89 未踏の脅威
89 未踏の脅威
ヌル(そんな。まさか、これは。この症状は……
エボラ出血熱!!
あまりにも致死性が高いため、
パンデミックにならないと言われている、
最強の毒性を持つウイルス性感染症!!!)
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ウイルスは生物ではない。
遺伝子だけのような存在である。
生きた生物の細胞に寄生しないと、
生きられないし繁殖もできない。
したがって細菌や寄生虫を殺す薬は作れても、
ウイルスを殺す薬は作れない。
ウイルスをなんとかするには、
宿主の細胞にできるだけ負荷をかけずに、
ウイルスのみに作用する薬を作る
というのが課題になる。
これは大変難しい課題である。
人類が根絶できたウイルス性の感染症は、
天然痘のみである。
これも薬を開発できたわけではなく、
牛痘という人間に対し比較的無害な近縁種を使い、
種痘という方法で
予防接種のようなことをできたおかげであった。
最新の医学でも、ウイルスに作用する薬は
3種類ほどしか作られていない。
1つは細胞への侵入を阻害するもの。
2つ目はウイルスの増殖を阻害するもの。
3つ目は細胞からの遊離を阻害するものである。
このうち、今のところエボラに有効だと
されている薬は、
ウイルスの増殖を阻害するものである。
ただ、これが有効なのは感染初期に限る。
既に増殖したウイルスを
殺す事はできないからである。
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ヌルは検索魔法と万物創生魔法を駆使して、
増殖阻害薬を生成した。
ヌル「最近熱を出したばかりの人なら、
これを投与すれば助かるかもしれません。
私の言う事を信じられる人はいますか?」
ヌルは自分達を取り囲む村人たちに問う。
1人の女性が前に出て土下座をして懇願する。
「私の、私の子供を助けて下さい!!」
周囲は騒めく。
「裏切り者」
「悪魔に魂を売るのか!」
やがて女性に対して投石が始まる。
とくに示し合わせたわけではないが、
ヌルたち4人は女性の盾となった。
ヌル「子供を助けたい、大切な人を助けたい、
それの何が悪いのか!」
ただ黙って
死ぬ事を選択するのが正しいのか!」
ヌルは魔法で声を拡声して村人たちに問う。
村人たちはヌルの気迫に圧倒され、
投石行為を止めた。
オウガが口を開く。
オウガ「女よ。貴様に罰を与える。
貴様の子供には、
この者が作った薬の実験台に
なってもらう。
これは俺からの命令だ。
他の者、異存は無いな。」
村人たちは押し黙った。
ヌル「オウガ殿、恩にきる。
さあ、これを。
子供さんには直接触れないように
気をつけてください。」
ヌルは女性に薬を渡した。
ヌルは感染症に対して、
簡単に実践できる予防法などをオウガに伝える。
また、生き延びた者からの輸血による治療が
有効である事を伝えた。
同時に輸血に関しては血液型が重要である事も。
万能輸血者である、O型の話。
O型に多い傾向の性格の話。
できるだけ血縁関係者同士が望ましい
話であった。
ヌルはドワーフに依頼して作らせた
貴重な注射器を一本、オウガに託す。
生成したウイルス増殖阻害薬も
わずかであるが、託した。
使い回しはリスクがあること、
十分に消毒することなどを伝えた。
感染症対策の話を
魔王に伝言するようにとも伝えた。
川の向こうにコブダを連れてはいけないため、
4頭のコブダを村に寄贈した。
そして村をあとにした。
オウガ「我々は、何と戦ったのだ。
アレは敵ではないのか。」
シャデ「私にはわかりかねます。
やるべきことは、
とにかくこの村の治安を守ること、
呪いの拡大を防ぐこと。
他のことはわかりかねます。」
オウガ「そうだな。
最終的な判断はマハル様に任せよう。
シャデ、お前は国に戻り
ウイルスなるものの話と、
この注射器という道具の生産についての
話をマハル様に報せよ。」
この1週間後、ヌルが作った薬を投与した
子供は後遺症など無く回復することになる。
オウガが主導となり、
近隣の集落の感染予防や対処療法が
劇的に向上することとなる。
その話は魔王が治める国にも
広まることとなった。
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村をあとにした4人は
川の前でキャンプをしていた。
翌朝、いよいよ川を渡り密林攻略が始まる。
川の水を煮沸し、飲み水として加工する。
火を囲み、色々と話し合った。
ヌル「すまない。
あの村で時間を浪費してしまった。」
レスベラ「謝るなよ!良い事したんだからさ。」
クルム「おせっかいにも程があるわ。
まぁ、アンタがそんな奴だから
信用できるんだけどね。」
うまーる「そうなんだよ!
星舞村だって、先を急ぎたかった
だろうに、
2日もお世話になったんだよ!
