
鉄砲水を乗り切った3人だしな。
いや、でも俺は死ぬ。
それに3人の命を運任せにはできない!
地球にある人類未踏の山、[梅里雪山]は、
過去に登山隊が頂上付近まで到達するも、
雪崩れにより一瞬で全滅した事例がある。
選択を間違えれば詰む!!!)
考えろ!考えろ!!
全滅を回避する手段を!!
……あった!!)
レスベラ「さて、全力で走ればなんとかなるか?
ヌルを担いでできるかな。」
クルムは傘を開く。
うまーるは帯電を始める。
ヌル「みんな! 俺と手を繋ぐんだ!!
早く!!」
クルム「あー……。そうね。そっか。うん。」
レスベラ「なんだ? それで何とかなるんだな?」
うまーるはオロオロしている。
4人は手を繋いだ。
4人が立っていた場所が、
土石流のような氷雪に呑み込まれた。
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ーーカスミガ砦ーー
会議室で各種族の代表が話し合う中、突然
髪やマユ毛、鼻水を凍らせた
4人が転送魔法で姿を現した。
頭には雪が積もっている。
その様子を見た会議中の人たちが凍りつく。
約3週間ぶりの帰還であった。
ヌルは皆に事情を話す。
そしてここ3週間の動きを確認した。
国連の拠点をオーリヤマに移す事が
決定したようだ。
明日から引っ越しが始まるようだ。
港などの施設が必要で、
海の近くの方が利便性があるということで。
ヌルたち4人は砦で1泊した後、
再び転送魔法で旅を再開した。
ーーシロイナワ高地・上層ーー
クルム「乾物と冷たい水のみの食事。
寒さや害虫、猛獣に震えて眠る夜。
アレは一体何だったのよ。」
レスベラ「まぁまぁ。ヌルを責めるなよ。
誰も思いつかなかったんだしさ。
温かい飯と風呂のありがたみ、
身に染みただろ。」
うまーる「ヌルお兄ちゃんがいなかったら、
雪崩れでやられちゃってたかも
しれないんだよ。」
ヌル「……みんな、ごめん。」
頂上付近は完全に氷の世界であった。
目の前には氷の崖があった。
周りを見るも、どこも断崖絶壁のようだ。
普通に登る術が見つからなかった。
4人は話し合った。
レスベラは水のタラリアのチカラで
氷の壁面を歩けること。
それを利用して、ロープで互いを繋いだ
レスベラとヌルが先に登頂することとなった。
軽快に壁を歩いて登るレスベラ。
氷の魔法で足場を作りながら登るヌル。
下から見ていたクルムと、
うまーるは2人が雲の中に消えて行く様子を
見守る。
レスベラが突然、氷の切れ目を発見した。
境目の先は何故か温かい。
どうやら崖の終着点のようだ。
レスベラが華麗に着地をすると、そこはどうやら洞窟の入り口のようであった。
レスベラはヌルを引き上げた。
ヌルはそこに魔法の結界が
張ってあることに気付く。
ヌル「これは……。人工物だ。
不思議な結界だな。
まるで暖房が効いた室内のようだ。
魔力が高い種族の領土かもしれない。
2人と合流して慎重に進もう。」
ヌルは転送魔法でクルムと、
うまーるの元へ戻る。
また転送魔法を使い、
2人を連れてレスベラの元へと移動した。
4人がいたのは、
岩壁の洞窟のような場所であった。
光の魔法で辺りを照らすと、
空間の中央に岩を削り造られた螺旋階段があった。
4人は階段を登る。
その頃シロイナワ高地では、
ヌル達の存在に気付いた先住民族らしき者たちが
警戒を強めていた。
右眼にモノクルのような
魔法具を嵌めた女が最初に気付く。
女「侵入者……! 今度は下から。」
その人々は背中に鳥のような翼を持っていた。
ソナと同じセイレーン族であった。
セイレーン族の女が語気を強めて言い放つ。
女「キムスケ! 気をつけて!
相手は4人だけど、タダモノじゃない!」
キムスケと呼ばれた頭領らしき男が
周りの兵に警戒を呼びかける。
キムスケ「アルベルトと俺以外は退がれ!
他は援護を頼む!
りおん!(モノクルの女)
敵が洞窟を抜ける時に合図を!」
キムスケは黄金の槍を構え魔力を集中させた。
空には暗雲が立ち込める。
アルベルトと呼ばれた男は、
竪琴のような弓を構え、魔力を集中させる。
ヌル達は洞穴の出口で殺気を感じ、立ち止まる。
ヌルはエコーロケーションで外の気配を探る。
ヌル「囲まれてる。敵は空を飛ぶ。
遠距離攻撃が来る。
みんな、最初から全開だ!
でもできれば、相手を殺さないで欲しい。」
レスベラ「わかった。」
クルム「魔王軍なら即殺。
先住民なら半殺しね。了解。」
うまーる「話し合いできるといいんだよ。」
4人が洞穴を飛び出す。
4人を視認したキムスケは、
4人に向けて雷を落とした。
キムスケ「ケラウノスよ!
愚かなる侵略者共に神罰を!」
アルベルトは、弓のような竪琴を鳴らす。
アルベルトの竪琴は複数の火の鳥を生み出し、
4人に向けて火の鳥が放たれた。
アルベルト「アポロンの弓。
【火の鳥・葬送】」
帯電した、うまーるが跳躍し
自身に雷を誘導する。
うまーる「大雷!」
クルム「アレは……。魔王軍じゃなさそうね。」
クルムは風を起こし、火の鳥に風を当てる。
レスベラは自分に向かう火の鳥を、
ミヅハノメで斬る。
うまーるとヌルは、盾で炎を受け止める。
ヌルは襲ってくるもの達を見て驚いた。
ヌル「セイレーン!?
