79 戦火
79 戦火
ヌルは今まで抑えてきた、
溢れ出す想いを抑えることができなかった。
マーボー「うお!? なんだ!? お前誰だ?
って、この声、ヌルか? ヌルなのか?
そうなんだな?
3年間も、どこで何してたんだよ!
しかし、ずいぶん老けたなぁ。
いや、大人になったのか。
子供みたいな顔してたのによう。
ピュイ♪」
マーボーの胸で泣きじゃくるヌル。
マーボー「少しずつでいいから、落ち着いて話せ。
今までのことを。
ムラさん、すまねぇ。
少し時間をくれ。」
ドワーフの王、ムラは空気を察してくれた。
そして側近に指令を出す。
ムラ「いいってことよ。積もる話があるんだろ?
会議室を使いな。
おう!
この旅人さんたちに茶でも出してやりな!
可愛い嬢ちゃんもいるから、菓子もな!」
クルムは王に敬意を表した。
その様子を見たレスベラと、
うまーるも王に敬意を表する。
ヌルたち4人と2人のパンダは
会議室へと移動した。
ヌルはこれまでの事を話すため、
深呼吸をして自分を落ち着かせた。
その時、お茶と菓子を持った男が
会議室に入ってきた。
ドワーフ国の宰相と王であった。
2人も同席することとなった。
ヌルは王に挨拶と自己紹介をしようとするも、
王に止められる。
ムラ「そんなのは後でもいいからよ。
マーボー殿に急ぎの要件があったんだろ?
話してくれ。
俺たちに言えないことは
隠しても構わねえからよ。」
少し落ち着きを取り戻したヌルは、
この3年間のことを話し始めた。
マーボーが遠征に行った後、反魔の鏡が完成し
秘密会議が行われたこと。
この会議の場でギリーが魔王軍を召喚し、
ヌルの仲間や王を殺し、
王都ケンチョーが滅亡したこと。
自分はナナのスキルで缶に封印されたこと。
スキルを使い鳥を操り、
川と海を使い、他の大陸に缶を流したこと。
ずんだが、うまーるを導き
缶から解き放ってくれたこと。
そしてレスベラとクルムと出会い、
一緒に旅をしてきたこと。
蓬莱村でのこと。
エルフ、スカディ、人魚と共に戦ったこと。
この大陸に着いて出会った光の蝶が
見せた映像のことなどを。
話を聞いたマーボーは少しの沈黙の後、
口を開いた。
マーボー「そうだったのか。
オレダ王、タスクさん。
オニオにナーガ。ナナも。」
ムラ王は小さく呟いた。
ムラ「ロカフィル……。」
宰相「ロカフィル様……。」
ロカフィルは、ムラ王の140人いる子供のうちの
1人だったようだ。
王族として生きるよりも、
鍛治師を目指したロカフィルは、
友好国であったケンチョーで
鍛治の修行をしていたようである。
マーボー「ギリーか……。アイツが。
ぶっ飛ばして話を聞かねえとな。」
ムラ「宰相。戰の準備を急げ。」
宰相「承知しました。」
マーボー「ルーロー。たしか、
お前がエッジを連れて逃げたんだよな?
居場所と現状はわかるか?」
ルーロー「エッジ様は重傷で意識がなく
昏睡状態だ。
オーリヤマの生き残りの兵士は
心が折れてる。戦力にはならねぇな。
もう魔王軍と戦えるのは
ドワーフ軍しかねぇと考えて
ココに来たんだ。
オーリヤマの生き残りは、
すぐ近くの洞窟にいる。
案内するかい?」
マーボー「ダメ元で一度行ってみるか。」
ムラ「俺からも頼むわ。
少しでも戦力は多い方がいい。」
6人はエッジの元を訪ねることにした。
砦を出発しようとする6人を
追いかけてくる者がいた。
それはエルであった。
エル「勇者エッジ様のところに行くんでしょ!
ボクも会いたいよ!」
ヌル「遊びに行くんじゃないんだぞ。」
マーボー「まぁいいじゃねえか。コレなんだろ?
天才少年てのは。
小さい頃から
色々見せた方がいいんだよ。ピュイ♪」
マーボーはエルを持ち上げ、肩車した。
エル「うわあああ! すごい! 高い!
ボクも大きくなれるかな?」
マーボー「なれるさ。
いっぱいメシ食えよ。ピュイ♪
このルーローだってな、
昔は豆粒みたいに
小さかったんだからな!
