9 ジャガイモの気持ち
9 ジャガイモの気持ち
ー出発の日・王都近郊ー
今の現在地は
【フォーチュンランド大陸】の東部。
ここは温暖な気候であった。
地球でいうと、春の日本のようだ。
緑豊かで、水にも恵まれている。
ここから少し北にある【ノブオ森林地帯】の
森に、腕がよいと評判の薬師である、
エルフの老夫婦が営む【エルおじ堂薬局】
という店がある。
一行はまず、そこを目指す。
移動方法に関して、少し揉め事があった。
馬を使うかどうかである。
平原であれば、
馬を使う方が圧倒的に時短になる。
しかし、馬を連れて行けない場所もある。
馬を放置するのには3つのリスクが懸念された。
①馬の脱走
②馬が襲われる
③馬が盗まれる
である。
馬の育成には莫大なコストがかかる事から、
文官達は馬の同行に関して否定的な意見だった。
ただ、今の情勢を鑑みると時間は惜しい。
結局、馬を人数分連れて行くこととなった。
王都を発つ6人。
極秘作戦のため、見送りは無い。
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道中、ゴブリンの群れとエンカウントした。
戦闘訓練のため、ヒヨッコ達が安全に
戦えるようにマーボーがゴブリンの数を減らした。
マーボーの槍捌きが凄まじかった。
伸びるし、しなる。
箒で掃かれた塵のように、
吹き飛ぶゴブリンの群れ。
突きも薙ぎも、とんでもない破壊力であった。
ギリーは馬達を魔法で眠らせた。
ギリーは馬を守りつつ遠距離攻撃で前衛が
討ち漏らしたゴブリンを討つ構えだ。
ヌルは、ナナに向かっていくゴブリンに対して
盾を使い進路を妨害した。
ナナは緊張しつつ頑張って
【地属性魔法・石弾】を撃った。
ナナ「痛い! 痛いっ!」
ナナは痛いと言いながら
ゴブリンに向かって石弾を撃っている。
もちろん痛いのはナナではない。
ゴブリンの気持ちを代弁しているのである。
ナナは優しい子であった。
ヌルはナナの様子を見て、
子供の頃に一緒に料理をしたことを思い出した。
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ーヌルの回想ー
幼いヌルとナナが、
台所でジャガイモの下処理をしている。
ナナ「痛い! 痛いっ!」
ヌル「大丈夫か!?
包丁で指切ったのか!?」
ナナ「ちがうの。ジャガイモさんの気持ち。
切られて痛いの。」
ヌル()
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虫も殺せないナナである。
襲いかかるゴブリンに、
石弾を当てることにも罪悪感を覚えてしまう。
ヌルはこれから先が心配であった。
しかい、ヌルはそんなナナが大好きなのである。
ヌル(ナナは命に代えても守る!
そして泣かせる奴は絶対に許さない!!)
必死にナナへと向かうゴブリン。
それと相撲するヌル。
ヌルはゴブリンとの密着を嫌がっていた。
ヌル(ナナは優しいな///
でも、
早くゴブリンなんとかしてくれねえかな)
ナナ「キャアアア! あっち行ってよー!
痛いっ! 痛いっ!」
ポコッ。ポコッ。と、ゴブリンに当たる石弾。
ヌル(俺が手で掴んで投げるより、
はるかに弱いぞ。)
もちろんゴブリンにダメージは無い。
ダメージを与えるどころか、
むしろゴブリンが怒って凶暴になっている。
鼻息が荒くなるゴブリンと抱き合うヌル。
ヌル(抑えるのがシンドい〈汗〉
いつまで続くんだ)
ヌルはナーガとオニオの方を見てみた。
ゴブリンともみくちゃになって、
殴り合うナーガ。
小学生みたいな回転パンチを喰らわせている。
もちろんダメージは無く、
ゴブリンが木の棒で猛烈に反撃している。
オニオは弓と矢を両手に持ち、
弓と矢で直接ゴブリンを殴っていた。
ヌル(アイツラ……。
これ、魔王に挑むPTだよな??
オニオ……。せめて矢で突き刺せよ……)
笑うマーボーと頭を抱えるギリー。
マーボーが咥えてる竹が、
ピュイピュイ♪音を鳴らしている。
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ー戦闘を終えて・休憩ー
ナーガが
ゴブリンの死体からパンツを脱がせている。
布をたくさん拾い集めていた。
いわゆるドロップ品である。
ヌルが布をどうするつもりか訊いたら、
街の素材屋に売るという答えた。
ヌル「お、おう。そうか。
ナーガは倹約家なんだな」
(あんな汚い布、
買い取ってくれるんだろうか?