だから私もね、全力で頑張るんだよ!」
ヌル「みんな。ありがとう。
この旅だって、ほんとは俺のワガママ
だしな。
みんなが付いてきてくれた事、
本当に感謝してる。」
クルム「私とゴリラは無関係じゃないわよ。
呪いを早くなんとかしたいし、
なるべくたくさんの
旦那候補をみつけなきゃいけないしね。」
レスベラ「父さんの刀を直してもらった
恩もあるしな。
それとまた美味いモン食いてえしな。
ついて行くぜ!」
ヌル「明日の朝は早い。もう休もうか。」
ヌルはふと、うまーるを見た。
うまーるが、あんみつを取り出し
可愛がっていた。
あんみつは最初、
おかっぱくらいの髪の長さであった。
今ではソフトクリームのような
巻き髪になっていた。
長さは2メートルほどになるらしい。
また、うまーるの顔は青白く、
血の気が引いている。
ヌル「うわああああああ! うまーる!
やめろ!
無駄に体力を使うな!
てか、まだソレ持ってたのかよ!!」
うまーる「この子は、ずっと一緒なんだよ……。」
夜が更けて行く。
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翌朝
イカダを組み、川を渡る。
川を渡りながら、
ヌルは全員に免疫強化の魔法をかけた。
皮膚の強度も上げる。
虫程度の小動物相手なら外傷にならないように。
ヌルの予想では、
1番危険なのはこの密林だと目星をつけていた。
1番怖いのは熱帯の疫病であると。
昆虫による感染症、寄生虫症であると。
また、野生動物の肉にも
気をつけなければならない。
特にコウモリ類や猿は
未知の細菌やウイルスを多く保有している。
川を渡ると、想像通り
ヤバイ虫をたくさん見かけることとなる。
蚊を筆頭に、サシガメ、ツェツェバエに
アブやブヨなど。
カタツムリやナメクジも多い。
毒蛇や毒ガエル、毒イモリも多数見られた。
それらは皆、警戒色が強いカラフルな動物たち。
ヌルはレイカに依頼していた、
除虫菊を練り込んだ線香に火をつける。
ヌル「小さな傷が命取りになる。
気をつけて進もう。」
「ギャアアアアス!!」
「ピィイイイイイイ!!」
「アオッアオッ!」
突然、鳥たちが一斉に飛び立つ。
ずんだも久しぶりに、
けたたましい鳴き声を上げる。
ずんだ「ポンゲェエエエエエエ!!」
ズンッ!ズンッ!
巨大な生物の足音が大地を揺らす。
細い木を薙ぎ倒し現れたのは、
巨大なティラノサウルスであった。
その恐竜らしき生物の牙はボロボロで、
血の泡のような物を噴いている。
ヌル「これは!狂犬病!!
狂犬病に侵されたティラノサウルス!!
みんな、少しの傷でも
助からない病にかかるぞ!
絶対にケガをするな!!」
クルム「大地の竜、タイラントレックス。
飛べない代わりに
最強のパワーを手に入れたドラゴンよ。」
クルムが険しい表情になる。
レスベラ「最初から全力でイクぜ!!」
うまーるは青く光電気を纏い、帯電を始めた。
「クアアアアアアアアアア!!」
威嚇の咆哮を上げ、
ドラゴンが襲いかかってきた。
うまーる「黒雷〈クロイカヅチ〉」
うまーるの周囲の小石や落ち葉などが帯電し、
宙に浮いた。
うまーるが地を蹴り走り出すと、
防具の効果で無数の残像が現れ、
ドラゴンを翻弄する。
レスベラは鎧を脱ぎ捨てた。
そして2本の刀を抜き、振り回して始める。
こまちゅから賜った火鼠の皮革製ビキニの
おかげでいつもと違い、
脱ぎっぷりに恥じらいが無く潔かった。
クルムは魔力と気力を集中させ、
大きく息を吸う。
クルム「聖女の詩吟【楽】」
レスベラ「天衣無縫の舞【怒】」
クルム「めぇりぃさんの↓ひつじぃ↓ひつじぃ↑
ひつじぃ〜↑
めぇりぃさんの↑ひつじぃ↓
お〜い〜しーいなぁー↑♪」
レスベラ「やっぱり食うのかよオォオオオオ!」
レスベラが炎に包まれる。
レスベラの顔と背中に
炎を模したようなタトゥーが現れる。
クルムは、さらにレスベラの額と背中に【炎上】という言霊を押印する。
レスベラの炎が勢いを増し、
炎はやがてレスベラの体を包む衣装
【軻遇突智乃袴〈カグツチノハカマ〉】に変わる。
うまーるはドラゴンの体を駆け上がり、
なおかつ右足でプラスの電荷を
ドラゴンの体に印加する。
ドラゴンの頭を踏み台にし、
空高く上がったうまーるの左足から、
強力な雷撃が放たれた。
うまーる「伏雷からの鳴雷なんだよ!!」
雷に打たれて硬直する
ドラゴンにレスベラが斬りかかる。
そこにクルムは圧縮した魔法の風に
自身の魔力を練り込み風の玉を作り上げた。
風の玉をドラゴンに向け放ち、
自身が込めた魔力を炎の魔法で引火させた。
レスベラ「酒乱二刀流!焼裂・二日宵
〈やけざけ・ふつかよい〉」
クルム「風圧縮+炎複合魔法
〈ラムジェット・スパーク〉」
レスベラの爆炎にクルムにより
空気が送り込まれ、
ドラゴンは黒煙を上げ爆発炎上した。
ヌル「あの子たちが……どんどん怪物じみていく……
陸生最強のドラゴンが、
何も出来ずに炭化して……」
ヌルはガクガク震えながら呆然と立ち尽くした。
クルム「なかなかよかったわね。」
レスベラ「イェーイ! ウェーイ! 」
うまーる「うぇーいなんだよ!」
3人娘たちはハイタッチしている。
レスベラ「ドラゴンって美味いんだっけ?」
ヌル「やめとこ?
