81 凸
81 凸
ドワーフ兵「報告! ルーロー殿が
敵将を討ち取りました!!」
「「「ワアアアアアアアアアアア」」」
ドワーフ軍から歓声が上がる。
その時ルーローは、足首に付けたゴムの縄により
空中をビヨンビヨン漂っていた。
逆さまの状態でガッツポーズを決める。
ルーロー「予行演習で跳んでいるとはいえ、
やっぱりチビるぜ。
バンジージャンプだったか。
こんなのがアトラクションとは、
地球ってところは恐ろしいぜ。」
ルーローは戦鎚を投げ捨て、腰に刺した剣を
抜き、足首の縄を切り着地した。
その様子を見ていたムラ王はブチ切れる。
ムラ「コラ! 俺の最高傑作だぞ!
もっと丁寧に扱わんかい!!」
ルーローは倒れたエルクのトドメを刺そうと
近づくも、殺気を感じて身構えた。
ルーローの左右から、ヒラヒラした
リボンのような物が8本、
ルーローに向かってきた。
ルーローがバックステップをすると、
そのリボンはルーローを追うように向きを変え、
追跡してきた。
ルーローは咄嗟に2本の剣を使い、
リボンを薙ぎ払う。
剣で凌げなかったリボンが
ルーローに命中した。
数本のリボンは鎧に弾かれるも、
一本は腕の鎧の隙間に潜り込み、
ルーローの腕に切創を与えた。
ルーローのガントレットから血が滴り落ちる。
ルーロー「この感触。金属か。
極限まで薄く鍛えた剣か。面白い。」
闇の中から4人の兵が現れた。
各々、特殊な形状の武器を携えている。
リーダー格らしき男が兵に指示を出す。
「衛生兵! エルク殿に早くアレを!
お前たち!
このパンダは早々に片を付けるぞ!」
先ほどのリボンのような剣を両手に持った、
白い狼のような顔の女が不敵に笑い、
狂気に満ちた目を光らせる。
「アハハハハ!
楽しいねぇ。久しぶりの上物じゃないか。
十騎聖討伐戦はアタシら、
蚊帳の外だったからねぇ。」
虎のような顔をした男が、手甲鉤のような
剣を舐めながら興奮している。
トライデントのような3枚刃がついた手甲が
両手に備わっている。
「血が滾るな。コイツはエサにするんだろ?
殺しちまっていいな?」
巨大な木剣に小さな黒曜石が並び、
まるで巨大なノコギリのような剣を
肩に担いだワニ顔の男は寡黙で、
なにも語らずに佇んでいた。
砦の上層から見ていたムラが、
ルーローの窮地を察し、号令をかける。
ムラ「まずい!
銃士隊よ、ルーロー殿を援護するのだ!
4銃士は前線へ向かえ!
俺もすぐに行く!
エミー! ここは頼んだ!」
エル「ああ! ルーローさんが危ないよ!」
エミーは、エルを優しく抱っこした。
ムラも戦場目がけ、走り出す。
魔王軍の特殊部隊隊長らしき男が、
大声を張り上げる。
「兵は全軍突撃だ!
ウルミー、ダハル、マカナの3名は残れ!
ダハルはパンダを攻撃、
ウルミーはダハルの援護を!」
「ブレイカー殿! 指名ありがとよ!」
ブレイカーと呼ばれた兵隊長は、
ドワーフ兵の狙撃に気付き、叫んだ。
ブレイカー「伏せろ!」
虎の男が飛び出すと、砦の上層から一斉に
火縄銃のような射撃が魔王軍4人の兵に向け
掃射された。
虎男は後ろに飛び退き、身を屈める。
残りの3名も身を屈め、防御の姿勢をとる。
先ほど突撃した魔王軍部隊の中央を蹴散らし、
4人の銃士がルーローの元に駆けつけた。
砦上層、エルを抱っこした
エミーが解説を始める。
エミー「大丈夫さ。
ドワーフ国が誇る、〈ネホンマツ4銃士〉
が出てきた。この戦いは大詰めだよ。」
エル「あの4人は強いの?」
エミー「うーん。
一つ言えるのは、頭は良いし強いよ。
ただね、バカだよ。
バカばっかりだよ。王を筆頭にね。」
赤い髪、長いポニテの女で
剣を構えたのは私の娘、第一皇女アリー。
武器は、剣と銃が一つになった銃剣
〈ガン・ブレード〉だね。
細身で背が高い、白髪の男。
文官の様な出立ながら、手甲を身に付けた
拳闘士風の男は、エルも会っただろ?