なんか臭そうだし)
ヌルはナーガと少し離れて歩くことにした。
ヌルはゴブリンのスキル
【剣術D】を手に入れていた。
次の戦闘でゴブリン相手に、
剣術Dを使ってみたヌル。
特に勇者っぽい技は出なかった。
初めてのスキルだっただけに、落ち込むヌル。
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ーノブオ森林地帯・入り口付近平原ー
森が見えてきた。
そこに地響きを鳴らし、巨大なモンスターが
一行を目がけて近付いてきた。
大きな斧を持った、二足歩行の怪物、
ミノタウロスであった。
頭は牛、体はマッチョなヒト型である。
ミノタウロス「ブモオオオオオオオ!!」
足がすくんで動けないヒヨッコ4人組。
ミノタウロスが斧を振りかぶる。
強烈な一撃をマーボーが竹槍で受け止めた。
どう見ても、竹槍がへし折れそうな一撃である。
しかし折れない。
魔法具の凄さを目の当たりにしたヒヨッコたち。
マーボー「おまえら! 今できることやってみろ!
ピュイ♪」
ナーガが構える。
ナーガ「神の見えざる手!!!」
ミノタウロスの腰巻きが脱がされていた。
ダメージこそないものの、
謎の攻撃に困惑するミノタウロス。
ヌル(しかしデケエな。ミノタウロスのチ●コ。
馬といい勝負か?)
いつのまにか、
ミノタウロスの鼻に矢が刺さっている。
悶絶するミノタウロス。
オニオがドヤ顔で親指を立ててる。
ヌル(しかしタイムマスターすげえな!
てか、弓使えるんじゃねえか!
やっぱ前衛が、
壁してやらねえとダメだよなぁ。
なんかあのドヤ顔見てると腹たつな)
ミノタウロスの攻撃を、
華麗に捌き続けるマーボー。
ミノタウロスは、オニオとナーガによる
謎の攻撃と、マーボーのパワーに困惑している。
ヌル(チャンス!
てか、どうせ俺は攻撃されないけど)
ヌルはミノタウロスの右脚に斬りかかった
ヌル「うおおおお! 飛天ゴブリン流!
斬鉄閃!!!」
とりあえず必殺技ぽい技名を叫びながら
剣【剣術D】を振ってみるヌル。
カンッ!
軽い感じの音がして、
ミノタウロスの骨に剣が当たり止まった。
ヌル(硬い!
やっぱり、技の名前は、
【ファイナルラストアルティメット
エクスプロージョンスラッシュ!!!】
とかの方が攻撃力強かったかな?
今度やってみよ。)
全然斬れていないが、
ミノタウロスは痛そうに右脚をおさえた。
石弾を撃とうとしているナナに、
ナーガとオニオのヤジが飛ぶ。
オニオ「チー●ポ! チン●! チー●ポ!」
ナーガ「フゥワッ♪ フゥワッ♪」
どうやら急所を狙えという、
2人からナナへのアドバイスのようだ。
ナナ「ばかあああああああ!!」
ドドドドドドドゴオオオオン!!
Wネギ「ぐあああああああ!!」
強烈な石弾【強】が、
散弾のようにナーガとオニオに向けて放たれた。
ヌル(明らかにゴブリンに放たれたのより、
威力があるぞ!?
頼むからそれを、
ミノタウロスに撃ってくれよ!)
ミノタウロスのアレが、
ブルンブルン大暴れしている。
ヌル(つーか、このミノタウロス!
いつまでも俺のナナに汚ねえもん
《俺のより立派なモノ》
見せてんじゃねえ!!)
ドスッ!!
ヌル会心のシールドバッシュが、
ミノタウロスの●ンポに決まった。
ミノタウロス「モオオオオ(泣)」
悶絶するミノタウロス。
マーボーがものすごい踏み込みからの
連続突きを繰り出す。
ヌル(すごい!
速さとしなりで槍が10本くらいに見える!)
血を噴き出し、ミノタウロスが倒れた。
ヌルの頭の中にいつもより強く謎の声が響く。
(スキル【一刀両断】を獲得しました)
ヌル(強いスキルなのか?
強そうな技名! いい場面で使ってやるぜ!)
