87 憧れた背中。託されたもの。
87 憧れた背中。託されたもの。
ーーカイセイ城サイドーー
うまーるが放った木ネジは、
マッハ6の速度で進み高速回転をしながら
ヒポスドールの胸に命中した。
その弾丸は、まるで戦車の装甲を穿つ
徹甲榴弾のように、ヒポスドールの強靭な皮膚を
貫き、胸骨体にめり込み留まった。
木ネジは全ての運動エネルギーを
ヒポスドールの心臓周りに解き放つ。
それは、まるでハートブレイクショットのように
ヒポスドールの心臓と横隔膜に衝撃を与え、
僅かな時間ではあるが、
ヒポスドールの心臓と肺の動きを止めた。
肺活量に絶対の自信をヒポスドールであったが、
自発呼吸ができなくなるのは初の体験で
パニック状態に陥っていた。
3秒にも満たない時間であったが、
心臓震盪から回復した
ヒポスドールは勢いよく呼吸を再開する。
ヒポス「ぶっ! はぁっ。はぁっ。はあああー。」
うまーる「みんな、ごめん。ここまでなんだよ。
お兄ちゃんのこと、
よろしくなんだよ……。」
うまーるは糸の切れたマリオネットのように
倒れ込む。
うまーるは床に倒れ込む直前に、
起き上がったクルムにより抱き抱えられた。
クルム「ずいぶん美味しそうに呼吸するのね。
嬉しいわ。
それにしても、やってくれたわね。
戦いで落とされたの初めてよ。
まぁ、負けなくてよかったわ。
ずいぶん、ウチの妹を
可愛がってくれたわね。
ご褒美よ。感謝して味わいなさい。」
ヒポス「何を言ってんだ?
この死に損ないが。
カッババババ……ガフッ!」
ヒポスドールは吐血した。
そして脱力感に苛まれた。
視点の焦点は合わず、
この場にいない者たちの姿まで見え始めていた。
ヒポス「毒なのか? 俺は食らってないハズ。」
クルム「私は普段ね、
わざと風に色を付けてるのよ。
アンタみたいな肺活量自慢の奴に、
ざまぁするためにね。
出血、脱力、それに幻覚毒を
多めに盛っておいたわ。
楽しめるように
麻痺と錯乱は入れなかったから。
存分に遊んでもらいなさい。
マジギレゴリラちゃんにね。
もうイケるんでしょ?」
クルムは立ち上がったレスベラに声をかける。
レスベラ「うまーるは助かるんだよな?」
クルム「生きてさえいれば、死なせないわよ。
こっちは気にせず、
全力でやっちゃいなさい。」
レスベラは踏み込み、
ヒポスドールに斬りかかる。
ヒポスドールは戦鎚でレスベラの刀を受ける。
レスベラの刀を受けた
ヒポスドールの顔色が変わる。
ヒポス「俺のミョルニルを
刀でどうこうできるわけねえだろ!
ッッ! なんだ!?
この重い斬撃は!?
この女の細腕に、こんなチカラが!?」
ミヅハノメに不思議な光の紋様が浮かび上がる。
それは、タカキタで鉄ゴーレムの
腕を切った時にアメノウズメに浮かび上がった
紋様と同じであった。
それはレスベラの父親が死の間際に
アメノウズメに術式を施した、
タトゥー魔法〈自己強化〉であった。
タトゥー魔法が、
ミヅハノメからレスベラの体に移行していく。
レスベラの背中に、全てを飲み込む渦潮のような激しい激流の紋様が浮かび上がる。
クルムは、うまーるの治癒と同時進行で
レスベラに強化魔法をかけた。
レスベラの背中に[力力力力力力力力力力力力]
の文字が押印されていた。
また、額には[バカ]と押印されていた。
うまーるの身体中に[癒]の文字が押印される。
これは、クルムが精神世界で出会ったクルムの母親から継承された【言霊魔法】であった。
魔法を言葉に置き換え対象に押印し、
言葉の効果を付与するというものであった。
また、クルムの背中にも天使のような紋様の
タトゥーが浮かび上がった。
クルム「同情するわ。私の本気の毒を
食らった後に、本気のゴリラの相手を
しなきゃいけないとか。
ウチの
【お姉ちゃん】
世界一強いんだから。
あとは……」
クルムは倒れているヌルとマーボーの方を見た。
レスベラ「お姉ちゃんとか、
ケツが痒くなるからやめろよな!
クルムありがとよ!
なんかチカラが湧いてくるぜ。
父さんと母さんのチカラか。
最高だな!」
倒れたヌルの額の上には、ずんだがいた。
ずんだは無言でキツツキのように
高速の連続突きを浴びせていた。
スコココココ!