宰相のヨルグだ。
武器は拳闘銃〈フィスト・ガン〉だ。
金髪おかっぱ、
蜂の巣みたいな銃を持った女は、
ギルド長のイカリングだ。
武器は、
多身銃〈ペッパーボックス・ピストル〉
だよ。
エルフ族なのにね、
銃を乱射したくて
ドワーフ国にやってきた変わり者さ。
大柄でガチムチ。髭もじゃ。
あの大楯を持った男は、
工房長カズチョンだ。
武器は大楯銃〈シールド・ガン〉だ。」
エル「へええ。色んな銃があるんだね。」
エミー「アイツラの欠陥品をじっくり見て、
すごいの作っておくれよ!」
エル「欠陥品……?」
「ブモオオオオオオオオオオ!!」
けたたましい雄叫びとともに、
エルクが起き上がった。頭の傷は塞がったようだ。
まるでドーピングでもしたかのように、
全身の筋肉は隆起し、血管が浮き上がる。
呼吸は荒く、興奮している。
エルク「フーッ、フーッ。
よくも、魔王様より賜りし、
エギルの兜を。
楽には死なせんぞ!」
魔王軍兵は禍々しい槍を持ち出し、
エルクに手渡す。
ブレイカー「やはり凄まじいな。禁薬のチカラは。
パンダはエルク様の獲物だ!
我々『死剣』は
4人の銃士をやるぞ!」
魔王軍侵攻隊VSドワーフ軍。
死剣VS四銃士。
エルクVSルーロー。
カスミガ砦の攻防は、最終局面を迎える。
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ーーカイセイ城サイドーー
午前5時ごろ、辺りはまだ暗い。
ヒポスドール、オシコーン、ネイシアの三将は
酒を呑んでいたが、
就寝のため各々の部屋に戻った。
ヒポスドールは3階の王の寝室。
オシコーンは2階西側の衛兵の寝室。
ネイシアは同じく
2階東側の側近の寝室であった。
城の外で様子を伺っていたヌルが、
エコーロケーションで3人が分断されたのを知る。
ヌルは小声で仲間に話す。
ヌル「ついに敵が単独行動に出た。
先ずは見張りの2名を、音を立てずに倒す。
そして城一階にいる20名の兵士を、
これまた音をたてずに速攻で殲滅する。
俺とマーボーさんは西側2階の
キリンを叩く。
うまーる、レスベラ、クルムは
東側2階の象を倒す。
そして全員で3階のカバと戦う。
細かい作戦は、各自頭に入ってるな?」
ヌルたちは待機していた数時間の間、
細かく話し合っていた。
全員、無言で頷いた。
ヌル「行くぞ!クルム、頼む!」
クルムは麻痺の風を起こし、
見張りの2人に浴びせた。
倒れる2名の見張りを、音が立たないよう、
うまーるとレスベラが抱える。
見張りにさるぐつわをし、手足を紐で縛る。
ヌルは扉を少しだけ開いた。
中の敵兵の位置を全員で確認する。
ヌルは隠蔽魔法を味方全員にかけ、
敵兵のど真ん中に、自身の魔力の玉を投げ込んだ。
魔力の玉は炸裂し強力な閃光を放つ。
光魔法を発動後、5人は突入した。
ヌル「光魔法【フラッシュ・バン】」
5人は静かに駆け込み、
閃光で目が眩んだ敵兵の首を斬りつけた。
ヌルは当初迷っていた。
敵兵であれ、なるべく死なせたくないと。
しかし背に腹は変えられなかった。
この作戦は絶対に失敗できない。
20人もの敵兵を音や声を出さずに
仕留めるにはコレしか方法が
浮かばなかったのである。
どうしても多数の足音や、
倒れた者が床に衝突した音だけは
防ぐことはできなかった。
しかし時間にしておよそ8秒。
これは上手く行ったと言って間違いは無かった。
ヌルは成功を確信していた。
しかし、現実は甘くなかった。
5人は二手に別れ、階段を駆け上がる。
うまーる、クルム、レスベラ組は、
象の寝室の前で足を止める。
慎重に扉を開けて、クルムは装備【常夜の帳】の
効力で、夜の闇と一つになった。
クルムはごくごく弱い、
毒の風を眠る象に吸わせた。
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ーーヌルサイドーー
ヌルとマーボーは、オシコーンが眠る寝室の
扉の前で足を止め、中の様子を
エコーロケーションで伺う。
すると、オシコーンは動いていた。
扉に向かい、棍棒で真っ直ぐに突いた。
その突きは大きな音を立てて、扉を突き破った。
ヌルは咄嗟に盾で防ぐものの、
マーボーと共に吹き飛ばされた。
ヌル「くっ! 一階の物音で目覚めたか!