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ー森林前・草原ー
一行は草原で休憩をしていた。
マーボーが何かの殺気に気付き、
その攻撃を受け止めた。
マーボーの槍を蹴り、
跳んだソレはナナの横を掠めていった。
ナナ「ああっ!!」
驚いたのか、ナナが倒れた。
ナナの頬が少し切れて血が出ていた。
ヌル「モンスターの奇襲!
ナナを襲ったのは……。
クモだ!」
それは巨大な蜘蛛であった。
柴犬程の大きさであった。。
その巨大な蜘蛛が飛びかかってきたのである。
見た目はハエトリグモに似ている。
足の爪は鋭い。
顎は大きく鋭く、鋏のようである。
噛まれたら軽症では済まないであろう。
たくさんある複眼。
なかなか衝撃的な外見だ。
意外な反撃に警戒し、後退りする蜘蛛。
ナナ「いやあああああああああああ!!」
虫が苦手な上に、
グロい見た目にナナが絶叫した。
オニオ「うわああああああああンゴ!!」
ナーガ「ひいいいいいいっ!」
巨大昆虫のインパクトは凄い。
ヒヨッコ3人はパニック状態である。
蜘蛛が高速でヌル達の背後を取るように跳ぶ。
背後をとったら高速で、
突っ込むように跳んでくる。
またもマーボーが槍で受け止めた。
ヌル(蜘蛛の狙いは……。
ナナだ。)
ブチッ!!
ヌルの中で何かがキレた。
ヌル「許さん!!
ナナの顔に傷をつけやがって!!
ぶっ殺してやる!!」
蜘蛛はまた、ナナの背後をとるように横に跳ぶ。
1回の跳躍で、10メートルは跳んでいる。
恐るべき跳躍力であった。
ヌル(速い。
だけど、横の動きは
目で追えない速さじゃない)
昔、庭でハエトリグモが、
アリを襲うのを見たことがある。
背後からジャンプで乗っかり、
咬みつき離れる。
みたいな、ヒットアンドアウェイを
繰り返していた。
毒が回ったのか、しばらくして
アリの動きがおかしくなった。
十分弱ったところで、
蜘蛛はアリを咥えて消えた。
どこかに巣があって、
巣に連れ去り
獲物を食べていたのだろうか)
ナナは頭を抱え、しゃがみこんで震えている。
ヌル(おそらくナナが受けた攻撃は爪だろう。
たぶん毒の心配は無い。)
ヌルは、ナナの背後と蜘蛛を結ぶ、
対角線上を警戒していた。
マーボーもナナの背後を警戒していた。
ヌルの立ち位置はマーボーより前である。
マーボーはヌルのヤル気に気づいた。
ヌルの読み通り、
蜘蛛はナナの首を狙って跳んできた。
ヌルは蜘蛛とナナを結ぶ線上に飛び入り、
両手で盾を構えた。
ヌルの盾に凄まじい衝撃が走る。
盾で受け止めたあと、ヌルは剣を振るった。
しかし、蜘蛛の素早いバックステップの前で、
ヌルの剣は空を切る。
ヌル(速い……。
盾で受けてからでは間に合わない!
この衝撃、こんなものナナに向けて……。
許さん。コイツは必ずここで仕留める!)
ヌルは盾を捨て、両手で剣を構えた。
蜘蛛が横っ跳びで機会を伺う。
蜘蛛がナナの背後にあたる場所に着地した。
ヌル(ここだ!)
ヌルは線上に飛び込み、蜘蛛のタメを視認した。
ヌルは蜘蛛が跳び出す前から剣を振るった。
ザンッ!!
ヌルが握る剣に重い衝撃が加わる。
ヌルは全力で剣を握り込み、振るった。
蜘蛛にとってカウンターになる形で
斬撃が当たった。
また、斬れた蜘蛛の突撃もヌルに当たった。
ヌル「ぐあっ!」
吹き飛ぶヌル。
地面に落ち、
瀕死の蜘蛛にマーボーがトドメを刺した。
ヌルは、スキル【ハイジャンプ】を手に入れた。
ヌルは頭から血を流していた。
意識はハッキリしているようだ。
ナナ「ヌル!」
駆け寄るナナ。
ギリーとオニオとナーガも駆け寄る。
ナナ「もう!! また無茶するんだから!!
いつか死んじゃうよ!!」
ナナの目には涙が。
ヌル「名誉の負傷!
カッコよかった?」
ナナ「ケガしてなかったらカッコよかった!
でも、ありがとう。」
倒れたヌルを、抱き抱え、膝枕するナナ。
ヌル(まじかぁ。
もっと強くならねえと、ナナとの仲は、
進展しねえのかな。)