ガハハハハ!」
ルーロー「豆粒はねぇよ。ガハハハハ!」
7人は20分ほど歩いた。
途中、野うさぎや鳥などを見かけたエルは、
得意の罠を仕掛けていた。
もうしばらく歩くと
小さな泉と洞窟が見えてきた。
ヌル「何故、オーリヤマの生き残りの方々は、
ドワーフ国の砦に入らないのでしょうか?」
ルーロー「あんま仲良くねえんだよ。
資源を巡って、争いとかあったしな。
特に、人間はドワーフに頭を
下げたがらねぇ。
俺も言ったんだぜ。
ドワーフに助けてもらおうってよ。」
マーボー「仕方ねえんだよ。確執ってのはな。」
7人が洞窟に入ろうとすると、
見張っていた兵士が出てきた。
兵士は驚き、動揺している。
兵士「ルーロー殿が2人いる!?」
ルーロー「まぁ、なんだ。
俺の兄貴みてえなモンだ。
ちょっと邪魔するぜ。」
一行は中に入れてもらった。
ルーロー「よう!
エッジ殿はまだ目覚めないかい?」
付き添いの兵士は答える。
「はい。傷は塞がったのですが……。」
ルーロー「そうか。どうする兄貴?」
マーボー「疲労によるものかもしれんなぁ。
作戦に組み込むのはやめとこうか。
俺たちも急いで戻り、
戦の準備をするぞ。」
ヌルは帰還用の転移魔法陣を作り出し、
7人は陣の中に消えた。
その様子を見ていた兵士は腰を抜かした。
オーリヤマの避難キャンプから帰還した7人は、
報告のため、ムラ王の元へと急いだ。
ヌル達は改て、ムラ王に挨拶し
手短に自己紹介した。
ムラ「大変だったな。
しかし、ゆっくり休んでる時間は無え。
魔王軍が駐軍している、オーリヤマの
カイセイ城の様子を探っていた兵から
連絡があった。今夜、奴らが攻めてくる。
そしていきなりで悪いんだが、
お前達に頼みがある。」
ムラ王の話は以下のようなものであった。
魔王軍の侵攻部隊が、今夜ドワーフ国を目指し
進軍するということ。
また、魔王軍武の四天王の3人は
カイセイ城に残り、逃げたエッジを誘き寄せ、
始末するという計画があるということ。
エッジを誘き寄せるエサとして、
十騎聖のフロだけが生かされ、
人質となっていること。
侵攻してくる魔王軍を、
この砦でドワーフ軍が迎え討ち、
籠城して時間を稼ぐ。
その間に、ヌル達6人がカイセイ城に行き、
3人の将を倒すという作戦で
いきたいということであった。
ヌル「フロさん。光の蝶の主か。
まだ生きていたのか。
しかしエッジさんは伏せったまま。
たしかに、敵の頭を叩くのは有効だけど。
ドワーフが囮になるのか。」
マーボー「ムラさんよ、大丈夫なのか?」
ムラ「まともに戦えば必ず負ける。
奇襲しかないと思ってる。
どうだ?
やってくれるか。」
ヌル「わかりました。私に考えがあります。
良いでしょうか?」
緊急の会議が開かれることになった。
ヌル「うまーるとレスベラは、買い出しを頼む。
クルムは、俺と会議に参加してくれ。」
ムラ「お嬢ちゃんには小遣いやらねえとな。」
ムラは財布を取り出した。
さらに財布の中から割り箸を取り出し、
うまーるとレスベラに手渡した。
ムラ「お嬢ちゃん、コレでなんでも、
好きなモン食いねぇ。
ワハハハハ!」
うまーる「コレなんだろう?」
レスベラ「アタシ知ってるぞ! コレは割り箸だ!
割ると箸になるんだぞ!
ありがとう王様!」
うまーる「わーい! ありがとうなんだよ!」
酒場の踊り子相手に負けなしの
必殺のオヤジギャグをスルーされ、
肩透かしを食らったムラであったが、
ムラは諦めなかった。
ムラ「素直で良いお嬢ちゃんたちだな!
よし、
オジサンと早口言葉ナゾナゾしようか。
上手くできたら、ご褒美だ!
ごはんを卵で包むと、オムライス。
じゃあ、餡子を卵で包むと何になるかな?
答えがわかったら、早口で噛まずに
十回言うんだ。
言えたらお嬢ちゃんの勝ちだ。」
2人は、考え込む。そして一斉に口を開いた。
うまレス「オムアンコ! オムアンコ!」
ヌル(このセクハラオヤジ! 何言わせてんだよ!)
ゴキンッ!!