どんな毒があるかわからないし、
それ病気に感染した個体だから。」
4人は草を掻き分け先に進む。
突然、虫の気配が消える。
更に進むと、先程交戦した
タイラントレックスと同じ種と思われる
ドラゴンの全身骨格が転がっていた。
レスベラ「なんだコレ化石?」
クルム「いや、違う。
辺りに飛び散ったこの、黒い物は……。」
うまーる「血の匂いなんだよ!」
ヌル「生態系上位に捕食されたのか?」
クルム「蟻よ。この世界の最強の捕食者は
ドラゴンじゃない。蟻なのよ。
統率の取れた群れをなして
獲物に襲いかかり、
骨だけ残して綺麗に食べ尽くす。
最強生物【アーミーアント】」
ヌル(グンタイアリの近縁種か。
地球でも人間の処刑に使ったり、
繋がれて逃げられなかった牛が
骨だけになったという話がある。
ヤツラの通った道は、木の上でさえ
虫1匹いなくなるほど
喰らい尽くされるという。
10トンクラスのドラゴンが骨だけに……。
恐ろしい蟻がいたもんだな。)
「蟻に鉢合わせしないよう、
慎重に進もうか。」
密林を3日ほど進む。
夜は樹上で体を縄でくくりつけ休む。
害虫対策には、レイカが作ってくれた
蚊取り線香を焚いた。
密林をぬける。
景色は急激に岩石地帯へと姿を変える。
アンテロープキャニオンのような
峡谷を上層を目指して進む。
大自然が創り出した
マーブル模様の地層が幻想的で美しい。
中層に拡がるのは、エチオピアのダロルのような
景色であった。
緑色の沼は泡立ち、湯気が上がる。
強烈な硫黄の匂い。
毒性の強い水が、
植物を含め生命の営みを拒絶している。
目の前の山の頂上は雲で覆われ、
その麓にたってもまだ全容が見えない。
ヌル(保存食や飲水が心許ない量になってきた。
ほぼ未踏ということは、
過去に登頂した者がいるということだ。
信じられない。
我々より劣る装備で成し遂げたというのが。
きっと、多大な犠牲を払ったのであろう。)
標高が上がると気温は下がり、
また頭痛などに苛まれた。
典型的な高山病であった。
ヌルは風属性の魔法を使い、
なるべく多くの酸素を取り入れて
これに対処した。
上層に近くなればなるほど、
衛生害虫や猛獣などの脅威はなくなり、
代わりに高山病や低体温症などの懸念が生じる。
連日、過酷な場所での雪洞泊が続いた。
上層にはいると、
一面雪と氷の銀世界に変わっていく。
氷の魔法でかまくらを作ることにより、
体力が温存できたとはいえ、
連日の疲労は蓄積されていた。
しかし、雲に覆われた頂上が近くに
見えていたのは救いであった。
ゴールが見えている、
終わりが見えない苦労に比べたら、
それだけで活力が湧いてくる。
頂上まであと少しというところで、
地鳴りのような音が鳴り響いた。
レスベラ「なんだ?地震か?」
クルム「まずいわね……。どうするのコレ。」
うまーる「土砂崩れの音なんだよ!?」
ヌル「雪崩れ……。」
(どうする?どこに逃げればいい!?
このままじゃ全滅だ。
いや、この3人は大丈夫か?
鉄砲水を乗り切った3人だしな。
いや、でも俺は死ぬ。
それに3人の命を運任せにはできない!
地球にある人類未踏の山、[梅里雪山]は、
過去に登山隊が頂上付近まで到達するも、
雪崩れにより一瞬で全滅した事例がある。
選択を間違えれば詰む!!!)