ヌル「はっ!!」
ヌルは気がついた。
ヌルは周りを見て飛び起きた。
傷だらけで、クルムに抱えられた、うまーる。
武器を交える、レスベラとヒポスドール。
瓶から赤い粉を撒き散らすクルム。
クルムは赤い粉を風で操り、
マーボーの鼻と口に流し込んだ。
そしてマーボーの額には[覚醒]の文字が押印される。
マーボーは飛び上がるように起きた。
マーボー「んがっ!? ゲホッゴホッ! 毒か!?
はっ!」
マーボーは我に帰り、周りを見渡す。
そして思い出す。任務と使命の事を。
レスベラが履いている、水のタラリアの中にある
宝玉〈足珠・たるたま〉がレスベラに語りかける。
「レスベラ、私は水のタラリアを作った人魚の女王〈サーラ〉です。
子孫のために、この水のタラリアを作ったの
です。
あなたに受け継がれたこと。
あなたが使いこなせるということは、
あなたにも私の血が流れているのですね。
単刀直入に言うと、
この水のタラリアは兵器です。
今こそ、私の真の力を貸しましょう。」
水のタラリアの足珠が輝き出し、
編み込まれたミュールが解けるように、
水のタラリアは解体された。
そして水は移動し、レスベラが握る
ミヅハノメに蛇のように絡み纏わりつく。
水が激しく流れ始め、
ヒポスドールが持つ戦鎚を切削し始めた。
ヒポス「なんだと!? これはどうなっている!
金剛石さえ砕く硬さを誇る、
俺のミョルニルが切られるだと!?」
ヌル「そうか! 人魚族の古代の女王であり、
最強の剣士であり
彫刻家が作った水のタラリア。
その真の力は、強化の能力を有した
足珠のチカラで水のチカラを強化した
刃物だったのか!
最強クラスのモース高度を誇る宝石の加工は
水の刃物で行われる。
そして水のタラリアの着色の為に
使われていたと思われていた宝石の粉は、
真の使い道は研磨剤。
ウォータージェット加工の費用が
高額になるのは、宝石の粉を研磨剤として
使用しているから。
この研磨剤が水の刃の切れ味を
高めているんだ。
マーボーさん!
レスベラを援護しましょう!
たぶん、この敵を斬れるのは
レスベラだけです!」
マーボー「わかった!
嬢ちゃんの剣を押せばいいんだな!」
ヌルとマーボーは、各々の武器で
レスベラが持つミヅハノメの峰を押す。
水の刃の切削が押し進む。
ヒポスドールは、
クルムの毒により幻覚を見ていた。
レスベラの背後に、たくさんの人間が
レスベラの背中を押す幻覚を見ていた。
その主な者は、今までヒポスドールの軍が
侵攻した都市の兵士や騎士たちであった。
また、魔王軍の侵攻で命を落としたであろう、
見知らぬ者の姿もあった。
マーボーの腕には、
マーボーと一緒にカグヤを握る、
仔パンダの姿があった。
ヒポス「仔パンダ!? 誰だ!?
知らんぞ、
こんな奴はああああああああ!!」
錯乱するヒポスドール。
ヒポスドールが握るミョルニルは、
既に半分以上切削されている。
マーボー「仔パンダ? 俺の娘に会ってんのかよ?
羨ましいじゃねぇかよ!!
嫉妬しちまうじゃねえかよ!」
レスベラ「ごめんな、うまーる。
またアタシが負けたせいで……。
こいつは必ずブッタ斬るからな!
うおおおおおおお!!」
ヌル「多勢に無勢ですまない。
しかし、お前たちがやってきたことは
許せない。容赦なくいかせてもらうぞ!
いっけええええええええ!!」
ヌルは自身とレスベラ、
マーボーに腕力強化の魔法をかける。
ヒポスドールはマーボーの背後に立つ
大柄なパンダの戦士の姿を見た。
それはエッジたちと共に挑んできた
ルーローであった。
ルーロー「なにチンタラやってんスか。兄貴。
こんな奴、
早くやっちまってくださいよ。
皆、待ってますぜ。
……最後に、俺が憧れたその背中に
気合い入れさせて下さい。
じゃあ、先に行ってますから。」
ルーローは、マーボーの背中に
思い切り張り手をかます。
マーボーは背中に不思議な熱を感じた。
マーボー「なんだ? チカラが溢れるぜ。」
ヒポス「やめろ!やめろよパンダ野郎!
押すな!
押すなああああああああああ!!!」
マーボー「ん? 押すな?
てことは、押せって言ってんのか。
カバ野郎、お前ドMなんだな。
ガハハハハ!」
ヒポス「そんな、武の四天王にまで登り詰め、
尚且つ強化の禁薬まで使った俺が!
俺が! 俺がああああああ!!
そんな、カバなあああああああ!!!」
ヒポスドールの持つミョルニルが割れ、
袈裟斬りにされ倒れた。
クルムの腕の中の、うまーるが目覚め
その光景を見ていた。
自分が助かったこと、そして絶望を切り拓く仲間達の姿を確認して、笑顔ながら涙を零した。