ヌルが止めに入ろうとすると、
ムラ王は女性にハンマーで殴られた。
ヘルメットが凹むほどの一撃だった。
マーボーとルーローは腹を抱えて笑っていたが、
その女性の姿を見て姿勢を正した。
マーボー「これはエミー妃。
ご機嫌麗しゅうございます!」
どうやら、ムラ王の妃、第一王妃のようだ。
エミー「まったく! この非常時に。
客人のお嬢さんに何やってんだい!
さっさと仕事しな!!」
エミーはムラの尻に蹴りを入れた。
ムラはすごすごと、会議室へ向かっていった。
エミー「この娘達は、私が案内しとくよ。
おまいさんたちは安心して
会議しといで。」
レスベラ「王妃様! お願いがあるんだ!
この刀の手入れをお願いしたいんだ。
いいお店あるかな?」
エミー「なるほど。自分じゃ出来ないんだね。
特殊な金属か。よし、アタイに任せな!
アテがある。しばらく預かっておくけど、
いいね?」
レスベラ「まじか! できるのか! さすドワ!
よろしくおねがいします!」
レスベラはペコリと頭を下げる。
うまーるとレスベラは
エミーに連れられて行った。
ヌルたちは会議室へと向かった。
エルはマーボーに担がれ、同席することとなった。
会議が始まった。
ひととおりの作戦を説明されたところで、
ヌルは提案をした。
ヌルは砦を見た。
規則正しく切り出された石が積み上げられた壁、
張り巡らされた水路、そして大砲のような設備、
さらにたくさんの貯蔵された
塩蔵食品。それらを見て閃いた。
その石垣にはモルタルのような接着剤が
使われておらず、
まるで古代インカ帝国の石垣のようであった。
おそらくここは、マチュピチュと同じく
交差した断層を利用して造られたということ。
そして、張り巡らされた水路から見るに
地下水が豊富であること。
また、大砲のような設備が随所に見られる
事から、火薬の原材料となるような資源が
豊富であること。
また、海から遠いにも関わらず
塩がたくさん使われているのは、
岩塩が豊富であるということであった。
ヌルは禁水性物質を用いた火計を提案した。
塩からナトリウムを精製し、
水と触れさせて爆発発火させる案である。
ヒントは現代文明でも未だに再現できていない
ギリシャ火薬であった。
水で消火できない、
水をかけると火勢が増すという兵器である。
ヌル「これならば、
確実に魔王軍の虚を突けると思います。」
ムラ「水で勢いを増す炎か。
そんなもんがあるとはな。
急いで準備をさせろ!」
ルーローは悩んだ末に発言をした。
ルーロー「マーボーの兄貴、すまねえ。
俺はココに残りたい。
今回攻めてくるヤツラのボス、
侵攻隊長と戦いたいんだ。」
マーボー「どうした? なんかあったのか?」
ルーローの話は以下のようなものであった。
ヌル達が見た光の蝶の映像に出てきた
魔王軍4人の将のうちのヘラジカの獣人は、
その姿を見た敵兵の戦意を削ぐような
術を使うこと。
自分は術にかかったが、
十騎聖の者達は術にかからなかったこと。
戦えない自分は、エッジを連れて
逃げることしか出来なかったことであった。
話を聞いたマーボーが答える。
マーボー「そういうのはな、
格下にしか効かないんだよ。
つまり、お前はまだまだ
強くなれるってことだ。ガハハハハ!」
ヌルは映像を思い出した。
ヌル「ルーローさん。おそらく、あの兜の
チカラだと思います。
敵の恐怖心を刺激するような魔法具です。
勇気さえあれば、破壊できると思います。」
ヌルは思いついた奇襲の内容を話した。
そして、実現するには
強力な打撃武器が必要であった。
その話を聞いたムラ王は、
自身が大事にしていた国宝のハンマーを
ルーローに委ねることにした。
ルーロー「兄貴。昔みたいに
気合いを入れて欲しいんだ。頼む。」
ルーローは鎧を脱ぎ、マーボーに背中を向けた。
マーボーはルーローの背中を思い切り
平手打ちした。
毛深くて一見、わからないが、
ルーローの皮膚は赤く腫れ上がっていた。
ルーロー「ありがとう兄貴。
必ず奴に勝ってみせるぜ。」
マーボー「鹿なんかに負けるんじゃねえぞ。
馬鹿になっちまうぞ! ガハハハハ!」
ルーロー「ちげえねえ! ガハハハハ!」
意味のわからないネタで盛り上がる2人。
皆は2人をスルーし、会議を進めた。
さらにヌルは、砦で後方支援をしている人達を
戦いに参加させる方法を提案し、
必要な物や方法についてエルに託した。
ムラ王と宰相、参謀などが
これを支援することとなった。
決行は夜。ヌルたち4人とマーボーは、
少し迂回をし、カイセイ城へ乗り込むこととなる。
うまーるとレスベラと合流し、
5人はカイセイ城を目指し、砦を出発した。
エルは砦の高所から叫んだ。
エル「もっと、もっと聞きたい話があるんだ!