なんて聴力だよ!」
マーボーはすぐに体勢を立て直し、
オシコーンに向けて槍で突いた。
マーボーの伸びる槍を初見で打ち払う
オシコーン。
オシコ「ギリー殿が言っていたパンダの槍使い。
貴様がマーボーか。
一緒にいるのは……エッジではない
ようだな。まぁいい。
如意金箍・提掠棍〈にょいきんこ・
ティーリャオグン〉」
オシコーンは棍棒の中央を持ち、
グルングルンと回し始めた。
ヌルは挑発魔法を解除した。
オシコーンの視界にいたハズのヌルの存在が
朧げになる。
まるで、今まで共に過ごした仲間のような印象を受けていた。
その様子でオシコーンはヌルの正体に気付いた。
ギリーが警戒を呼びかけていた者だと。
オシコーンは棍棒を
振り回すような攻撃を連続で繰り出した。
動きの全てが円を描くような動きである。
初撃を躱しても、180度先にあるもう一つの
先端が即座に襲いかかる。
加えて、明らかに棒の長さを超える
範囲の攻撃だった。
光の蝶の映像で予習していたにも関わらず、
打撃で吹き飛ばされるヌルとマーボー。
一辺が10メートルくらいの正方形の部屋の
ほぼ全てがオシコーンの間合いだった。
明らかに棒の長さよりも長い範囲を、
暴風が吹き荒れるかのように壁や床、
天井や調度品を破壊しながら2人を打ちのめす。
ヌル「オーリヤマの騎士も避けていたのに
喰らっていた!
マーボーさん!
視覚に頼るのはダメだ!
コレは受けるしかない!」
オシコ「オーリヤマの騎士との戦いを
遠目で見ていた?
いや、あの逃げ出したエッジから
聞いたのか。
わかったとて、
対処できなければ同じ事よ。」
ヌル「肉体に守備力強化をかけて、
さらに盾の上からでも、
骨の髄に響くような重い一撃。
遠心力に加えて、あの棒自体も
相当重いのか。
喰らい続けるのはマズいな。」
ヌルはひとまず、回復や補助に
専念することにした。
マーボーは槍を防御に使いながら、
突破口を探る。
マーボー(ヌルは強くなったとはいえ、
まだアイツの腕力じゃ、
このキリン野郎の攻撃は
受けられないだろう。)
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ーー3人娘サイドーー
西側のキリンの部屋の扉が破壊される音で
象は飛び起きた。
暗闇に浮かぶクルムの顔に気付くネイシア。
ネイシア「曲者めぇ!」
ネイシアは飛び起きた。攻撃に転じようとした
ネイシアの膝が折れた。
ネイシア「おのれぇ!毒かぁ!
手配書の毒女!