ここは、セイレーンの隠れ里なのか!?」
(戦いを回避したい。どうすれば!?
……一か八か、アレを見せてみるか!)
「待ってください!!
俺たちは敵じゃないです。
ナミノエのセイレーンから
託された物もあります!
クルム! 子守貝を見せるんだ!」
クルム「なるほどね。」
クルムは首から下げた子守貝を外し、掲げる。
キムスケは子守貝を見て驚く。
キムスケ「あれは、伝承にある……。
皆、攻撃をやめろ!
人間!
なぜ貴様等がそれを持っている!」
ヌルは事情を説明した。
これはナミノエにいる
セイレーンから託されたこと。
世界は今、魔王軍により危機的状況にあること。
そして小人、エルフ、人魚、スカディ、獣人、
ドワーフが結束して魔王軍と戦っていること。
自分達は、封印の勇者を復活させるために
十至珍宝を捜していることであった。
キムスケは今、
自分達に起きていることをヌル達に話した。
謎の軍勢から攻撃を受けていること。
それにより、恐ろしい呪いが蔓延していること。
また、呪いの雨が降り注いでいること。
マハルポージャという者の傘下になるよう
脅迫されていること。
セイレーンの秘宝を差し出すように
脅迫されていることなどであった。
話を聞いたヌルは
辺りをエコーロケーションで探る。
すると蝿科の生物の数が多いこと、
また、その生物は寄生虫症を引き起こす
危険な虫であることに気付いた。
ツェツェバエを中心に蚊、アブ、ブユが
たくさん飛んでいた。
もう一つ、呪いの雨について考察を始める。
変色した草と広葉樹の葉。立ち枯れた木は
おそらく針葉樹であろうことから、
呪われた雨は酸性雨であることが予想された。
ヌル(この虫達は、魔王軍がこの地に
もたらしたのか。
そうなると根絶は困難だな。
数十年に及ぶ戦いになる。
そして酸性雨。
意図した地域に降らせる事は
可能なのだろうか?
魔法による物かもしれない。)
ヌル達はセイレーンと話し合うこととなり、
セイレーン達の居住区へと案内された。
そこは軽石のような岩石を掘り抜いた洞窟、
地球でいうとカッパドキアのようなものであった。
その入り口には、鍾乳石のような
つらら状のものが形成されていた。
どうやら、酸性雨は直近のものでは
ないように伺える。
セイレーン族の長キムスケと
その側近達との話し合いが始まった。
セイレーン族の直近の問題は
空から攻め入る魔王軍であった。
ヌル達からしても、
魔王軍を退ける事は利害が一致する。
しかし、ヌル達の1番の目的は
秘宝探索であった。
単刀直入に秘宝をくれと言っても
了承されないことは明白であった。
そこを踏まえてヌルは提案をすることにした。
一つは、害虫の根絶についてだ。
日本の沖縄では、
過去に外来種のウリミバエが大繁殖し、
農作物に深刻な被害をもたらした。
アメリカ基地など、立ち入れない地域もあり、
根絶は困難を極めたが、科学技術と外交問題を
上手くやりくりし、根絶に成功していた。
この技術を使い、自分なら
根絶できるかもしれないという提案をした。
次に疫病に対するものであった。
ツェツェバエがもたらす、
アフリカ睡眠病には特効薬がある。
毒性が強いというリスクはあるが、
健康な大人であれば助かる見込みが高い。
逆に治療をしなければ100%死に至る。
自分なら
魔法で薬を生成できるという提案であった。
最後に酸性雨対策である。
魔王軍の居城は、かつて人間国で最大の
産油国であったということ。
地理的に、そこから風によって運ばれた
物質により雨が酸性化しているということ。
酸性雨を止めるには、魔王軍を止める事が
必須であること。
セイレーン族も共に戦って欲しいことを伝えた。
しかし、キムスケは頭を縦には振らなかった。
キムスケ「キミたちを試したい。
信用するかどうかは、結果次第だ。」
キムスケはヌル達を連れて、
上へと続く階段を登り始める。
階段を登り続けると、眩い光が見えた。
王宮の上は、巨大な岩山の山頂へと続いていた。
見晴らしがとても良い。
辺りには石を加工した物が配置されており、
まるでマチュピチュのような光景であった。
正面にある崖の手前には女神像が。
王宮への出入り口の真上には
鉄柱のようなものが立ててあり、
最上部には淡く光る光玉があった。
女神像の眼の部分は、なにかの金属が
使われている。
酸性雨による溶解の跡が
他とは違う色になっており、
まるで涙を流しているように見えた。
キムスケ「あの女神像は、
選ばれしものに記憶の映像を見せる。
もしもその映像を視る事が
できたならば、味方として信用しよう。
秘宝の貸与と共闘も約束しよう。」
ヌル「わかりました。」
レスベラの胸の谷間から、
ずんだが飛び立ち女神像の肩に留まった。
キムスケ「あの鳥は!! まさか!?」
ヌル「ずんだが、どうかしましたか?」
女神像の目が輝きを放つ。
ヌル達4人は、まるで転送魔法を使ったとき
のような感覚に襲われ、
意識が光の中へと導かれた。