死ぬなよ! 兄ちゃん!!」
ヌル「もちろんだ。この戦いは
相手に勝たなくていいんだ。
とにかく、相手が嫌がる事をして
時間を稼ぐんだ!!
頼んだぞ、エル隊長!」
エルは敬礼をした。ヌルもそれに応えた。
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ーーカイセイ城方面サイドーー
日本でいうと秋から冬くらいの18時頃。
少し薄暗くなるくらいの時間帯にヌル達5人は
カイセイ城付近に到着した。
ヌルは全員に隠蔽魔法を施し、
作戦の再確認をした。
ヌルがエコーロケーションを使い、
敵将の居場所を突き止める。
うまーる、レスベラ、クルム組が
ブーメラン象を叩く。
ヌル、マーボー組が棍棒キリンを叩く。
その後5人で爆発ハンマーカバを叩く。
というものであった。
日が沈み、辺りに夜の帳が下りる。19時頃。
敵に動きがあった。
ゾロゾロと大軍が
ドワーフの砦に向けて進軍を開始した。
最前線はどうやら、人工生物キメラ兵のようだ。
隷属の首輪を嵌められた大型の巨人モンスター、
サイクロプス兵も複数いる。
何より目を引くのは、攻城塔であった。
50メートル以上の高さの櫓が2機。
他にも大型の投石機や破砕槌もある。
オークのような魔物が引いている。
ヌル「攻城塔……。やはり用意してきたか。
コレを作るのに1日かかったのか?
いや、オーリヤマのを奪ったのか。
しかし想定内だ。
敵の兵の数は約3万くらいか。
ただ、大半は烏合の衆。
寄せ集めだな。勝機はある。」
ヌルは通信魔法の光の文字を書き、
それをムラ王に向けて飛ばした。
主な内容は、兵器の概要。
そして精鋭は後方にいる、などであった。
ヌルはエコーロケーションを使い、
城の様子を探る。
一階に20人ほどの兵。門に2名の見張り。
3階に3人の将らしき人物。
作戦は各個撃破。
ひたすら敵が単独行動に出るのを待つ。
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ーーカスミガ砦サイドーー
およそ21時頃。
地鳴りのような音を鳴らし、
大軍が近づいてきていた。
ムラ王「来やがったな。まだだぞ。
引きつけろ。ギリギリまで引きつけろ。」
魔王軍の兵士は濡れた草木や地面を見て、呟く。
「今日、雨なんて降ったか?
やけにヌカるんでるな。」
「いいや、降ってねえな。
ここら辺だけ降ったんじゃねえか?」
「しかしアイツラ、打ってこねえな。
大砲とか矢とか飛んでくるかと思ったんだがな。
まぁいい。仕掛けるぞ。
サイクロプスと攻城塔! 前へ!
破砕槌、突撃!!
投石機、用意!!」
魔王軍が動き出した。
それを見たムラ王が号令をかける。
ムラ「今だ! いけえええええええええ!!」
砦の上層、屋上にいた人々が
一斉に小さな壺や瓶を投げた。
投石機や大砲からもタルが放たれる。
魔王軍兵「来たぞ! 大砲だ!
サイクロプスよ打ち落とせ!」
魔王軍は大砲の玉はただの鉄の玉である、
と考えていた。
兵器の周りにいる巨人兵、サイクロプスが
棍棒でタルを打ち落とすべく叩いた。
タルが割れ、中から出た物が飛び出し、
飛び散った。
ドワーフ軍が投げた壺や瓶も地面に落ち、
破裂し中の物が拡散した。
中から飛び出したのは、
精製されたナトリウムだ。
アルカリ金属であるナトリウムは、
ドワーフ軍によって撒かれた、
地面や草木の水と反応して
高熱と水素ガスを放出し、
激しく爆発し燃え上がる!!
炎に包まれた魔王軍兵はパニックに陥った。
ムラ「魔王軍兵は3万。対してウチは三千か。
イヤになるぜ。
だけど、俺たちには兵器がある。
助っ人の知恵もある!
さぁ、世界の行く末を占う
戦いの始まりだぜ。
勝利の女神様ってのがいるのなら、
俺に微笑んでくれると嬉しいねぇ。」