噂のレジスタンスかぁ。
エッジと組んだのかぁ?」
ネイシアは目と鼻から出血していた。
ネイシアは構わず武器を取り、投げ始める。
チャクラムのような円盤型の刃物が
縦横無尽に飛び交う。
チャクラムを躱し、
レスベラが間合いを詰めて抜刀する。
うまーるはジグザグに機敏に走る。
装備の効果により、
多数の残像がネイシアを混乱させる。
ネイシアは6枚のチャクラムを、
ジャグリングのように扱う。
右手、左手、鼻を巧みに使い、常に3枚を投げ
手や鼻に握った3枚を手斧のように扱う。
斬撃の際に手放し、手放すと帰ってきた
チャクラムを掴み、その勢いで斬りつける。
レスベラ「3刀流みてーで面白いな。
叶うならサシでやりたかったぜ!」
レスベラはネイシアの猛攻を刀一本で受け切る。
ネイシアは、うまーるのフェイントが気になり、
レスベラに全力を割けないでいた。
また、暗闇に溶け込んだクルムは、
ネイシアに向けて風の斬撃や毒を放っていた。
ネイシアは焦っていた。
ネイシア「俺の攻撃を全て避けるだとぉ!?
なんなんだぁ、この女どもはぁ!!」
レスベラは直感的に斬撃を感じる事ができる。
クルムは空気の流れで
死角からの攻撃に対処できる。
うまーるも、電磁場のチカラで
死角からの攻撃に反応できる。
河童(海亀キメラ)による、
不可視の糸の斬撃を初見で見切ったトリオだ。
なにより、光の蝶の映像で
予習できていたのは大きかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーカスミガ砦サイドーー
白兵戦が加熱するカスミガ砦。
砦上層からエミーによる解説が行われていた。
エルは固唾を飲んで戦いを見守る。
アリー「切り捨て御免。」
ドワーフの第一王女、
アリーは死剣の隊長に斬りかかった。
死剣の隊長、ブレイカーは
ギザギザの切り込みが入った短剣で
アリーの剣を受け止めた。
その動きは、
完全にアリーの剣筋を見切った動きだった。
ドキューン!
アリーの銃剣から弾丸が空に向けて発砲された。
ブレイカーが短剣を持つ手にチカラを込めると、
アリーは危険を察知し、バックステップで退いた。
アリー「なるほど。
その形状、敵の剣を折るためのモノか。」
ブレイカー「ご名答。」
砦上層では、
エルを抱っこしたエミーが解説をしていた。
エミー「アリーの銃剣はね。衝撃で暴発するんだ。
本来はね、突きと同時に発射するための
武器なんだよ。
そしてね、込められる弾は一発のみ。
そして剣として使っている間は、
装填不可能。
なかなかの産廃だろう?」
エル「えっ!?
じゃあ、
あとは剣で戦うしかないんだね!?」
エミー「ああ、そうさ。
どう考えてもね、左手に拳銃でも
持った方が強いんだけどね。
今のドワーフ国では
強い銃の開発競争が加熱しててね。
残念な銃が量産されてるのさ。
隣を見てごらん。」
エミーが指差す方には、
虎男と宰相が睨み合っていた。
虎男がジャマダハルのような爪を振り下ろす。
宰相のヨルグは、コレを手甲で防ぐ。
ドキューン!
ヨルグの手甲から突き出した銃口から、
空に向かい弾丸が発射された。
エル「え!? 今のって!?」
エミー「そうだよ。ヨルグのフィストガンもね、
仕込めるのは一発だけで、
もちろん衝撃で暴発する。
もちろん戦闘中は装填できない。
本来は殴ると銃撃を同時に行える、
というコンセプトなんだ。
しかし、手甲で敵の攻撃を受けると、
衝撃で暴発しちまうんだよ。
あとは拳の戦いだね。」
エルクは兵から手渡された禍々しい槍を、
力を込めてルーローに向けて投げた。
亜音速で放たれた槍は、真っ直ぐに
ルーローに向けて飛んでいく。
ルーローは射線を見極め、コレを難なく避ける。
しかし槍は急に進路を変え、
ルーローを追尾するかのような動きを見せた。
ルーローは脇腹を貫かれ、
槍はエルクの手元に戻った。
その様子を見たエルは叫んだ。
エル「ルーローさん!!」
エルク「魔王様より下賜された、
魔槍グングニルだ。
安心しろ。一撃では殺さん。
じっくり遊んでやる。
ルーロー「必中と回帰か。厄介だぜ。」
ルーローは血が流れる脇腹を抑えながら、
今一度気を引き締めてエルクを見据える。




